イコライザー ~ 中国音楽の再生と録音 - 二胡弦堂


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 古くから中国製コンソールが残されていますので、そこから中華のイコライザーというものを究明してみたいと思います。西湖牌のコンソールでは(上の写真では下の方)音楽用と思われるストリップ(赤いつまみがある方)では1バンドのみのピーク(設定した共振周波数の部分を上昇下降させる)で、設定数値は単に倍々です。200,400,800,1.6k,3.2k,6.4kHzです。音声ストリップ(黒いつまみだけの方)ではハイカット、ローカットがついていますが回路図がないのでどの周波数でカットしているのかわかりません。これはそれほど深く考えて数値設定してはいないでしょう。西湖牌のこれより小型の別モデルでは周波数固定で2バンド(200,11kHz)のピークにハイカット(10.5kHz)、ローカット(50Hz)がついています。50Hzというのはこの辺りの設定は現代でもよくあります。10kHzを超えた辺りはこの辺をピーキングで盛り上げてハイカットですぐに落とすといったことが可能です。特性が絶壁のようになるので、LPレコードの規格に合わせてサウンドを凝縮させる意味があるものと思います。もう一つは200Hzがあります。西湖牌は特に中国音楽専用に作ったものではないかもしれないということはすでにお話しましたが、そのことは中華牌を見れば一層感じられます。中華牌(写真上の方)を見ますと、シェルフ(100Hz以下,10kHz以上)、ピーク(400,700,1.5k,3k,5.6k,6.8kHz)となっています。これも10kHzでカットできるようになっています。400~3kHzはともかく、それより上の5.6kと6.8kというのが不自然で、使いやすい定数の素子を持ってきてなんとなく決めたようには思われません。間隔もここだけかなり狭いような気がします。400Hzより下もありません。意図がなければ、このような数値は出てこないと思います。下の図で中央付近の色が変わっているところは二胡の大部分の音が集中している周波数帯です。イコライズポイントも示していますが、図で見ても5.6kと6.8kがかなり近いのがわかりますし、全体に高域寄りです。もう一つはハイカット、ローカットを示していますが、フラットな範囲に二胡の音がぴったり収まっています。もちろん二胡専用ではなくて、他の中国民族楽器、歌唱もありますが、いずれもこの範囲で収めて問題ないということなのだろうと思います。西洋楽器に関しては輸入物のコンソールがあるのでそちらを使うことで、機材を使い分けていたと思われます。





   中域に凝縮されたイコライズポイントの中で4kHz付近は避けられています。レベルとミックスの項で4kHz付近については扱いましたが、その部分とも一致します。本来なら普通に等間隔に配慮すると4kHz付近は出てくる筈だし、戦前の米RCAのシステムではピークが4kHz付近にありますから重視する考え方もあります。ここは中国音楽の奏者が雑音と認識するポイントですから、その部分を省くのではなくカットできる機能が必要と考えることもできます。しかしこれはやってみたらわかりますが、中国楽器からこの種の雑音を除くと精気を失います。音は非常に綺麗になりますが、死んだようになります。それでは足したらどうか、悪いのは言うまでもありません。雑音だけを強調するわけですから。楽器だけでなく、洗浄機のような生活機器の雑音も4kHz付近をピークに発生します。極めてデリケートなゾーンで、中国音楽においてはマイクのセッティングで対処するのがベストなポイントです。雑音というより一種の雑味ですが、こういう魅力は東洋独特でしょう。そこを外してあるというのは非常に興味深い点です。そのしわ寄せで5.6kHzになったのか?、一方10kHz以上はカットされるわけですから8kHzぐらいまで希薄になりますので6.8kHzでこちらも寄ってきて、この2つが割と近い位置になってしまったのか? 実際に音を確認しますとそうではなくて、中国音楽においてこのあたりはかなり重要であることがわかります。特にこの2つの周波数ポイントは絶好の位置です。もし5.6kHzよりも低くなったら音は硬すぎます。6.8kHzよりも高くなったら音は重くなり過ぎます。しかし7kHz以上の濃い音が欲しい、しかし重い音は困るという場合は3kHzを使います。3kHzの二次高調波は6kHzです。この関連性は重要でしょう。

