機材 ~ 中国音楽の再生と録音 - 二胡弦堂


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 PAの場合、大きな会場で拡音するという条件なのでマイクアンプやミキサーやその他の機材の質にどれだけ拘る価値があるのかわかりにくいものがあります。スピーカーから出た音というのは距離が離れると高域が減衰します。そうすると技術的な観点から見るとこれは劣化となり、イコライザーなどを使って修正したりする現場があります。その場合でよく見受けられるのは係員に会場を徘徊させ、機器で周波数を測定し状態を無線で連絡したりするような方法です。ここまでするかどうかは何を提供するのかも関係ありますが、いずれにしてもより良い品質を提供するのは難しいものです。実施そのものはやろうと思えばできるかもしれないし、やれば測定上の結果は得られるだろうと思いますが、人間の耳というのはそんなに単純ではない、データ上は優良な筈なのに聴感的に良くないということが往々にしてあります。それでも目的によっては、或いはエンジニアの考え方次第ではフラットな特性を目指していくことがあります。

 しかし提供されている音響がフラットでなければ問題だし、仕事としてやっている以上、そこは絶対に修正すべきなのではないでしょうか。必ずしもそういうことはありません。英国のタンノイ Tannoyやグッドマン Goodmanなどのスピーカーはそもそもフラットですらありません。100Hzぐらいの低域にピークがあり、中域は失われています。データを見ると不良品ですが、ところがこれを以てクラシックは最良だとされています。さらに距離を空けて音楽を聴くと高域はやはり減衰します。もはや総崩れの感がありますが、しかしこれが熱狂的支持を集めています。崩れているから良いわけではもちろんないです。当然タンノイ以外でも減衰はしますが支持されているのはタンノイです。つまり測定機で特性を測ってOKだったら優れているというほど簡単なものではないということです。蓄音機の音はかなりレンジが狭いですが、しかしCDなどと比較にならないぐらいの美音です。これらは自然な減衰が発生するのであればほっておくのが良いという考え方です。大きな会場で大きなスピーカーユニットを使うのは大抵良くないと言われます。つまり会場というのはどこでもそれなりに聞けなければなりませんが、大きなスピーカーは良い音が聴けるエリアが狭い、小さいユニットの方がカバー範囲が大きいとされます。これは人間の耳で聞いた結果こういう印象になることが非常に多いということです。1877年、音響学を確立した英国の物理学者 レイリー卿(1842~1919)は「音響について知るには、耳が最終的な手段である」「直接的であれ、または間接的であれ、音に関する問題はすべて、耳という器官を通じて論じられる必要がある。それ以外の議論はすべて無駄である」という言葉を残しています。一方で測定も重要でRupert Neveは「私の音響的見地から言わせてもらうと、サウンドデザインは100KHz付近までクリーンな音を維持すべきと考える。その辺りまで音が伸びていると、そのサウンドは温かく濃密で、スイートに感じられるんだ。理由は分からない」と言っています。

BBCが1933年に使っていたマイクの特性です。

最近のタンノイはというとこれです。大筋ではやっていることは変わっていません。主張にブレがありません。

産業技術総合研究所が提供しているフレッチャー・マンソンの等感度曲線です。このグラフに示された音圧が人間の耳にとってフラットに感じられるということで、多くのマイクやスピーカーはこのカーブを参考に現代でも作られています。


 しかしフラットだったらそれで快適なのかという問題があります。古いオーディオにはラウドネス補正のスイッチがついていて、フレッチャー・マンソンの等感度曲線に沿ってイコライズするようになっている機能がありましたし、それはやがてドルビーに変わりました。JBLとDOLBYいずれも現代では「言われてみるとそういうものもあったな」と思うぐらい忘れられています。ほとんどの人は使ってなかったんじゃないですか。ああいうものを使うと余計に悪くなると感じられます。しかしタンノイはOKなのであれば、やはり単純な曲線の問題ではないということなのでしょう。フレッチャー・マンソンの等感度曲線を見て、それをどのように使うかという概念の方が重要なように思います。そうすればミキサー(コンソール)を扱う時の参考になると思います。ちなみに、ドルビーのスイッチは現代ではほとんど見られなくなっていると思いますが、スイッチがなくなっただけであちこちに内蔵はされていると思われます。写真の例ではJBLの専門店でドルビーの技術が採用されていることを示す最新型テレビが販売されています。ドルビー氏はJBLの創業者 ランシングと関係があったので、両社は創業の頃から関わっていたことになります。

