スピーカー ~ 中国音楽の再生と録音 - 二胡弦堂


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  録音の再生は、生演奏ではありませんから再生されたものが必ずしも真実とは違っていても問題にはしないものです。人類は再生技術の初期から、再生装置にしかない魅力を追求してきました。録音とその再生に"魂"が宿っているかどうかということが重要で、再生装置も楽器であるとさえ考えられるようになっていきました。一方で再生には「モニター」という分野もあり、原音再生が非常に重要になってくる分野、レコーディングスタジオや放送局で必要とされる、音の美しさよりもリアルな生が必要という現場もありました。この2つの方向性は時代を経るごとに混じり合うようになり、良い部分を積極的に採用する方向で、モニターでも特性がフラットでないものも出てくれば、コンシューマー用でもフラットを売りにするものなどが出てきました。しかし最も重視される部分というのは国や文化によって変わってきます。

  スピーカーは生産国によって個性があります。ボイスコイルを動かして空気を振動させるのですが、これは巻線コイルですから古くは手で銅線を巻いていたものでした。こういう銅線を巻いたものは音響には他にもあるのですが、こういうところでお国柄が出て、その国や地域の音になったりします。邦楽の再生は日本のものでないと難しいと言われることがあります。名機とされているのは、NHKと三菱(ダイヤトーン)が1960年に開発したダイヤトーン Diatone P-610です。大きさは6inch半(直径16cm)というのは国産ではメジャーな大きさで、このタイプを総称して全て「ロクハン」と呼んでいます。ほとんど日本国内のみで分析され活用されています。P-610はNHKの規格に最初に合格したスピーカーで優秀な上、味わいもあるし、しかも大量に出回って安価です。世界にはマニアもいますので向こうでは違う方向性もあって、例えばKanazawaという謎のスピーカーメーカーがあるのですが、主に70年代に美しいキャビネットのスピーカーを作っていたということ以外は何もわかっていません。米国に多く残存しており「Kabuki Speaker」などとして称揚されています。東洋文化好きの外人に支持されている模様です。外人の評価ですから邦人の観点からは「あれ?」となる可能性も無きにしも非ずですが、死ぬまでに一度拝聴したいものです。 最高とされているのは1958年、同じくNHKと三菱共同開発によるダイヤトーン 2S-305でこちらは大型です。重量は50kg近くあります。世界の放送局、研究所、音響メーカーで長年モニターとして採用されてきました。菅野沖彦によると「満開の桜を見るように端正で、淡泊でいて豪華な響きの音は"はんなり"とでも形容したい上品な佇まいのバランスと音色」ということで、日本にしか出せない上品なスピーカーだったことが窺われます。

 ロクハンのような国内の市場に限って支持されている伝統的な方向性は中国にも同様にあります。中国は下請けで世界の市場に供給していますが、中国のアイデンティティを大事にしたものに関してのみほぼ国内だけで支持されています。狭い、中国は広いですが、世界的には限られた範囲の人々で支持されているということになります。しかし中国は実利に辛い土地柄なので、マニアが達した結論を一般の人が否定するようなことはなく、国産のスピーカーと海外製は世間一般でも完全に切り離されて評価されています。そうなると国産スピーカーの愛好家が非常に多いということになり、その結果市場にもたくさん出回っています。こんなに溢れるほどあって安いのに、海外には全くないという非常に大きな溝があります。

