二胡の駒 - 二胡弦堂


二胡駒を加工した例1  二胡駒は基本的な材料としては黒檀と白木があります。白木は本来は楓なのですが、ちょっと違う感じのものも市場にあり、これも結構良いので主にこの2種がどこの販売店でも置かれています。黒檀は割と粗い材料で、油煎したものもあります。それ以外に幾つか種類があってもせいぜい5種類ぐらいというところです。中国では様々な経緯を経てこういう状態に落ち着いています。しかし日本の伝統楽器には象牙を使うことから、二胡にも象牙の駒が良いのではないかということで日本で二胡象牙駒が出てきたりしました。さらに他の材料も追求されていったので、種類が非常に増えました。これは中華圏に対してかなりインパクトがあったようで、材料だけでなく形状まで追求されてゆきました。しかしやがて落ち着いて元に戻りました。それでも一部の評価されているものはまだ市場に残っています。古い体制による手作業での製作環境も残っていたり、コンピューターによる自動化で全く同じ形が生産されるようなものもあります。

 手工であれ機械であれ、何らかの規格に基づいて、ある程度集約された概念に基づいた上で製作せねばなりません。先日、呂建華の家に行った時に2年余り続けてきた駒の研究を見せて貰いました。全て違う形の駒を作り、実際に確認するというものです。


 かなりの量で材料は黄銅まであります。


 三味線型ですが、意図は駒から上下左右に対し等間隔にするというものだったようです。一種のテストでしょう。


 今でも中国市場で見受けられるタイプです。形状で想像がつきますが、かなり強引な言い方をすると2,3把の二胡で演奏している感じ、もちろんそんな重奏的効果はありませんが、潜在的にそういうキャラクターを持った響き方です。音に芯がなくなります。これがまだ市場に残っている理由はわかりませんが、ともかく一般的な駒とは異なります。


 質量を極限まで削ぎ落とすとこうなるのでしょう。作るのは非常に大変らしいのですが、呂建華師によると「音は全く感心しない」。


 捻れています。


 穴を開けたり開けなかったり。


 中国の城のような形状です。


 底を貼り合わせるタイプも数種類検討されています。


 全て呂建華師ご本人が作ったものではなく、別の製作家に発注したものも多く、彼は本業があるので趣味で行い、全て価格は無し(販売しないとは言いにくいので大陸ではこういう言い方になる)、しかし有名演奏家のサポートはやっています。これらの研究結果から駒というものはやはり普通が一番というところに落ち着くらしい、そういう理由もあって販売しないと決めているということと、市販の駒を少し削る、そんなに大変なことではなく誰でもできる範囲で削ることで調節するのが良いという考えになったようです。研究家、製作家であれば演奏家との協力関係で仕事をすることで開発を進めたりということはありますが、そういう先進的な目的がないのであれば、自分でやれば良いのではないか、数分のことであるし、そういうことのようです。では普通とは何なのか、数値が要ります。市販の駒を調整と言っても基準が必要です。呂建華師の場合はノギスで測定した上で自社の二胡に添付したりすることがあります。弦堂が彼の家に二胡を取りに行った時は駒は出来ていません。思い出したように駒が要るとなって削り始めます。慣れているので1粒で1分はかかっていません。数値は以下の通りです。

横  14-16mm 音の厚みがあり過ぎる場合は削る
縦  8-9mm 音の反応が変わってくる
高  8mm 皮が緩い場合は 外弦8.3mm 内弦8.5mm
弦幅 5mm (これは狭いですね。6mmも有りでしょう)