 PAというのは広いところで大きく鳴らし、人が多くて音も吸われるしなかなか難しいので機材の質が一定以上であれば問題ない、アバウトでも構わないという見方もできないことはありません。だけれど、演奏活動で収益を上げている場合、聴衆の満足度は重要だし、何か固有の主張を伝えたいということもあるので、そうでなくても最低限、中華の音を楽しんでもらいたいぐらいの気持ちは持っているものです。音は商品ですから。そうするとマイク、スピーカーだけでなく、その中間の機材にもある程度の考慮が必要になってきます。マイクやピックアップの出力は極めて微弱なので、それを増幅するアンプの質が悪ければ、聴衆には不快感を与えるかもしれません。この点、Neveの見解では「音の入り口でハイクオリティな音を確保できれば、つまり高品位のマイクやプリアンプを正しいセッティングで使い、良い音を取り込むことができれば、そのサウンドの完成度は最終的なメディア、つまり録音媒体に至るまで保たれる。例えそれがデジタルメディアであっても、だ。音の入り口は、それほど大切な部分なんだ」と言っています。つまり最終的なCDとかmp3では可聴帯域外の高域はカットされるけれども、録音段階では集音されていて"濃密でスイートな"サウンドが取り込めてさえいれば、後々いじられてもまずまず大丈夫ということです。いや、それはおかしいだろう、無い音が鳴るわけがないだろうと思われる方もおられると思いますが、それは違います。人間の可聴帯域は、20~20kHzです。CDもその範囲で記録します。それなのにNeveは100kHzぐらいまで保障すべきと言っています。そこまで音を伝送しても最終的なデジタルメディアには20kHz以上の帯域は記録しないのです。カットされるのです。一見おかしな話です。そしてそのデジタル音源からまたアナログに戻して再生すると100kHz以上は出るのです。何で? そういうものだからしょうがない。やったら出るんです。30年代のトーキー映画時代の再生スピーカーはいわゆるカマボコ型の特性と言われ、200~4kHzぐらいしか出ないし、レコードにもその範囲しか記録しておらず、その前後はバッサリ切られて捨てられています。ところが記録範囲外の4kHzより高いところと低音もイコライザーで持ち上げて強化した状態で、レコードにカッティング記録します。捨てるところを強めた状態でインプットし、そして捨てます。わけがわかりません。そういう古い録音を現代の機器で聴くと、音が眠い、痩せている、聞きにくいなどのネガティブなイメージを持ちます。ところがカマボコ特性のスピーカーやトランスを持ってきて再生すると極めて美しい音が鳴ります。さらにイコライザーで高域や低域を持ち上げると、何で昔の人が熱狂的に映画館に押しかけたのか、大恐慌時代の生活難の中でどうして映画が受け入れられたのかがわかるようになります。イコライザーで持ち上げてもトランスかスピーカーのところで捨てられます。捨てられるところを無駄に持ち上げます。もう話だけではわからんでしょうね。体験しなければ。実にミステリアスです。そして音には魔力があります。プロのオーディオ評論家でも、こういうシステム以外では聞かないとカミングアウトした人もいるぐらいです。どうしてこういう話をしたかというと、二胡は30年代トーキーぐらいの帯域しか使わないのです。

ビル・パットナム  最良のマイクアンプというのはレコーディングスタジオや放送局に備えられているミキシングコンソール、日本では「卓」などと言いますが、大量のツマミがウジャウジャと並んでいる大きなテーブルですが、これに内蔵されているアンプです。こういうプロ機器というのは故障によって仕事が中断されるのが一番困ります。それですべてモジュールになっていて、すぐに外して同じものと交換できるようになっています。おかしくなったら引っ張って外して新しいのを差すんですね。それでスペアパーツも結構必要です。全体的に老朽化すると全部新調しなおします。この種のものはすべて特注で、スタジオに合わせて設計しますが、モジュールを組み合わせるだけなので基本は外枠と配線を組むだけです(この配線がノウハウだらけなのです。一見簡単に見えるものほど難しいのです)。古くなったものがバラバラにされて中古市場に流されます。最高品質のものが安く買えますのでこういうものを漁ったりすることもあるのですが、プロのレコーディングエンジニアもやるし、サポートしてメンテする専門の業者もあります。マイクアンプ、イコライザー、コンプレッサーなどのモジュールを狙います。史上最高の名誉を得ているのは60~70年代の英Neve、70年代の英SSL、米APIで、これらのモジュールの入手は困難です。独クラングフィルム系であればまだ手に入りやすいですが、独のさらに上位の、北欧で作らせていた特注仕様はやはり入手難です。コンソールを発明したと言われているのは米国のエンジニア ビル・パットナム Bill Putnamという人物で(写真手前)、これは彼自身が設計製作したコンソールでレコーディングしている様子です。彼のコンソールに搭載されていた610マイクアンプはNeveもたいへん影響を受けたと言っており、このモデルは現在でも復刻されて販売されています(真空管式で、古き佳きアメリカの音がします)。パットナムはエレキギターの発明やマルチ録音で有名なレス・ポールと共にリバーブを発明するなど多くの功績があります。

 ここではモジュールを探す場合に参照できる複雑な独製のコードを資料として添付しておきます。マイクアンプのコード番号は、V72,V76で、数字二桁は真空管のシリーズです。Telefunken V72はビートルズが使っていたことで有名で入手難です。やがて半導体に変わるようになり数字は3桁になりました。作っている工場で型番を換えています。V72系であればxxの位置に72、V76であればxxに76という法則です。V672はテレフンケンのマイクアンプ、W496はノイマンのイコライザーです。

クラングフィルムのロゴ V2xx - Siemens(NTP)
V3xx - Tonographie TAB
V4xx - Neumann
V5xx - Neumann; Monitora
V6xx - Telefunken (後のANT)
V7xx - Telefunken/AEG
V9xx - Lawo (後にANT他も使用)
V10xx - Delta
V11xx - BFE
V13xx - Arnold / Nbg.
V20xx - Curt Hensmann, 後のAdis
 このドイツの規格でV72,76以外にもマイクアンプはありますが、それらはほとんどトークバックのモジュールなので注意が必要です。アナウンスなどの会話専用のマイクアンプなので基本的には音楽の録音に使うものではありません。東独や北欧のモジュールはこれとは異なった系統ですので参考になりません。

V72 - マルチアンプ(マイク、ライン、スプリット、サミング、バッファーアンプなどいろいろ)
V73 - パワーアンプ
V74 - ラインアンプ
V75 - サミングアンプ
V76~78 - マイクアンプ

