絹弦はすぐに断線しますか - 二胡弦堂


中国の古い秦琴。二胡と一緒に江南絲竹で使われる  鉄弦はなかなか切れることはないので、それに比べると絹弦はかなり切れやすい傾向です。規格は駒から千斤が39cmで設計されていますので、そこを40cm以上に取るとか、音程を全音上げる、DAをEBにするなどすれば、極端に寿命は短くなります。これは鉄弦でも同じですが、鉄は簡単に切れないので認識されにくい傾向です。

 絹弦は質感としては、たこ糸や畳糸のような感じのものです。三味線のように固いバチで弾き続けるような使用法も前提に作られていますので、二胡で使用する場合は切れる心配は普通はしません。弦を弓で擦り続け、古くなってくると磨耗で馬尾の当たるところが細くなってきます。それでもそこで切れることはありません。他の箇所が先に切れます。

 弦に折り目を付けるのはあまり好ましくありません。スチール弦は折り目をつけた時点でもう使えないですが、絹弦はまだ持ちこたえます。折ってしまっても過度に心配はしませんが、極力避ける必要があります。

 始めてチューニングをする時は極力チューナーを使った方が良いと思います。内外弦で張力が違うので感触で調弦すると狂い、断線のリスクもあります。外弦の方が張力がはっきり高めです。また弦の太さによって産地が変わるので色も違います。耳に自信があるという人程、断線が多いです。それは耳が悪いということだと思うのですが、幾ら断線しても「私は音感は良いから」と必ず言います。つまり絹弦が悪いという意味なのですが、そういうことはございません。非常に多い問題です。

 一定の圧力で張力の違う弦を押さえるのですから、弓を換弦すれば弦を押える圧力が変わることになります。それでもこれで問題ありません。これで標準です。適切な圧が弦によって違うためです。もしこの差がなければ、それぞれの弦に適切な圧力をかけるため、指で調整しなければならないかもしれません。そのようなことをしなくても、綺麗な音が出るように張力を変えてあります。

 清代以降の京劇の琴師の間で、明瞭な高音を出すためのテクニックとして言われていたことの1つに、両弦の音程差を完全五度に合わせないというものがあります。外弦を半音高くチューニングします。(注:梅蘭芳の琴師を長年務めた名手・王少卿 [京二胡の開発者] は、これとは逆に外弦を半音下げていたと言われています。それは、京胡を演奏するには彼の指があまりに太かったからだと言われています)。もし、完全五度でチューニングするなら、外弦の音に雑音が出るとされていました。このことは、弦の張力とも関係があると思われます。絹弦の製法が再確立されたのは、40年代頃ですから、その頃には、この問題は克服されたようです。それで、完全五度に合わせた時に外弦が強めに張るのだと思います。この方法で、五度に合わせても雑音が出るのを回避していると考えられます。

 絹弦が切れる場合、ほぼ9割方は切れる場所が決まっています。それは控制綿の真下の宙に浮いた部分か、千斤のすぐ上か下です。どこにも接触していない部分です。折ったりもしていません。なぜこういうところが切れやすいかは、いろいろ調べましたがわかりません。普通、駒をよく付け替えて傷をつけたりした場合とか、弓の擦る部分などが弱そうだと予想できますが、実際傷がついたとしてもこういうところが切れることは極めて稀です。

 弦の琴托への結び方については縛り付けるのが最良です。輪を作って引っかける方法は音があまり良くありません。理由はよくわかりませんが手がかりとしては、ここからデンペンに至る部分が非常に切れやすいということがあるので、この付近の負担が大きいことが考えられ、そこへ輪を作る方法だと安定性に欠けるのかもしれません。振動が強いところが弱いようです。あまりスマートな方法ではありませんが、強く縛るのが最良です。縛る時に多少弦が折れてしまっても、これも問題ありません。この折れ目で切れたことはまだ一度も見たことがありません。しかし極力折らない方が良いだろうと思います。切れそうにない、何もないところが意外と切れます。縛ると外すのが煩わしいですが、それでもはさみが必要な程しっかり縛り付けるのが好ましく、弦の寿命も長くなります。それにも関わらず輪を作って簡単な方法を採りたいという場合があります。それは弦が古くなってきて、弦軸のあたりに巻きで余裕を持たせてあるという場合、少しずつ繰り出す方法でこれまで使用していた位置をずらすことで古い弦の味を残しつつ新しくしていこうという時に縛りつけるよりは簡単な方法で外せる方が良いということがあります。その場合の方法は図解を貼っておきます。