プロはどんな二胡を使っているのでしょうか? - 二胡弦堂


二胡を演奏する邓建栋1  写真を一枚ずつ見ながらコメントしていきたいと思います。
 (クリックするとすべて拡大します)

 まず最初はこの方。邓建栋(deng-jian-dong)さんから入ります。南方の演奏家です。この写真はCDのジャケットの一部です。写真が小さくよくわかりませんが、これは紫檀だと思います。色合いなどについては写真の加工の具合もあるのでコメントを避けたいと思います。

二胡を演奏する邓建栋2  そこでもう少し大きな写真を見てみます。(クリックしますと大きくなります。)別の二胡を拉いていますが、やはり紫檀を使っています。この人は紫檀が好きなようです。しかし新しい材ではありません。材が古いというより製材されて、つまり二胡として完成してからずいぶん時間が経っているものと思います。材が黒々としてチョコレート色になっています。巷で見かけることはおよそないようなものを持っていらっしゃいますね。上の写真より格好良く写っていらっしゃいます。

二胡を演奏する于红梅  于红梅(yu-hong-mei)さんです。これも同じですね。二胡として完成してからだいぶん経ったもの、これも紫檀です。こういうものは絶対に時間の経過というものを必要とするので新作としては作れない筈です。中国なので人工的に何かやりかねませんが、プロが使うものでそういう加工はしませんから、本当に古いものだと思います。彼らがこういうものを常時使っているとすれば、新作の二胡は買っていない筈です。プロ奏者でもかなり楽器を買う傾向のある人も入ればそうでない人もいます。于红梅さんに「すごく古い二胡をお持ちですね」と聞いたら「あなた何なの?」と言われて睨まれそうです。「真っ赤な二胡の方がお似合いなのでチョコレート色の方は私が引き取りましょうか」「ご好意にだけ感謝しますね」「見た目ってすごく大事ですよね」「わたくし、赤い二胡もすぐ買えますのよ」「もしかして水晶二胡も狙ってます?」「もうネットで買いましたわ」といったようなやりとりが想定されます。

二胡を演奏する陈耀星  陈耀星(chen-yao-xing)氏です。この材はよくわかりません。いずれにしても新しい材ではないのはおわかりになると思います。陈耀星氏も二胡をあまり換えず同じものを使っているようで、息子の陈军(chen-jun)氏と同様、同じタイプの二胡を使っています。それは胴の部分をよく見ていただいたらすぐにおわかりになりますが楕円形です。控制綿も独特の使い方をしていることがあります。

二胡を演奏する马向华  次は马向华(ma-xiang-hua)小姐です。ライトが当たってこれもどのような材か、よくわかりません。プロの演奏家はこのように金属の弦軸を使うことがあります。厳密に音程を合わせ込む必要がある状況ではとても有用です。金属音が乗りやすいので嫌う人が多いですが、上手な人ほど気にせずに使う傾向があります。马小姐はこの二胡を気に入っているのか、若い時の動画などでこれを持っているのをよく見かけられます。今でも使っていらっしゃるのでしょうか。

二胡を演奏する赵寒阳  赵寒阳(zhao-han-yang)教授も金属の弦軸を使っていますが、この二胡がお気に入りなのかいつも使っています。もちろんこれでDVDにも出演いたします。自宅に行きますとテレビの横にたぶん6,7把と思いますが、束ねて二胡を置いています。全部ケースに入れてあるので、どういうものかはよくわかりませんが、ちょっと躊躇ったふりをしては、写真の二胡を取り出します。当時特殊千斤を付けており私が「100元ですよね」と言ったらうれしそうに「あなたの二胡駒も100元ですね」と言いました。今から考えると奇妙な会話です。「さすがよくご存知ですね」と言ったら「私が推薦文を書いてるし、そもそもくれるし・・」と澄ました顔でおっしゃいました。私がこの二胡を拉き「あまり気に入らねえなぁ」と言ったら、ムッとしてました。「お前の古楽器の方が酷いからすぐに新しいものを買え。絹弦もすみやかにスチールに換えたまえ」と言われました。このままでは、まともなものは何も身に付かないと怒られてしまいました。私がへらへら笑っていたら同席の中国人の友人が「きょ、教授のおっしゃる通りです」と言いました。お世辞には見えませんでした。本気で言っていたと思います。
 この二胡は呂建華だった筈なので悪かろう筈はないのですが、この個体は音が率直過ぎると思いました。私が仕入れている呂建華はこんな音じゃないんですね。これも相当に古いので、演奏者のいろんなものが楽器に移っているのだと思います。それが気に入らないとは、何と失礼なことを言ってしまったのかと今日やっと気がつきました。ご本人に言うと激怒すると思います。しかし学校という環境で手堅い鳴らし方を日常からしていれば、このように大人しい鳴りにはなってしまうような気がします。(注記:この記述をご覧になって私が赵教授を嫌いだと思われる方がおられるようですが、私はたくさん赵教授執筆の本を持っている一般の練習生です。ただ残念ながら少なくとも赵教授は私を変な奴ぐらいには思っているのは間違いありません。)