U70~72 - VUメーター(メーターが内蔵されていないモデルはメーターに繋ぐ端子があります)
U73 - コンプレッサー/リミッター
U74~75 - トークバック
U79 - VUメーター

W90 - フェーダー
W93 - ハイパスフィルター
W94 - ローパスフィルター
W95 - ハイ&ロー、シェルフ&プレゼンス イコライザー
W96 - イコライザー


 工場によって個性があり、シーメンスは柔らかい暖かい音、ノイマンはシャープだと言われています。これらは改良を重ねながら最終的にICが使われるようになっていきました。後代の新しい時代のものは安いので狙い目です。ちなみに、この番号で工場を管理するというのは共産的ですね。ソ連や中国は今でもやっていますからね。これらのメーカーの"父"であるクラングフィルムがナチスによる事実上の国営企業で、この体質も共産的です。ゲッベルスの演説ヒトラーの演説ナチスによる手厚い研究支援によって得られたデータがあるのでシーメンスの補聴器は今でも日本さえ越えられない壁になっているし、ノイマンのマイクは世界最高の地位を維持しています。ヒトラー(左)やゲッベルス(右)の演説をより魅力あるものとするためにマイクが開発されており、そのために開発予算は青天井だったようです。現代では無理でしょう。ドイツ人は過去の遺産で食っていっているのです。それがこの開発速度の速い現代に何十年も地位を維持する程の凄い研究だったということに驚かされます。日本も世界で最も共産体制に成功した国であると言われてきました。就職したら生涯生活が保証されていた、今は状況が変わってはきていますが、日本ほど平等に近くて成功した国はいまだにないんですね。共産体制というのは工業国の成功の1つの方法なのかもしれません。中国共産は成果を出しても収入が変わらないから駄目になったという論説がありますが、日本もサラリーマンだったら同じですね。どっちの国でも成果に関わりなく給料一緒ですね。表彰で業績を讃えるとか紙一枚でお茶を濁すのも同じだし(最近は怒って訴訟する人もいますね)、同じようなことをやってどうしてこうも結果が違うのか不思議です。

 マイクアンプの選択において、ここはデリケートで高性能を要求されるので何らかの中国色を加えるのは基本的に避ける方向になると思います。というのはここをこだわるとコストがかかり、自分でやる場合は技術も必要です。マイクの選択に、後段でトランスを使えば十分だと思います。モジュールはプロ機器なので入出力はトランスを使います。従って、前か後ろ、或いは両方のトランスを外し中華製に換えるということが考えられますが、そこまでやると結構本格的なシステムにはなると思いますから1チャンネルでもそういう専用のアンプを作るということはあると思います。マイクアンプに真空管を本格的に使ったもので中古やヴィンテージは避けた方が良いです。ノイズ対策がたいへんです。これは多少ノイズが出ようとも構わず使っていくのですが、オープンリールなどのアナログ機器で記録するならいいですが、デジタルは合わない、だけどデジタル対応してある最近の新品だと問題ないだろうと思います。現代の録音設備用の真空管機器は車ぐらいの価格がしますが、これはノイズ対策、SN比と言いますが、これを稼ぐのが非常に大変なのです。ともかくこういった理由で中華的マイクアンプに手を入れるのは大変で、自分での改造も含めて慎重に考えるべき部分です。自信がないか、自分でやってうまくいかない場合は専門のテックに依頼することになると思います。しかし価値は十分あるでしょう。既製品に限定した場合、もしかすると北京797音響の幾つかは結構使えるかもしれません。前の頁で写真を掲載しましたMP201真空管式、Neve1073コピーのMP73があります。他にもありますが録音用ではこの2種のようです。高価なのでこれぐらいの金額を出すのであれば欧米の機器が買えるので、あえて中華製に手を出す人はほとんどいないようです。

 二胡を録音する時に複数のマイクを使っていくということはあります。近いところに1本立てて、部屋やホールの残響を録るためにもう1本という配置などが考えられます。また、近接して置いた2つのマイクの片方にコンプレッサーを強く掛け、少しブレンドしてみたりということも考えられます。伴奏があればその分増えますが、できれば1本で全部録った方がまとまりの良い録音にはなります。一方、複数のマイクを使っていくマルチ録音は個々の楽器の音が明瞭になるメリットがあります。このような複数チャンネルの場合ははっきり確定したものがない限り、それぞれバラバラに記録しておき後でミックスすることがほとんどだと思います。ミックスはバランスを考える必要がありますので、録音と同時にミックスしてバランスを誤ると後で修正ができませんので注意が必要です。またDAW(パソコン内だけ)でのミックスは不自然になりやすいと言われます。色々と技術的な問題があって難しいのですが、ソフトも日々改良されていて、2012年頃からだいぶん問題なくなってきたと言われています。それでもアナログ的な方法に拘る場合は、すべてのチャンネルをバラバラのままアウトプットし、サミングアンプ(音をミックスするだけの調整機能は何も付いていない単純なアンプ)かミキサーに入力してミックスした音をまたパソコンに戻して完了という回りくどいことをやる場合があります。あるいはこのやり方かDAWでミックスしたもの、いずれの場合でも音をDAWに返さず、別のレコーダーに記録するということもなされています。こういうのをミックスダウンと言い、普通はステレオ2chに纏めます。その後、マスタリングという調整を行ってCDに焼いたりします。