 特に中国民楽関係者からは絶対に国産でなければならないという、かなり積極的な評価を受けています。他の国の音響装置では中国音楽はまともに鳴らないという認識は共通にあるようです。古いスピーカーで状態の良いものは少ないですが、今でもそういう復刻とか古い製造技術を使って新たに作っていることを前面に出すとかニーズに適ったものが生産されています。弦堂は50年代の上海製のユニットをモノラルで1つ持っていますが、北京のある語学学校で音響設備の設置を行なった時は現代上海製で古いデータで作っているものを納入しました。音は濃くて甘く、こういう特徴を持ったものは他国にはありません。安いですが日本のロクハンも価格は安く、値段は実際関係ないとさえ思います。日本は座敷の音がします。中国は甘い毒です、毒の含有量に拘ります。売る方も「純毒」「人声毒」などしっかりアピールしていきます(写真参照:小店が文字を入力するなど改竄したわけではありません。向こうでは、こういう風に表記して販売するのがもはや普通になっているのです。毒を伝統的サウンドと言い換えると意味がわかりやすいと思います。そこをごちゃごちゃ言わずに漢字1文字に置き換えるのが中国文化人好みです。それにしても「毒」とは・・・)。 他の国のスピーカーからは毒は出ないのでしょうか。そうなんです。これは中国の特徴でしょうね。中国文化人は中国国産のスピーカーを愛している、ここは重要です。

 この国産のスピーカーというのは小さいものがほとんどです。大抵大きいものでも8inch(20cm)ぐらいですがこれは特殊で、標準は3か4inchです。この文化は独特です。欧米ではフルレンジスピーカーの標準は8inchです。欧米では小さいものの方が特殊な扱いで、ほとんどツィーター(高域用)です。欧州にも小型スピーカーの文化はありますが、ブックシェルフ型と呼ばれるものがあって、8inchぐらいのウーファー(低域用)にドライバー(中高域)という2weyになっていることがほとんどです。欧米でウーファーというと標準は15inchです。英国では15inchの同軸(高音と低音担当のユニットが一つに重ねて組み込まれた特殊なスピーカー。カーオーディオでは同軸の小型のものが一般的)が標準です。これらと比較すると中国ではより小さいスピーカー(日本より小さい)で音楽を聴きます。ラジオとかウォークマンのような小型機器を使い、オーディオを家に置くという文化がありません。中国でオーディオというとどちらかというと欧米カブレの趣味です。最近は中国産のブックシェルフ型が出てきていますが、これに相変わらず3或いは4inchのユニットを組み込んでいます。中国文化人は相変わらず小さいスピーカーを使うんですね。日本では「ロクハンに始まりロクハンで終わる」などという諺があって、最初安価なロクハンで感動し、やがていろんな高級品舶来品に手を出し、最後はまたロクハンに戻ってやっぱりこれが一番だと満足するという意味ですが、中国人はそういう無駄なことはしません。そういうところで遊びはありません。初っ端から最終結論に達してそれで生涯通します。中国人ほど物質に対し合理的で知的な判断をする民族はこれまで見たことがありません。外国音楽をやるなら欧米に手を出す、自国の範囲でやっておれば国産でいきます。皆、同じようなことをやって同じ考えで、違ったことをする人はほとんどいません。こういうことだと経済が活性化しない、産業が育たないので本当に困るのですが、究極にドライな判断をすると中国人が核心を突いていることは少なくありません。彼らは感情とかイメージ、広告、価格などの要因には容易に引っかかりません。結果しか見ません。すごいことです。その結果、3~4inchが正しいと。うちはドイツ・テレフンケン O670というスタジオ用密閉箱の2inchでモニターすることがありますが、それでも低音はちゃんと出ていて全然問題ありません(モニターでも意外と問題ないのでエンジニアでも確認に使ったりする人はいるようです)。しかし4inchだともっとリッチに出るでしょう。いわゆる毒とのバランスを考えると大陸人的にはこれぐらいなのでしょう。弦堂は中国音楽のモニターであれば、先述した50年代のユニット 5.5inchをウーファーに回し、南京牌の1inch ドライバーで聴いているので、中国標準と比べれば少々贅沢なものです。

 ユニットの大きさ以外の中華のもう一つの特徴は、モノラルで聴くということです。さすがに現代的なシステムは中国物でもステレオになってきていますが、ラジオなどのポータブル機器でスピーカーユニットが2つ入っているものは稀で、家に置く形のより"デラックス"なタイプでもユニットは一発です。これは中国音楽の編成とも無関係ではないと思います。主に唱と絲(弦)或いは竹(管)で、それ以外に板(打)がメインですが、これらをステレオ分離するとかえって違和感があります。つまり劇場に行っても聴く感覚はモノラルです。楽団は舞台上の右端に密集していますが、ステレオだと左右に配置しなければなりません。一方に固めて配置しているのでこれはモノラルです。西洋は立体感を重視しますが、東洋はそうではありません。奥行きとか構築感は要らず、音が平らべったい特徴がありますが、そうしてでも音自体を濃くしようとする傾向があります。