 上のグラフでは、400,700,1.5kは盛り上がって山になっています。中華牌コンソールのイコライズポイントと一致しています。これは米国の古いユニットでWestern Electric 755という有名なスピーカーの周波数特性図です。非常に素晴らしいユニットで弦堂もALTEC時代の755を持っていますが、現在では復刻されて製造が再開したほどです(ということはヴィンテージユニットは最近非常に高価なのだと思います。弦堂が購入した時はステレオペア バッフル板付きで1万円以下でした。店主が梱包しながら「何でこれが人気がないのか?」と何度も独り言のように言っていたのを憶えています。当時はWEの音に憧れる貧乏人用のユニットとされていましたが、確かにそれは言い過ぎだろうとは思っていました。低評価の理由は昔の映画館の埋め込み用の業務仕様に過ぎないというものでした。ネット時代に入って情報があるから良いものを求める人が増えて評価が上がったのだと思います)。ところでなんで中国の周波数帯分析に米国の古いものを持ち出すのか、これは当然で、戦前の上海の放送が米国の技術、使われたのが米国から輸入の機器だったことについてはすでに触れました。少なくとも戦前の上海の音に関しては米国の強い影響にあったのは間違いありません。その系統が中国で後々まで基準になっていたのであれば、中華牌コンソールのイコライザーが米国物と一致したような周波数設定になっているのは十分に理解できます。WE755は49年製造なので共和国建国と重なりますが、割とクラシックなサウンドなので米国の伝統的な音響の1つを示しているという意味で設計の概略はもっと古いものだということはできると思います。イコライザーで100Hz以下と10kHz以上を低減していくと、少々見にくいですがWE755の特性図と大体一致します。これはラジオのカマボコ特性よりは優秀になっています。当時のハイファイ特性です。まだCDも出たばかりでメインはLP盤だったので、LP時代はこれが好ましかったのだろうと思います。当時の中国においてはメインはカセットテープですが、これもやはり10kHzまでで記録されます(それ以上の高域は落ちていきますが記録はされます)。WE755の波打った周波数カーブは美しい音の手本の1つです。設計されてこのようなカーブになっています。その技術が文革後にまで継承されていたことは中華牌コンソールを見て感じられます。そしてこのイコライズポイントを見て中国音楽録音のキモのようなものが感じられます。

 では、どのようにして400,700,1500という数字が出てきたのでしょうか。中国音楽では6kHzあたりを響かせると美しいということでしたが、3kHzも美しい、その半分の1500Hzも、さらに半分は750Hz、これは700ではなくて実際には750なのだと思います。その半分は375、ほぼ400です。もっと割っていくと48Hzになります。ほぼ50Hzです。商用電源の周波数です。商用電源はもう一つ60Hzがあります。この2つの倍音系列はズレがあります。60Hzの方は2k,4k,8k付近を通ります(下の表参照)。現代Neveのイコライザーは、まだ接点式のものがあるのでこれを参照してみます(右の写真参照)。Neveはユーザーが多いギターを考慮して8kHzがありますが、これはギターの場合は8kHzが美しく響くとされているからです。その倍の16kHzも用意されているのは偶然ではありません。これは60Hz系列です。一方、中域は50Hz系列になっているので中華牌と同じです。これは単純に等間隔に並べたものではないと考えるべきでしょう。このイコライザーでは、中域は中国音楽にも使えますが、高域については低減して使う使用法になることが予想されます。WEが設計した755も倍音系列に基づいて、つまり特性図で盛り上がっているところはこれは倍音の響きです。ユニットに倍音を足してある、楽器のように響く設計なのだろうと思います。同じ米国でもRCA系は4kHz,8kHzの並びで、スペインが本場のギターはこの系列で響きます。60年代のモータウンが2つのずれたイコライザーを使いまわしていたというのは、おそらくこれが理由でしょう。そうすると、イコライザーを設計する時に2つの倍音配列のうち、どちらを採用するか、或いは両方含めるのかという難しい判断が必要になってきます。どちらか片方を採用すると合いにくい楽器が出てくるし、両方を含めるとキャラが不規則に変わる配列から最適なポイントを探さねばなりませんから煩雑になりがちです。Neveが551を設計した数年後に発売したチャンネルストリップ 5035を見てみると(白黒図)、これにはメーカー発表で551と同じイコライザーが入っていますが、系列が60Hzの方に変わっています。551が出た頃にやはりブラックのチャンネルストリップで5051,5052が出ましたが、こちらのイコライザーは50Hz系列で、551と全く同じでした。ところで、二胡とギターという違う倍音系列の異なる楽器は合いにくいのでしょうか。結論は急ぎたくありませんが、何か違和感を感じることがもしあれば、それは倍音の響きをコントロールすることで改善できるかもしれません。ミキサーのようなボリューム式のイコライザーを操作する時にも倍音系列を意識すれば、適当に回すということがなくなりますので積極的な運用ができます。ただ機器の方の目盛りが合っているか、さらに各チャンネルずれているということもあるでしょうから、耳での確認は必要だろうと思います。また厳密に周波数を合わせ込むのも意味がありません。倍音系列上にスイートスポットが滲むように漠然と存在しているからです。中華牌コンソールにおいて採用されていた5.6kと6.8kの倍音を並べ、おそらくその中間が50Hz倍音系列の中心だと思うのですが、美しいのは中心よりも端の境界付近のようです。ギターで確認すると、7.2k~8kHzの範囲でしたが、Neve 5035では56Hz系列で通しています。そうすると400Hzの設定に違和感がありますが、パソコン上のイコライザーを使いギターで確認しますが、これは実際には450Hzあると思います。400Hzまで下げてしまうと合いません。