 このミキシングやマスタリングの時にイコライザー(EQ)やコンプレッサー/リミッター(コンプと言ったりする)などのアウトボードを使用して音を調整します。これはマイク1本しか使わなかったモノラル録音でも行われます。今やソフトウェアで可能なので、もうパソコンとインターフェースがあったら大概のことはできるようになっています。技術が向上してくると、過去の名機のソフトウェアでの復刻が出てくるようになり、手軽に名機の音が手に入るようになってきました。しかし厳密にはソフトとハードは違うものですから色々言う人はいるのですが、やがて落ち着いてきたら本物とは別物として別個にソフトを評価して利用していく流れになっています。これはソフトウェアを開発しているプロからすれば我慢のならない話で、YAMAHAの技術陣によるVirtual Circuitry Modeling技術によるオーディオエフェクトの開発で如何にNeveのアウトボードをモデリングしたのか苦労話が書いてあります(ヤマハはコンソールでもNeveと提携しています)。だけどよく言われるのは「ソフトウェアは微妙なレイテンシー(時間軸ズレ)が出る」というもので、これが微小な歪みになるから良くないと言われます。「ゼロレイテンシー」というキャッチがあちこちで見かけられるのはそのためです。パソコンには音楽を再生するソフトが入っていますが、これに付属の機能でイコライザーがついています。いろんなプリセットが入っているのでどれでもいいですし、フラットでも構わないのでこれに音を通してみます。そうすると音が重く不明瞭になる感じがしますが極めて僅かです。ソフトウェアの場合はこういうデメリットがどうしてもありますが、僅かですので仕事の種類によっては十分使えるし手っ取り早いので使っている現場もあります。しかしこういう技術的な問題は現代ではかなりクリアされています。ということは安いからといって古いパッケージを買わないようにしないといけないということです。それだとまだ無料のものをダウンロードした方が最新のものが使えるのでいいのではないかと思います。まだまだ改良されているし、批判的に見ている人もまだまだいます。もしソフトウェアが本当に優秀であればハードウェアは無くなっていくと思いますが、そういう兆候は今の所ありません。金額と使い勝手ががだいぶん違いますのでバランスをとってそれぞれに利用されています。

 ハードウェアの設計製造の方も容易ではなく、コンプレッサーの場合は世界のほとんどのスタジオにFET式の米ウーレイ Urei(現ユニバーサル・オーディオ Universal Audio) 1176(1967年開発)が入っているとされます。初期の基本的なコンプレッサー同じパットナムの会社から出していた別のコンプで光学式のTeletronics LA-2A(1962年開発)もあってこちらもベストセラーです。プロ用コンプというとまずはこの2機種というぐらい有名です。LA-2Aの設計者、ジム・ローレンス James Lawrence Jrは米軍でICBM 大陸間弾道ミサイルの開発時にこのコンプに使われていた光学素子を開発して音響に応用したのでLA-1(1958年開発)は光学式コンプの一号機だったことになり、FET式も後発のほとんどが1176のコピーやモディファイです。真空管式では米フェアチャイルド Fairchild 670(モノラルの660は1959年開発)が有名です。開発者のレイン・ナーマ Rein Narmaによるとほとんど売れなかったようで、そのため現物を見ることすら困難ですが、現在では最高の名機とされています(戦前のテレフンケン Telefunken U23と設計、音質共に酷似していると言われています。30年代に開発された史上初のダイナミック・コンプレッサーというTelefunken U3は1936年ベルリンオリンピックで使用され、40年代に入りU13,U23と改良されました。しかしIRT(ドイツ放送研究所,ドイツのNHK)の高度な規準は満たしておらず、そのため3年の歳月を掛けて開発されたのがU73でした。コンプの歴史はこの幹から枝分かれしていると言ってよいと思います)。ナーマは戦中の難民キャンプでスカウトされ米軍第一歩兵師団に無線技士として入隊し、戦後ナチス軍事法廷の音響を担当しました。その頃にドイツの音響技術に触れたのかもしれません。真空管コンプは極めて高速なアタックタイムを持っており、660/670は最速で200μSでした。ナーマはより音楽的であるためにはアタックが高速である必要があると考えていました。ダイオードブリッジコンプレッサーUreiが1176を開発した時に真空管に近い特性と言われるFETを使って20μSを達成したのも同じ考えと思われます。LA-2Aもオプト式としてはかなり高速で最速10mSでした。初期の機器はとにかく応答速度が速い傾向がありますが、世間がコンプの掛かり方に慣れてきて段々それほどは求められなくなってきたのかもしれません。それでも初期の高速タイプは今でもスタンダードです。真空管式ではALTEC 436(アタックタイム50mS固定)という名機もあってモータウンではこれをベースに使っていたと言われています。ポール・マッカートニーがEMIにこのサウンドを求め、436をスタジオで改良したのがRS124です。これらは現代でも復刻されています。

