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録音においてマイクの重要性は言うまでもありませんが、後続のアンプも非常に重要です。最良のマイクアンプはレコーディングスタジオや放送局に備えられているミキシングコンソール、日本では「卓」などと言いますが、これに内蔵されているアンプです。ヘッドアンプとも言います。入力された信号が一番最初に通るところだからです。50年代の真空管時代後期以降のものが現代でも基準になっており、音質が重視される環境ではいまだにこれらの時代のものか現代に作り変えられたものが使われています。古いものがわかっていないと現代のものもどういう背景のものかよくわからなかったりするぐらいです。過去を乗り越えた全く現代的とされるものも古いものが前提にあります。それで以下の話は古いもの中心になります。
コンソールのような大きな機材は細かくモジュールの集合で構成されていて、モジュールの中もさらにモジュール化されていたりとシステマチックに構成されています。そのためコンソールの規模は、スタジオに合わせた特注構成が可能です。モジュールそのものの特注もあります。古くなったモジュールが外されて単体で独立させることをノックダウンと言います。中古市場に流されることもあります。主にプロのレコーディングエンジニアによって使われ、サポートしてメンテする専門の業者もあります。ヘッドアンプ、イコライザー、コンプレッサーが中心で、他にフェーダー、パン、AUX、MIX部、バッファーなどもあります。史上最高の名誉を得ているのは60~70年代あたりのもので、英ニーブ Neve、ソリッド・ステート・ロジック SSL、ヘリオス Helios、米トライデント Trident、MCI、ハリソン Harrison、API、Quad Eight、独テレフンケン Telefunken、スイス・ステューダー Studerなどです。レコーディングスタジオが自社内で製造したものはそこにしかないものなので品質の良いものは伝説的になっています。
コンソールを発明したと言われているのは米国のエンジニア ビル・パットナム Bill Putnam(1920-89)で(写真手前)、これは彼自身が設計製作したコンソールでレコーディングしている様子です。彼のコンソールに搭載されていた610マイクアンプはニーブもたいへん影響を受けたと言っており、このモデルは現在でも復刻されて販売されています(真空管式で古き佳きアメリカの音がします。パットナム系全般は基本的に中国音楽には合わないのではないかと思います)。パットナムはエレキギターの発明やマルチ録音で有名なレス・ポールと共にリバーブを発明するなど多くの功績があります。現代では常識とされている音響分野の多くの概念を発明した人物です。610のように以前はコンソールに内蔵されていたものが現代ではその部分だけの単体で販売されるということがあります。この種の機材の多くは19インチラックという共通規格の音響専用の棚に収められるようにされます。ノックダウンされたものもラックに収まるようにシャーシに収められることがあります。API 500という規格もありますし、どれにも収まらない独自のものや単体独立タイプもあります。これらを総称してアウトボードと言います。現代の新製品もラックの規格で発売して、コンソールの受注を受けた時に場合によってはほぼアウトボードのまま組み込みます。
ヘッドアンプ他の機材で中心的なものはコンプレッサーとイコライザーです。使い方については市販の本もあって事例毎に詳しく解説されていますが、フリーであればサウンドハウスの虎の巻という講座コーナーにそれぞれ数ページのマニュアルがあります(位置が埋もれてわかりにくいのでよく見てPDFのリンクを探してみて下さい)。どうしてこれらが必要なのか重要性が理解できる内容です。ミックスすると音が団子になります。音が互いに衝突しないように削るのがイコライザーの本質的な考え方ということが書いてあります。つまり安価なミキサーでも必ず全てのチャンネルにイコライザーがついているのはそのためで、要らない部分をカットして各トラックをすり合わせます。人間の耳は都合の良い音を聞いて不要なものは聞かないという調整ができます。マイクはできません。ありのままに録ってしまいます。収録された音は散っています。それでコンプレッサーで圧縮し、耳の自然な聴感に近づけます。これに関してはマイクの方で対策してあるものもあり、コンプがなくても大丈夫なものもあります。エンジニアは様々なマイクとコンプを適材適所で使い分けます。こうして多くはステレオ2チャンネルにミックスされます。