 スピーカーで評価が高いのは上海の飛楽などですが、ブランドを確立すると偽が出ます。偽も毒は出ます。ノウハウは明確で作るのは可能なのですが、しかし本物は音情報の密度がより高いので偽は買いたくありません。偽が外国に渡ったりして中国全体の評価を落としています。普通、中国製というと安いというイメージがあります。だけど本気で作ったものはそんなに安くないので「おかしい。ぼったくっていないか」となると安いのを探して買います。これが罠です。外国のメーカーが中国に作らせたものの方が安いですが、外国メーカーが開発費や諸々の諸経費や利益を得ても安いというのはどういうことでしょうか。こうなってくると中国国内で国産に一定の支持が集まるのは自然なことかもしれません。しかしオークションなどで偽を掴まされる例が後をたたないので購入は難しいのです。ネットでは「どこに行ったら本物が買えますか」という質問が幾つも並んでいます。偽が出るということは成功しているということでもありますが、打つ手はないといったようなところです。飛楽は従業員数が二桁ですから販売の方まで対応できないようです。宣伝もしていません。旧国営は宣伝という概念はおろか、自社製品の説明すらありません。ただ作っているだけでマーケッターがいないのに出荷できるぐらいしっかりした支持を集めています。飛楽マイクの場合は販売店の方が惚れている場合もあって「うちに来て、ドイツのノイマンと飛楽を比較して下さい」と熱心に勧めるところさえあります。別物ですし、何もノイマンに勝つ必要はないですが、それより飛楽が中国の伝統的な感性を大事にして安易に外国を迎合していないところが貴重だと思います。

 スピーカーには映画館用のシステムもあります。米国ではWE555ドライバー、ALTEC A7、ドイツではクラングフィルム Klangfilm オイロダイン Eurodynが非常に有名で、一般の家庭に置いている人さえいます。中国は上述した南京牌のドライバーが有名です。YH10-4ドライバーに12か15inchの低音ユニットを組み合わせます。南京YH10-4は、能率が100dB±2で、周波数帯域は400~17kHzです。これはメーカー発表値なので、実際には高域はせいぜい10kHzほどまでしか伸びてはいないようです。あるいはすでに半世紀以上経つものなのでいずれも性能が落ちているのかもしれません。低音ユニットは写真例のように飛楽を使う人もいます。飛楽もドライバーは作っていますので、どちらも飛楽にすることもできます。圧倒的な説得力でこれこそまさに中国の音です。しかしこれらはいずれもスクリーンの後ろに配置するもので使い方が特殊です。かなり以前に京都・河原町の老舗喫茶店・フランソワに行った時ですが、BGMが美しいのでどこから流れているのだろうと思って店内をウロウロしたことがあります。そうすると所々に幾つも置いてあることがわかったのですが、箱は割と大きな古い木製と思われ、その上からたくさんの分厚い布を掛けていました。上に花瓶を置くなどして見た目はスピーカーに見えないようにしてありました。布の厚みは2cmはあったと思います。その方が音が部屋全体になじむようです。余りに分厚い上、かなり古い裂なのでめくるわけにはいかず中身はどういうものかわかりませんでしたが(注:今でもあるかわかりません)、映画館のシステムも基本こういう傾向の使い方なのだと思います。もし家庭で本来の使い方に近いやり方を採ろうと思えばカーテンのようなものをかけるとか巨大なだけに結構大変だと思います。しかし映画館用システムを自宅に置いている人で全体を布で覆ったりしている人はほとんどいないと思います。実際その必要もないと思いますが、音圧は体感的にもかなりあります。映画館の現代の設備は大小様々なスピーカーユニットが配置してありますが、そのどれもが単発だけで劇場全体に音が行き渡るようになっています。そうでないと劇場の全ての座席でサラウンドが体感できるようにはならないからです。スピーカーの大きさは周波数特性との関連では関係ありますが、音量とは関係ありません。南京YH10-4は許容入力が10Wしかなく(欧米のヴィンテージドライバーも似たようなものですが)、音の放出抗は1inchぐらいしかありません。それでも劇場全体に響き渡ります。このドライバー1発を布に包んで音を拡散させればライブ会場でも結構有用な拡声装置になると思います。ホーンも必要ですし結構重さがあります。映画館用なので、音量以上に音は浸透します。ホーンは使わないか、有効長4~6cm(+ねじ込2cm、ネジピッチ2mm)ぐらいの真っ直ぐの管をつければ低音は出るようになります(長過ぎると音が籠ります)。この辺はどのドライバーでも共通すると思います。ホーンがない場合は周波数特性がかなり乱れますので何もつけないのは好ましくありません。YH10-4でホーンがない状態の特性図も添付しておきます。高域は音圧がかなり低下しています。中低域は盛り上がっているので非常に濃厚なサウンドですが、それもせいぜい500Hzほどまでです。昔の蓄音機のような特性なので、このままで全く使えないこともないとは思いますし、二胡だとちょうど良かったりもしますが、それでも何らかのホーンはあった方が良いでしょう。この場合は南京牌でしたが、基本的に他のドライバーでもそれほど変わらないと思います。南京、上海飛楽以外に、北京もあります。