 これら名機とされているもののほとんどについて意識していなければならないのは、主に米国の音楽中心で見た時に良い道具ということなので二胡に合うかどうかは慎重に考えないといけないということです。Universal Audioなどは昔のアメリカ独特のプレスリー・シナトラ的甘ったるさを体現したような会社なので二胡もアメリカンになってしまう、流石にそれはどうか、気持ち悪いような気もするので、難しいかもしれないということは念頭に置いておくべきだと思います。APIも合わない気がします。その一方で、戦前の米国製と中国音楽は割と合います。この頃の中国機器は米国からの輸入だったことと関係があると思います。しかし戦後の中国音楽は比較的ドイツ機器と親和性が高く、ユーロ的な方向の方が馴染むと思います。しかしドイツ物は入手難が多いし、プラグインもほとんど開発されていないとかなり環境が厳しいものがあります。それで微妙なところで英国などに行く方向も考えられます。しかし英国は根底にロックの血が流れています。光学式コンプレッサー機器がまだ商業製品として流通していなかった頃は特注でしたので、EMIのアービーロード・スタジオ Abbey Road Studioは、自社で開発部門を持っていました。その開発部門が同スタジオをしばしば借り切っていたビートルズのために特注機器やカスタマイズに応じていたことはよく知られています。しかし機器は特注なのでそこにしかないものであればスタンダードにはなり得ません。一般的に普遍的な英国サウンドというと60年代のNeveになると思います。Neveが2252(1969年)を設計した時、ああいうタイプのコンプレッサーを作るのであれば、当然FETという選択肢はあった筈ですが、何かが気に入らず、ダイオードブリッジで組んでいます。この方式はドイツではトークバックに使っていたものでした(Siemens U274)。さらに改良された2254(アタックタイム5mS固定)、発展形の33609が傑作とされています。英国では米国製の感覚に疑問を持たれることが多く、島国人らしく改良が多数あります。一方で光学素子については否定しておらず、EMIの最初のトランジスターコンソールには採用されていたし、Neveも設計しています。その後、ICを使うVCA回路というものが米dbxによって開発され160(アタック・リリース共にオート)は今でも名機とされています。やがてNeveもSSLもVCAになっていきます。VCAはかなり機械的な掛かり方をするので最も音楽的ではないですが、時代がより高性能を求めていたのでそうするとこれしかなかったのかもしれません。しかし同じ英国でDRAWMERは主に真空管かFETを使いマルチバンドのコンプまで作っています。Neve,SSLあたりになるとスタジオで求められる普遍性が重要になってくるのでVCAだったのかもしれず、これぐらいの品質になると機械臭もしません。かなりナチュラルな掛かり方でガツっと来るし、深く掛けても魅力があります。

 コンプレッサーの比較ではないのですが、Neveがライブの仮設環境で使用する無線機器を開発し、それとSSLのコンソールを比較した動画を公開しています。場所はテキサスのOrb Recording Studioでグラミー賞にノミネートされたこともあるというCharlie Kramskyによるテスト、Neveの無線機器との比較対象は同スタジオに設置してあるSSL 6048 E/G+コンソールです。動画ではKramskyさんの後ろにあります。アンバランスな比較のようにも思いますが、趣旨としてはスタジオで最高の機材を使ったものと比較しても全く遜色ないということを示しているものと思います。この比較に先立ってはおそらくSSLにも許可は得ているでしょう。基本的に我々の中で成功した方であっても、このような機材の導入を検討することはなく、これらは録音会社の設備なので関係ないようにも思うのですが、しかしそれにしてもこの動画の比較はこの2社の特徴をよく表していると思います。スタジオで録音する機会もあると思うので、この相違は把握しておいた方が良いのではないかと思うので紹介することにしたものです。再生するものによって印象が全く違ったり、ほとんど違いがわからないこともありますのでそのあたりは注意して比較してみてください。


 ドイツ物ではシーメンスは半導体しか使っていない機器でも真空管の音がし、一方テレフンケン・ノイマンはすっきりした音がします。いずれの場合でも米国物よりは欧州の方が中国音楽には割と相性が良いと思います。全く合わないものもあるし、米国のものでも合うものはありますが。二胡に何が合うかということになった場合、どの方式であれ良いものは何でもそれなりに合うと思います。方式で相性は語りにくいと思います。演奏の個性を確定しやすいところではありますが難しい要素も多いと感じられます。中国では古くはコンプを使う伝統がなく、代わりにトランスを重用していたので、その方がナチュラルで良いということだったのかもしれません。現代の商業録音では音圧をしっかり上げて提供するのが普通ですが、場合によってはかなり踏み込んだ効果の強いものもあります。テレビ広告はおそらく全部そうです。中国伝統音楽においてはこれらとは一線を画しているのは良いことです。どうしても音圧の強い方がパッと聞きで評価されやすく、他はすぐに否定されがちなので、プロの演奏家におかれてはこの辺りを理解しておくのは必須ながら、勝ちを得て失うものもまた少なくないのでは残念なことです。勝ちに行くとどうしても商業性が高くなってしまい、芸術活動をしたい場合とは齟齬があります。この辺りは悩ましいところです。そう考えるとどんなコンプレッサーを持つかというのは哲学にも似たものがあります。

 コンプレッサーの方式をまとめるとこのようになります。

真空管 Vari-Mu管というテレビなどで使う球を転用します。おそらくこの方式と合わない音楽はないでしょう
トランジスタ トランジスタを双子のように組み合わせた(ムラード型?)初期のドイツの方式です
光学素子(オプト) 素子をドライブするために真空管やトランジスタ、ICがあります
FET 二胡に合うか? かなり濃くなって説得力は増すと思います
ダイオードブリッジ どっしりとしたコシのあるサウンドが作れそうです
VCA これ以外に他の方式のコンプがあるならVCAはバスにうっすらと使いたいところです
PWM Pulse Width Modulationという技術を使って1uS以下という高速タイムを得ることができます

 光学素子はオプトとも呼ばれますが、特殊なものとしてバクトロール Vactrol素子というものもあります。リンギングという反響が出るので、シンセサイザー音楽など特殊な用途でしか使われていません。