機器がまだ商業製品として流通していなかった頃はほとんど特注で、英EMIのアビーロード・スタジオ Abbey Road Studiosは、当初は外注だったものの自社でも開発部門を持っていました。
真空管コンソール REDD.47はドイツ製でしたが改造されていました(写真上がREDD.47、下のソリッドステートTG12345は自社開発)。その開発部門が同スタジオをしばしば借り切っていたビートルズのために特注機器やカスタマイズに応じていたことはよく知られています。音響技術は主に米国からの輸入でしたが、英国では米国製の感覚に疑問を持たれることが多く、島国人らしく改良が多数あります。
英国で最初にコンソールをオーダーで応じるようになったのはニーブで、ヘッドアンプがEQと一体になったモジュールが有名です。1073,1081,1084が特に知られています。コンプレッサーでは2254があります。その後、SSLが多くのスタジオに納入されるようになり、4000シリーズが特に高い評価を受けています。NeveとSSLは、所在地も元はケンブリッジ、オックスフォードと似通っていますが、その味はだいぶん異なっています。違いが良くわかるもので、NeveがDante機器を開発し、それとSSLのコンソールを比較した動画を公開しています。場所はテキサスのOrb Recording Studioでグラミー賞にノミネートされたこともあるというCharlie Kramskyによるテスト、Neveの機器との比較対象は同スタジオに設置してあるSSL 6048 E/G+コンソールです。動画ではKramskyさんの後ろにあります。
ドイツ物はコードで整理されているので以下にリストします。マイクアンプのコード番号はV72で、V76はラインアンプですがこれもマイクに使えます。数字二桁は真空管のシリーズです。やがて半導体に変わるようになり数字は3桁になりました。以降、作っている工場で型番を換えています。以下のリストでV72系であればxxの位置に72、V76であればxxに76です。例えばV672はテレフンケンのマイクアンプ、W496はノイマンのEQです。
V72 - マルチアンプ(マイク、ライン、スプリット、サミング、バッファーアンプなどいろいろ)
V73 - パワーアンプ
V74 - ラインアンプ
V75 - サミングアンプ
V76~78 - マイクアンプ
U70~72 - VUメーター(メーターが内蔵されていないモデルはメーターに繋ぐ端子があります)
U73 - コンプレッサー/リミッター
U74~75 - トークバック
U79 - VUメーター
W90 - フェーダー
W93 - ハイパスフィルター
W94 - ローパスフィルター
W95 - ハイ&ロー、シェルフ&プレゼンス イコライザー
W96 - イコライザー
V72,76以外にもマイクアンプはありますが、それらはほとんどトークバックのモジュールなので注意が必要です。アナウンスなどの会話専用のマイクアンプなので基本的には音楽の録音に使うものではありません。東独や北欧のモジュールはこれとは異なった系統ですので参考になりません。
V2xx - Siemens(NTP)
V3xx - TAB/Telefunken(AEG)
V4xx - Neumann
V5xx - Neumann; Monitora
V6xx - ANT/Telefunken
V7xx - AEG/Telefunken
V9xx - Lawo (後にANT他も使用)
V10xx - Delta
V11xx - BFE
V13xx - Arnold / Nbg.
