中国曲の名称と内容 - 二胡弦堂


 中国曲には様々な題名が付けられていますが、それと内容は必ずしも一致するわけではありません。最初に民間に流布している旋律があって、それに後から意味を付す形で決められた名称が後の時代に知られるようになることもあります。中国の結婚式でよく演奏されていたという「朝天子」は朝廷に皇帝が姿を現す場面の音楽という意味の題ですが、実際には朝廷とは何ら関係ありませんし、音楽の内容からも関連性は見いだせないということをアービンの録音を行ったことで有名な杨荫浏が書いています。

 江南絲竹で「老六板」という曲があります。この曲から江南絲竹の多くの作品が派生したとされる重要な曲ですが、ここから「花六板」が出て、この旋律は他の地域にも伝播し、冀中では「漁翁楽」という民謡で知られています。1895年に李芳園が「南北派十三套大曲琵琶新譜」の付録の中で「虞舜薫風曲」を掲載しましたが、これは花六板の名称を変えただけでした。これが周少梅、劉天華、そしてその弟子たちに引き継がれました。しかし実際のところ、この曲は民間のものであって、封建時代の何かを示すものではありません。とはいえ、既成の旋律を様々に利用することには何ら問題はありませんから、去りし封建の色彩を織り込んだとしても、それはそれで良いのではないかと思います。いずれにしても中国曲の場合は曲名と内容が一致していない例が結構ありますので、注意が必要です。

 「花六板」はすでに有名な曲ですので、それと「漁翁楽」と比較できるよう、下に譜面を張っておきます。これは江文也(写真上)が民間から民謡を採集して四声部にまとめたものです。江文也は台湾生まれの客家ですが、日本に留学して山田耕筰に声楽と作曲を師事し、その後、北京で教鞭を執るようになってから民間音楽の研究をするようになりました。下の譜もその頃のものです。そして日本で投獄、中国に戻っては文革で迫害を受けるなど多難な人生でしたが、多数の作品を残しています。






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