 YouTubeなどでFairchild 670の実機(ソフトウェアモデリングではなく実機)の検証をやっているものがありますので、真空管式のサウンドがどのようなものか把握することができます。静謐感、そこから泉のように沸々と湧き出すような瑞々しいサウンドです。個性や音質の議論を超えた魅力があります。Fairchild 670は数十本の真空管、多数のトランス、重量は30kgという正に化物ですが、実際に信号を操作しているのは、Vari-Mu管、それを受けるドライバー管、フィードバックの整流管の3つで、これだけでもあのFairchildのあの効果は十分にあります。完全にFairchildの音を得なければならないわけでもなく、表現そのものが欲しいのであればこれで十分です。回路の規模よりもインプット、アウトプット、電源の3つのトランスに何を使うかの方が重要で、おそらくこの考えで作られたものがALTEC 436だったと思われます。これをビートルズの録音に採用する時に英国のスタジオで作り変えられたのがRS124でした。そうであれば、東洋で作り変えればもっと良いのではないかということで、実際に確認してみました。パーツは電解コンデンサーは欧米製、ボリュームも1つは日本製、Vari-Mu管も中国製が手に入らず米GE製と完全に中華ではありませんが、それでも息を呑むほどのあのFairchild系サウンドが東洋に最適化された形で堪能できます。真空管時代の上海製トランスを入手するのがもっとも困難で、弦堂も1組揃えるのに1年程を要したので、このような困難なミッションに挑戦せずとも普通に日本の味が出るタイプのトランスを使えば現行であるし、中国音楽においてもそれで十分なのではないかと思います。もちろん現行中華のトランスでも良いでしょう。トランスでほぼ個性が確定されます。ALTEC 436については回路はネット上に多数あるし、オリジナル以外に改良された回路も結構ありますので実際に制作されている例は少なくないように思います。製作ができなければヤフオクとかハンドメイドのサイトでやってくれる人は見つかるから問題になりませんが、しかしパーツは基本的に収集を任せない方が良いでしょう。簡単に買えると思っているものが意外とそうでなかったりと市場が流動的なので、何かがないのだったら再検討が必要など、実際作るよりもパーツの収集の方が大変なのです。特にヴィンテージは大変で、再検討は数度を経ての取り組みになります。弦堂は検証していないと何も喋れないので時間がかかろうとも立場上確認のため無理をしていますが、皆さんの場合は自分だけだから現行のパーツでも問題はない筈です。何れにしても面倒ですが、そこまでやるぐらいにコンプは悩ましいものであるし、実行する価値は十分にあります。真空管式があれば他はなくても大丈夫ぐらいに圧倒的な効果があります。市場には割と安価で真空管式コンプが売っていたりしますが、管を1つだけ使って真空管式を称しているものなどは注意が必要です。12AX7(ECC83)という型番の球が使われている例が多くあります。確かに1本使えば真空管の音は鳴ります。それを求めているのであればそれで良いのですが、それは真空管コンプの音は出ないものがほとんどでしょう。12AX7をVari-Mu管の代換として使えば確かに真空管式とは言えるし間違いない、前に12AX7で作ったという人に会ったことがありますが、音は聴いていないのでよくわかりません。だけど普通そんなことするかね? 無理やり規格外の球を押し込む必要はないと思います。真空管コンプは球を3つ使っても通るのはラインレベルの信号に過ぎないので、それほど熱くもなりません。メーター回路は半導体で完成基板を使い、電源もダイオードで直流変換、それ以外を真空管式で通すというだけでもメーカーの立場からすると難しいことで、この辺りが手軽に入手できるものではない要因です。Fairchild系のあの音を目指さないのであればやめた方が良いような気がします。誰かに頼んで作ってもらうのは結構難しいことで、こちらは演奏者だけどエレクトリックには不案内、しかし市場で手に入らない味が欲しいから作るのですが、相手は逆で、技術はわかるが味は理解不明だったりします。そこへあなたが、見るからに骨董品のトランスなど持ち込むや彼の強烈な反発と軽蔑を招き、どうしようにも物事が前に進まないということがあったりします。捨てられる可能性もあり得ます。「もっと良いものにサービスで変えておきましたよ」という具合です。両方わかる人間は大手メーカーですらほとんどいません。優秀なテックが高収入なのはそのためです。人が見つかるか、自分が成長するかのどちらかの条件が満たせれば大丈夫でしょう。こういうことで真空管式については話さないでおこうかとも思ったのですが、できる人もいると思うので、まずは演奏の方に集中したい、だけど提供する音は考えたいという手っ取り早く最終結論に行きたい向きのために触れることにしました。内容は全然手っ取り早くなくて申し訳ないですが・・。

