どんな二胡弓を選んだらいいでしょうか - 二胡弦堂

 


二胡のような南方の楽器を合奏する売人と友人  まずスチール弦と絹弦、これは同じ弓が使われています。相性の違いはあるだろうと思われるかもしれませんが、ないと思います。

 しかし絹弦で二泉胡(中胡も同じ弦を使います)を演奏する場合は黒毛の弓を使う方が良さそうです。スチール弦なら白毛の弓、二胡用のものを転用するなどして使うと思いますが、絹弦の場合は難しくなると思います。二胡用の標準の絹弦も黒毛で演奏できますが、この場合は使い古した楽器の方が合うと思います。馬尾の白と黒は個性が違い、黒はこってりとした音が出るので、これはこれで1つの独特の表現があります。絹弦の太い弦は白毛では難しく必ず黒毛を使うと決めた方が良さそうです。

 バイオリンなどで使われる西洋弓はフランスのものが有名であったりするなど細部まで研究されて品質の高さを重視していることが感じられます。二胡弓は竹を使う消耗品なので西洋弓に比べるとそれほどではないようです。中国の弦楽器は、楽器そのものの段階で様々な規格のものがあり、西洋のように統一されていません。そしてそれぞれの楽器に合う弓、いろんなタイプがあります。中国の奏者は比較的どんな弦楽器もこなします。まず二胡から入って練習し、それから目的の弦楽器に移るという場合も多々あります。そのため、楽器と弓と奏者の完全なマッチングというのは考えていません。弓は大雑把に楽器に対応しているものであり、それに奏者が合わせるのが技術の1つであるという考え方です。

 こういう前提があるところに、東京・光舜堂が細部をチューニングした弓を開発したというので最初伺った時は驚きました。竹は消耗品に非ず、きちんとしたものを作って毛を替えることで長く使えるというものです。使わせてもらうと違和感がありました。使いやすいということは、快適な使い心地、面倒を見てくれるということになります。これまでそんなことをして貰ったことがない大陸人、あるいはそこから来た人は抵抗を感じる様です。弓が前に出てきて勝手に面倒を見る、好きなようにやらせてくれない感がどうしてもあるのです。しかし技術の向上は確かに感じます。練習してはいないが自然と技術が向上した様になります。しかし暫し使うと、徐々にどういうものかがわかってきて、弓に任せた方が良い部分が明確になると、もう大陸の弓には戻れなくなります。そしてこれまであまりにもあれこれとやり過ぎていたことに気が付きます。道具が整えられていると快適ということがわかってきます。最初感じていた閉塞感も無くなります。5分もかからずに対応できるようになります。

 しかしそれでも大陸の弓は安価です。対して光舜堂の西野社長は、中国の弓は耐久性がそれほどない、光舜弓は毛の張り替えで半永久的に使えるし、その毛も5年はもつ、非常に良い毛を使っている、中国弓は結果的に高い、とこういうお話でした。確かにそうだと思います。たまに中国弓に戻ると懐かしさを感じます。こんなだったなと。中国弓もメーカーによって特徴があります。色々知るようになったら、最終的には良い弓を少なくとも1つというのが良いのではないでしょうか。

 使用される毛(馬尾)は、現代は白毛が良いとされています。しかし白毛は生産量が非常に少ないので普通は栗色の毛が使われています。最高級の白毛はイタリア産でしたが、この種は欧州では絶滅しました。その前に北海道に輸出された後裔が残っていましたので、これを以て最高級、更にイタリアに戻して再生産もされているようです。これはプロのバイオリニスト用のものです。一般にはモンゴル(中国産は主に内モンゴル産を指すのでモンゴル産というと外モンゴルのものになります)産の馬尾が使われています。二胡弓・紅竹と湘妃竹(香妃竹)これも限定的な産地のものは高額です。他にも甘粛、西蔵、欧州各国、カナダなどで、良毛を産出しています。

 しかし白毛・栗毛が一般的になる前は黒毛でした。非常に甘い音が鳴りますので、なぜ市場から消えていったのかわかりません。光舜堂で生産していますが、特に女性にかなり人気があります。しかもこれは真正の黒毛です。黒毛は高価なので一般には花毛という黒茶色のものが多く使われています。

