弦堂で販売されている絹弦とお勧めする理由 - 二胡弦堂

 


中国の古い窓  二胡用絹弦は、二胡に金属弦と同じように使うことができます。A,D弦を使います。

 二泉弦は、D,G弦を使い、劉天華による規格統一以前の二胡の一部に使われていたピッチの弦で、音程が5度低いものです。华彦钧(盲目であったため、"阿炳(アービン)"と呼ばれた)が、 「二泉映月」を録音した時に使った音程の弦だったため、「二泉弦」と呼ばれています。

 西洋のバイオリンは4本の弦の一番低い弦をGに合わせますので、西洋弦楽器の曲の場合は二泉弦を使えば転調せずに演奏できます。

 金属弦の場合は、標準規格の二胡に二泉弦を合わせると、どうしても響きが薄くなってしまう問題があります。絹弦の場合は、そういうことはありませんので、新たに二泉胡を購入する必要はないかもしれません。この問題については、通常規格の二胡に、二泉弦を使ってもいいですか。もご覧下さい。

 絹弦の使い方としては、二胡の胴の下の琴托を外して、棹の最下部に結ぶのが本来の使い方と思います。しかし一般的には琴托まで外すことはしません。

 スチール弦で、何を買ったらいいか迷われる方は、スチール弦ガイドをご覧下さい。


 現代では弦の材質はスチールに移行しており、絹弦の工場はもうほとんど残っていません。その理由は、西洋楽器に対抗して、二胡を世界的な楽器にしようという目的が文革の頃に出てきて、その時に弦の材質が変えられたことと関係があります。この考えには、二胡演奏が優雅な趣味だった時代から抜けだし、先端をゆく楽器へと変貌してゆこうという願望があります。(この挑戦は、劉天華の師・周少梅と盲目の演奏家・孙文明から始まったのかもしれません。この両巨匠の作品によって二胡は大きな音域を自由に行き来する楽器へと変貌しました。) 二胡を大勢の人の前で大きく鳴らすのは、絹弦よりスチールの方が勝っています。(スチール弦は文革の時に屋外で鳴らすために必要とされ普及したと言われます。今はマイクを使っていますので音量が理由でスチールを選択する理由は少なくなっていますが・・)

  しかし同じ経緯はバイオリン属も辿っており、古いクレモナの楽器はもともと音が小さかったとされています。ストラデヴァリウス、グァルネリウスなどの名器は、ネックの角度を変えることによって音量を増すよう改造されて現在に至っています。チェロは、ビオラ・ダ・ガンバというのが元の楽器で、やはり音が小さく、バッハの無伴奏などはこれを想定して作曲されています。この変化も、ホールで鳴らす前提での改造や進化ですので、以前の方が音そのものに関して言えば美しいのではないかということで、バロック楽器が一部で復権している様子もあります。

 そこで弦に戻しますと、こういう経緯から大きなところで演奏する機会の多いプロやボランティア活動の場合は、スチール弦の方がいいかもしれません。西洋楽器の場合も、18〜20世紀初めまでは、スチール弦が優秀とされていました。今はガット弦など旧時代のものの地位が向上していますが、二胡ももしかすると絹弦に戻ることがあるかもしれません。工場がもうほとんどなくなっているのに、生産が追いつかない状況がしばしば見られるようになってきて、徐々に人気が出てきているからです。日本の伝統芸能の世界では、いまだに旧時代の絹弦を捨てられず、歌舞伎など大きな場所でも絹弦が弾かれています。中国でもいつか絹弦に戻っていくのでしょうか。

 音にこだわると、絹弦に戻ります。


「極めて少数の人だけが、この意見に賛成して居り又賛成するだろうということを僕は知っている」- プラトン

「秘めたるは、花なり」 - 世阿弥「風姿花伝」

「古人の跡を求めず、古人の求めしところを求めよ」 - 松尾芭蕉



 やはりそれでも古いものは悪いと思って本欄の説明に反発を感じる方は、ウィキペディアの和楽器の項目を参照下さい。どなたが製作された文章かわかりませんが、正しいことが書いてありますので、音に対して正しい見識が身につくと思います。