44 88 175 350 700 1400 2800 5600 11200
48 97 194 388 775 1550 3100 6200 12400
53 106 213 425 850 1700 3400 6800 13600
56 112 225 450 900 1800 3600 7200 14400
63 125 250 500 1000 2000 4000 8000 16000
75 150 300 600 1200 2400 4800 9600 19200

 Neveの他のイコライザー(他に別のメーカーで面白いのがあったら参照したいのですが、考えて数値を設定している感じのものがないのでNeveばかりで申し訳ないですが)、ホワイト系列のこれもチャンネルストリップで、中域はボリュームで指定は範囲内はどこでも可能、高域と低域だけ固定した周波数になっています。

 低域で見えなくなっている位置は35Hzです。60,100,220Hzはわかるのですが、35Hzというのは倍音系列から外れた音です。ともかくここで落ちてくると商用電源のハムノイズが消しやすいのだろうと思います。60と220は60Hz系で、100は50Hz系です。高域も4つ選択できます。4.7k,6.8k,12k,25kHzです。4.7k以外は50Hz系です。35Hzと4.7kHzの2つの外れた音が含まれていることになります。Neveは何かとギターユーズを意識して8kHzを用意する傾向があるのに、ここでは用意していません。12kまではわかりますが、その倍の25kまで用意しておいて8kがないのは奇妙です。60Hz系は用意していません。4つだけ選べるようにしてあるのは重要だからなのですが、そう考えるとこの配列は謎めいています。ところで、4.7kとは何なのでしょうか。Neveの70年頃に製造された古いチャンネルストリップ 1073では、高域は12kHz固定になっています(右図)。低域はここでもまた35Hzがあります。それ以外の3つは60Hz系です。中域は低い4つは50Hz系で、ここでも4.8kがあります。そして7.2kがあり、その上の10kは回路図を見ても記載がないのでこれはソフトウェアのスクリーンショットですから、後から追加したものかもしれません。全体に一貫していない感があります。わざとでしょうか。わかりませんが、現代の設計では統一しているし、2つの倍音系列を使っているところを見ると現代では倍音系列が意識されているのは間違いないと思いますから、過去は研究不足の配列だったのか、あるいは何らかの意図で混ぜていた可能性もあります。さて、4.8kの倍音系列ですが、上の図で青で示しています。第三の配列です。75Hz系です。再度、1073を見ますと、ローカットの配列が75Hz系になっています。それと重なるように低域を操作できるので、これはパルテック型に似ています。一方は下がっているのに、同じようなところを他方で上げれば、プラスマイナスで消えるような気がしますが、そうならずに波打ちます。肩特性というコブができます(パルテックについては後で扱います)。思うにこの倍音配列は音楽での"調"のようなもので、75Hz調は控えめで抑えた感じがあります。濃厚に出るのは50Hz調で、60hz調は爽快感があります。低域では60と75系を合わせています。これは偶然ではないでしょう。中域は50Hz系で濃厚に出していくので、低域を軽くしたものと思われます。高域では濃厚さを脇に置いて60Hz系で1つ用意し、それなのに最高域は50Hz系になっています(ホワイト表板のモデルと同じ考えか?)。4.8kHzは75Hz系です。どういうことでしょうか。