V20xx - Curt Hensmann, 後のAdis
エジソン以降、電気工学という分野が出てきて、様々な産業が大きな期待を寄せるようになっていきました。そのうちの1つは軍でした。19世紀末、ドイツ帝国軍では将来の主力戦力の見通しで陸軍と海軍の主導権争いがあり、戦争での情報の重要性から、特に無線技術を巡って開発競争していました。研究は陸軍ではシーメンス Siemens、海軍ではAEG(Allgemeine Elektricitäts-Gesellschaft:前身はドイツ・エジソン社)が管理していました。激しい争いが国益を損ねる程になり、事態を重く見た皇帝ウィルヘルム二世の勅命で、合資会社テレフンケン Telefunkenが1903年に設立されました。以降シーメンス、AEGの技術や特許は全てテレフンケンの管理下となりました。1920年代に入るとテレフンケンは軍を離れ、民間の通信音響の会社に変化してゆきました。ドイツの映画製作大手はUFA社で1917年に設立されましたが、1923年のドイツマルク安定化によってドイツ映画産業全体が危機に陥り、1927年にトービス Tobis社を設立、特許を一本化して米勢に対抗、音響機器でも1928年にテレフンケンが映画専門のクラングフィルム Klangfilmを設立して強化しました。1941年にはシーメンスがテレフンケンの株式をAEGに譲渡、以降のテレフンケンはAEGの完全子会社となりました。TAB(Tonographie Apparatebau),ANT(ANT Nachrichtentechnik)はテレフンケンの製造部門です。
工場によって個性があり、シーメンスは柔らかい暖かい音で真空管時代の音をディスクリートでも表現しようという傾向、テレフンケンやノイマンはより現代的だと言われています。技術は共有しつつそれぞれ独自性もあります。これらは改良を重ねながら最終的にICが使われるようになっていきました。IC時代のものは安価で入手しやすいのですが、修理パーツの入手が困難です。番号で工場を管理するのは共産的です。この方法はソ連、中国にも継承されました。ドイツ音響の"父"であるクラングフィルムが元はナチスによる事実上の国営企業で、この体質も共産的です。
ナチスによる手厚い研究支援によって得られたデータがあるのでシーメンスの補聴器は今でも日本でさえ越えられない壁になっているし、ノイマンのマイクは世界最高の地位を維持しています。ヒトラー(左)やゲッベルス(右)の演説をより魅力あるものとするためにマイクも含め、音響機器全般が開発されており、そのために開発予算は青天井だったようです。コンプレッサーの開発、近代的なイコライザーの理論などもドイツ発祥です。それがこの開発速度の速い現代に何十年も地位を維持する程の凄い研究だったということに驚かされます。現代では無理でしょう。国家元首肝いりで音響のテコ入れというのは想定できる状況ではないからです。今の時代、音響は最先端の技術ではないし国家が総力を上げて開発する理由がありません。
有名なモジュールやアウトボードはソフトウェア・プラグインでモデリングされ、DAWにインサートできるようになってきています。プラグインは既にDAWにもある程度付属しており、これだけでも大抵の作業はできるようになっています。他にも有料無料共に豊富にあり、最大手はWavesとUADです。過去の有名な名機はことごとく完了しており、有料のものも頻繁にキャンペーンをやっている等で安価に導入できる上、最近のものは非常に優秀なので、高価でメンテも大変なアウトボード実機は余程の拘りがないと導入を考えることはなくなってきています。しかし実機の本物のサウンドも得難いということで、様々な会社がクローンを製造しており優秀なものが多数あります。それでもまだ気に入らない向きには専門家がディスカッションするフォーラムもあり、有名なところではGroupDIYがあります。徹底究明の上、自分の手でしっかり作ろうというものです。面倒ですので最終回答が反映されたキットも販売されています。購入者は主にプロのエンジニアなのでパーツがバラバラの状態か、或いは追加料金で組んでもらいます。こういうものをさらに日本のエンジニアが調整して完成品を販売しているところもあり、後々面倒を見てくれることも含めて考えると、また特注コンソールを組んでくれたりもするので、こういったところにお世話になる人もいます。そうするとソフトウェアは要らなくなるかというとそうでもなく、とにかくソフトは簡単に使えるので大体これで確認してから最終はソフトと同じセッティングでハードに変えるという場合もあります。ソフトウェアプラグインはパソコンで処理しますので、時間とパワーが必要です。わずかに遅延がありますがこれをレイテンシーと言います。無料のプラグインで使えないと判断される主な理由は、あまりにも遅延が激しいかクォリティが低いのどちらかである場合がほとんどです。大手メーカー製はこの辺りに高度なノウハウがあります。YAMAHAの技術陣によるVirtual Circuitry Modeling技術によるオーディオエフェクトの開発で如何にNeveのアウトボードをモデリングしたのか苦労話が書いてあります(ヤマハはコンソールでもNeveと提携しています)。動作が軽くて優秀というのは相反するのでUADはプラグイン専用の機材を用意しています。

