14 どうして二胡はDからなのか(音楽理論) - 二胡弦堂


 二胡の空弦(開放弦)は、DAに合わせられます。その時点でこれは何らかの根拠に基づいたものであることが感じられます。西洋の弦楽器ではCGDAEが使われますが、DAはバイオリンからコントラバスまで全ての音域の楽器で必ず含まれています。根幹とみなされる音です。だから二胡の音域については疑問を持たれることはないし、それ以上考える必要もないでしょう。そして二胡がどうしてDAなのかという明確な理由は不明です。しかし主に五音音階の作品を演奏するために成立したであろう二胡という楽器の定弦の根拠を探るのは、五音階という観点からは意義深いし中国音楽への理解も深まります。

 1オクターブには12の音があります。12音が成立する過程で最初の5つで音階を構成したものと(5音階)、その5音よりそれぞれ上下5度の2つを足した7音を使ったもの(7音階)が古典的基本形になります。5音階のCDEGA(ドレミソラ)は、この音階を維持したまま転調すると12の音があるわけですから全部で12の調性が得られます。しかし7音のみに限定して転調すると3つの調しか得られません。C調(26)、G調(52)、F調(63)です。

 7音はピアノでは白鍵で、それ以外の5音は黒鍵で示されています。白鍵だけを使うと単純明快な響きとなり、黒が増えると複雑な響きになります。5音階でのC,G,F調は白鍵しか使わない、かなり整った響きになります。このうち、GとF調は7音に戻すと黒鍵が1つ混じります。明晰さを基調にしながらも表現に綾を得るのに隠し半音を得られるこの2つの5音階は非常に重用され、古代戯劇においてF調は「西皮」、G調は「二黄」と呼ばれ、ほとんどの作品はこの2つの調で作られています。さらに5度転調した「反西皮」(C調26)、「反二黄」(D調15)の4つでほぼ全ての作品が構成されています。(注:「皮」とは湖北方言で「唱」を表し、西から北京に齎されたという意味で「西皮」と呼ばれます。シルクロードから伝わった音楽はまず長安に入り、それが南下して成立したのが西皮です。二黄は由来に諸説ありますが、1つには湖北の黄岡、黄陂由来だからとされています)。

 中国5音階は5種類あります。CDEGAは西洋では長音階ですがこれは宮調式、主音をAに変えるとACDEGという並びに変わり西洋では短音階で中国では羽調式となり、同様に後の3つの音も主音にすれば全部で5つの音階があることになります。西皮は長調と短調の両方が使われ、長調(宮調式)の場合の主音は当然ですが1になります(中国の調性については後の項で扱いますが一応今の所はこのように理解しておいて下さい)。短調(羽調式)では主音は6になり、作品の数では6の方が多数を占めています。これは非常に重要な点なので憶えておいて下さい。中国古典の未知の作品に遭遇し、それがF調だった場合、中国音楽の演奏家であればそれが西皮である可能性をまず疑うのは当然であると思っておいて下さい。主音が6、落音(終止音、つまり曲の最後の音)が6であれば、それは極めて高い確率で西皮であって、演奏法に相当な影響を与えます。戯劇の音楽という前提の元に演奏する必要があります。より具体的には本「学習」項で映像などを使って詳しく扱います。
 二黄はほとんど5が主音でGACDEの徵調式になります。2が主音のものも少ないですがあって、これはDEGACの商調式です。中国古典音楽においては必ずしも1が主音ではないということは理解しておく必要があります。

 西皮の主音は6、二黄は5。これはいずれもD音になります。これが中国弦楽器の定弦がDAに設定された根拠です。(注:ここに書いてある説明は弦堂個人の観察に基づいており、類似の論文はおそらく存在していません。どこにも書いていないので弦堂が自分で考察したものですから、何らかの権威のある学説ではありません。ただ戯劇の奏者にとってはわざわざ論じる程の内容ではない、もう感覚的にわかっている当たり前ことに過ぎないと思われるし、すごく考えないとわからないというほどの難しい内容でもありません。弦堂自身も考察というほどのことはやっておらず、たまたま5音階を説明するのに都合が良いということにふと気がついただけに過ぎません。定弦の根拠を示す決定的なものではないが、違うのだったら他に何があるのか?という疑問もありますけれども、そういう確定的な何かではなく、内容が理解できればそれで良しという具合に把握していただければ十分だと思います。GDというものもあるし、他にもより複雑な要素があります。かといって大筋で変わるわけでなく、それは西洋理論でも同様です。だから西洋楽器でもGDAの並びになっているのです)。

 中国古典戯劇作品に接すると、中華5音階がどういうものなのかより感じられるようになります。本稿の説明は簡潔だったので、次項以降でもう少し詳しく扱うことにします。


A01 始めに 楽典から和声学への導入 2017.04.08
A02 和音進行 正進行と変進行 2017.04.09
A03 二声 ソプラノ課題を2つ 2017.04.10
A04 四声 内声を追加 2017.04.11
A05 短調 長調と違う点の確認 2017.04.13
A06 様々な調 バス課題で確認 2017.04.14
A07 第一転回型 六の和音 2017.04.16
A08 例題 5つの長調と短調 2017.04.19
A09 第二転回型 四六の和音 2017.04.24
A10 属七和音1 七の和音 2017.12.09
A11 属七和音2 短調で 2017.12.10
A12 復習 課題を幾つか 2017.12.10
A13 なぜ5声と7声は混在しているのか 5音階の意義 2018.11.03
A14 どうして二胡はDからなのか 中国音楽と二胡の関係 2019.01.14

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