抱翁堂製 宋代汝窯青磁杯子 - 二胡弦堂


 青い写真は工房の紹介で実際の感じは違います。小店で撮影したものの方が実物に近いです。

 宋末の徽宗皇帝は中華史上屈指の書道家として知られていますが、もう一つよく知られているのは彼が青磁に傾倒したことです。国家予算を汝窯に投じて理想の"青"を求め、その結果、帝国は滅びましたが、そのあまりに美しい青は台北故宮博物院最高の宝物となって永遠の眩さを保っています。日本にも数点現存しています。この青はなかなか復刻できず、日本でかなり近づいていますが今尚完全には再現できていません。しかしレプリカを作るぐらいまでは前進しており、博物館の展示などではそういうものが出されていることもあるとされます。汝窯旧址から破片が見つかって成分分析するなどで解明されてきていますが、オリジナルの質感を保ちながら青を深めていくのは難しいようで、抱翁堂は以前よりはだいぶん前進していますが汝窯独特の肌合いのまま青を出すのに苦労しています。以前は真っ白だったのですが、これでも十分美しく、マシュマロのような柔らかさで驚かされましたが、その後少し青に近づくも、白の中の深みのある紺といった趣で、はっきり青が出るには至っていません。

抱翁堂製 宋代汝窯青磁杯子 50cc ¥14,000

 エスプレッソカップにも使っていただけます。

 工房から送られてきた写真で見ますとスカイブルーですが、現物を見ると明らかに誇張があります(工房写真は理想形に近いものです)。それで小店でも写真を撮ったのですが、どうしても青っぽくなります。デジタルの捉え方では青くなるようです。しかし小店では工房写真のような青にはなりません。それでも今どきはソフトで如何様にでも色合いを変えられますが、肉眼で見る感じに補正が無理なほど結構な青です。蛍光灯が悪いのかと思って外に出ても変わりません。それで単品で撮るからいけないのだと思い、別の白磁を傍らに置いてこうして余計なものも一緒に写すと肉眼に近い発色が出ましたのでそれも貼ってあります。小店で撮影した色が標準だと思います。青磁というのは釉薬で青を出すのではなく、釉薬を通過した光が胎に反射した時に青が出るので光の掴み方で色合いが変わります。

 日本では島田幸一など有名な青磁作家が汝窯に迫っていますが、この技術は中国にも伝播したようで結構たくさんの製品が出ています。ですから青い汝窯の何かを手にするのは難しくはないし大陸では大量生産化されてしまって安いです。しかしそれに飽きた人が抱翁堂に来るので青以前のところで結果を出さねばならず、そうすると青は出にくいという難しさがあるようです。本物を見た時に感じさせる霞のように浮かび上がっては霧のように消え入るような感じが出てきていますが、青はまだまだです。


 氷裂紋は以前は出ず、大きな亀裂が幾筋が出るだけの失敗作でした。現行の作は博物院の本物に近い氷裂が出るようになっています。釉薬の細かいひび割れがどんどん増えてきます(拡大できます)。


 大陸の現行品も見ておきます。上の方は抱翁堂の1/20ぐらいの価格で買えます。科学的にかなり強烈にマシュマロ感を出していて写真も強調しています。大陸ではこの感じが欲しがられるということがわかります。だけど不自然なのですぐに飽きます。この種はアマゾン、楽天あたりでも売っているでしょう。下の方は抱翁堂と価格が変わらず、自然釉を使っていますので同じような条件です。このようになかなか感じが出ないのはガラス質で覆われがちだからです。これだったら清代の雑器でもこの青は出ていましたので意味がありません。しかし汝窯や龍泉の技師が官窯(景徳鎮)に移ったので元々ルーツは同じです。自然釉系で安価になる程、ガラス質の厚みが増します。これがいけません。抱翁堂はこれを克服して天然のマシュマロを得ていますが青が足りていません。今の所、このあたりが最先端です。青を出すのに瑪瑙を使うようで、抱翁堂のものにも入っていますが、果たしてそれをどのように使って青を出すのか、これがわかっていません。昔の宮廷では瑪瑙をくり抜いた食器もあったようで、味を良くします。白磁よりも本品の方が明らかに茶が旨いのは瑪瑙を使っているのが理由のようです。