おそらく50Hz系と60Hz系の楽器を合わせるアンサンブルで具合よくブレンドする必要があった場合、こちらが75Hz系で歩みよって溶け込む為であろうと思われます。歩み寄りが必要かはその都度音を聞いてみないとわかりませんが、オプションとしてここを持っておくことで対応が広がるのではないかと推測されます。これはコンソールのチャンネルストリップなので、同じものが横にたくさん並んでおり、各種楽器の音をミキシングすることもあります。重要な楽器は50Hz系で押し出すことはあるだろうし、バックは75Hz系で抑えることができれば、音量を下げるといったやり方で引っ込める必要は無くなります。また4.7kHzは人間の声によく合うように思います。声といっても様々ですが、極めて優秀な楽器であるゆえ、おそらく声が合うのは比較的薄い感のある75Hz系かもしれません。落ち着きがあります。キャラは強くありませんが、品があるのでじっくり取り組むと75Hz系は好きになれそうな雰囲気はあります。音が全体的に混濁しないようにするための低域の60Hz,75Hz系の選択だろうし、よくよく見ると全体的に絶妙な配置なのではないかという感があります。周波数もあらゆる設定が可能であれば設定に時間を要しますが、このように絞られていれば、クリエイティブに作業ができます。しかしおそらくこれは60Hz系の楽器とは相性はそれほど良くないでしょう。古い機器は個性が強いと言われますが、少なくともイコライザーに関してはこういう要素が大きいような気がします。現代のものは何でも合うように作ってあるか、倍音系列は考えて作っていないものが多いと思います。

 イコライザーの共振周波数は、抵抗、コンデンサー、インダクター(コイル)の組み合わせで設定します。つまりこれらの素子のバランスを変えれば、同じ周波数でも幾通りかの組み合わせが考えられます。素子は定数が決まっているので組み合わせは無限にはありませんが、自由に選択できるのであれば複数の選択肢があることになります。それでも素子の比率はなるべく一定に保つようにします。素子は誤差があるので、極力影響を受けないあたりのバランスで設定されるものと思います。それほど厳格なものではありませんが、バランスが大きく違うとキャラが変わってしまって使いにくいということもあると思います。その特性を逆に利用したイコライザーが米Western Electric KS16816です。

 8kHzで3種、5kHzが1つあります。インダクターとコンデンサーの比率を変えて似たような共振周波数で幾つかのカーブを出しています。ほとんど変わらないように思いますが、実際に使うと印象がだいぶん違うから、こういうものを作ったのでしょう。特定の周波数しか選択できないが、そこだけは数種あるという極めて珍しいタイプです。専門家のための機器という感じがします。可能な限り多くの人から受け入れられなければならない現代の製品では考えられないスペックです。ある周波数に手を加えるというのは、音楽に何がしかの不自然さを与えます。しかしうまく挿入された変更はむしろ魅力を引き立てます。そこを真面目に考えたらこうなるということでしょう。単に8kHzを上げれば良いのではない、欲しい感じが幾通りかあって、それがこれであるという感じがします。

 イコライザーでの変更は恣意的な印象を与えがちです。そこでカーブをナチュラルな方法で作り出すイコライザーがありました。パルテック Pultec EQP-1です。50年代に作られた古い設計ですが名機ですので、Pultec EQの歴史:60年間を歩む黄金の回路に紹介されています。下の方が最初に作られたタイプで、上が改良版です。一般には改良版の方で知られています。