 さてそうしますと、二胡レコーディングのモニターはどうすれば良いのでしょうか。ごく最初の段階でマイクが幾つかの種類があった場合に、どれを使おうか検討する時にモニターして音を確認するわけですが、マイクを変えるというのは結構音が変わったりしますので、そういう場合はパソコン内蔵のスピーカーでも違うということはわかることがあります。しかし音を調整する時にはその変化は内蔵スピーカーではわかりにくくなります。ほとんど変わっていないと思いきや、実際には激変していることもあります。録音して何かを自分で世に出そうということであればどうしても、はっきり音の違いがわかるスピーカーやヘッドフォンは必要ということになってきます。リスナーがオーディオなどを使わない、携帯などの手軽な環境でしか音楽を聴かない人々が多くなってきています。商業録音では最初からmp3視聴を意識して作ってあるものも結構あります。二胡を録音して中国スピーカーでモニターし、コテコテの中華サウンド環境で制作しても、聴く方は多くの場合そうではないので、実際のところこちらの意図が伝わるのか、そうであれば西洋の環境とかパソコンでモニターすることも必要かもしれません。中国での中国音楽録音は、大陸のリスナーが国産で聴くことを前提に作れるので条件は良くなります。それが外国に行った時にわかりにくくなってしまいます。このあたりの溝を埋めるのは簡単ではないかもしれません。PAであれば、再生はこちらである程度できれば、本当の中華の音が届けられ、聴衆はそこに価値を感じられると思います。

 中国製スピーカーはユニット販売が多いです。箱(スピーカーの箱はエンクロージャーと言います)がありません。理由はわかりません。都合の良い箱が家にたまたまあれば良いですがそんなことはほとんどありません。そのため中国では箱だけというのも結構売っています。ユニットだけ単体で買う人をターゲットにしているので、合うものは必ず見つかります。特殊なユニットもあるので、あらかじめ開口を開けずに、注文が来てから穴を開けますというところもあります。日本は少ないです。秋葉原のコイズミ無線で入手するのが定番です。リンク先は密閉箱で、別ページには他にもいろんな複雑な形状のものがありますが、とにかく密閉箱に限ります。アマゾンにはFOSTEXの箱も売っています。より高グレードのモデルでは低音用のホーン(音響レンズ)が付いたものが多いですが、こういうものは相当良いものでないと活かされないと思います。例を挙げると、オートグラフ、パラゴンなどです。検索すれば写真が出ると思いますが巨大です。本物の低音用ホーンとはこういうものです。しかし中国の小さいユニットのために調達する箱はとても小さな箱です。それで回折ホーンが実現できるならもうとっくに名機が完成していると思います。中国の電蓄やラジオは全部密閉か後面解放です。安いので不安になる向きもあると思いますが、エンクロージャーは高級な無垢材などは良くありません。名機はほとんど合板です。安い板を使います。自分で作る場合はホームセンターに行ってカットしてもらい、家に帰って木工用ボンドで組み立てれば良いと思います。そこそこ大きい箱であればコンパネが安いのでこれで十分で、もっと奇麗な材料を選ぶ場合でも合板を使います。容積は8inch(20cm径)で20Lが目安です。高域と低域のバランスの問題があるのでこれぐらいなのです。中国の場合は小さいユニットが多いのでもっと小さくなります。ラジオの中に組み込む設計なので箱が大きかったらバランスがおかしくなります。コイズミ無線で設定してある大きさがだいたいどのユニットにも合うのだろうと思います。

