プロが使っている二胡 ~ウィーン演奏旅行編~ - 二胡弦堂


ウィーンの会場  他人の私物をじっくり見ていくという、いやらしい意図を秘めた本コーナーですが、2008年正月過ぎにウィーンにあります楽友協会大ホール(ムジークフェライン・ザール)中国語では金色大庁と言っております、右の写真の場所で行われた演奏会に的を絞っていきたいと思います。すべての写真はクリックしましたら拡大するようにしていますが、DVDからのスクリーンショットということで、いささか大きさと鮮明さに欠ける場合がありますが、それでも構わず進めて参ります。写真は大きいので回線が遅い場合は読み込みに時間がかかりますのでご了承下さい。
 全体的に二胡、弓、蛇皮、調整法などについて勝手に私見を並べたいと思いますが、興味深い事実を指摘するという基本はなるべく維持いたします。本演奏会は中国の有名な胡琴奏者たちが順番に登壇して中国の有名曲を披露するという内容ですが、その順番で1名ずつ見ていきたいと思います。途中、演奏会序曲、外人による中国語のアナウンス、高胡、京胡と板胡など無駄な部分はカットしています。では早速始めて参ります(写真はクリックしましたら拡大画像が出ます)。

二胡を演奏する朱昌耀朱昌耀の二胡の琴頭部分  まず1人目は朱昌耀(zhu-chang-yao)氏です。楕円八角の二胡で古典曲を拉いています。この二胡はここ数年に作られたものではないと思います。弦軸のこのタイプは70,80年代ぐらいのものですし、ニスのテカり具合でこのようなものは現代ではほとんどありません。非常にチープな感じの質感です。プラスチックが最先端のものという価値観が美意識として存在した時代の産物と思われます。牛骨も黄色がかっています。古い楕円八角二胡ということでたいへん珍しいものです。制作は馬乾元です。
 弓は王小迪紅竹のようです。綿はスポンジです。駒も楕円ですが、二胡に合わせて成形している感があります。
 スポンジは非常に使える材料ですが、これは蛇皮に吸着して古くなると取れなくなるとかボロボロになりやすいという問題があるので、音質とは別の理由で避けられることが多いと思います。駒を自分で削っているのも昔の奏者であれば普通のことです。
朱昌耀の二胡の蛇皮部分  蛇皮はかなり良い物を張っていますが、鱗が大きいわけではないので、この後に出てくる別の二胡と比較して見劣りするかもしれませんが、決してこちらの方が劣るということはありません。見た目でもこのような蛇皮を張った二胡は幾らでも売っていると思います。だけど音はすいぶん違ったりします。蛇皮そのものの質には問題なくても蛇皮張り技術に差があるという場合があるからです。それに鱗を見て、どの部位を使ったかはわかりません。二胡を見た目で判断するのは難しいです。蛇皮の見た目よりも誰が張ったかの方がはるかに重要と思います。

二胡を演奏する于红梅于红梅の二胡の蛇皮  2人目は于红梅(yu-hong-mei)さんです。この二胡もかなり厚めのニスが塗ってあります。この個体はそんなに古いものではないと思いますが、結構使い込んでいる感じはあります。色合いに深みがないので安っぽい感じがあって、そのあたりは二胡を選択する場合に影響があるかもしれませんが、そのことと質は別問題だということがわかる映像です。
 蛇皮にうまい具合に迫った映像がなく、暗くて見にくいのですが、これも1つ目の二胡と同じ傾向なので特に言うことはありません。
于红梅の二胡の胴部分  駒には白木の小さめのものを使っています。二胡を相当に使い込むと音が柔らかくなるので、明瞭さを出すための処置と思われます。やはりこれも少しずつ削って調整しているようです。女性奏者が自分で削るのでしょうか? おっちゃんみたいに机の上でやっているのでしょうか? 右手にやすり、左は手袋・・于红梅さんがやってたら、資料として写真をいただいて皆様と観賞するのですが・・。屋外に異常に座高の低い椅子を出して、じっくり削っているような感じですかね。朱昌耀氏を電話で呼びつけてやらせている図の方が、想像に近い感じはあるのですが。(いずれにしても実在すれば興味深い資料)
于红梅の二胡の琴頭部分  弓は王小迪の紅竹です。現行の一般に売っているモデルです。
 デンペン付近には布テープを巻いていますが、演奏のフィーリングと音質に影響を及ぼすので実施には注意が必要です。運弓は重くなりますが、弓の幹が当たっても音が出ない効果はあります。
 金属の微調整器を使っていますが、良くも悪くも金属音が乗るので使用についてはよく考える必要があります。安価な物はビリつきが出ます。本映像の例ではピアノの伴奏なので、問題は少ないと思われます。