二胡を演奏する刘光宇  それでは次に移りまして、刘光宇(liu-guang-yu)さんです。二胡を買ってこの表情・・そんな日が来ることを夢見ていらっしゃる方は少なくないと思います。理想のあるべき姿でしょうね。しかし普通は本当に良い二胡を見たら誰でも神妙になる筈です。刘さんはこの二胡とおつき合いが長いのかもしれません。老紅木でしょうか?

二胡を演奏する秋江  プロ使用二胡の分析のつもりが、おかしな方向に流れてしまったので、ここら辺で元に戻したいと思います。次は秋江(qiu-jiang)姐です。解放軍籍の奏者らしく、非常に本格的な演奏をします。中国は軍楽隊の発展形のような、軍内に音楽関係の部門があり、ここに属している人はかなり優秀です。軍の演奏家の方々はテレビでよく見かけられます。この二胡をぜひアップしてしっかりご覧いただきたいのですが、これは本黒檀です。どこで見つけてきたのでしょうか? 二胡の選別まで本格的ですか・・。姐の二胡はアップしてもまだわかりにくいので、弦堂で販売している本黒檀、似たようなものがあるのでそちらを良く見て下さい。録音もあるのではっきりわかりますが、今のいわゆる黒檀とは違います。かつては印度紫檀より材の価値としては上だったものです。これが手に入るなら印度紫檀二胡は買わなくても良いかもしれません。音が気に入らないなら手放すのではなく名工に蛇皮張り換えを発注すべきです。黄花梨を持っていても尚、本黒檀は持つ価値があります。黒檀と紫檀は音が違いますが同系統という感じの音で、老紅木と黄花梨も違うとはいえ近いものがあります。姐姐は、論文といい持ってる二胡といい演奏にしても(化粧も?)何でも本格的ですね。ついでながら補足しますと、本黒檀の新作はもうどこも作っていないようです。ほとんど購入できません。中古から捜索するしか方法がありませんし、古い材の方が理想的です。プロも同じように古い物を捜して使っていると思います。(といっても黒檀を捜すのは姐姐ぐらいか? 普通これ、見つけても買いませんよね。中国では黒檀は知られていても、本黒檀は知られていないからです。中国人はこれを「紫檀」と呼びます。彼らの中に「本黒檀」という分類はないように思われます。)プロの演奏家がまれに楽器街に出没するのは古材を捜すためなのでしょうか?
 前に楽器街の董燕(tong-yan)の店に古い京胡がありました。もう飛び散った松脂にまみれ見るからに古いものとわかりましたが材も非常に良く、私は時々暇な時に行って拉いていました。ところがある日、その京胡がなくなっていたので董燕に「あれはどこに行きましたか?」と聞いたら昨日、燕守平(yan-shou-ping)が買っていったと言っていました。

二胡を演奏する闵惠芬1 二胡を演奏する闵惠芬2  これは老紅木ですね。良材は印度紫檀より入手し難いです。インドネシア紫檀ということになる筈です。すでに言わずと知れた闵惠芬(min-hui-fen)阿姨です。鱗の大きな蛇皮が優れていると聞いている方は、この二胡の蛇皮をしっかり見るべきです。他の上に掲載した写真も見て下さい。彼らは最高級の蛇皮を使っています。節約してまあまあのものを張っているわけではありません。老紅木の良材を持っている場合は印度紫檀を買う必要はないと思います。一般の老紅木二胡は音がどうしても柔らかくなりますが、良材はキレがあるので紫檀の良いところも持っているからです。しかし印度紫檀はこれはこれで独特の個性的サウンドを持っています。細身の剣のようです。邓建栋哥,于红梅姐など若手の演奏家は紫檀材のそういう部分が好きなのかもしれません。老紅木はそれに陰の部分が加わり、また違った色気が加わります。これを好むか好まざるかというところだろうと思います。本黒檀はもっと美しく、最高のものは黄花梨とされています。だけど値段は上がっていきます。