 しかしこうして考えてみると、音楽に合わせて機材も検討するという話ですから面倒なことです。スピーカーはそこそこかさばるので幾つも持ちたくはないし女性から不人気です。米国の天才スピーカー設計師 ジェームズ・バロー・ランシングは仕事の取り組みが熱心な一方、開発費が嵩み、その画期的な発明で業界に強烈なインパクトを与えておきながら同時に借金に追われていました。起業した会社はALTECに買収され、5年間ALTECで働くという付帯条件があったのでこの会社からも名機を出しています。これは思うに、ランシングを縛るというよりもほっておくと火の車になるから彼を保護する意図の方が大きかったような気がします。買収して借金も肩代わりしているぐらいです。しかし彼はどうしても独立してやりたかったようで、5年後にまた起業しますが、また借金がどうにもならず、ついに自分自身に生命保険を掛けて自殺しました。残された社員には莫大な保険金と技術と特許が残されました。彼らは今あるもので一体どうすれば良いのか検討を重ねた結果1つの結論に達し、それは「既存のスピーカーユニットに美しい衣を纏わせる」ことでした。ユニットの新規開発は中止し、箱のデザインに専念するようになりました。多くの家庭では妻の承諾なしに大きなものを置くことは難しいので、女性から「これなら置いて良い」と許可が出るような箱を作る必要がありました。そしてサウンドの素晴らしさと相まって一気に業績を伸ばしました。その会社は創業者の頭文字を取って「JBL」と名乗っています。スピーカーはかさばるのでなるべく増やしたくないものです。コイズミ無線の箱に中華ユニットは小さいからまだいいです。モノラルだとなおさらです。そこへ他にもということになるとたいへんなことです。中華ユニットはかなり入手しにくいので、国産を使うことになる場合が多そうです。日本のユニットのままでモニターしても良いし、むしろその方が理解されやすいかもしれません。それでもそこから中華固有の味を得ようと思えば、中華のトランスを使えます。スピーカーユニットもトランスも銅線を巻いたものです。

 このようにコイル巻きの工業品が、作られた地域の文化を宿すものなのであれば、世界の各文化圏は独自のコイル製造技術を持つべきでしょうか。理想としてはそうなのかもしれません。だけど米英独日の4巨頭以外では露中瑞伊仏蘭西北欧その他ぐらいしかないと思います。他の地域でも作っていますが、外国の生産工場が置いてあるだけとか、そこの国の人が積極的に関わっているということはありません。それに民族色というのは現代では難しいですね。そういうものは受け容れられなくなってきています。だからどうしても古いもの、ヴィンテージ物を漁ることになります。中国はそういう伝統的なものが新品でありますので他国より条件がはるかに良いです。インド、アラブ、アフリカ、オセアニア、南米では見つけるのは難しいと思います。