二胡を演奏する马向华马向华の二胡の蛇皮  3人目は马向华(ma-xiang-hua)さんです。この二胡は10年以上前の呂建華(lu-jian-hua)です。呂建華の八角は今でもこの形ですが、马向华さんは音楽院を卒業した時にはすでにこの二胡を使っていたので10年以上前のものとはっきりわかるのです。こればかりを使っているので、かなり気に入っていらっしゃるようです。
 蛇皮やデンペン付近の貼り付け、駒などについてもこれまでと同じ傾向なのでやはり言うことはありません。プロが使っているものにどれも同じ傾向が見られるという点は非常に重要です。马向华の二胡の胴部分を後ろから見るしかもこの人まで王小迪の同じ弓を使っています。
 後ろから撮った写真で確認できますが、花窓を取ってしまったのは、今回の演奏会の出演者の中で马向华さんだけです。このパーツは接着していない場合も多々あるので、外してみた方もおられると思いますが、外すと非常に反響します。音は大きくなるので結構ですが、エコーがかかったようになるので好ましくありません。大きなホールで演奏したからといって、その傾向に変化が出るわけではないのですが、場合によっては効果的だということを本映像は示しています。马向华さんは、よく花窓を外して演奏会に出ているようです。

二胡を演奏する周维周维の二胡の蛇皮  4人目は周维(zhou-wei)さんです。一般によく見られるタイプの蘇州六角二胡を使っています。
 微調整器には、ドイツ・ウィットナー社製のものを使っています。
 弓は、この人は陳氏を使っています。グリップに陳おじさん?の顔写真入りのビビッドなカラーの偽皮が張ってある、一般に売っているものです。しかも竹は、紅竹なので一般的なものです。
 駒も白木ではありますが、頭に黒檀を載せたタイプです。やはり削って加工しているのは同じです。

二胡を演奏する于海音于海音の二胡の蛇皮  5人目は若手の演奏家で于海音(yu-hai-yin)さんです。弓は王小迪の花柄弓魚のものです。彼女が王小迪の家に行ったときに、このDVDを持ってきて、それを私が貰い、こうして写真として皆様にご覧いただいております。
 注目点のまず1つ目は、控制綿です。これは何でしょうね。ゴムのように柔らかいプラスチックか樹脂だろうと思いますが、これまで見たことがありません。大きいです。見た目にも拘っていただきたかったですが、作った人は自分の発明品が目立って欲しいと思っているでしょうし・・。効果的なものではあるのだろうとは思います。
于海音の二胡の棹全体  さらに棹の方も見ていきたいのですが、音程を合わせるために印を2箇所入れています。しかも近いところに2つ入れています。映像を見ますと時々見て確認しています。この2つの印の上下にはありません。それで上の印は、それよりも上のための基準、下は下で同じく・・とこういう見方なのだと思われます。参考になる方法かもしれません。
于海音の二胡の琴棹  千斤より上に2つ糸を掛けています。これを上下させると微妙に弦のテンションが変わります。この構造を以て微調整器とする方法です。この方法は、金属音が乗らないというメリットがありますが、音程の調整幅が狭いというデメリットがあります。弦軸を回してかなり正確に合わせ込んだ上で、これを使います。開放弦で雑音が出る等の場合の対策にはなりません。それは原因を別に求める必要があります。尚、微調整器は両方の弦に付けなければならないという訳ではありません。

坠胡を演奏する宋飞宋飞の坠胡の蛇皮  6人目は宋飞(son-fei)さんで、まず河南坠胡(zhui-hu)、続いて二胡を演奏しています。弓は、もう繰り返しばかりでいいかなと思いますが・・・王小迪です。
 坠胡ですが、大きな鱗の蛇皮を使うのは好ましくないようで、一般に楽器店に売っているものもこのような感じです。胴はいつから金属に変わっていったのかわかりませんが昔は六角の木材で、もっと長い感じでした。
宋飞の坠胡の胴部分  演奏は基本的に二胡と同じながら指板があるので、二胡とは少し違った部分もあります。揉弦と滑音が非常に大きい特徴があり、これはもちろん、二胡で河南の曲を演奏する場合にも応用されます。左手の位置が高く、音程が合わせにくいのか、ずっと目で追いながら押さえています。印が入れてあるのかもしれません。
 河南は中国古代王朝の首都が多数あったところで、日本で言うと京都、奈良という感じですが、中国古典音楽の原点を探る意味で本演奏会で採用されたのだと思います。

