二胡は汗で傷みますか? 琴胴が割れてきたりするでしょうか? - 二胡弦堂

 


このような茶店で二胡の演奏が聴けることがあります  二胡の胴が割れたり、反って剥がれたりすることがあります。中国である程度の期間、保管してあった材で二胡を作り、製作されてからもさらに保管してあったような状態のものを環境が違う島国に持ってきているわけですから、場合によっては発生する可能性のある問題です。また中国国内であっても北方と南方では気候が違いますので、湿度が高めの南方から乾燥している北京に運べば亀裂が入るということもあり得ることです。バイオリンのケースで湿度計が入っているものがありますので、それを参考にして二胡ケースにも湿度計を入れて管理するという方法も考えられますが、それでは不適切な湿度レベルになったらどうするのかという難しい問題があります。

 極度の乾燥はどんな二胡にも打撃を与えると思います。濡れるのはあまり問題ないです。京胡の場合は、蛇皮を保護するために水で濡らしてから演奏を始める人がいるぐらいです。北京の京胡の制作家・劉正輝の工房に遊びに行ったときに、彼は手を水に浸し(いつも蛇皮を水に浸けることができるよう常にスタンバイしているので、水の入った桶が必ずあるのです)びしょ濡れの手で蛇皮を撫でてから演奏を開始します。作っている人がこういうことをします。二胡の場合でも、気候があまりに乾燥し過ぎている時などは、蛇皮にだけなら水を掛けても良いと思います。この場合は、少し湿る程度で構わないと思います。やり過ぎると剥がれてきます。日本でここまでやらなければならない環境というと北海道ぐらいかもしれません。日本は社会の教科書によると「温暖湿潤気候」ですから、大陸の厳しい気候とは違い、かなり穏やかな気候なので普通はあまり問題になってこないと思います。

 一方で材は乾燥が進むと音が良くなると言われ、これは確かに正しいのですが、上記の問題とは意味が違います。闇雲に乾けば良いということではないので、エアコンに長時間当ててみるとか、汗は良くないとか、そういうこととは関係がないと思います。自然乾燥によって長時間掛けてゆっくりと水分が抜けていくことと音質にどんな関係があるのかわからず、おそらく人智を超えた自然界の何かがあると思います。このような長期に僅かずつ進行する乾燥と汗との関係は、ほとんど影響し合わないと思います。

 汗は表面を濡らし、少なくとも数分で乾きます。材の乾燥は数十年とかけて進行してゆくものです。もし汗が影響を与えるなら、それは材が悪いと思います。最近見かけた中国のポカリスエットの広告に「汗と水は同じですか?」とありました。汗は人の脂を含んでいますから違いますね。この脂が材には良いとされています。だからといって二胡に自分の肢体を擦り付けるわけにはいきませんね。人間の脂は動物性ですが、ガマ油も良いとされています。しかし入手の問題などから一般的には植物性の油が良いとされ、その代表的なものはオリーブ油です。湿度のコントロールは神経を使いますし難しくもあるので、そして材の養生のために油を使うのが一番良いと思います。

 最近のほとんどの二胡にはニスは使っていません。だけど胴の中を覗いたり分解したりすると表面が処理されていない部分を見ることができて、そこは光沢がありません。二胡の表面は確かにニスは使っていませんが、油とかワックスは使っていることがあります。目の細かいヤスリで磨かれた後、表面を処理しています。何も塗っていないものもあります。中国北方の楽器は塗っていないものが多いように思います。古楽器も塗っていません。それで古楽器は入手したらすぐに塗ったりします。長年放置されていたものを使い回すとすぐに歪んでくることが多いからです。優れた材か極めて安価な材はこの問題が出やすい傾向があります。極めて安価な材はほとんど日本には上陸していないので、警戒すべきなのは非常に良い材の二胡を持っている場合です。割れやすいので物によっては修理覚悟で運用する必要があることもあります。