 中国の白磁系は湯の舌触りがソリッドな傾向です。これは向こうの茶に合います。その中で本作は甘い方です。しかし有田あたりのもっと甘いものと比較するとやっぱり中華だという印象があります。日本の白磁は煎茶だからでしょう。中華の場合は茶を草、もう少し気の利いた言い方をするとハーブに近い捉え方で、草を燻した時の香ばしい感じを重視します。それで段泥を好んだりもするのでしょうけれども、そういう傾向が本作にも表れています。薄胎よりももう少し強めに効きます。それは胎が厚いだけでなく瑪瑙を使っているからでしょう。







 夜間のLEDの下で撮ったらこういう色ですが、違う光ならもっと青が出ることもあります。黄色に見えることもあります。米色青磁というものがありますが、ああいう色です。工房写真はある光の下ではこの色は出ると言っているので、事実と異なるわけではないですが、これはなかなか出ないでしょう。それでうちでも確かめたのですが、ここまでではないにしろ、傾向としては出るのは確かに出ますね。暗いところで光が射す、それも夕方とか黄色っぽい光で写真のような状況では青く見えることがあります。なので最初これが到着した時に箱を開けたら「確かに青くなったな」と思ったぐらいです。製法も含め青磁と呼ぶのは正しいのですが、しかし汝窯の青と捉えるのはまだまだ違う気がします。そこで抱翁堂に言いました「これは写真とは違う」と。そうしたら「出た」のだと。「この写真を見てもらいたいのだ」とこうでした。どういうことなのか説明が必要です。青の汝窯はわざわざこういう写真を撮らなくても製品として作れるわけです。しかし顧客が「汝窯青磁が欲しい」と言った時に、実際に欲しいものは"物"ではないわけです。美であるとか格調を求めているのです。ですからレプリカではいけないのです。近いものができたらそれで良しというものではなく、汝窯が表現している本質が欲しいのです。色は関係ないので李朝青磁は黄色のものでも評価されています。しかしそれは言うは易しで大変なことです。真面目にやると青はたいへんらしいのです。しかし広告写真に白っぽいまま出すと批判を受けます。偽を出しているなどと揶揄されます。特にネット時代になってそういうことが多くなってきたので、なんとか青の写真を撮って出し、小店にもそれを出して欲しいと言っているようです。これが目指すところでもあるのでしょうね。青も以前よりもう少し出たのかなとも思っていたのですが、それほど大きく前進していませんでした。汝窯の旧址を見ると、青を出すのが如何にたいへんだったのかわかるぐらいの想像を超えた状況だったそうです。単に青が足らないだけですので、小店としてはもうこのままでも良いと思っています。文物として良しだったら色はなくても良いと思っています。こういう角度から取り組んでいるところも他にないですし。

 ガラス質が出ないものは、水が磁器に乗った時の見た目の感触が違います。水分が珠のように表現されます。有田の呉須(65cc)も写していますが、これもそうです(エスプレッソ用ですが購入者の半数は中国茶用途だそうです。しかし有田の泥は中国・インド茶に合うとは思えません。日本茶は当然ですが合います。エスプレッソ用途では外人が結構買うようです)。真面目に作った白磁と雑器の違いはそこでしょうね。有田や九谷、京焼、また大陸でも良いものができているので、白磁はあんまり問題ないと思います。製法が解明されているのです。一方、青磁はというと青が出ない出来そこない、なのに空振りした青磁は白磁より美しいです。白磁は水を鮮烈に映し出すのに対して、青磁は柔らかく捉えます。

 抱翁堂の前にも高級品を作る工房はあったのですが、どんどん倒産しました。陶芸は特に良いものを作るところから倒産します。そういう経験を踏まえてなのか、中国が経済発展した時に北京の高級茶店が抱翁堂を置いて支えていましたが、小店が知ったのも、どこに行ってもデラックスな茶店には抱翁堂が売っているからでした。当初は実力が十分でなかったにも関わらず支えていました。こちらが質問してもいないのに店員は「中国の伝統文化は復興の途上ですがお客様にはそれも踏まえて購入いただいています」と言いました。「まだ目指すところがあるのですか」と聞きますと「お客様方からはまだまだだと、頑張るように言われています」とのことでした。実力は実際に使っているとわかります。その結果、白磁は良しだが、一番やりたい青磁はまだだと、それでこれは自分だけ使用して販売はしませんでした。段々良くなってきて、日本の百貨店にも卸せるぐらいの質になってきていましたので、もうそろそろかなと思いつつ見送っていました。そうしたら青もだいぶん来たと、それで今回やっと買ったのですが、だけど青だけはまだですね。しょうがないですね。だけど仄かな紺は見えるようになってきています。淡い菖蒲のような色です。