マイクアンプ、DI、EQ、コンプなどが一体になったアウトボードはチャンネルストリップと言います。コンソールはチャンネルストリップがたくさんついていてミックスもできるものです。もしいろんな会社のアウトボードを繋いだなら、あるものが別のを喰ってしまったりするようなことがあり得ますが、このような一体型とも言えるものは個性の統一が取れているし相性の問題がないので使いやすいものです。それに1つのアウトボードで何かを打ち出すよりもトータルで音色を作った方が良くなる場合もありますし、ボリュームの数が減りますので使いやすいメリットもあります。
アンプは増幅器とも言い、音量を増す回路が内蔵されているものです。増幅は真空管やトランジスタで行います。これらはメーカーの方で仕様が公開され、理想的な動作点も明らかになっているので、周辺素子(抵抗やコンデンサーなど)は値がほとんど決まっています。音楽信号は音の振動なので波として、つまり交流で流れてきます。理想的動作点はその真空管や半導体単体で信号を100%処理します。回路の最終部分「出力段」まで半導体1つの連なりで通しているものを「A級動作」「クラスA」スピーカーを駆動するパワーアンプは「シングル」と呼びます。交流信号を上下に半分に分ける位相反転段から最終段の2つの半導体で分担して省エネ、あるいは大出力化したものは「B級」と呼んでいます。しかし上下がうまく噛み合わず(クロスオーバー歪み)音響では使えません。そこで中間的な「AB級」があり、アンプのほとんどでこれが採用されています。双子のように向かい合った半導体配置でシーソーのように音を送り出すので「プッシュプル」とも呼ばれます。ヘッドフォンアンプやカーオーディオで使うようなデジタルアンプは高品質より省エネが重要なのでD級が使われます。C級は高周波用です。A級が100%、AB級は60%ぐらい?、B級は50%、C,Dはそれ以下です。音響ではほぼAとABしかない、シングルかプッシュプルの2種と考えて間違いありません。シングルとプッシュプルはアンプの歴史の最初期からほぼ同時に存在しており、初段から最終段までプッシュプルで全段通されているものもあります。重量級となりますが、評価の高い真空管コンプレッサーで採用されているものが多く、重厚感と安定感が齎す艶やかさが愛されています。現代の録音機材の宣伝でA級とかクラスAという記載が多く、これは動作方式のことでクォリティを示すものではありませんが、勘違いを誘発するような書き方をしているものが散見されます。しかしA級が高品質なのは間違いありません。高電流を波々と贅沢に流して、無駄なエネルギーを消費しますが、その代償で得たサウンドは美しいです。これに対してAB級は重厚感を増します。再生ではどちらも支持者がいたり、両方好きな人もいます。優劣はないのでA級が最高ということはありません。ですが、クローンなどでABをとことんA級に変えてしまう回路変更をしているものが割とあります。A級を強調するところが信用できないということは必ずしも言えませんが、素人の方を向いた発言なのは間違いありません。中国の業務用ヴィンテージの出力段はほとんどAB級です。出力段に限定すればですが、東洋はAB級の方が合うという見立てのようです。そして位相反転段でトランスを使うのが好まれます。真空管、半導体による位相反転に何らかの疑問を抱いていた可能性もあります。トランスに変えることでクロスオーバー歪みを大きく減らし、限りなくB級に寄せた方がシンプルに美しいという考え方だったものと思われます。
中国楽器に合う機材としてまず安価な機材は相性が良いです。そのまま中国製、外国人が本格的に設計していないのでこれは意外と問題なかったりします。プロ機材の方が難しそうです。ドイツ物はクラシック向きなので比較的合いやすい傾向で、中国でも民楽録音は結構ドイツの機材が使われます。日本製も好まれます。中国での他のやり方としては国産のトランスを使うという方法も多くあります。