 左端にバイパススイッチがあって、次に上2つ下1つの低音域の組み合わせがあります。下のノブで周波数を決定し、上の2つでブースト(上昇)、アッテネート(下降)します。これは普通はプラスマイナスに設定できる1つのボリュームで対応するところですが、Pultec EQP-1においては独立しています。両者のバランスは異なるので、どちらも同量使用したとしても相殺されてゼロにはならず、特性は波が発生し、設定周波数より高域にまで作用します。おそらくそのため、設定可能な共振周波数はかなり低く抑えられています。それなのに当時の説明書には、上昇下降を同時に使わないで下さい、という意味不明な注意書きがありますので、興味のある向きはダウンロードして確認してみて下さい。同時に使うから価値があるのですが・・。これで実際に操作しても現実にどんなカーブが形成されているかわかりません。わかる必要がないとも言えます。音を聴いて具合の良い感じを探します。そもそもなんでこういう訳のわからないイコライザーを使う人がいるのでしょうか。事実、最初期にはあまり注目されていなかったと言われています。しかし現代ではこのイコライザーが入っていないスタジオはほとんどないと言われています。音に重厚感を加えようと思ったら1kHzより低い共振点を探ります。しかし音は重くなります。スピードを求めようとすると厚みは失われたりします。EQP-1はがっつりした音が得られると同時に奥ゆかしさも醸し出せます。キレのあるシャープな、そして重量感もパンチもある、そして一歩控えた品もあります。いずれも相容れないもののように感じられますが、その全てが手に入ります。マジックです。素人が適当に3つのノブを弄っても獲得できます。クリエイティブな人には堪らない魅力があります。設定可能な周波数は、初期型では30,60,100Hzの3つです。30HzはおそらくNeveと似たような考えの極力低いところにポイントする意味合いで60Hz系ではないと思います。おそらく実際の数値はもっと高くてどちらかというと75Hz系だと思われます。100Hzは50Hz系ですから、狙いによって3種選べる仕様だったと思われます。50Hz系は重厚感がありますが、そのため100Hzまで上げて軽くしているものと思われます。しかし改良版では20,30,60,100Hzになりました。これは50,60Hz系を2つ持ったことになります。実際に音を確認してもそういう感じがします。特性は波打って不規則かもしれないけれども、やはり起点の共振点の特性は活かされています。

 右側にも似た組み合わせがあり、こちらは高域です。しかし低域の方とは少し違います。改良版では右上に3つの共振点が選べますが、初期型にはありません。初期型は10kHzで固定されています。これは下降するポイントで上昇はできません。倍音系列とは関係ない設定だと思われます。上昇周波数が起点になるからです。それは3k,5k,8k,10k,12kが選べ、改良型で4k,16kが追加されています。上昇下降のバランスで、盛り上がって落ちる「肩特性」が発生し、これがナチュラルな音響をもたらします。中央のノブは高域上昇の盛り上がりの横幅を決めます。一般に「Q」と言われます。これは横幅、そのすぐ右上のノブが高さです。一見、見ただけでは全く使い方がわかりませんが、一回慣れるとこれほど芸術的感覚で操作しやすいイコライザーもないでしょう。

 低域が100Hzで上昇下降を同時に行うとこのように波ができて、この図では1kHz付近まで影響を与えています。しかし説明書を見ると実機では3kHzぐらいまで影響しています。Pultecでは実際にはこの低域部分の波形はおそらく逆になります。上昇の方が強いためですが、このソフトではどうしてもできなかったのでとりあえずこのように出してみました。高域は10kHzで下降し、5kHzで持ち上げています。こちらはこの図の通りでほぼ間違いないと思います。このような波形はすでにマイクに組み込まれていることも少なくありません。マイクの周波数特性はメーカーが発表していますので、山の頂点がどの辺りかでそのマイクの特徴はある程度推測できます。イコライザーでのさらなる調整は乱れを起こしますが、良し悪しがありますから、じっくり聴いてベストのポジションを探せると思います。それでもイコライザーを使うのは1~2dB程度に留めるのがベストです。