 この数値を見たところ、これは円形ではないということがわかります。縦横の寸法が違うので楕円の駒です。呂建華師の考えでは楕円に限るらしい、しかし自宅に丸があればそれを使ったところで問題はないでしょう。中国北方では楕円が最適とされる傾向があり、南方では丸が主流です。音に対する考え方が違うからですが、どちらも間違っているわけではありません。数値の中では高さが特に重要で、呂建華師もノギスでさかんに高さを測っています(写真例)。材によって数値を前後に振ることもあるようですし、それほど厳密なものではないけれど、ノギスは結構精密に測れるものを使っています。「合う駒がないという人は市販のものをそのまま使っている、削らないからそういうことになる」という説教も交えつつ工作されます。しかし古い二胡に関しては高めに取っているし、両弦で高さまで変えています。結局適当であったりもするが、呂建華師の場合は立場上、一応標準に合わせて最大公約数的な、一番反論が出そうにないあたりで収めていると、本当は自分の好みで変えた方が楽しめるだろうとも言っています。皮が緩いと言っても程度の差はありますから、もっと高く、9mmとかそれ以上の方が良い場合もある筈です。


 この時に気まぐれ的に(見えるが実は考えていたかもしれない)チョイスした4つの駒を削ったものを頂きます。右から印度紫檀、楓、老松、分類できない黒檀の一種です。楓以外はこの写真に写っているものに関しては普通に市販されている駒に過ぎないらしい、それに少々手を加えたと言っています。楓はコントラバスのスクラップになった駒を削ったと言っています。これは呂建華師があまり熱心に普段駒を削っていないため極めて数が少なく、一般に呂建華二胡に添付しているものはスクラップから取ったものではない楓材です。その大雑把なものが袋に保管してあって、二胡の出荷前に1つ取り出しては削るのがいつものパターンなのです。写真の中で呂建華師が使っている棒ヤスリ、テーブルの上に置いてありますが、これが三角断面で、これで溝を彫るのがベストで弦が駒を傷めないようにするのはこれが良いということです。なければハサミを使うこともできます。

二胡駒を加工した例2  本来二胡奏者にとって駒を削るというのが普通だったのは充分に理由があってのことで、如何に現代化され規格化が進んでも、最良の方法は昔のやり方に戻るということになるようです。古楽器を使い、薄い蛇皮を張った二胡を愛用している中国の老人たちは、店に行って自分の二胡に合う駒を木箱の中から探します。駒には寿命があり、また蛇皮の変化によって合わなくもなってくるので、換え時を見極めて、次にどんな駒をあてがえば良いのか、推測を含めつつ選別します。数十個を一度に買い、家で選別することもあります。選から漏れたものはまた後々には合うかもしれないからです。その選ばれた駒は作りが粗く、そのままでは使えません。それでやすりを使って削ります。駒作りも演奏技術の一部でした。売られている物は非完成品という前提で売られていたようです。

 しかし二胡が現代の仕様になってから、この作法がだんだん失われてきました。現在駒を削っているのは一部のハイアマチュアかプロ奏者ぐらいだろうと思います。依然として現代でも駒作りは必要な技術ながら、もはやそのことを教える人もいなくなってきました。そうしてやがて "完成品" の駒が出てくるようになりました。

 既製品の駒に少し手を加えた例で実際に二胡に合わせてあるものを2つ掲載してあります(写真はクリックしましたら拡大します)。これは骨董屋で見つけた古い二胡に付いていたもので、写真の二胡に付いていたものです。二胡駒を加工した例33つ並べてある駒は二胡が進化するのを見越して右から使い、合わなくなったら変えていくという、先に作っておくという、こういうものも作られることがあります。加工法で特に多いのは、底や側面を丸めることです。音の角が取れてまろやかになります。二胡が古くなっていくに従い、小さく高い駒の方が合うようになっていく傾向があります。底が丸く、てっぺんは溝があります。8mmとされる高さは溝の底から測りますが、そうするとノギスは写真例のように少し斜めに入ります。正確である必要はないので大体で良いのですが、ノギスの当て方で随分違ってきたりしますので写真例を参考にして下さい。