 演奏会場でスピーカーを設置する場合、配置の関係でステージの両脇に置かれることが多いと思います。その2点から発せられた音がステレオかモノラルかに関わりなく、心地よく聞ける場所(スイートスポット)は両方のスピーカーから等しい距離の位置です。そうしますとそれ以外の大部分の客席では幾らかの不快感があるということになります。位相のズレによって打ち消される音もあるし、ズレた音が入ってくるわけですが、ほとんどの聴衆はそんなことはわからないので、あまり追求せずに設置してあるところがほとんどではないかと思います。スピーカーを2つ置いたことでスイートスポットが1点になるのであれば、逆に音源を1点にすれば、客席全体の品質がある程度保障されます。いずれの配置にしても出す音はモノラルにせざるを得ないと思います。もし両脇にスピーカーを置いてステレオ、つまり両方から違う音が出てくると尚一層不快感が増すからです。多くのスピーカーユニットは放射角度がだいたい90°なので、ステージの中央に左右に90°扇型に2つのスピーカーを置けば、角度が合計180°になりますので、かなり安定した品質の音が届けられます。古いホール、体育館のようなところであっても昔の建築のところは舞台手前の上方中央、天井との境のところにスピーカーが設置してあったりするのはそのためでしょう。ラインアレイとかゾイレ型を採用したもっと理想的なものもあり、ボーズ博士が最後に設計したスピーカーもゾイレ型のライブ用システムでモノラルでした。音響は究極に行き着くとモノラルに戻ります。しかし本格的なものは大きく重く高価に、そして選択肢が限られますので、会場に音響がないような場所で個人レベルで用意せねばならない時は一般的なスピーカーシステムかギター用のアンプを転用するやり方になるだろうと思います。できれば2Wayではなくフルレンジの方が好ましいと思います。ただでさえ、壁の反射や人の多く集まる広い会場で高域と低域の伝達の仕方が異なるといった問題があるのに、まとまりを失う要素を僅かであれ1つ増やすのは好ましくないからです。

 スピーカーの配置について理解しておかねばならないことは「スピーカーは正面から聞くものではない」ということで、これは昔から言われています。ステレオであれば、両側の2つをまっすぐ前に向けます。その中間で聞くと人間とスピーカーの角度は約45度の位置になりますが、それがベストです。モノラルも同じで正面を避け、少し傍に寄って聞きます。距離が離れると正面に近くなりますがこれは問題ありません。近い位置で正面から聞くと高域がキツすぎますが、離れていると高域減衰するからです。ギターアンプのスピーカーユニットから出る音をマイクで採る方法が多くのレコーディング教本に書いてありますが、これもやはり正面ではありません。ユニットの枠の方を採ります。真正面は全然ダメだと必ず解説してあります。そういうことを言っても、ある程度広い会場でPAする場合は配置の贅沢は求め得ません。

 以下はテレビ収録に関する論文ですが、PAの場合も同じ原則が当てはめられるでしょう。筆者はNHKのエンジニアのようです。

 ステレオを正しく聴くには、一般に左右のスピーカーの間隔を一辺とした正三角形の頂点辺りが最も定位感の得られる位置といわれる。スピーカー内蔵形音声多重受像機の両スピーカーの間隔は、20インチ形で約80cmである。この場合の三角形の頂点辺りは、 画面から約60cmとなり、理想的な聴取位置は必ずしも適正な視聴位置とならない (テレビ受像機の画面幅の約4倍の距離から見るのが見易いとされている。20インチ形の場合、約2mである)。すなわち普通の視聴位置でステレオ番組を聞くと、かなり狭角となり、定位感に乏しい音像しか得られない。このように、テレビのステレオ放送では、ねらいどおりのステレオ効果が常に視聴者側で得られているとはいいきれない。こういう意味からテレビの場合、あまり定位感にこだわるよりも、音の拡がりや臨場感を大切にした方が効果的である。 (放送現業技術講座第5回 2. 音声技術II -番組制作技法- 浜田宏 テレビジョン学会誌 Vol. 36, No. 8 (1982) 749頁)。

 つまりテレビの画面が20インチだったら横幅が80cmしかないから、両側にスピーカーを配置しても間隔が狭く、ステレオ感が得られにくい、それでステレオ効果ではなく、音の広がりと臨場感を重視すべきということですが、PAでも同じ考え方はできるでしょう。

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