二胡弓が内側に反っているため、内弦を弾くときに外弦に当たるのですが、どうしたらいいでしょうか? - 二胡弦堂


 二胡の弓はすべて内側に反るように作ってあるので、この特徴のため二胡を始めたばかりの方は内弦の演奏の時に外弦に弓棹を当てます。弓のこういう作りのため弦堂は「竹が内に反っている不良品が送られてきた」というクレームを受けて驚いたことさえあります。最初はその人が何を言っているのかわからなかったぐらいです。(弓は外に反っていてしかるべきだと電話で説教する人もいて驚いたこともありますが、そういう二胡弓はありません。世界のすべての二胡弓は外に反っていて、小店の弓だけおかしいという苦情もこれまで複数ありました。老師がいてきちんと学んでいるという人もいますので連絡先を聞きますと言わないということも何度かあります。ちゃんと勉強しなおして戻ってきた人さえいます。小店はネットでないと見れないので、それだったら何でネットで他のサイトも見てから電話を掛けて来ないのかという疑問もあります。購入する前に写真を見てから買わなかったのか?と言ったこともあります。2010年代に入ったらこの問題は全くなくなりましたので世間が進歩したのかもしれませんが、やっぱりこういうところに書くと問題は減りますね。本とかネットとかそういうものだったら勉強しますが、相手が人間だったら学ばない人が多いので弦堂では直接質問されても簡単なことしか言わず、詳しくはネットで共有することもあるし、代わりにリンクを送って回答の代わりにすることもあります。だけど言っているのは同じ人なんですけどね。)

 話を戻しますが、もし本題の問題が演奏者の問題でなければ、弓は外側に反るように作るべきで、世界の弦楽器の中にはこういうものがあります。ウィグルにある二胡の原型と思われる楽器は、外に湾曲した弓を使っています。それがそのまま中国に入ってきて、しばらくは同じような弓を使っていたらしいというのは左の古い写真からわかります。このモデルはモンゴル系です。古い京胡と思われる楽器ですが、京胡は現代ではすべて竹でできています。現代でもこの種の楽器は骨董で出てきます。また現代でも軟弓京胡というものがあり、それはまさにこの写真のようなものです。こういった弓も否定されているわけではありません。しかし、この構造はしなやかさが得られないので、楽器弓というものはできれば内側に反らせたいものです。そこで日本の胡弓は、弓の先端が大きく?の形状に加工してあり、弓を内側に反らせても尚、弓棹と弦の距離が大きく保てるようにしてあります。二胡はそうせず、単に内側に少し反らせてあります。そのために内弦の演奏の時に外弦に弓棹が当たることがあり得るわけですが、このような二胡弓の形状は一般には問題とはされておらず、それどころか現行の二胡弓は完成型として高く評価されている程です。これはどうしてかについて考えてみたいと思います。

 二胡を始めとして多くの中国の胡琴類の楽器はほとんど、かつては絹弦を使っていました。胡琴にはいろいろありますので、弦はどれも同じ太さのものを使うとは限りません。二胡だけみても2種の方法があり、劉天華は現代と同じDAで調弦していましたが、別の地方の演奏家・阿炳、孫文明などはもっと太い弦を使ってGDで演奏していました。北方の板胡や京胡も太い弦を使い、これらに使用する絹弦はスチール弦を使う現代の演奏者から見たら驚くほど太い、まるで紐のように見えるようなものをあてがっているように見えます。弦はこれだけ太くなると擦った時の震えの振幅も相当なもので、強く拉くと風を切るような音まで発生させます。それでこれは安定させた方が好ましいという方向になります。それともう1つは、弦は垂直に擦った方が良いがそれができない、という事情があります。二胡には棹があってこれが邪魔をしますので、棹を回避するように少々斜めになった状態で弓を運行させないといけません。このような楽器が本来持つ欠陥があるにも関わらず、未だに改善されていません。これらの問題を演奏の方法によって解決して安定させる方法があるからです。

京胡の棹と弓の接触部分。二胡もこれに近い形で演奏するのが好ましい。  右の写真をご覧いただきますと、これは京胡ですが、棹の部分に弓で擦って削られた陥没があります。竹材の棹が削られた部分は白くなっており、周辺に飛び散った松脂は黒ずんでいます。京胡は内弦の演奏の時に必ずここへ馬尾を当てます。そうしますと、棹と弦の2点に接触した状態で演奏することになります。こうすることによって、弓と弦が垂直に近い状態となり、その一方、完全に垂直でないことによって棹に馬尾が強く当てがわれ、内弦の振幅も安定するという関係性になっています。

 板胡もこのように演奏し、跳弓の場合はかなり強く馬尾を棹に当てて、その状態のまま右手の中指と薬指に瞬間的に力を入れて、短い明瞭な音を出します。このような演奏法は、スチール弦を使う現代でも行いますが、スチール弦は演奏技術が幾らか拙くても一応それなりの音が出ることから必ずしも学ばなければ演奏できないというものではないように思われ、そういう背景もあってこういう演奏法の伝統が培われてきたのは絹弦の時代だったと思いますし、それが現代にまで活かされていると考えていいと思います。二胡は馬尾を棹に強く押し当てるということはあまり言われません。使用する弦が細いので、あまり気を遣うことがないのだと思います。しかし、安定的で美しい音を得るための演奏上のヒントとして一応理解していたならば、二胡の演奏の場合でも良い影響があるかもしれません。板胡の独特の演奏法は二胡にも応用できますし、本来板胡の曲を二胡で演奏することもよくあります。

二胡弓の持ち方。内弦の演奏法。  弓を持つ右手の使い方ですが、右の写真をご覧いただきますと、これは内弦を奏する場合の例ですが、中指と薬指で強く馬尾を押さえています。これは重要なポイントです。毛はあまり強く張りすぎていないことが望ましいと思います。親指は弓棹を押さえます。人差し指は添える程度で、事実上使用していない状態になります。このように演奏しようと思うならば、弓棹は内側に反っていないといけないのです。そうでないと演奏しにくいだろうと思います。適度な馬尾の張り具合も重要なポイントです。この調整具合は、個人の力の入れ方によって変わってきますし、同じ人でも少しずつ変化していきますから明確な基準はなく、そのためにこのような調整機構が付いているのだと考えていいと思います。老師が居られる方の場合は、先生がリューズを廻して合わせてくれるのではないかと思います。




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