 ドイツのモジュールでコンプはあまりに高額なので手が出しにくいですが、トークバックモジュールならかなり安価で購入できます。アナウンス用ですから、かなり拘ったアマチュア無線家が使ったりしますが少数です。なぜなら自分が聞くためのものではないのです。相手に如何に美音を届けるかを追求しているわけですから、普通は自分が聞く方の環境に力を入れるものです。それで需要がほとんどないのだろうと思います。しかしこれは二胡と結構合います。当然ボーカルとは抜群に合います。ただパンチがあり過ぎて使えないということは考えられます。大きな問題としては演奏技術が高くないと良くも悪くも全部はっきりしてしまい、余程のプレイヤーでないと使用が躊躇われるということはあり得ると思います。とにかく声を非常に聴きやすくする趣旨のものなので相当な解像力です。しかし何もかも艶っぽくしてしまう毒リンゴ的魅力に抗し難いのも確かです。素晴らしい静謐感を加えることができます。霊感に満ちた音というと気持ち悪いかもしれませんが、気配がリアルに録れる、そして音が実態感を伴って迫ってくるという事実に感銘を受けることができるでしょう。弱音が明瞭に聞き取れます。Siemens U274真空管式があったら他は要らないと言った手前、これもか?と突っ込まれると返答に窮するのですが、それにしてもこんな凄いものをよく作ったなと感心します。この種のトークバックモジュールを使う場合は、別のマイクで普通のマイクアンプで集音した音も録っておき、後で混ぜるのが望ましいと思います。弦楽器の美しさと引き換えに低音を切り捨てるのはドイツのスピーカーやマイクでもありますが、ここでも大いにその路線が忠実に実行されており、非常に清らかではあるが、重厚感は皆無という、どっちも欲しかったら音を混ぜれば得られるという、しかし混ぜる配分は熟慮が求められるという、そういうものだと理解して間違いないと思います。繊細感と透明感を維持したまま、むっちりした迫力も得られます。ボーカルで耳に刺さりやすいサ行の音を処理するデュエッサーというものがありますが、これは主に高域をコンプレッションします。二胡に使用しても聴きやすくなります。トークバックはこの効果もあります。独トークバックモジュールのコンプレッションの方式に関しては双子トランジスタ型が多く、おそらく1種のみダイオードブリッジ型があります。Siemens U274です。理由はわかりません。IC時代になっても双子型はありますがダイオードブリッジは設計されていません。双子型(弦堂の設備はTelefunken U374)は中域が厚く、1mSという高速アタックを持っています。ダイオードブリッジはアタックが10mSで、音に繊細感があります。定数を変更すれば大体2mSぐらいまではいけます。それ以上速いと発振の恐れがあります。弦堂の設備は写真のように改造して2,4,6,10mSで選択できるようにしてあります(灰色ノブ)。ダイオードブリッジはこのモデルに関してはですが、高域に寄りすぎています。しかしそれによって高域の比類なき美しさを得ています。この特性はトークバック本来の使い方では不要であったと思われ、恐らくこれが原因で消滅したものと思います。しかし英Neveにダイオードブリッジが採用されたことで音楽でも、そして低域においても非常に有用であることが認められ、こちらはむしろ低音の楽器に合うとされています。Neveはネット上の音源で535を確認したのみですが、U274に対して約-6dBのフラットな音を混ぜると535と同じようになります。ということは現代のダイオードブリッジ型においても使われる音源が低音楽器のものであったとしても主に高域を処理している可能性が高いと思います。その上で内部でブレンド処理しているのではないか、それでもその処理は控えめにならざるを得ないので、Neve 535においてはブレンド用のノブも用意しているのではないか、それぐらいストレートでは使いにくいものなのだろうと思います。ただこれは推測に過ぎないので実際のところはわかりません。U274にしても使うマイクにもよりますので一概には言えませんが上海派の二胡であればブレンドの必要は感じないケースもあります。
 もう1つ、独トークバックモジュールでいささか特殊なものがあります。Siemens V274です。普通、トークバックというとコンプレッサーが入っているものとの概念がありますが、これはおそらく入っていません。説明書には丁寧に全てのトランジスタの働きについて書いてありますが、コンプについての記載がなく、1つだけ「動作点の平衡を保つ」という目的のものがあります。トランジスタの働きはインプットから説明し、途中にはフィルタについての解説まで交えているのに平衡トランジスタだけは最後に回しています。これがキモだということなのでしょう。このモジュールは幾つかの型番があってそれぞれ回路がアレンジされていますが、弦堂所有のものはA1で、ネットで一般に手に入る図はA6です。大きな違いは平衡トランジスタの配置です。これを使ってトークバック用の処理をしているものと思われます。もっともコンプ内蔵の機種においてもコンプがOFFの状態でもトークバックアンプとして機能します。このモジュールの目的としては「トークバックシステムの雑音を減少させる」と記載されていて、インプットは2種のラインレベルが接続できます。ラインレベルについてはレベルとミックスで扱いますのでここでは割愛しますが、業務用(+4dB)と民生用(-10dB)の2種があります。民生の方はCDプレイヤーとかそういう家庭でも使うような普及タイプの機材で使います。V274はこの2種を選べます。V274の前段にはマイクアンプを繋ぎ、その信号をトークバック用に処理してアウトプットします。ドイツのトークバックアンプこのマイクアンプで業務用レベルと民生レベルのどちらにも対応します。しかし半世紀前のドイツのシステムなので、業務用(+6dB)、民生用(-9dB)とわずかな違いがあります。アウトプットも選択でき、-9,-3,0,+6,+9,+15の6種類あります。後段のパワーアンプのレベルにも気を遣っていることが伺えます。アウトはともかくインプットは適切に設定しないと歪みっぽくなります。汚れた歪なので善用はできないものと思います。仕様としてはこういう感じですが、このモジュールもまた素晴らしく、1つのオプションになりうるのではないかと思います。また、このモジュールであれば、あと2種のコンプ内蔵トークバックのどちらかと連結も可能です。

 トークバックのこの3つの方式は確かに個性は異なれど、いずれも大筋では同じなので、1つ使えると判断されれば他の2つも使い方が同じなので問題ない、もちろん本来楽器に使うものではないので特殊な用法にはなるのですが、特定の楽器には非常に有用であろうと思います。V274であればどのような楽器にも合いそうな懐の深さがあります。U274はかなり攻撃的なので使いどころは限定されるでしょう。それでツマミを増設して調整する必要は十分にあると思います。じっくり聴くといずれも違う特徴があるので、3種持っていてもどれかを売ろうとは思わないでしょう。それぐらい魅力があります。トークバックのトークバック以外の用法で有名なのはドラムにこれを使うことです。英SSLによるとかつてエンジニアがドラムに「シークレット・ウェポン(秘密兵器)」としてトークバックを使っていたとして、500モジュールで販売されているLMC+ Moduleは、わざわざトークバックアンプを別途持ってこなくても、普通のマイクアンプにこの機能を追加して調整までできるようになっています。SSLの表記でトークバックは「リッスンマイク」とありますが同じものです。このLMC+ Moduleの設定項目を参照すると、トークバックモジュールを持っている場合、それをどのように運用するのかもわかります。使えるのはドラムだけではないだろうと思います。こういう飛び道具的なもので本当に使えるものは少ないですが、これに関しては飛び道具などというネガティブな範疇を超えていると言ってよいと思います。

