古楽器の音は現代二胡から琴托を外せば出すことができます。そのサウンドは、板胡と二胡を合わせたような音です。一般の現代楽器と比べると音の周りにモヤモヤと付帯する響きのようなものがありません。かなり明晰な音です。反響成分も音の芯に集まって濃厚になったような感じになります。
古い時代の音楽や奏法で演奏する場合、現代楽器を古楽器仕様にして演奏するという方法はあると思います。しかしその度に琴托を付け替えたり弦を変えたりするのは面倒ですから、実際には専用の楽器を用意することになると思います。それに一つの楽器をいろんなやり方で使うと音がおかしくなります。琴托を外すのは、古楽器の音の傾向を確認するだけに留め、現代楽器は現代楽器としてそのまま使うのが無難です。現代楽器と古楽器の相違は琴托だけではありません。
古楽器は良いものの入手が難しいのですが、製法が失われているわけではないので作ることは可能だし、現代楽器からでもそういう音が出るようなものを作ることさえ可能です。それらは小店でいずれも販売していますが、古いものは問題もあるので、現代のものの方が確実という考えで作ったのが理由です。現代の方が材も確かだし、外観も美しく立派なものが作れます。そしてこれらの楽器を使ってしまうと現代楽器を全部売りたくなってしまったりしますので、そういうご相談に対して思い留まるように説得させていただくこともあります。
二胡奏者は可能であれば板胡もやるべきですが、板胡の音を憶えてしまうと二胡には戻り難くなる人もいます。古楽器の場合と同じです。演奏会も板胡の方が明らかに人気が出るでしょう。戯劇の楽器だからです。広東高胡についても同じです。二胡が演奏できるのであれば、高胡、板胡は二胡より扱いやすいので特別な練習などは要らないでしょう。
中国弦楽器の中で現代二胡だけが成り立ちを異にしています。外国文化が流入してくる上海近郊で、バイオリンのような扱いの楽器を中国にも、という目的で開発され、それを劉天華が発展させたものです。当時二胡は、南胡と呼ばれていた一地方の楽器でした。二胡の古楽器は南胡であって、すでにその古楽器の時代に二胡という名称が使われるようになっていました。徐々に改良され、文革期には現代のような楽器として定着しました。つまり中華のその他の伝統的弦楽器とは異なり、二胡だけが近代にこれまでとは違った目的で作られたものだったということです。発展、というよりも新たに作られたという印象の方が強いように感じられます。そういう経緯でバイオリンのようなサウンドを志向している二胡があり、反対に伝統を固持しているようなものもあります。似た経緯の楽器としては広東高胡があります。南胡から二胡とは違う方向で発展したものですが、これは最初からバイオリンの代わりとして開発されています。バイオリンは西洋の響きになるので、東洋の味がより求められる作品で持ち替えられるように作られたものです。広東音楽において元々の楽器はバイオリンで高胡は後から作られたものです。