まず、どの弦を使うか、絹なのか鉄なのか、また他の何かなのかは全く関係なく、どれも共通しています。通常、西洋の松脂の場合、バイオリン用からチェロ用、コントラバス用など様々ありますが、本来はこのような違いもありません。工業生産以前の松脂は天然で、種類は産地の違いぐらい、現代とは違う意味で色々ありますが、基本的に松脂は松脂、1つのものです。そしてこれを基準に全ての弦楽器が規定されました。ですから、本物の松脂を使うと、何に適するとか、これは合わないとか、そういうものは無いということになります。
これは楽器毎に相性の良い松脂をラインナップすることを否定するものではありません。色々あっても構わない筈です。ですが、古楽志向であれば、松脂は1つと考えないと原点には辿り着けない筈です。そしてまた、それが全てとも限りません。
松脂というのは科学的に謎の物質であるらしく、成分すら解明されていないようです。それでいて、世界中で大量に産出し、需要も膨大です。ペンキの光沢、写真の光沢、様々なところで必要不可欠です。松脂が無いというだけで、世の中の見え方が大きく変わると言っても言い過ぎではありません。他にも大量に必要で重要なものはあります。鉄はFeですが、元素なのでそれ以上はよくわかっているとは言えません。ガラスは複数の砂質や灰の化合物ということがわかっています。しかし松脂はそのような基本組成すらもよくわかっていないようです。奇跡の物質です。
天然の状態の松脂は、松の樹液が幹から垂れて固まったもので、黄色と黒の部分が混在して混ざっていません。溶かすと自然に混ざります。工業生産の場合は松そのものを工場で処理し、様々な用途に分けます。その時に松脂は松脂で取り出して原料として生産します。市販の楽器用の松脂はこれに添加物を加えてオリジナルの製品を作ります。チョコレートに似ています。カカオ原料が大部分で、それにほんの僅かな何かを加えて、それぞれのメーカーの違いと考え方を出します。しかしどちらも原料のままの方が優れているように見えます。天然松脂と原料松脂は違いますが、どちらも良いものと思います。
メーカーによる添加物は、亜麻仁油や蜂蜜などがありますので、古くなった松脂は老朽化で使えなくなります。数ヶ月毎に買い換える必要があります。買い替えに留まれば良いのですが、これが弓毛を痛めるともなればコスト高になる上、好ましくない結果も想定されます。そのため、小店で販売しているものはこの問題がないものばかりを選んでいます。松脂に良いものを使えば、弓毛の交換は不要という人もいます。しかし毛が変化しないわけではありません。古くなった方が良いという人もいます。これはきちんとした松脂を使っていないとわかってこないことです。
僅かなことですが、松脂や弦をあらかじめ、金、銀、銅、錫などの容器で保管するのは意外と効果があります。メッキの容器は効果がありません。これらの金属は、水や食物の味わい良くする効果があるということで食品関係に重用されます。茶もこれらの容器で保管するとおいしくなりますので、かつて四川で摘まれた献上茶は銀の壷に収めて北京まで運ばれました。縄文人は土器というものを作って生活していたことが考古学の発掘でわかっています。土器は泥を使って焼きますのでいろんな材料が使えたと思うのですが、彼らはそうせず、必ず決まって赤土(紅泥)を使っていたようです。縄文期の壺は水や食品が腐敗しにくい非常に優れたものだったと言われています。紅泥は現代でも宜興、常滑などで使われています。また縄文人は刃物を作るのに必ず緑石を使っていたと言われています。石器と言われるものです。硬い石であれば切れるのですが必ず緑だったようです。緑石と他のものでは料理の味が違うとされ、現代でもいわゆるパワーストーン扱いで多くの緑石製品が中国で販売されています。緑石は水を浄化しますので、そこらの河原で取ってきたものでも(一応消毒はしますが)水に入れると味が変わると言われています。中国では景徳鎮、日本では有田などの古い白磁の焼き物も同様の効果があります。このような容器も金や錫のような効果があります。