絹弦は鉄弦も同じですが、極力曲げないように気をつけて下さい。鉄弦は曲げるとほとんど使えなくなるのに対して、絹弦はそこまでではなく、まだ使用できる場合が多いですが、耐久性は下がります。
以下の写真はクリックで拡大します。
絹弦の取り出し
太い方が里弦("里"とは中国語で内側の意。内弦のこと)細い方が外弦です。二胡を正面から見た場合、右が外弦になります。細い方、外弦から張っていきます。
弦を張る準備
すでに古い弦が張られている場合は千斤をばらさないようにするために基本的には弦を1つずつ交換します。しかし絹弦と金属弦では駒から千斤までの傾斜が若干違い、絹弦の方が急勾配です。それで絹弦を新たに使う場合は弦を全部外してしまうだけでなく千斤も外すことがあります。それでもまずは1箇所ずつの交換から様子を見ます。二胡の蛇皮の上は弦が通りますので、皮の保護のために控制綿を置いています。
琴托に弦を縛る
琴托(二胡の台座)にあるピンに弦を縛り付けます。輪を作ってピンに掛ける方がスマートではありますが音があまり良くない上、切れやすくなります。縛るのは外す時にはさみが必要な場合もあり面倒ですが、それでも縛ってしっかり固定する方が好結果です。(絹弦はすぐに断線しますか も参照して下さい)。
弦を千斤に通し琴軸まで延ばす
弦のもう一方の先を千斤(棹に紐が巻いてあるのが見える)に通しています。この例では千斤はまだ外していませんが、里弦は外しているのでバラけています。千斤まで外してしまうと弦を弦軸に巻き付ける時に琴托に引っかけている方が外れやすくなり、いろんなものを外せば外すほど交換が面倒になります。極力、一箇所ずつ交換します。絹弦は琴托のピンに縛っているので外れることはありませんが、輪を作るとか金属弦の場合は発生しがちな問題です。
弦を弦軸に取り付ける
弦を弦軸の穴に通して巻き付けるように固定します。外弦は細いので穴に2回通して滑らないように巻き付けます。
弦軸を締めて、弦を張る
弦軸に取り付けた弦は、なるべく弛みがないように締めておきます。新しい絹弦は鉄弦と比較にならない程伸びますので、それに加えて弦軸の固定まで甘いといつまでも安定しなくなります。絹弦は取り付けた瞬間から伸び始めて止まる気配もない程ですが、ある程度まで伸ばしたら一晩置きます。翌朝また締めなおします。あまり音程を上げ過ぎると切れますので無理なく徐々に伸ばします。2,3日で安定します。安定するまでは雑音も出ます。
内弦も同様に取り付ける
内弦も同じように巻きます。注意点は、琴軸の巻く方向が反対だということです。写真を参照して、同じようにしてください。
千斤にも使う
絹弦は千斤に使うと良いとも言われます。写真の例は切れた弦の再利用です。内弦を使う場合は、一般の糸千斤とは違い、弦に1回回すのみです。外弦を使うのであれば2,3回巻く必要があるかもしれません。写真の例では3回です。楽器によってどれぐらいが適切か変わってきます。
弦に松脂が付着して指の滑りが悪く気になる場合は、ごま油やオリーブオイルで拭くことができます。最高のものは、馬油(ガマ油)とされており、楽器の木部の養生にも使われます。しばらく保管した弦など古いものも、馬油でなじませると使えるようになる場合があります。馬油は人間の手の脂に近いので、絹弦に対して良いとされています。
油を使う時は弦だけを拭きます。蛇皮には絶対に塗ってはいけません。弦には弓を重ねて収納した時に松脂が付きやすいので、布を当てて保護することもできます。移動の際は、特に汚れやすいので注意が必要です。このように普段から注意していればあまり問題はないのですが、そうはいっても指が滑りにくくなるとか、弦がベタベタしていたら指を放した時に吸い付いてポンと音がする(フィンガーノイズ)ということはあります。弓毛の当たるところは避けます。ここには、弦にも松脂が付くことによって摩擦が生じて音が出ます。オイルが付くとよくありません。どうしても拭く場合は、オイルを十分乾かせてから弓をあてがって下さい。
中国の特に老人は、左手で顔を拭い、顔の脂で問題を克服しています。額を弦に擦りつける方もおられ、不潔なようですが問題の解決にはなります。