 このような状況であれば、二胡奏者にとってヤスリは必携、あるいは必携だったということになります。完成品としてきちんと作ってある駒は外面の仕上げも綺麗です。それ以上削る箇所がないので、このようなものはそのまま使います。また、工作の粗い駒が結局は良いということもあります。左右不対照の不良品のような駒はそのまま使う方が良いこともあります。弦が絹であれば、駒の寿命はほとんど考える必要がありません。

 ヤスリは、かなり良いものがネットでも買えます。100均にもありますが安価なものは使えません。駒は小さなもので質の悪いヤスリで削れば表面がささくれてしまって削らない方が良いぐらいだからです。呂建華が使っているのはワタオカの10型三角です(直に確認しますとこれはワタオカではなく別メーカーのものに見えますが、サイズは8~10型というところです)。これで溝を掘るので良いものを使っていて他は半丸と丸がありますが普及品です。最後は紙やすりで仕上げるからこれで良いのだろうと思います。しかし良いヤスリがあれば紙ヤスリでの仕上げは不要と思います。ノギスも買わねばなりません。そこそこ精密に測れるタイプで1000円ぐらいです。電動ドリルのようなものは不要と思います。既製のものの修正であればわずかのことだからです。

 ワタオカさんのものでは、三角については精密12型あたりが丁度良いと思います。精密の方が綺麗に処理できるでしょうし使いやすいと思います。半丸は精密8型がちょうど良いかもしれない、或いは5型というところです。これを使えばサンドペーパーは不要でしょう。その代わり大きく削れず、高さ9mmの駒を8mmに下げるのは困難です。細工ヤスリの平も必要でしょう。それだったら細工ヤスリで平をやめて半丸10型でペーパーがけ前提で使うという方法もあります。駒の底を平らから僅かに球形にカーブをつける時には精密ヤスリの方がサンドペーパーを必要としない分楽に作業できますから、3本体制が最低限という感じがします。ノギスは100均でも売っていますが、誤差を把握した上でということであれば使えると思います。0.1mm単位がわかりにくくなりますが、そこまで厳密な工作は受注するのでない限り必要ないでしょう。尚、日本ではヤスリ鉄を味噌に付けて鍛える秘法がありますが、中国では炸酱面(ジャージャー麺)の黒いタレに漬けるようです。

 自分で工作すると自分がどの程度の駒を求めていたのか、楽器もいろいろだと思うのではっきり決められないことが多いですが、それでも自分の要求は体感で理解できるようになりますから、作業する人たちが一様に「自分でやるべき」というのはわかる気がします。世の中の流れとは違うのであまり強く勧められるものではありません。また、削らないそのままの状態でもほとんどの駒は使用可能です。



 後日、半丸を呂建華の家に持っていくと精密は細か過ぎるとのことで、それは確かにそうなのですが「これがあったらペーパー掛けが要らないでしょう?」と言いました。そうしたら「なんでも要る」と、どんなタイプのヤスリでも必要だとおっしゃっておられました。荒いヤスリは多少安価なものでも大丈夫、もちろん作業性は質の高いものの方が良いですが、だけど細かい目のヤスリは質の悪いものは使えない傾向です。使用頻度の高いものは細工ヤスリなので、そちらの方が良いものが欲しかったようです。仕上がりの方が重要と思うのですが、この辺は島人と大陸人の違いでしょう。精密三角12型に関しては「これは素晴らしい」との評価でした。写真例の細工ヤスリ(右)は中国での市販品ですが、それとワタオカ精密(左)の目を比較して下さい。これだけ違うとだいぶん変わってきます。仕上がりの美しさは日本製の方がはるかに良く、こういう工具周りの質が中国製と日本製製品全般のクォリティの差になっているということもあるのだろうと思います。呂建華のような頻繁に工具を使うプロの人は日本製で揃えるべきでしょうけれども、流通がないのでしょうがないのでしょう。

 呂建華邸には中途半端な感じの駒が結構あります(下図)。袋に入っている2つはコントラバスの駒から呂師が削ったものです。駒は古い材料の方が良い場合が多いので、とにかく保管が原則です。