 最後に劉天華の直弟子とされる大師・张锐(zhang-rui)で締めくくります。右の美人ではありません。おじいさんの方です。劉天華演奏については模範的な録音を残していることで有名で、こちらでダウンロードできます。
 そこでこの二胡ですが・・赵教授には見せない方が良いですね。二胡を持つ张锐材は何かわかりませんので、今度家に行って見てこようと思います。ただ巨匠は軍人ということになっているので、住まいのエリアは軍管理区であれば外人が入れるかわかりません。呼び出す? いやいや、90過ぎていらっしゃいますから。楽器街で2度お見かけしましたが、どちらもおばさんが2名付き添っていました。今度いつ会うのかわからないので、王小迪女史に昨日「今度紹介しといてや」と言ったら、0.3秒で「あんたはだめ。すごく年なんだから、もう・・」と言われました。しつこく他の方法を探りたいと思います。前に楽器街でお見かけした時は、弟子の弦を買うといって来られました。90の老人に買い付けに行かせる弟子が世の中に存在するようです。おそらく子供と思います。大人ではないと堅く信じたいです。弦の色をみて「大抵この色の物は良くない」と言って拘っておられました。私はこの時、天津甘栗を食べていましたが、老人がまさか张锐とは思わなかったので「お父さん、騙されたと思って、これ買ったら後悔しませんよ」と囁いてFangFangを勧めました。怪しかったと思いますがそれでも老人は買いました。老人が非常に上品なのでよくよく見て唖然としました。
 巨匠はこの二胡を非常に気に入っているようです。70年代ぐらいのものだろうと思います。弦軸は杨木(黄杨木・黄楊)です。琴托付きの古楽器は稀なので、相当な貴重品です。(後ほど巨匠のビデオを入手する機会がありその中でご本人が琴托について言及している部分がありました。これは板胡用のものを後で付けてもらったもののようです。微調整器が付いているので便利が良いと思ったからのようです。このような二胡は博物館にもないと自慢しておられました。これぐらい気に入った二胡が見つかると幸せですね。材は黒檀のようなので確かに珍品ではあります。)さらに追記:20代の頃に张锐と一緒に暮らしていたという沈立良に「張老師の二胡は特殊ですよね。あれはどこで見つけましたか?」と聞きました。沈老師は「ん? ああ、古いのか? なかなか手放さないだろう? あれは同居していた時に彼が余りにも酷い二胡を持っていたので私が瑠璃廟で新調したものだよ。満瑞興を知っているか? 彼が作ったものだ。」この言及が正しいとすれば1960年前後の作品ということになります。

 長くて疲れましたが、プロ演奏家の私物についていろいろ見てきました。おそらくこれまで「プロの楽器とはこういうものだろう」という概念がお有りだったと思いますが、想像とは多少なりとも違う部分があったと思います。良いものを見つけるのは段々と難しくなっており、金銭でも解決し難い程になっているので、すでに良い物をお持ちの方は大事にしていただけたらと思います。

二胡を演奏する江泽民 追記:最後におまけです。元中国国家主席でいらっしゃいます江泽民(jiang-ze-min)氏です。弦楽器が趣味でいらっしゃることはよく知られています。前に私は老師の奥様のチケットで老師と中国電影楽団の何十周年かの記念コンサートに行ったら、特等席だったためか、私の2列前が前首相の朱镕基氏でそのとなりが江氏でした。朱氏は京胡の奏者です。ご両名は仲が良いのでしょうか? 彼らと私を隔てる列はすべて黒いスーツの怖い人たちでした。
 この写真、小さくてわかりにくいのですが、この二胡も张锐のものとあまりかわらないようなものですね。黄楊の弦軸を採用しています。現行の二胡より小型の古楽器ですから张锐のものより古いかもしれません。江氏の師は宋飞(son-fei)なのですが、何も言わなかったのでしょうか? 新しいのを買った方が良いですよとか、身に付きますかね?など。これだけ達観した表情で演奏されると何も言えませんかね。江氏とは骨董街あたりでお会いするかもしれません。私と話が合いそうです。まだお会いしたことはありません。追記:日本人の知り合いの証言では彼が雲南省のどこかの街にいた時に、江沢民氏が現れて、しかも軽自動車を自分で運転していて驚いたということでした。中国には軽自動車はほとんどないので見ただけでも珍しいですが、そういう小さいものに乗って中国全土をドライブして、しかも北京から来たというだけでもかなり驚きなのです。江氏は高級なものや特別待遇を好まないと言われています。それがこういう素朴な二胡を愛することにも通じているのかもしれません。




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