呂建華二胡 - 二胡弦堂


 北京を代表する二胡制作家です。北京市内の自宅で販売しておられます。若干数、すでに作られた楽器もありますが基本的に特注です。顧客は楽器を見ずに購入を決めます。一方市内の楽器店では個体差を確認するために比較して購入する顧客がほとんどです。販売体制がずいぶん違います。小店は販売者として責任があるので最初は複数作られたものから呂建華さんの家で選別したりしていました。しかしやがてそれが無駄であることがわかったので今はやっていません。

 呂建華工房の中国での購入者は主に政治関係の方々や音楽学院の教授、さらに彼らの顧客(外交関係の、或いは生徒)へ販売されており、いわゆる「ご用達」の扱いであることで、他の工房とは少し趣を異にしています。市内の一般の楽器店では扱いはありません。外交の礼物にも使われ、中国主席から天皇にも呂建華が納入されたことがあります。外観が立派ですからね。下のビデオの1:30あたりに礼物用の楽器があります。箱が立派ですが楽器自体は我々が購入するものと同じです。呂師の話し方はいつもこんな感じです。

 この工房の二胡は呂建華師本人からも指摘を受けている大きな問題が1つあります。新琴の段階では音が硬くてどうしようもないということです。拉いていると苦痛になってきます。録音を聴いていただきますとなかなか良い音で鳴っているのはおわかりになると思いますが、確かに潜在能力は素晴らしいものの、それにしても結構硬いのです。絹弦で鳴らしてもそう思うことがあるのでスチール弦でこの二胡を鳴らすのは尚更苦痛です。そして音はぜんぜん柔らかくなってきません。しかし音はある日突然化けます。よく使う人で3ヶ月以内です。徐々に良くなりません。急に化けますので誰でもわかります。ぜんぜん別物になります。その状態でなければ評価できません。それでは化けてから販売したらどうでしょうか。それはいけません。所有者のクセを育成段階で乗せないといけないからです。化けたら、なぜ小店がこの二胡を勧め、中国の多くの有識者が買い求め、日本天皇家にも納められていると言われるのかわかると思います。蛇皮のこのような傾向は呂建華だけでなく、他の二胡にも等しくありますので、もう二胡をお持ちの方であればすでにご存知の現象と思います。化けは一回だけではないです、何度もあります。しかし音が硬い方が好きと言われる方も結構おられます。それもわかる気がします。

 中国でも文化遺産の指定は進んでおり、呂建華の制作技術も無形文化遺産に登録されています。

 在庫:弦堂で販売している楽器リスト
 お問い合わせ:erhu@cyada.org  erhugendou@gmail.com



 呂建華は工房を持っていますが、そちらには誰も入れませんので自宅の方にお邪魔します。

呂建華の家

 材木を保管しています。これ以外に骨董材が数本あるだけです。あまりに少ないので、いかに出荷数が少ないかわかります。骨董材は左に4本並べていますが、真ん中の2本です。両脇の左は新しい材で右は清代の老紅木です。中央は明代です。一般に「明清材」と簡単に言いますが、明と清の材では価格は何倍も違います。

保管してある材

 上の写真で指を指している材の方から見ます。これは表面に塗りがあるので質が明瞭ではありません。

明代の材1

 もう一本はこちらです。こういう材はひびがどうしてもあります。この価格は100万を超えており、インド紫檀と同様の扱いです。

明代の材2

 右の写真の白ペンキで保護してあるのが印度紫檀です。その奥にいわゆる"普通"の丸太があります。「これは何?」「匂いを嗅ぎたまえ」白檀でした。「これで二胡を作るのですか?」「年輪が荒すぎて音が良くない。だけど花窓には使えるだろう。いい香りがするだろうね」とのことです。下の切れっ端も白檀です。

白檀

 一般の老紅木の二胡はこれで、六角はたくさんあります。これがスタンダードです。

老紅木二胡

 偽皮の二胡も作っていますが高価ですので、購入は諦めています。

偽皮の二胡など

 自慢の作品の前に立つ呂建華師と弦堂店主です。

呂建華とツーショット

 呂建華師から雑誌を3冊お借りしたので、中国語ですが写真もありますのでご覧いただこうと思います。クリックしたら拡大します。まず一冊目ですが、あるライターが呂建華の家を訪問しています。部屋の全体がわかる写真があります。この部屋には「琴心斎」なる名称があったことも記載されています。(出典:侨园 2014/8 この雑誌は華僑専門誌です。)

呂建華掲載の雑誌1

 続いてこれも侨园からですが、2014/7 一ヶ月前の号で同じ記者が書いています。しかし果子巷の引っ越し前の家に行っています。果子巷の方は現在すでに取り壊されています。引っ越したからもう一回取材をしたということかもしれません。

呂建華掲載の雑誌2

 最後に、中国音乐报(中国音楽報)誌 2012/第87期からです。今でも部屋に立ててある白い木材がありますが、ここではインドの古い寺から採った紫檀であると説明されています。そして興味深いことに工房の写真を撮影させています。今後の取材のご相談と進展に期待を抱かせる一枚です。

呂建華掲載の雑誌3


 国家の要人すらも入れないという呂建華さんの工房ですが「どうして?」と聞くと「汚くて幻滅される。こんなところで作っているのかと言われてしまう」とのことでした。弦堂は「それはあるかもしれない」と理解を示してそれ以降何も言いませんでした。しかしある日、呂建華さんの家で酒を飲んでいたら「ここ数日の予定は?」と聞かれたので答えると「では2日後に工房にいきましょう」と突然招待を受けました。その2日後の当日になり、中央音楽学院関係者の内、我もと思う人たちが電話を掛けてきて「私もいいでしょうか」というので呂建華さんはその人たちも連れて行くことになり、総勢5名となりました。場所はとにかく飛ばす呂建華さんの運転でも1時間以上という河北省に入ってすぐあたりの農村にある邸宅でした。

呂建華工房の位置

 左下のポイントが工房の位置で、右上が北京市です。カバンのマークは新街口楽器街で、家のマークは弦堂が以前に住んでいたこともある場所です(弦堂は北京市内で8箇所に住んだことがあります)。左上の「国家級」と書いてあるあたりは北京原人が発見されたとされる場所で弦堂個人は行ったことがありませんがそれより遠いという。これだけ遠ければ、工房が綺麗か汚いかに関わりなく少なくとも要人は連れて行けないでしょうね。



 中国農村部でよく見られる大邸宅です。呂建華さんの弟の家です。ピンポンがありませんので叫びます。中で犬が吠えます。しばらくして開けてもらい侵入します。



 中庭に工作機械が置いてあります。



 1Fの倉庫に大量の木材があります。インドの寺院を解体した時に出た紫檀材が置いてあります。



 胴や棹の削り込みを行う作業場所です。椅子の陰に白い機械が見えていますが、これは以前に弦堂が日本から持ち込んだもので、非常に細かい部分を削るのに使われています。



 2名の職人さんが弦軸を削っています。



 蛇皮張りは呂建華さんがやっています。



 木工は弟氏が全面的にやっています。海南省で使われていた黄花梨の杵を観察しています。



 工具は工房らしく整理され、完成した二胡は専用の家具に収納されます。




 さらにすぐ近くにあります呂建華さんの別荘にお邪魔します。



 インドの寺院からの建築材がまだまだあります。