中国では再生の方、いわゆるオーディオと呼ばれる分野の愛好家もトランスを好んで使います。
中国国産のプロ機器はどうなのでしょうか。写真のマイクアンプは、上が米Pre Sonus BLUE TUBE(28000円ぐらい)で下が797AUDIO MP201(45000円ぐらい)です。MP201はほとんど市場に出ていないので見たことがないのですが、内部の設計は同じではないようでMP201の方が高額です。BLUE TUBEは民生用で、MP201はプロユースだとメーカーが言っているので中身は相当な差がありそうです。BLUE TUBEの797卸価格はもっとかなり安い筈でそうすると相当な差ですが、真空管の運用をきちんとやっているのであれば、むしろMP201は安過ぎるぐらいです。MP201真空管式、そのモノラルのMP101、他にはNeve1073コピーのMP73、Neve1081コピーのMP81、さらにNeve1084コピーのMP84、トランスレスのMP62というものもあります。これらは全て797音響が作ったもので、その他ガレージメーカー製もあります。
797製造のものは、中はかなり丹念に作り込まれており、写真は08年に発売されたMP81の内部です。またこれらと似たようなものをAlctron社などが製造していてMP73EQなどがあります。797とは中身がだいぶん違う民生モデルで価格も大きく開きがあります。MP73EQの方はバージョン2も出ているぐらい成功しています。
中華国内の民生機器に共通するのは不快なノイズが多いということで、音質云々以前にその方が気になります。プロ機材か外国に出荷している分はあまり問題ありません。大陸だけで販売している多くの機器はノイジーなのに人気があるのでこれは不思議なことですが、安いパソコンを使う分には問題ないようです。アマチュアで機材にコストをかけたくない欧米の人たちはこういう安いものを買って電解コンデンサーを日本製に変えてノイズを消したりします。797はプロ機材ですが不良率が50%ぐらいあるので慎重さが求められます。まずランプから消えてくるようです。何れにしてもなぜNeveをコピーしたのかも含め、よくわからないことが多く、少なくとも民族楽器を想定して作っているものではないでしょう。
中国もコンソールに関しては割と古くからあります。かつては職人の国だったので優れたものは結構あります。中国の放送局は戦前からラジオ局がありましたが、技術資料としては弦堂の調査ではおそらく57年のものが最も古く、上海電視台(上海テレビ局)に納入されたTY250-1000型(左写真)でした。現物はおそらく残っておらず、チャンネル・ストリップの回路がTY250-1000と改良型のTY250-1000Aの2種類あります(リンクは回路図が別ページに開きます)。互換球は青で記入してあります。トランスインプットの真空管ヘッドアンプは中華ではこれと同時期に北京で作っていたものぐらいしかないと思います。入力インピーダンスは250Ωですが、高インピーダンスマイクも選択できるようになっています。かつては20KΩという業務用マイクがありました。さらにピックアップ用の入力もあるのが特徴です。1000型はLINE入力がトランスでしたが、1000A型ではLINE入力自体が省かれ代わりにワイヤレス回路が入っています。
また高インピダンスマイク用に最適化された別回路を用意しています。同時期に北京で製造されていたのがSG-500で(右写真)、ゲインは60dBです。さらにピックアップ用が16dB、LINEが0dB、それぞれ2チャンネルあります。高インピーダンスマイク用の入力はありません。この計6チャンネルは同時挿し可能で即ミックスされます。マイクはトランスインプットですが特殊な繋ぎ方です。イコライザーもありません。プロの放送機材、それも昔のものですから明確な根拠があった上で実施されている筈です。上海では最初はマイクを5極管で受けていますが、これはゲインがそれなりに必要ということを考えると当然のようにも思えます。しかし改良型のAと北京では3極管に変えています。この方がサウンド面で中華向きと思えます。映画の設備ではマイクはアナウンス程度の使い方だと思うのでプロ用設備ではありますがほとんどの回路例がトランスレスで5極管です。3極管というのはそれなりに意図があるでしょう。