 竹材には節があります。二胡弓は0~3節のものが使われます。基本は1節で、節が多くなると柔らかくなります。そのため節がないものは硬めとなり、初心者には扱いやすいとされます。しかし希少性から高価で、出費ほどには価値がないのでほとんど作られていません。無節とは言っても手持ちの部分には滑り止めも兼ねて節があるものがほとんどです。弓を強く握って節が当たって痛いという人がいますが、弓は握るものではなく、極力脱力して運弓せねばなりません。間違った使い方では指が痛くなります。弓自体の工作の進歩から、節の数は問題にされなくなってきました。現代では工房がバランスを考えて選定しています。

 中国二胡弓の現代の標準は83cmです。低音用の楽器に対応しては86cmぐらいまであります。それ以上となると長過ぎて持て余すようです。一方、短い方はというと現代弓中国製既製品ではせいぜい82cmぐらいだと思います。古典的な二胡では76cmで、現代でも京劇などで使用しています。これは全長なので、有効幅ではもっと狭くなりますから、1cm違うと結構な差があります。毛の固定部や手で持つあたりの寸法はどれも同じ、実際に弦に触れる長さはもっと短く、そこが1cmでも違うと影響があります。この有効幅でバイオリンと比較すると、二胡弓の80cmで同等です。バイオリン弓の長さは子供用のものを除けば規格がほぼ決まっていて74cmです。これと二胡弓80cmで有効幅が同じぐらいです。

 こういうものはどのようなものでも大きく変化する境目があります。不思議なもので、限界点と言えるようなものがあります。長さは86cmが限界のようですが、これは技術的限界点で、それとは異なる別の限界点、高度な性能を維持する限界点もあります。二胡弓でのそのポイントは、79cmと80cmの間、ここで大きく印象が変わります。バイオリン弓の規格が決まっていく段階での考証でこの変化は認識されていたはずです。その上で80cmの方に置いたようです。二胡古典弓の76cm、現代の83cmはそこからプラスアルファを求めたものと考えることもできます。弓毛(馬尾)は両端で固定していますので、そこは硬くて弾力が減り、中央は安定しています。ですから、安定した音を指向するなら長い弓の方が自ずと有利です。しかし別の観点からは抑揚がない、とも言えます。弓の先の結び目そのため京劇のような音楽で長い弓では味が出しにくい傾向です。二胡で西洋の音楽であれば長い方が演奏しやすそうです。

 バイオリンのような演奏法では体格の差は出にくそうですが、二胡のような奏法であれば腕の長さで結構影響があります。そのため、小柄なご婦人にとって83cmという一般の規格はしんどいようです。ですがどの方でも80cmは演奏しやすいと言います。これは光舜堂へのフィードバックで明らかになってきたことです。そこでさらに踏み込んで79cmにすると、どうも違ったものになった感がある、しかし80cmと81cmでは長さの違いぐらいしか感じないのです。このことから、すべての人が80cmで結構なのではないかという気さえします。そこから中国音楽をやるようになると戯劇が増えますので、これは79cm以下というのは良いものです。ですが、これは需要がない、特注になりそうです。

 どんな対策を採っても雑音が直らない場合がありますが、少し太い弓に換えると直ることがあります。一方、高域が出ない楽器の場合は、細い弓に換えるとバランス良く全帯域で鳴ることがあります。駒を換える方法と共に検討できる部分です。これは雑音と高域成分のどちらかか両方で、内部の反響が変に混じるか、うまくブレンドするかの違いで問題が出るか、或いは綺麗に響くかの違いが出るのだと思います。素材の相性が良ければ、適当に弾いても雑音は出ません。竹は中に空洞があってこれも様々なので単に外観の太さだけで一概に判断できないというところが共通規格化して判断できない要因です。また太さは位置によっても違い、天然物なので一定もしていません。そのため大雑把に太めとか細めと判断するしかありません。弓圧の強い奏者はこの問題に悩まされることはありませんが、それでも住宅事情を考えて常に大きく鳴らせないこともあると思うので、この問題は避けられないかもしれません。

 二胡は使っているうちに状態が変わってきます。音色が変化してくるので割と簡単にわかります。相性が良いと思っていた弓も合わなくなってくることがあります。あまり神経質になると大変です。日本製光舜堂のものはこの問題がないので、悩むようになってきたら中国弓はやめるという方法もあります。しかし弓が合わなくなってくるというのは、そんなに多い問題ではないので大抵は大丈夫です。いろんな種類の弓を持っておくのも良いかもしれません。合わない弓が幾つか出てきたとしても、それは数ヶ月後にはまた合うかもしれません。湿度と気候も影響があるので、合う弓が日によって変わったりもします。ですから、合わない弓をすぐに処分しないようにせねばなりません。