二胡を演奏する宋飞宋飞の二胡の胴部分  続いて二胡ですが、これもドイツ・ウィットナー社製を使っており、その下、千斤のすぐ上にスポンジを挟んでいます。これは雑音対策と思います。一般的にもよく見かけられる方法です。
 弓の先の金の糸でまとめてある部分は、欧州に行ってからバラけてきたのか、自分で巻き直した感じです。少なくとも王小迪が巻いたものではありません。(朱昌耀氏に任せるべきだったのでは?)
宋飞の二胡の弦軸部分  この二胡もデンペン部分に厳重な?保護がしてあったり、胴を見るとかなり使い込んでいる様子ですが、こうしてみると、個人の練習用と演奏会用という風に二胡を使い分けている感じではなさそうです。もちろん、幾らかは他の二胡も使うでしょうけれど、たいていの方はずっと使うものは決まっていると考えてよさそうです。
 この辺で演奏者の前に置いてあるマイクについて少し触れておきます。非常に有名なものでありまして、ウィーンに本社がありますAKG(アーカーゲー)社のC414というモデルです。ボーカルから様々な楽器に至るまで何でも使える万能型のマイクです。本演奏会ではピアノはベーゼンドルファーを使っており、いろんなものがウィーンずくしという趣向になっているようです。

二胡を演奏する闵惠芬闵惠芬の二胡の蛇皮  ついに7人目、ようやく最後の方になりました。闵惠芬(min-hui-fen)です。写真ではよくわかりませんが、この人だけ南方弓を使っています。弓魚が透明プラスチックのものです。上海在住ということなので、付近で手に入る物を普通に使っているのでしょうか? 特別なものではないのは他の演奏家と同じです。(というよりこの特別でないというのは日本の基準と言った方がいいかもしれません。王小迪は中国ではやたらと売っているものではありません。高額なのでほとんどの人が使っていません。しかし闵惠芬の弓は普及品タイプのように思いますが、馬尾は変えているかもしれません。とはいえ、南方弓の馬尾は普通に売っている物で、すでに十分の品質ですが。)
闵惠芬の二胡の千金  綿の部分ですが、フェルトにスポンジを挟んでいます。この使い方も一般的です。
 千斤の独特の巻き方は何か理由があるのでしょうか? これはよくわかりませんが、音質に関係したものである可能性は高いと思います。写真を拡大して参考にしてみてください。
 微調整器を使っていない上、足を組んで演奏するなど、先生がいたら怒られると思いますが(何も知らない人が忠告しかねないので事実あり得る話)虚心坦懐という様子でいらっしゃいますが、千斤を見るとひそかに何かやっている疑いはぬぐえません。やっていそうな匂いがあるという言い方も可能でしょう。しかしこれ以上の追求は困難なのでこれで撤退いたします。

朱昌耀が最後に使った二胡の蛇皮  「何かやっていそう・・」関連で最後にもう1つ。終了間際に全員で賽馬(定番なのか? なぜか蒙古音楽を仕上げに演奏されたということにはオーストリア人が気がつくとは思えないから特に問題はないと思われますが・・。一応外人相手なので马兰花开あたりの方が妥当で理解もしやすいような・・演奏会自体がそういう趣旨でもないみたいなので良いのかもしれませんが。)を演奏したシーンで、朱昌耀氏の二胡がアップされたのが左の写真です。二胡を交換しています。こちらは一般的な八角二胡ですが、交換の理由は単に気分転換しただけのような感じです。注目点はスポンジの部分で、中央に明らかに何かが入っています。何でしょうか? ホッチキスで留めただけのようです。スポンジと弦の接触面積を調節するためか、裏に何か入れているのか、中央に密度を集中させて何らかの効果を狙うためなのか、いずれにしても何らかの効果はあるようです。もしよろしければ、試してみてください。
 皆様、ご旅行お疲れさまでした。
朱昌耀が最後に使った二胡




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