 上図はシーメンス Siemensが60年代に設計したW295Aイコライザーの低域の特性図です。60Hzですがこのように肩特性が発生するように設計してあります。一方、高域は10kHzですが、ただ綺麗に上昇下降するだけです。さらに中域は周波数を設定できない、上昇下降のみしか調整できないノブがあります。これはメーカーが発表した図が見つからないのですが「a special tilt-eq」とアナウンスされているようです。スペシャル・カーブということですが、数学的に単純に狙った共振点を上昇下降するだけでは得られないカーブを必要とする理由があって、それはナチュラリティを求めるために他なりませんが、このような研究は現代でもハイエンドメーカーで行われています。このSiemens W295Aはほとんど機能らしいものは付いていない、見た目はほとんど何の魅力もない、何も書いてなくてよくわからないノブが少しあるだけのイコライザーですが、一旦音を通すとあまりの美しさに絶句します。

 パルテック型イコライザーは自作する人も少なくありません。使用するトランスとイコライザーは今でも購入できます。インダクターは、英Sowter 9325と米CineMag CML-150Tの2モデルがありいずれも、150/82/68/47/33/27mHでタップを出しています。

 非常に見にくいものですが、これが説明書に記載されている原機のイコライザー部だけの手書図で、初期型のものになっています。こちらはインダクターが50mHと100mHの2つしかありません。しかし直列(150mH)と並列(33mH)も合わせて4種類のインダクタンス値を得ています。共振点は計算しますと、2905,5032,9039,11127,12390Hzでした。初期型は10kHzでカットするのですが、その付近に3種も集めています。8kHzと表記しているのは実際には9kHz以上あります。この辺りで上昇させると10kHzのカットは絶壁になります。ほとんど垂直にすることもできますが、それでも通常は右図程度で処理されるものと思います。このカーブを操作するために3種も用意しているという、かなり特殊な印象を受けます。改良版ではカットは5kHzを用意し、ピークは4kHzを増やしています。20kHzと16kHzについても同様ですが、これも同じような目的かもしれません。とにかく絶壁を作りたいらしい感じを受けます。中域になるべく凝縮した音を詰めたいということなのだと思います。現代でもこういうものは必要でしょうか。使っているということはそうなのでしょう。デジタル時代ですが、やはり濃厚なサウンドを得たいということであれば、こういうやり方か、そうでなければトランスになると思います。トランスは良い意味でルーズで、カットはするが一方でダラダラ伸びるし、この辺が実に具合が良いのですが、しかし設定を変えるというのは、できないこともないという程度で難しいものがあります。トランスの特性を操作しようとするのはあまり効果がよろしくないことが多いです。

 そこでもう一度、中華牌のコンソールに戻ると、こちらは10kHzの低減が可能で、ピークは最高が6.8kHzでした。ということは絶壁で高域を断ち切ってしまおうという考えはないことになります。中国の多くの楽器はそれほど高域まで伸ばすのが重要な楽器は少ないか、おそらくないと思うし、一方で打楽器があります。これはかなり高域まで響くものがあります。その兼ね合いで絶壁は不要であると考えられます。それよりも50Hz系列の濃厚な味を重視していこうということなのだろうと思います。中国の古い録音を聞くと、低域についてはほとんど面倒を見ておらず、放置してある例が多々あります。全く重視していない感じを受けます。この考えは中華牌のコンソールを見ても感じられます。これはトランスでカットしてより中央に凝縮した音を集めるためで、そうすると非常に良いのですが、現代の音響装置で聴くとどうしても迫力に欠けます。迫力についても中華伝統の響きにおいてはそういう要素も比較的音程が高い打楽器に委ねますので感覚が違うのだと思います。よりハイファイで中華を録音するのであれば、Pultec式イコライザーは中国音楽においても有用です。非常に中国好みの重厚感が増します。それが早い段階で中国に入ってきていれば、おそらく中華録音の歴史は変わっていたでしょう。Pultecは最後までガレージメーカーだったので、選考対象にならなかったのかもしれません。これまで残されてきたものでも十分に良いのですが、それでも何らかの良い作用があったように感じられてなりません。

本稿は現状は理論とコンピューター上の検証に過ぎず、より具体的な検証も必要です。研究中ですので、明らかになった部分は今後訂正追加されます。
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