弦堂で扱っている二胡弓の品質や規格、グレードについていろいろ・・ - 二胡弦堂


 小店では主に王小迪の二胡弓を扱っており、これは中国では高級弓の部類になります。普及品の一般の弓に問題があるわけではありませんので、贅沢なものではあります。

 普及品二胡弓は一般の人が使う用途を想定して作ってあり、大多数の顧客が満足するために必要な要素を考えて作ってあります。非常に扱いやすく、他の弓を試そうという気持ちもなくなります。歴史の中で長期に改良を重ねてきた成果だと思います。その上、もっと上質な弓を求めるのは弓が消耗品であることを考えると贅沢ということになりますので、王小迪の弓は北京でも一般の商店にはあまり売っていません。しかし最近は経済発展のためか王弓のスタンダードモデルは結構見かけるようになっています。このスタンダードモデルは王小迪自身の制作ではなくもっと大きな工場で作っていますが、これも大多数の顧客が満足できるような作りになっています。「良い物」というのは、まず第一に不自然さがないもので、特に中国文化ではそうです。すごくシンプルなものであらゆるところが自然というのは、一見簡単そうに見えて作るのが非常に難しいものです。故宮の宝物もそういうものが結構ありますので、解らない人が見ると何でこれが国宝なのかわからないという場合が多いものです。「神韵」という翻訳不能な言葉もあって文物の観賞の際に多用されます。あらゆる要素があるべき位置に収まると大自然に還ります。そのような宇宙的広がりを感じさせる製作物が中国では最高のものと見なされて博物館に収蔵されます。良いものは実際に使うと凄さがわかります。そういう普遍性を追求しているという点で、世間の普及弓、これをさらに洗練させた王小迪紅竹弓は優れていると言えます。これがあれば他のものは特に必要としないと考えて良いと思います。(追記:小店では王小迪紅竹普及弓は扱わなくなりました。馬尾の質の低下のためで、今後スタンダードになりうるものも変わっていくのかもしれません。)

 それより上級という弓もありますが、どうしてこういうものがあるのでしょうか。人の欲求とか探求心には限りがないからかもしれません。いずれも標準から逸れますので、何か別の要求や用途があるという場合に選択されることになると思います。これらが普及弓より優れていると考えるのは違う感じがします。むしろ逆だったらありうると思います。高級な方が劣るということですか? スタンダードこそ最良という考え方であればそうなります。まず二胡を始めたばかりの人は弓の重量がちょうどいいかと言う点が最初に気になります。それで普及品は規格を全部完全に揃えて、だれが使っても不満が出ないようにしてあります。非常に神経を使っています。高級弓は全く考えていません。バラバラです。長さや太さ、重さ・・どれを取ってもバラバラということが多々あり、数mmとか数g違うことを取り上げること自体が意味がわからないという感じなのです。これぐらい視点が隔絶しています。弓の重量については、もし多少の重さの違いで演奏できなくなるのなら中胡や板胡は演奏できないことになります。弓の規格が違うからです。それで高級弓を買うぐらいの顧客に対して規格を揃える配慮は無用です。しかし一方で適切な重量できっちり作られた二胡弓は拉きやすいのは間違いありません。ある顧客は弓から細かく世話してもらう必要がありませんが、初級者は弓に助けてもらいたいと思っているかもしれません。アマに非常に人気がある二胡弓でも、プロから嫌われている場合もあります。

 日本人は名工の作品に対してもクレームを付けますが、これを中国の工房に言うと非常に驚きます。中国人は王小迪が作ったものが悪いわけがないと始めから思っているので、おかしいと思ったら弓ではなく自分の方がおかしいと考えるようです。だけどおかしいと思ったら何か理由があるわけで、そこは率直にならないといけません。こういう無意味な衝突を避けるためにも、高級弓の個性はあらかじめ把握しておく必要があるように思います。その「おかしい」部分を欲しい人もいるということで、これがご自身にも当てはまるのであれば、その弓を選択することになります。これが正しい高級弓の選択法だろうと思います。

 一般に通常の見方としては、自分にとって合うもの以外は駄作だと考えてしまう傾向があります。特注したのでなければこの考え方自体がおかしいですが、それがわかっていてもそうは考えにくいものです。普及品はここを徹底研究しています。コストもしっかり考えており、あらゆる点で素晴らしいのです。とにかくまずはこういうものをわかっている必要があります。高級弓は、まず理想とするサウンドがあってそれを実現するという方向性で弓が設計されているので、発想の根本が違います。初学者は特に、理想云々以前に二胡弓の方が自分に合わせてもらってとりあえず自分がそれなりに演奏できないといけないと考えます。向いている方向が違うので、製品もまた違ったものになるのです。

 よく指摘される問題は、手持ち部分の触り心地についてで、ある弓はここに竹の節を持ってきているものがあります。ところが使う人によっては痛いと言います。弓は可能な限り脱力して運弓するものなので、製作者としてはそれを当然と踏まえた上ですべり止めの意味合いで節を配しています。痛い程握るものではありません。しかしそういう演奏上の注意を全く知らない、或いは教えてもらっていない人は結構います。以前に老師と一緒にクレームを入れられた方がおられて、この時は交換して欲しいということでしたが、私は全部そこに節があるので交換しても変わらないと返答しました。わざわざそういう風に作ってあるんだからと言いました。こういう問題は結構あります。また別の問題は馬尾を弓魚に引っかけていますが、これを外して二胡に取り付ける時に、硬すぎるということで弓を破損させてしまうという例です。もう何年も二胡をやっている人が聞くと「かなり強引な使い方をしても壊れるものではないですが、それはまたどうしてそうなったのでしょうね?」と不思議がります。壊れる箇所は主に3点で、弓魚が割れる、竹棹が折れる、弓の先の馬尾の縛りが解ける、です。いずれも確かに不思議な現象で、普通強引に破壊しようとしても結構骨が折れると思われる事例です。私はまさに破損するという現場に居合わせたことがないので、彼らがどんな道具の扱いをしているのか知りません。弓は演奏中心の設計になっていますので、この方々が使っても壊れないような作りにするのは難しいでしょうね。壊れにくいことが優先で作っているものではなく、まずは音が優先なので、例えば子供が使ってもだいじょうぶなような、そういう作りにはなっていないのです。

 こういうことで、通常はスタンダードなモデルで十分と思います。そこに限界を感じた時に別のものも使ってみるというのが良いと思います。尚、ここで言う「普及弓」というのは北京とか上海で入手できる一般的な弓のことです。東南アジアや日本で売っている弓は商社が扱っている場合が多々あります。こういった会社はコストをいかに下げるかが重要で、1円でも、いや0.1円でも下げさせる、これが"商社"というものなので、品質は有る意味「特注」です。工房はそういったところに卸すための弓を別に制作して激安で販売します。中国でもネットで売っているようなものでそういうのは結構あります。それでそういった弓しか見たことが無いという方は、本稿で言っている「普及弓は使いやすく品質は十分」という下りを読んで「おかしなことを言っている」と思われたかもしれません。まじめにやっているところは逆に1円でも高いのを仕入れますので、同じメーカーの同じ弓でもぜんぜん違うのです。それで"普及弓"というのは意外と購入が難しいものです。これを言い出すと全体的に何でもそうですが、この問題は把握しておく価値があります。




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