北京楽器街について2017年の状況 - 二胡弦堂

 


北京楽器街地図

 西洋楽器、特にピアノを置いているような大型店は市内でかなりバラけて営業されていますが、そういう例外を除けば楽器店は基本的には決まった場所に固まっています。当WEBサイト内にもあちこちに書いてありますが、それらを改めて地図で見ますと上図の位置になります。鼓楼東の通りは二胡奏者にはあまり用事がないところですが、近くに観光地が多いのでついでに見に行きやすい位置です。市の南部には和平門外にあります。ここは近くに瑠璃廠という骨董街がありますが、音楽関係者で瑠璃廠というと楽器通りの方を指します。一番規模が大きいのは新街口です。中国は人口の多い街がたくさんありますが、楽器街がこれだけあるのは北京ぐらいでしょう。

 どこの国も大都市には人が流入しますが、中国ほどの人口の国になるとその量は桁外れで、北京駅、全部で4つありますが、田舎から出て来た人々のすごい量を目の当たりにして絶句します。これだけの人がどこに住むのだろうとそこまで心配になる程です。外国人はスラムには住めませんが、弦堂が2017年に住んでいるビルの周囲一帯はスラムなので、そこらへんを抜けないと駅にも行けません。尚、中国は極めて治安の良い国なので危険は全くありませんし、入っていくこともできます。どうしてこんな形になっているのかと思うぐらいの奇怪な建物に中は迷宮のようであったりします。そういうところでもオートロックが採用されていたりしますので、そこらにいる住人に「空き家見たいんだけど」と言って入れてもらえば見ることはできます。住人は低所得とは限りません。ただ安い(月極1万円前後から)風呂トイレが共同、窓やエアコンはない(しかし暖房はある)という条件ということです。平屋の場合は銭湯に行かなければなりません。同じような価格水準ではマンションの地下室というものもあります。1階より上は普通のマンションですが、地下はやはり迷宮のようになっていて小さい部屋がたくさんあります。スラムとほぼ同じ条件ですが、スラムは2015年頃から減らされていくようになって来たので、去年あたりからは地下室が主な選択肢になっていました。それ以外の有力な住処としては合租というものもあります。マンションのリビングを共同部分にして他の部屋を別々の人に貸します。またはさらにベニヤ板で細かく仕切ります。このタイプは割高です。

 このように大量の出稼ぎ者を受け入れるキャパシティがかなりあります。これらの低所得者が大量に住み着くと市内の例えばスーパーの仕事とか、こちらはバイトというのはないですがそういう仕事の給料は下がります。富むものはより有利になり、貧乏人はそこから抜け出すのが難しくなります。そこで国が低所得者を北京市内から追い出す政策を開始し、戸籍が他の省の場合、子供は小学校には通えるが卒業証書は与えられないといった通知で大幅に人口を抑制し、さらにスラムも壊していきました。つまりそういうところに住む低所得者を追放すれば雇用問題がかなり改善するということなのです。低所得者も周囲の都市や出身地に帰れば基本的に同じような生活をするわけですから、それほど大きな影響は受けないということのようです。対策するとしてもせいぜいこの程度だろうと思いきや、この夏ぐらいから地下室も全面閉鎖が発表され、すごい勢いで住人が出されています。それと同時に道の両側にある商店も多くが壊されており、個人経営の店というのが激減しています。全部ではなく、元々商業利用で許可を得ている不動産物件はそのまま営業でき、住宅を違法に改造している商店は閉鎖されています。8割ぐらいは閉鎖になってしまいます。合租に関しては直接確認しておらず、そもそもどこにあるかも表面からはわかりませんが、聞くところによると無くされていっているということです。こういうことを短期間のうちにやったので、少し前は地下鉄も終日ラッシュだったところが夕方6時でも座れるというぐらいの変わりようです。街中全体が銀座通り的賑わいだったのが急に閑散としています。少しずつ壊すと残ったところに逃れて殺到するので、短期のうちにいっぺんに施行しなければならなかったのだと思います。弦堂の周辺はどうなるのでしょうか。大丈夫らしいです。なぜならうちの上空は要人専用の空港に降りる飛行機が時々飛来するからです。北京市内でも非常に数少ない貴重なスラムになりそうです。

 最近、新街口にしょっちゅう警察が来ていて店舗を個別に調べているので何なのだろうと思っていたのですが、間も無く来なくなりました。それからある楽器店の女性がこう聞いてきます「あんた、今日地下鉄空いてたでしょ?」「うん、何で?」「最近急に空いてるでしょ?」「うん、何で?」ということで、上記の政策の話を聞き「だいぶん店が壊されているよ」というと「瑠璃廠の楽器街もなくなってるよ」「え?」「今度見にいって来てよ」「うん、ここは?」「来年だよ」とまあこういうことなんですね。実際に見にいったのですが、確かに壊滅はしたのですが、商業許可を取っていた店はまだやっているので、楽器街としての体裁は保っていたんですね。それで一旦は閉店したもののまたボチボチ再開店している店が結構出てきていて、若干の復活の兆しはあります。それでも元々衰退方向だったエリアなので、もうさっぱりという感じがします。新街口は2018年の春節の前ではないかと噂されているようですが、そうなるとだいぶん変わりそうです。

とりあえず現状では瑠璃廠の方の状況を簡潔にご覧いただくことにします。

 和平門から瑠璃廠を通過しますと間も無く楽器街に入りますが、まずこれが目に入ります。すでに解体が終わって囲まれています。

少し進んで向かいの通りを見ますと、通りを入ったところに1軒楽器店がありますが、表通りは解体されてこちらも囲みで覆っている状態です。

ここは両角にかなり目立つ店があったのですが、解体されただけではなく壁も綺麗に補修してあって以前の面影もありません。

看板を出さずに、楽器のケースを外に置いて集客している店もあります。

以前はこうして屋外で楽器の練習をしている光景がかなり見られましたが、今回は1箇所だけでした。

このような形態で営業を続けているところが幾つもあります。

商業許可を得ているところはこのように営業を続けていますが、周りが衰退しているので影響は少なくないと思います。




 さて、それからしばらくして新街口の状況ですが、2019年3月時点では予定として5月末までに全て解体されることになったとの噂があります。まだ目立った動きはありませんが、現状での様子をここに掲載しておきます。




 このように楽器街がなくなっていく傾向であれば蘇州はどうなのかと気になります。現状、2019年3月時点ではここ数年で特に変化はありません。景徳路には見逃しがなければ7軒の楽器店があり、側道まで見ていくと20軒近くありそうです。特に中街路北側へ入ったところには4軒の楽器店が密集していて、戯劇用衣装の店も4軒集中しています。以前はここに蘇州民族楽器一廠の販売店がありましたが、これは景徳路に移転して新しい立派な店になりました。蘇州に関してはしばらくは大きな変化はなさそうです。