弓棹と馬尾の間隔 - 二胡弦堂


 楽器弓のほとんどは棹が馬尾の方向に反るように作られています。歴史的には違う形状の弓もありますのでその極一部の特殊な例はここに写真を掲載しています。二胡弓は棹と馬尾の間隔が狭いため、内弦を奏する時に漫然と持っていると外弦に弓棹を当てます。弓は脱力して持つようにとも言われますので、尚そうなる傾向です。持つというよりも触れている、手に乗せているという感覚が近いのですが、そのことと馬尾に圧をかけることは別で、下の写真では指で馬尾を押さえています。指先にだけ圧を持っているという感覚です。そうして内弦を擦っています。外弦は弓棹を外側に放り出す感覚が必要で、それによって自然に外弦に圧力がかかります。指で馬尾に圧をかけるのは内弦を奏する時です。

 適切に扱えば非常に理に適っており演奏もしやすいものです。製造面からこの問題を避けようとすれば、弓は外側に反るように作るべきで、世界の弦楽器の中にはこういうものもあります。ウィグルにある二胡の原型と思われる楽器は、外に湾曲した弓を使っています。それがそのまま中国に入ってきて、しばらくは同じような弓を使っていたらしいというのは左の古い写真からわかります。これは清代の写真です。軟弓京胡として今でも残っていてプロの演奏家もいます。弓棹が安定しにくいのでより高度な技術が必要とされています。この構造はしなやかさが得られないので、楽器弓というものはできれば内側に反らせたいものです。そこで日本の胡弓は、弓の先端が大きく?の形状に加工してあり、弓を内側に反らせても尚、弓棹と弦の距離が大きく保てるようにしてあります。軟弓京胡弓にも同様の形状のものがあります。この経緯は欧州でも同じだったらしく、バッハの時代は外に湾曲したものでした(右写真)。そしてこちらも現代まで演奏している人がいるようです。本来の古典的な響きが得られると評価されています。

 かつては多くの中国の胡琴類の楽器は絹弦を使っていました。このうち粗弦を使う場合の特徴としては、かなり太い弦ですので、擦った時の震えの振幅も相当なもので、強く拉くと風を切るような音まで発生させることもあるということです。京胡の棹と弓の接触部分。二胡もこれに近い形で演奏するのが好ましい低音楽器はこれを善用しますが、板胡や京胡では弦長が短いということもあり、比較的安定させる方向です。理想としては弦は垂直に擦った方が良いのですが琴棹が障害となりますので、棹を回避するように斜めになった状態で弓を運行させることになります。しかし馬尾を琴棹に密着させて拉けば弦は安定します。

 左の写真は京胡ですが、棹の部分に弓で擦って削られた陥没があります。竹材の棹が削られた部分は白くなっており、周辺に飛び散った松脂は黒ずんでいます。京胡は内弦の演奏の時に必ずここへ馬尾を当てます。そうしますと、棹と弦の2点に接触した状態で演奏することになります。二胡弓の持ち方。内弦の演奏法こうすることによって、弓と弦が垂直に近い状態となり、その一方、完全に垂直でないことによって棹に馬尾が強く当てがわれ、内弦の振幅も安定するという関係性になっています。

 板胡も同様です。板胡は跳弓という奏法があります。より強く馬尾を棹に当てて、その状態のまま右手の中指と薬指に瞬間的に力を入れて緊張を解きますと、引っ掛かりから短い明瞭な音が出て、さらにそのまま音を伸ばします。このような演奏法は、スチール弦を使う現代でも行いますが、やはり絹弦だったから発生した奏法なのではないかと思います。二胡は馬尾を棹に強く押し当てるということはあまり言われません。使用する弦が細いので、あまり気を遣うことがないのだと思います。しかし、安定的な音は出ますので、奏者によっては必ず当てるという人もいますし、そうすべきと教える先生もいます。板胡の独特の演奏法は二胡にも応用できますし、本来板胡の曲を二胡で演奏することもあります。

 弓を持つ右手の使い方ですが、写真をご覧いただきますと、これは内弦を奏する場合の例ですが、中指と薬指で強く馬尾を押さえています。これは重要なポイントです。毛はあまり強く張りすぎていないことが望ましいと思います。親指は弓棹を押さえます。人差し指は添える程度で、事実上使用していない状態になります。適度な馬尾の張り具合も重要なポイントです。この調整具合は、個人の力の入れ方によって変わってきますし、同じ人でも少しずつ変化していきますから明確な基準はなく、そのためにこのような調整機構が付いているのだと考えていいと思います。また馬尾は伸びることもあります。