天上人について - 二胡弦堂


 先日ある有名な漫画を借りて読んでいたら、その中で「天上人」というのが出てきました。世界政府内の貴族のことで、横暴な振る舞いを特徴としていました。全然関係ないのですが、これを見てふと、1つのことを思い出しました。本稿Q&Aにはいろんなことが書いてあって、皆さんの中には中国人老師に習っておられる方もおられると思いますが、書いてあることを老師にも確認すると「違う」と言われることがあります。そしてまた戻ってきて弦堂に確認する方もおられます。その時にこの矛盾はどういうことなのか話題になるわけですが、そういうのは結局、本人が経験を積めばわかることだったり、どうでも良いことが多いですが、聞いている本人からするとどうでもいいことではないわけで、特に費用を要する購入に関わることであればなおさらです。だけど言うことは人によって違いますから困ります。ここで言っているのは微妙な問題の場合に限っていますが、どうしてこういう矛盾があるのか、中国独特の現象ですし、こういったものは大抵ネットに書けないので、それで曖昧になってしまっている側面があるのです。弦堂ではある程度話して後は自身で判断下さるようにご説明するのが一般的です。それで混乱状態でほっておくような感じになってしまい、そうするとそれに対してご質問もありますからさすがにこうした事柄は扱うのが億劫です。それで当たり障りない範囲で関係することを少し話しておこうと思います。こういうものは皆さんとしても知っておいた方が良いことではないかと思うようになったので書いておきます。

 我々一般の市民は政治家とか企業の有力者が我々とは全く違う生活を過ごしていることを知っています。ただ収入と住いが違うだけではありません。上に上がると想像を絶する世界があると言われます。何でも好きなものが買えるからでしょうか。そんなものではありません。金なんかなくても何でも手に入るし。もはや単純な相違ではありません。あらゆることが素晴らしく手厚い世界、権力を掴んだら絶対に手放せない、周りの人がみんなとても信じられないぐらい良い人になる、普段見ている風景まで変わる、まさしく別世界のランクというものがある、とまあ、このように言われています(重役の秘書とか、そういう仕事の方はすぐわかるのだろうと思います。だけど日本は貧富の差が少ないので意識されることは少ない、そんなことはないという人は海外に出たことはないんでしょうね。海を渡ると桁外れに落差があって、天上人というより神と動物ぐらい人間に落差があって、あまりの衝撃に旅行者の中には自殺者も出るぐらいで弦堂の親戚にもそういう人がいたと聞いていますが、そういう状況は日本ではわかりにくいものです。一方で日本は良い国だと言えると思います)。こういった差というのはどこの国でもある程度は必ずありますけれど、それといわゆる下層とで、中産がないということでここでは仮定しなければなりません。中国ぐらい桁外れの人口を抱えていると、あらゆることに上下の層を付けておかないと全体に供給できないものが多いのでどうしようもありません。思うに中国というのは何でも中間がないですね。下から上がると急に上になります。桂林の山みたいですね。日本は富士山のようになだらかです。わかりやすくするためにここから以下、特権階級を「天上人」それ以外を「庶民」とタグ付けして進めることにします。

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 旅行してもわからないことはありますね。例えば先日ご質問があったのは「天然の蛇皮はあるのか」というもので、もしこれがなかったとしたら、おそらく二胡に使っている蛇皮はすべてベトナム産になるのかもしれません。これは養殖です。たぶんここからしか買えないと思います。中国は二胡製作についてはライセンス制で誰でも作れなくなっています。それは蛇皮の供給も管理されていることを意味しています。もう知っていることはそれぐらいまでにしておいた方がいいでしょうね。その他の産地で二胡に使っているのはビルマ産でこれは天然か養殖か今思うと聞いたことはなかったです。天然しかない筈です。気にしたことはなかったからですが、ベトナム皮より高価です。これは台湾の制作家も買っていますね。もう一つは雲南省です。これは天然です。弦堂はこの三箇所全部行っていますが(暇人ですね)、ベトナムはもう大っぴらに養殖していて、蛇レストランもありますが、ミャンマーと雲南はおそらくないし、表向きは蛇肉を食べていません。雲南では狩人を職人と呼びます。理由はわかりません。採ったらすぐに捌くからでしょうか。肉は食べる筈です。漢方にうるさい中国人が捨てるとは思えないですね。山に入って何週間も採れないことがあります。海ヘビは天然のみです。これは運動量が多いので陸蛇よりも良いものです。あなたはすでに多くを知り過ぎました。よく考えて下さい。これを多数の中国人が知っていたら皆買いたがるのではないですか。困りますね。金はあるんだから。さらに皆さんが弦堂以外のところに行って購入に及んだ時にこれらの知識を使って徹底追求してゆく、これも困りますね。本当に黙っておいてもらいたい、こうなるのだったら何もネットに書いてはいけないでしょうね。皆さんは鱗が小さい蛇皮は安物と思っていますね。薄いのはいけない、世の中、うそが多い、そういうことはあらゆるものを体験したらわかることです。弦堂が言っていることもほとんどいかさまかもしれない、ただ重要なのは「庶民の知識を理解して、それを標榜せよ」ということです。そして「自分ですべて確認せよ」です。

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二胡弦堂
創業2008年 二胡弦堂