二胡弓はどのように手入れをすればいいでしょうか - 二胡弦堂

 


 楽器弓の馬尾はどのようなものでも東西問わず丁寧には洗われていないと言われますので、新品の状態であっても洗うことでかなり綺麗になります。ある程度はすでに工業的な手順で洗ってありますがそれでも意外と汚れているもので、改めて洗いますと音がクリアになります。新弓はおそらく2度洗うことになると思います。1回目の洗浄を温水で洗いますと動物園のような匂いが立ちこめます。もう1度洗って自然乾燥させます。乾いたと思ってからさらにもう1日置きます。水分が残っていると松脂を付けたときに固まって雑音の原因になります。洗えば松脂はすごく乗りやすくなります。芯まで乾かさねばならないのでドライヤーは使いにくいと思います。いずれにしても自然乾燥は必要です。洗うのは中性洗剤を使います。シャンプー、リンスは油が含まれているので適していません。おそらく唯一、光舜堂の弓は洗われています。

 湿度の高い地方では、塗られた松脂が水分で固まって異音を発する場合があります。日本ではほとんどの地域が該当します。さらに車に積んで移動することもあると車内は結構高温になるので、松脂が溶けて固まってしまうこともあります。あまりに固着している場合は、食用油で溶かして洗わねばならないかもしれません。このような問題を避けるために、松脂を使い過ぎないようにする必要があります。これは弓を放置していたら発生する問題なので演奏者の技術とは関係ありません。固着が軽度であれば、状況によっては消音器をつけた上で圧を最大限掛けて固まった松脂を飛ばすこともできます。ですがその分、弓は傷みそうなので普段から極力松脂の使用量を抑える方が良いでしょう。弓をどれぐらいの強さで当てて演奏するのかは環境によると思います。小さな音しか出せない環境なら松脂の固着リスクが高いので松脂使用量は気を遣います。松脂の使い方は最初に学ばねばならない技術の一つです。

 ですが、工業的に作られていない天然の松脂、その復刻である光舜松脂、旧タルティーニ松脂(後のPath松脂)のようなものは水分をほとんど吸いませんのでこのような問題はありません。製法が異なるので一般の松脂と比較はできません。また普通、松脂は数ヶ月で使えなくなりますが、天然系はそもそも森に20年放置されていたものなので寿命はありません。大量に塗布しても問題はありません。

 先日、ベルリンのコントラバス奏者・高橋徹さんから電話があり、こんな話をしてくれました。彼が若い時に、ベルリン・フィルのカラヤン時代を通じて首席だったピラーさんから「これを使え」と松脂を渡されたそうです。高橋さんが「人の松脂は塗らないことにしているのです」というとピラーさん「お前は正しい。松脂を適当に使って混ぜるような人間を私は信用していない」と言ったそうです。その時、ピラーさんは「毛の裏側にも塗れ」と助言したそうです。ですが、一般的にはクレイジーな行為で誰もやっていない。使わない面に塗る意味がわかりません。それで高橋さんはこのことに留意していなかったそうです。しばらくして光舜堂の西野さんからまた「毛の裏に塗って下さい」と言われ、ピラーさんの言葉を思い出したそうです。そこで小店の方からは中国の戯劇の奏者がどのように松脂を塗るのかを説明しました。塗る、振って粉を落とす、また塗るを繰り返してコテコテにするのだと。

 つまり、こういうことです。松脂は弦に引っかかります。それで発音します。ですが、毛の含みも振動して伝わっています。その振動が松脂があるかどうかで違うということです。全体に松脂が行き渡っていないといけないということです。しかし、上述した通り、松脂の塗り過ぎは固着の原因になります。そうならないから中国の奏者は大量に塗ります。天然を使っているからです。高橋さんは光舜松脂を使っていますが、塗って2週間ぐらいで落ち着いてくる、また毛の交換が不要になったとも言っています。一般の松脂は亜麻仁油を混ぜたりしているので酸化する、それが毛を痛めます。それがなくなって毛が元気になったと喜んでいます。

 二胡は毛の両面を使用しますが、西洋楽器は片面のみです。弦に接触する面が決まっており、そこで松脂を消費します。その部分へ補充する必要があります。ところが、毛の束は全体で振動していますので、揺れてズレてきます。つまり、使っていない面の方から松脂が振動と共に補充され、使っていない側が欠乏してきます。そのため再塗布は裏側に施すことになります。

 写真にありますような金具は市販の多くの弓で取り付けられています。金属は二胡の胴に当たると傷をつけますのでチューブで保護してあります。それでも外した方が良いと思います。平らにするよりも束状の方が理論的に正しいからですが、駒の溝間隔を狭くして早弾きするようになってから必要になってきたものかもしれません。それでも本当に必要かどうか、個人によって感じ方は違うと思うのでテストの必要がありますが、外した方が良いと感じられると思います。

 呂建華師は弓を楽器に付属する前、また弓だけ販売する時に、このようにライターで炙ってから引き渡します。北京のような乾燥気候のしかも冬にこういうことをやっています。湿度を飛ばしています。この後、吹いてきた松脂を払い落とします。松脂は固まりやすいものですので、これぐらい気を遣います。松脂が付いていなくても火にかけます。馬尾が締まって良くなるとのことです。ビデオの中では「音が綺麗になる」と説明しています。呂建華さんには松脂談義はしておりませんので従来の松脂です。天然系を使わない方は参考にしてみて下さい。