二胡弓の扱い方 - 二胡弦堂


 楽器弓の馬尾はどのようなものでも東西問わず丁寧には洗われていないと言われますので、新品の状態であっても洗うことでかなり綺麗になります。ある程度はすでに工業的な手順で洗ってありますがそれでも意外と汚れているもので、改めて洗いますと音がクリアになります。新弓はおそらく2度洗うことになると思います。1回目の洗浄を温水で洗いますと動物園のような匂いが立ちこめます。もう1度洗って自然乾燥させます。乾いたと思ってからさらにもう1日置きます。水分が残っていると松脂を付けたときに固まって雑音の原因になります。洗えば松脂はすごく乗りやすくなります。芯まで乾かさねばならないのでドライヤーは使いにくいと思います。いずれにしても自然乾燥は必要です。洗うのは中性洗剤を使います。シャンプー、リンスは油が含まれているので適していません。おそらく唯一、光舜堂の弓は洗われています。

 琴弓の先端に平たい金具をつけて馬尾を平らにならしている弓が多くあります。これについては中国でも賛否あります。平らにすると、狭い駒の溝でも収まりやすいので合理的に思えますが、弓の原則からは理想的ではないようです。馬尾はある程度の束感が必要で、平らにすると響きが良くありません。にも関わらず、多くの二胡弓、西洋楽器の弓も同様に平らにしています。しかしこれで問題とはされていません。バイオリン弓は弦に対し傾けて当てるので束になります。平らの面を当てることはしていません。当てる面は毛量が多いので実際には平らではなく断面は三角です。そのため平らにするというよりは、如何に束感を出すかであのような構造になっているということになります。二胡弓馬尾は90度捻って取り付けています。つまり微妙な螺旋構造です。束感を出すためです。平らな加工は馬尾を平らにするためではなく、その方が束感を出しやすいためです。では、最初から束のままではどうでしょうか。特に問題とは思いません。螺旋だからと思われます。別の事情として、平らの金具は楽器の胴に当たると傷をつけるので可能なら外したいものです。

 湿度の高い地方では、塗られた松脂が水分で固まって異音を発する場合があります。日本ではほとんどの地域が該当します。さらに車に積んで移動することもあると車内は結構高温になるので、松脂が溶けて固まってしまうこともあります。あまりに固着している場合は、食用油で溶かして洗わねばならないかもしれません。このような問題を避けるために、松脂を使い過ぎないようにする必要があります。これは弓を放置していたら発生する問題なので演奏者の技術とは関係ありません。固着が軽度であれば、状況によっては消音器をつけた上で圧を最大限掛けて固まった松脂を飛ばすこともできます。ですがその分、弓は傷みそうなので普段から極力松脂の使用量を抑える方が良いでしょう。弓をどれぐらいの強さで当てて演奏するのかは環境によると思います。小さな音しか出せない環境なら松脂の固着リスクが高いので松脂使用量は気を遣います。松脂の使い方は最初に学ばねばならない技術の一つです。

 ですが、工業的に作られていない天然の松脂、その復刻である光舜松脂、旧タルティーニ松脂(後のPath松脂)のようなものは水分をほとんど吸いませんのでこのような問題はありません。製法が異なるので一般の松脂と比較はできません。また普通、松脂は数ヶ月で使えなくなりますが、天然系はそもそも森に20年放置されていたものなので寿命はありません。大量に塗布しても問題はありません。

 中国の戯劇の奏者は松脂を塗る、振って粉を落とす、また塗るを7,8回繰り返してたっぷり含ませます。馬尾の全てが弦に接触しているわけでありません。接触面に塗布されている松脂が引っかかりを生み発音します。ですから接触できていない馬尾は重要ではないように思えます。しかし馬尾は束感で音が変わります。ということは束内部でも振動があります。そのため、松脂は内部までしっかり塗られている必要があるということです。中国胡琴は馬尾の両面を使用しますが、西洋楽器は片面のみです。そのため、松脂が振動の強い弦との接触面に寄ります。松脂の補充は裏側からということになります。このようなことをどれぐらいの範囲でなされているのかは分かりませんが、自然にそのようになります。中国胡琴は中央が欠乏しますので束の中まで補充します。

 呂建華師は弓を楽器に付属する前、また弓だけ販売する時に、このようにライターで炙ってから引き渡します。北京のような乾燥気候のしかも冬にこういうことをやっています。湿度を飛ばしています。この後、吹いてきた松脂を払い落とします。松脂は固まりやすいものですので、これぐらい気を遣います。松脂が付いていなくても火にかけます。馬尾が締まって良くなるとのことです。ビデオの中では「音が綺麗になる」と説明しています。呂建華さんには松脂談義はしておりませんので従来の松脂です。天然系を使わない方は参考にしてみて下さい。