古楽器はどのように選択したらいいのでしょうか? - 二胡弦堂

 


アービンの二胡複製  現代の二胡は国家機関で研究され規格がだいたい決まっていますので、出音もそれなりにいろいろあるとはいえ、大幅に逸れたようなものはないと思います。しかし、古楽器は職人が自分の感性で楽器を製作していたので、良し悪し以前にすごく主張があります。それぞれにすごく魅力的であったり、こんな表現も可能なのかと驚かされたりしている内に、どんどんコレクションし、すべて唯一無二なので手放せなくなっていきます。しかし、できれば二胡は最終的に1把に絞れるならその方がいいと思います。なぜなら、良い楽器は演奏者にインスピレーションを与えるので、その楽器が育っていく過程で自分も進化してゆくのが理想的だと思うからです。プロはたくさん持っていますが、蛇皮を2,3年で寿命と考える彼らと生涯使う一般の人とは考え方が違います。古くなった蛇皮はとても甘い音が出ますが、ホールでは使えないのか、こういう蛇皮を変えてしまう演奏家もいるという話を聞いたことがあります。しかも弦堂はそういう中古の蛇皮を古楽器に張って貰ったことがあります。プロでも古い楽器を大切に使っている人は、数をあまり持っていないと思います。楽器をあまり変えると、自分の中に一本筋が通ったものが見えてこないかもしれません。ただこれは自分が十分に満足できる楽器を手に出来たと思った時に言えることです。そうなると最初の質問に戻りますが、どんな古楽器を購入するかとなるとすごく難しいことになります。将に、一期一会としか言いようがありません。もし、自分自身の中に決まった音があってそれが絶対的なら、すべての古楽器はその方にとって駄作だと思います。新琴でも同じかもしれません。しかも、二胡は音が変わりますから、理想の音を手に入れてもやがて失います。ここがすごく難しいところです。このジレンマを解決する方法を見つけた人は幸せになれると思います。これは"音"というものが本質的にわかっていないといけないのではないか、ということになってくるわけですが、要するに良い音を大量に聴くしかないので簡単な方法はありません。"良い音の二胡"は、本人しかわかりません。私に至っては、"良い"音、自分にとって良い音は、たぶん生涯わかりません。こんな風に感じられる方は多いかも知れません。

 そこで、いささか乱暴ですが、基準の1把の探し方を探りたいと思います。数ヶ月使って嫌になったら売り払う、という方法が1つあります。この根拠は、「良いものは飽きが来ない」というものです。買った時は、素晴らしい美音に酔いしれて、大金を叩いて買っても、なぜか理由なく飽きてくる時があって、「自分はモノの価値がわからないのではないか」と考えてがっかりする場合があります。これは、しょうがないと思わないとどうしようもないです。二胡は音が変わるので、別に耳が悪いとかそういうことではないと思います。自分の中で脱落したその二胡が、自分の中で復活してくる可能性は低いです。「これは、お金がある人ならできますね。私には無理です」と言う方はどうしたらいいでしょうか。新琴を買うときは、なるべく硬い音の二胡がいいと思います。 竹の二胡 音は変化に傾向があって、古くなってくると須く柔らかい方向にいくと、ほとんど決まっています。この時に、鈍さ、音の反応の遅さが出てきます。これが長時間の演奏の時に疲れさせます。引き締まっているとそういうことはないですが、そういう二胡は音はきついので好きな人は少ないです。硬い音でもいろいろあって、素性が良く、魅力有るものはあると思います。それが自分の好みでなくても、それを買うのです。1年ぐらいしたら、音は甘くなってきますが、筋が通った出音なので、嫌にはなりにくいのです。初めから音が硬い二胡は、音が甘くなってきても、芯を失わない傾向があります。この項目は、古楽器の買い方ですから、全く関係ないように思われるかも知れませんがそんなことはありません。なぜなら、古楽器の蛇皮が硬化していたり破れているものは、張り替えないといけません。二胡の寿命が100年というのは、おそらく蛇皮のことでしょうし、長期に使っていない蛇皮は細胞が固まってどうしようにも使えません。今でも使用できる古い蛇皮は貴重です。蛇皮を張り替えた古楽器は、一旦は、ある意味、新琴に戻ります。張り替えない場合は、すでに成熟しているので評価はしやすいです。いずれにしても木材の質がいいので、わざわざ古楽器を使うという理由が多いと思います。しかし選定は個性が強い分、難しいものとなります。ここで良い二胡の定義について仮に「飽きがこない」とした場合、現代楽器より古楽器の方が飽きにくいです。それでも、自分の想像と違う方向に行っている感が出てきます。これを逆に楽しめるかだと思います。インパクトは強いので、もし買い換えると別のインパクトが迫ってきますが、たいてい一番最初のが忘れられないという人は多いです。これは不幸です。それで、最初にはっきり決めて浮気しない覚悟が結局は一番良い結果をもたらすと思います。思い切って変えた方がいいこともありますが、その場合は思いっ切り今の二胡で嫌な思いをさせられてから、チェンジすれば後悔することは少ないと思います。

 話が予定とは全く違う方向に行ってしまい、この上の方に掲載した2枚の二胡の写真を通り過ぎてしまいましたので最後にご説明します。まず1枚目、上の方ですが、これは無錫のアービン博物館にある、巨匠が二泉映月を録音した時の二胡のレプリカです。無錫は、錫劇という地方劇があります。この伴奏に使う二胡は独特で、このアービンが使ったものはまさにそれです。胴が竹という特徴があります。最近の錫劇二胡は、胴の半分だけ竹ですし琴托も付いていますが、昔のものは付いていません。錫胡と言います。下の写真の二胡は、汚いところで撮らせてもらっていますが、骨董屋で見つけた二胡で、棹が曲がっているためか、そこらに投げられていたものを私が拾ったものです。(後で修復され曲がりはなくなりましたがまた曲がってきました。)大型で長いので、二泉胡規格のものと思いますが、どうにも鳴らしにくく、普通の弦の方が良かったです。こんな風にいろいろあるので、テーマに沿った楽器の捜索も可能かも知れません。