74年にはトランジスタのものも作られ中国唱片廠(中国レコード)などに納入されました(93年まで使用。下の4枚組の写真では左上のモデル)。78年にはハイファイという概念など当時の最新の知見がもたらされ、79年には中国唱片廠(中華牌)が自社でステレオコンソールを組みました。上海電視台には82~84年にかけてスイス・スチューダー社のコンソールが数台納入以降ステレオ録音が可能になりました。Studer 169,961、英Klarktekinik DN360、DB361、米Lexicon 97,200、Orban 245f,424Aなど舶来品が納入されています。中国唱片廠にも1983年以降、MCI JH 500シリーズコンソール,スイスEMT 262、Scamp S04,05,06,25,30,31、Otari MTR—20,90、米Urei 6150,6250、JBL 4344、Klarktekinik DN60、Orban 111b、Eventide H949、独ANT C4、Audio 8xDesige、マスタリング用に米MCI JH—600シリーズコンソールが納入されました。外出録音用としては50年代の初めに使われていたのは真空管式1チャンネルだけでしたが、これを自前で2,4チャンネルに増やし、さらに50年代末にはこの4チャンネルにハイ、ローカットを追加したものを一台、同じ仕様で2チャンネルを二台製作しました。60年代末、杭州無線電廠(西湖牌)製造の6チャンネルトランジスタコンソール(写真右下。右上も同廠製造の大型モバイル)、70年代中期には中国唱片廠製造の10チャンネル(左下)が開発されたことで真空管式と入れ替えられました。80年代初期には英AudioDevelopment 062モバイル型コンソールも使われるようになりました。中国製のモバイルコンソールは中古が出ることがありますが、プロ使用で扱き使われているのでかなりボロく、一般的には購入は躊躇われます。これをメンテしながら使うという熱烈な中国民楽愛好家もいます。しかし相当大変なので向こうの音楽家はトランスだけ抜いて使うのを好む傾向があります。

西湖牌は80年代頃の初期型コンソールではステレオはなかったようです。見た感じ2チャンネルペアになっていますが、パンがなく、これはモノラル2チャンネル、或いは4チャンネル仕様です。中国では放送の視聴者が持っている端末がほとんどモノラルだったのでこういう仕様になっていたものと思われます(ステレオ放送は80年代初頭に開始)。一方、中華牌はレコード会社なので事情が異なっていました。中華牌の製造はおそらく新華無線電廠です。
左に現在の同社の案内がありますが「事務所所在地は、中国第一の大都市、魔都上海」と紹介されています。自分たちのいるところが怪しいのは住人もよくわかっているようです。中華の毒は上海人によって表現されるべきというプライドも滲み出ています。そしてまたここのコンソールが実に妖艶なサウンド、お堅い登記資料のようなものにまで魔都などと書きたがる人間が作ったものなのが躊躇いなく感じられる素晴らしい出来です。当時の中華コンソールの最大の特徴は少し大型のものになるとマスターが4チャンネル(アウトが4チャンネル)あることです。4チャンネル仕様は中華、西湖のどちらにもありますので、中国では標準的な仕様だったと思われます。左の2チャンネルはラインアンプで、右の2チャンネルにはコンプレッサーが入っています。コンプは設定が固定なのでトークバックでしょう。そうすると右のコンプ搭載の方が音声で、左は音楽でしょう。
西湖牌コンソールはより汎用に徹した音になっておりトランスの音が支配的なのですが、このトランスが西洋のような立体的な響き方をします。しかし西洋のどのトランスとも異なる独特の味があります。70年代のまだ西湖銘を使っていなかった頃の西湖牌はイコライザーにインダクター(コイル)を使っていませんでしたが、80年代に形状もコンソール型になってからはインダクターが使われるようになって高級化されていきました。回路もトランスイン、トランスアウトで、これは中華牌も同じでした。民楽愛好家は「中華牌こそ我が国最高の・・」などと言いたがるし、実際音を聞くと確かにその通りという感があります。中国音楽のために中国唱片廠が特別にコンソールを設計したというのは興味深い点です。中華牌はおそらくすでに消滅していますが、西湖牌を作っていた杭州無線電厰は天目山路(24-1。ビルの中にたくさんの会社が入っており、杭州無線電厰の部屋番号はわかりません)に残っていてまだプロ用コンソールを作っています。30人余りの小規模で続けているようです。しかも社内に併設されていたトランス工場もいまだに残っているという、一般には販売していないようなので、放送局やレコーディングスタジオに供給するのみであろうと思われます。訪問できればレポートを掲載したいと思います。
