中国5音階の5つの音には名称があります。宮、商、角、徵、羽 (gōng shāng jué zhǐ yǔ)です(注:一部は標準中国語の発音と異なります)。このすべての音程を変えずにそれぞれの音を主音にすると5つの異なる音階が生じます。宮を主音にすると西洋における長音階となりこれは宮調式と呼ばれます。主音が羽であれば西洋短音階で羽調式となります。同様に後の3つの音も主音にすれば全部で5つの音階があることになります。音階なので調ではなく「調式」と呼ばれます。
西洋では長調と短調しかないので、数字譜で表した時の主音は1か6ですが(それぞれ12音、計24)、中国5音階では12356の5種類の主音があります。
・微調式 - 主音5 支柱音2 下属音1
・羽調式 - 主音6 支柱音3 下属音2
・宮調式 - 主音1 支柱音5 下属音4
・商調式 - 主音2 支柱音6 下属音5
・角調式 - 主音3 支柱音7 下属音6
角調式は支柱音が7なのでほとんど使われていません。事実上は支柱音がありません。中国5音階は支柱音を中心に展開されますので、5音階なのに支柱音が無いというのは特殊な作品になります。また宮調式では下属音が4になり、これも5音階にはないので、その機能を3に持たせることがあります。江南絲竹で5→3の塾指滑音は欠けた4を補う、4を感じさせるものなのでしょう。しかし4ではないという曖昧さが江南音楽の1つの特徴と言えそうです。
常用される主音は4つで、1256となります。音階が4種あります。羽調式は西洋の短調、宮調式は長調です。それら以外に2種あるということです。演奏上の音の扱い方が変化します。現代ではF調、G調のように表記されますが、これは西洋長音階に当てはめた時に1がどこにあるかで指定しています。現代の奏者はアルファベット表記の方に慣れています。中国楽器の多くはDからです。
・羽調式 - F調63 西皮
・微調式 - G調52 二黄
・商調式 - C調26 反西皮
・宮調式 - D調15 反二黄
5音階の作品でありながら時に6声という作品もあります。つまり4か7のいずれかが加えられている作品です。これは転調された時に加えられる音です。転調は西洋と同様、基本的に5度上か下に移動します。図の例では中央にG調52が示されていて、5度下はC調26、5度上はD調15になります。
転調の時に作品によっては、そこで一旦区切られて数字が振り直されれば、47は使いませんが、そうでない場合は4か7が発生します。G→C調に変われば、G調になかったC音が増えます。C調では1ですが、音位を変更しないのであれば4を当てて対応し、1の代わりとします。そして3が無くなります。西洋音楽では転調した場合、必ず元の調に戻さねばなりませんが、中国古典音楽の場合は転調したまま終了したりします(舞曲は戻すことが多い印象です)。D→Gに転調、さらに→Dに戻すことは必ずしもない、さらに→Cなどというのはありません。Cまで行くと7音ですが、転調の繰り返しで7音は基本的にはありません。それで6音という作品は結構あります。47のどちらかが使われたらその箇所では13のどちらかが消えて進められます。そうでない場合は、47が経過音や装飾音として使われた場合です。7音使われているが7音階とは言い難い5音階もあります。
楽譜をみた時にその作品がどの調式なのか判別したい場合があります。しかし非常に不明確な作品も多々あります。判断材料が乏しく、どちらにも取れるという場合でこれを「双重性」と言います。支柱音さえどれなのかよくわからないという作品もあります。現代音楽でシェーンベルクの12音音楽というものがありますが、5音と12音ではだいぶん違いますが共通点はあります。ABという形式の作品で、Bの終止音がAの支柱音であるが、Bの中にそのさらに上に支柱音があるようなら転調した可能性が高くなります。
このように確定できない要素があるということは一方で重要ではないという見方もできます。しかしそれでも調式の決定が求められるのは、弦楽器のような空弦がある楽器があるからです。ただ譜面どおりの決まった音を出せば良い楽器であれば問題にならないのですが、二胡のように空弦の設定が重要である場合、調式の決定も必要になります。不明確な作品でどの調式を選ぶのかは演奏者の裁量になることがあります。そのため同じ作品で複数の版本があったりします。