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ケーブルとか配線とかそういうのがまた難しい、これだけでオヤイデ電気、Pro Cableなどの専門店もあります。Pro Cableは大量の暴言が記載されていますが、そんなことはどうでも良い、書いてあることは正しいと弦堂の方からも推しておきます。そもそもケーブルが難しいというのはどういうことなのかについて少し触れておくことにします。
録音というのは最初はモノラルでした。やがてステレオが出てきて受け入れられるようになっていきましたが、プロデューサーや技術者の中にはステレオは良くないと考える人もいました。流れには逆らえず、やがてはすべてステレオになっていきましたが、その過程で幾らかでもステレオの問題点を解消しようということで、LR(右左)で違うケーブルを使うという方法がありました。その方法論も確立されていたので業務用機材ではどれも同じ方法が採られていました。Lはシールドに銅線が使われていましたが、Rは錫でメッキされた平編銅線でした。左右が同じではないのはシールドケーブルだけに留まらず、他の箇所にも適用されていました。
戦後しばらくしてトランジスタの時代に入ってからプリント基板というものが使われるようになり、銀で配線をプリントしたものの上に電子パーツを載せて回路を組むようになりました。その最高のものの一つが英ニーブ Neveで、当時から既にコピーが結構作られていたようです。しかしこれがどうもうまくいかない、どうしても違った音になってしまったようです。Neveの配線にはとにかく意味不明な無駄が多く、近いところを簡単に通せるのに無駄に遠回しをしているようなものもあり、ここに秘密があるのではないかということでプリント基板の配線を丸々コピーすればどうなるかを確認したらようやく近いものができたようです。それで現代でも中国などで作られているNeveコピーはプリント基板が寸分違わない全くのコピーであることを前面に出して宣伝しているぐらいです(こういったメーカーは米国のオーディオメーカーにも基盤を供給したりしていて、その発注元のメーカーもNeveのコピーであることを宣伝したりしています。実際かなり近い音のようです)。感性豊かな人がNeveの基板を見ると「芸術」だと言います。根拠があるものは美しく見えるのでしょう。
Neveの配線の秘密は、おそらくルパート・ニーブ Rupert Neve(1926年生まれですが、お写真でご覧いただけます通りまだまだ現役です。YouTubeで実際に話しているのを見ることができます)にとっては秘密でも何でもなく、当然の道理だったのだろうと思います。というのは、アンプの配線はすでに真空管時代の黎明期からベル研究所によって極められており、遠回しの配線なんてものはもう最初期のアンプから存在していたからです。そういう古いアンプは100年ぐらい経過しているのでメンテが必要ですから、壊れたパーツを交換したりといった保守をする過程で配線を変えたりすると、それだけでノイズが出るようになるなど原因不明のトラブルに見舞われますが、そこをオリジナル通りのルートに線を戻すとぴったり止まるという、遠回しなのではなく、そこを通さないといけないのだという、線をどこに通すかだけでもかなり奥深さがあります。
そのベル研究所ですが、設立者のグラハム・ベルは電話の発明者ですから、主に電話関係の開発研究をしていました。電話というのは有線で全米を、現代では世界中を引き回します。すごい距離ですが、声は鮮明に相手方に到達します。そのためには優れたケーブルが必要不可欠です。電話の初期に開発された最も旧式のケーブルは現代でも最高で、これを凌ぐものはないのでまだ作っています。WE(Western Electric)ケーブルという名称であちこちで売っています。スピーカーケーブルの用途で買われるのが多いと思いますが、その他の用途でも使われます。アンプの内部配線材も復刻されています。ところがこのスピーカーケーブルで使う線は本来遠くに音を運ぶものですから、近いところだとパフォーマンスを発揮しません。とてもおかしな、道理に適っていない話のように感じられます。なぜなら信号は距離によってロスするわけで、長くてもロスしないのだったら近ければ尚更問題ない筈だからです。だけど短いとおかしくなります。加速の途中に到着してしまう感じなのでしょうか、だけど太さがいろいろあるので吟味すれば短くてもいけます。そこは聴感で決められます。うちでは12mのWEケーブルを4本用意してステレオで使っていました。ケーブルも太いのでそれがどくろを巻いて鎮座するのは奇妙ですが、こうしないとガツンと来ないんですね。配線というのはこれぐらい難しいものです。WEケーブルは古いものなので、まだまだ研究開発されており、ベルデン Belden社が引き継いでいます。
その後デジタルというものが出てきて、ついにロスのない完璧なものが出てきた、グラスファイバーという凄いケーブルもできて、まさに光速でデータを伝送できる、と考えられていましたがやってみるとこれが意外と難しいことが判明し、デジタルというのは結局0と1、或いはONとOFFの大量の組み合わせで何らかの情報を送るのですが、たかがこれだけが遠くに送れば送るほどロスが激しくなります。このデータは時間軸に依存しています。正確な時間の間隔(クロック)の中に正確にデータが入っていてようやく正確な読み取りも可能なわけで、これが若干でもずれると本来0のところが1に認識されてしまったりします。桁違いに高速な処理で原器的な正確さを求めるのは距離があると難しいことです。このズレを「ジッター」と言います。もうエラーを前提に送っているので修正修復がこれも1つの技術という、アナログの方がぜんぜんロスしないと言われています。そうするとデジタルによる伝送は極力避けねばならないということになりますが、インターフェースを使うのであればそういうわけにはいきません。USBにケーブルを繋がないといけません。ロスがないように短くしないといけません。デジタルケーブルもその性格上、製造は難しく、ベルキン Belkinとかユニブレイン Unibrainといった会社のものが最良とされています。
ジッターは遠方への伝送だけでなくデジタル機器の中でも発生します。また揺らぎ(ワウとかフラッターと言われます)が影響を与えることもあります。オーディオでは44.1kHzや48kHzあたり、場合によってはそれよりもっと高いサンプリング周波数、MHz単位のDSDが使われています。
必要とするクロックを正確に各機器に配給するための機材があり、それを「クロック・ジェネレーター」と言います。本来はデジタル初期の頃に幾つかのデジタル機器を同じクロックで同期するために使われていたもので必須でしたが、こういうものが不要になった現代でも音像をより鮮明にするために、また映像とリンクさせた時にズレが出ないようにするために映像会社や、レコーディングのようなクォリティを求められる現場で使われています。サンプリング周波数は水晶を使って得られます。時計のクォーツは水晶を使っています。しかし水晶は温度や湿度の影響を受けますので、高性能なものではあらかじめ80度ぐらいの一定の温度をヒーターで与え、それを維持することで正確さを得ています。Steady Clockという新技術もあります。より精度を高めるためにクロック・ジェネレーターに対しルビジウム、さらに高精度のものではセシウムを使った10MHzの基準信号を送るマスター・クロック発振器もあり、これは音響だけでなく放送局、医療、通信などで使われます。10MHzマスター・クロックは衛星と通信しながら使うもので、クロック・ジェネレーターに接続しての校正は30分ぐらいかかります。発振器の最高のものは軍事用人工衛星に積まれているGPSなのでここから基準信号をもらいます。衛星電波は、民生にもカーナビや携帯の地図などに開放されてフリーで利用できるようになっています。
PAなどの大きな会場の場合は、ケーブルの引き回しが多数あります。そこでこれをイーサネット Ethernetに置き換えるダンテ Danteという規格が普及してきています。専用線を使うMADI規格もあります。ここまでくるとwifiなどの無線で飛ばしてケーブルをなくしてしまいたいですが今の所、家庭で実用化されているに留まっています。プロ機器は送る情報量が多いし、エラーが許されないのでまだ難しいようです。
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