英国のミキサーメーカー アラン&ヒース Allen & Heathはかなり優れた製品を作っていますが、近年、中国に生産を移しました。リンク先の文章の終わりから3段落目にそのことが書いてあります。英国というのは世界最高のミキサーを作る国としてドイツ、米国と共に評価されていますが、アラン&ヒースも現代最高のメーカーの1つとして主にDJ用のミキサーを製造しています。これが中国に行ってから駄目になったと散々言われていて、そのことが書いてあります。ところがスポークスマンの反論は、中国の方が最新機器導入で「優れている筈である」、そして「中身は全く同じである」です。ミキサーは楽器です。全く同じに作っても作った人間で音が違うのが楽器です。そのため上位機種は今でも英国で作っています。「イギリスでは古い技術や機械を使っていますが」今でも使っています。中国は最新、そして英国の上位機種は今なお素晴らしいと言われています。中国は文化が違いますので、英国設計のものを作らされて批判を浴びてしまってかわいそうです。中国人はやはり中国の感性を大事にすべきと思います。ブリティッシュ・サウンドは他国では作れないでしょう。
演奏家や個人のフリーエンジニアが独自の音を確立して常にそれを提示したいという場合に使われる方法の1つは、ほとんどの機材は貸しスタジオのものを使って一部のものだけを自前所有にするという方法です。すでに活動が軌道に乗っているか、野心的なものがある場合にこういう方法で投資されることがあります。Mr.ChildrenがAKG C414を必ず使う、このマイクは個体差がかなりあると言われているのでおそらく毎回同じ個体を持ち込んで使うのだろうと思いますが、場合によっては改造してあることもあるし、こういうやり方で明確にわかる特有の色を確立するということがあるということです。この場合はマイクだけ自前で持ち込んで、その他は特定のエンジニアに任せていると思いますが、エンジニアは何かあれば変わることもあるのかもしれませんがマイクの部分では確定させたものが欲しいということなのだろうと思います。他には改造した機器とか、こういうものを必ず通すことで聴いて誰の音楽かすぐにわかるような、何か固有の雰囲気のようなものを漂わせるようなサウンドを作ることもあります。これがアウトボードではなくソフトウェアということもあると思います。こういったことも総合的な演奏技術の一部だと見做すべきのように思います。
それでも余程あらゆることに精通しているエンジニアでないと慣れてないものは使いづらいので拒否されることもあり、一緒に音を作っていける話のわかるエンジニアを探す演奏家も少なくないと思います。なぜ拒否するのか、それどころか音響関係者というのはとにかく質問されるのが嫌いな人種で、特に問題なさそうな内容であっても質問を受けること自体に相当なトラウマがあります。回答といえば値段だけというぐらい、とにかく何にも答えません。よっぽど普段顧客、或いは顧客見込の人々から虐められているのでしょう。そこでよく観察させてもらうと、女性はわからないと思うのですが、なぜか男性というのは音響などの分野に関してほとんどの人が根拠のない相当な自信を持っています。理由はわかりません。全く携わっていない人でも自信があります。ダイナミックマイクにファンタム電源を注ぎ込むべきだと強く主張し言うことを聞かない人を見た時は驚きましたが、それぐらいの人が結構多いです。むしろプロの方が自信がないのではないかと思います。なぜなら歴史上の伝説的な過去の仕事と比較される立場だからです。弦堂はしばらく大陸に行っていたので、その間にテレビにアンテナがなくなったらしい、それでどうなっているのかということはわかっていません。興味がないので今でもわかっていません。しかし詳しそうに見えたのか、ある人に聞かれた時に、事情を説明して「全くわからないんですよ」と言いますと、その人はすごく驚きました。男性でこういうことに「わからない」と言う人は稀だからです。自信家は非常に面倒なので、多くのエンジニアが気難しい態度を取るのは必然なのかもしれません。ですからまず先入観でスタート時点から嫌われますから、最初に「わからない」と告げた方が良いことが多いです。こちらは演奏で向こうは技術と別れて一緒に仕事ができる人を探すのは簡単ではないかもしれません。
女性の場合はこういう分野は苦手なので、伴奏者を固定で決めて、その男の子にPA機材の方もやらせるという場合が結構あると思います(結構あるらしいという話を聞いて驚いたのですが)。重いものを運ぶ必要もありますのでそれは結構だと思いますが、どちらかが技術的なことについてかなり踏み込んだ関心がないと説得力のある音は客席に届けられないと思います。
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