中国戯劇は唱腔(chàng qiāng)と呼ばれる様式があり、京劇は2種の唱腔を含んだものです。清朝乾隆年間に宮廷の招きで地方より戯劇団が入り、異なる2つの地域の唱腔が溶け込みました。しかしその2つは明確に区分されそれぞれ「西皮」(xī pí)、「二黃」(èr huáng)といいます。胡琴は大きさの違うものを使い、写真の右が西皮で、左が二黃です。二黃は胴が少し大きいです。歌手のピッチに対応するためには楽器を変える必要があり、そのため大きさの違いは規格化されることなくさらに細分化され、楽器店には様々な大きさの京胡があります。汎用というどちらでも使える微妙な大きさの京胡もあります。
このどちらを使って演奏するかは今では楽譜に指定がありますのでそれに従います。西皮は空弦DA63、二黃はGD52、反二黃はCG15になります。西皮は独特の奏法があり、二胡でも古典曲で63は西皮で奏します。京胡は江南地方にもあって歓胡と呼ばれています。
京胡は全ての楽器で絹弦は同じ粗弦を使います。絹弦では二泉胡と同じ弦です。細弦を使うと、音が甲高くなってしまい、京胡独特の甘い音が出ません。鉄弦の場合は、それぞれ専用弦があり、西皮と二黄もそれぞれ分かれています。
西皮と二黃は、有効弦長がだいたい同じなので、5度も音程が違えば、西皮の方は弦の張りが強くなりすぎます。それで、千斤を下げて音程を合わせます。京胡のような小さな楽器は、弦の張力も音質との関連があるので、音を聞きながら綺麗な音が出るあたりを探り、その後、千斤を動かして音程を合わせます。千斤の位置によって適正張力が違うので、調整を繰り返す必要がありますが、1度適切な位置がわかると、次回から張力のみで音程を合わせられます。
調整がうまくいかないと雑音がすごく出ます。駒も重要です。雑音がなくなって、良く抜ける甘く丸いサウンドが出ましたら成功です。鉄弦はこういう面倒はなく簡単、絹弦を使っての京胡は難しくなります。しかし味わいはあります。そこで最近は内弦のみに絹弦を使い、外弦は特殊な鉄弦(螺旋曲折式金属琴弦)を使うという方法(陰陽弦と言う)がプロの間で使われています。現物はまだ入手しておらず写真もありませんが、板胡用のもので写真がみつかりましたので掲載しておきます。この鉄弦は楊琴のものを転用します。
京胡は基本的に小指は使わず、音程にして10度ぐらいの幅を使います。小さな楽器なのでそんなに音域は広げられませんが、もう少し使える高域は小指を使って稀に利用されます。歌唱は京胡よりも広い音域を歌います。音程が上昇したり下降すると、京胡は音域が狭いので限度より外は付いていくことができません。音域の果てに達すると、音程を一オクターブ上げたり下げたりして対応します。この転回が京劇の醍醐味の1つで、これを善用することによって独特の表現を得ています。
京胡だけでなく二胡も含め他の楽器も元はこのように狭い範囲を使っていたので、古い作品の奏法を考える時に参考になる点です。