 古いモジュールは安価で高品質なものが手に出来ますが、欧州の売り手はプロだし、相当経たってきているものをギリギリOKが出るところで見限って、それも1万ぐらいで叩き売ってきますので、メンテの技術は必須です。そもそもまだ行けるのだったらネットに流さないでしょう。そのような技術は相当勉強代を払っていないと身につかないので、安そうに見えてそうではないという、なかなか難しいものなのです。それで世間では大金を払って現代の業務機を買った方が安全で手堅いなどと言われたりしているのです。しかしメンテをやってでもなんとかしたいという場合に大雑把ではありますが、注意点を挙げておきたいと思います。モジュールを購入する時は既に壊れているものは極力避けた方が良いと思います。大体は電源部が壊れているので自信がある向きは挑戦になりますがこういうものであれば安く購入できます。しかしパーツが変わると音も変わってきます。ここが非常に難しいところで、だいぶん違う音になってしまうのだったらモジュールを入手した意味がなくなってしまうこともあるので、どうしてもパーツの交換が必要になった場合は何に変えるのかということは非常に重要です。40~50年経っているわけですから同じ補修パーツはほぼ手に入りません。それでも昔に製造された業務用のパーツですからほとんどは今でも普通に使えます。とても美しい音で鳴りますが、新しいコンデンサに変えるともっと澄んだ音になるので、古いパーツは音に濁りがあったことがわかります。特に電源部に古いコンデンサは危険であるし、こういうところは変えようということになりがちです。PhillipsやEROなどの欧州メーカー製に変えます。数時間の使用で甘い音が出るようになります。変える必要があるのはほとんど電解コンデンサです。外観が似ているものでタンタルコンデンサがありますが、これもほとんど問題ないし基本的に寿命はありません。Taと書いてあって大きさも小さいのでわかります。

 モジュールはメーターが付いていないので感覚に頼らざるを得ず、客観的に判断できないのはかなりのペナルティです。メーターのないコンプはちょっときついですね。このように、市販のもので気軽に「これにしておけばいいんじゃないか?」という感じのものがないんですね。有っても特定のメーカーのものは紹介しにくかったりします。良いものはもちろん現代でもたくさんあるのですが、それらはどんな音楽に使われるかわからないので、悪く言えば八方美人的なものにならざるを得ません。一方で、二胡の演奏家であればオリジナリティが多少なりとも必要になってくるので、根本で求めているものに乖離があります。しかも二胡は癖の強い楽器でとことんやりにくいので尚更です。しかしここまで考えるのはプロの演奏家に限られると思うので、収益があれば投資もできるのでなんとかなるでしょう。かといってある程度の方向性がないとどうしようもないと思うので、参考のために弦堂がやっていることをご紹介しました。より具体的な事柄については別稿、機材の回路図 ~ 中国音楽の再生と録音に記載してあります。

 FETは今のところ、やる気はありません。確認すると考えも変わるのかもしれませんが、いずれにしても二胡は真空管の方が良いでしょう。VCAはあまりにもノーマルなので、使い方にもよるのでしょうけれども二胡に関連してということであれば議論の対象にならない気がします。甘い音がするものもあるのですが。1つ言えるのは業務機でなければならないということぐらいです。PWMは古くは英Pye、スイスEMTのコンプに採用され、現代でも作られています。これもVCAと似たような扱いになると思います。後はオプトですね。世間では真空管を使ったものが良いと言われます。真空管式コンプとは違い、Vari-Mu管を使わず、コンプレッションは光学素子に任せます。Vari-Muも有ってということであれば、Vari-Muはバスに回すことになるのでしょうか。オプトは強烈な個性はありませんが、しかしそこが安心できる部分ではあるし、それでいてコンプに求める要素は全て備えています。最初に手に入れるコンプはオプトでありたいものです。普通に二胡に合う、守備範囲が広いにも関わらずそれなのに没個性には陥っていない、仕事は果たし、しかもナチュラルです。一番の利点は軽さでしょう。真空管はどうしても高電圧でトランスはある程度大きくなるし、極力コンパクトに作ることは可能なのでしょうけれども、ライブへの持ち運びは負担になります。モジュールはブレンドなどややこしい問題をクリアするとしてもメーターがないなどの要素がモバイル環境ではやりにくさがあります。オプトのメーターは発光ダイオード1つだけのものが多く、光の明るさでコンプレッションの量を見ます。コンパクトなものが1つあれば、結構有用でしょう。最近はパソコンのプラグインで十分、しかも無料で同じことができたりするので、実機はなかなか、良いものは車のような価格なので、オークション市場で古いものを狙うとか自分で作るとかそういう感じになりがちなのは残念なところです。最初はソフトウェアで行って、実機はじっくり考えていただきたいと思います。

 ALTEC 436のマニュアルの最初のページに使い方の図が載せられています。さらに後ろの方にも発展形の図があるのですが、どちらも用途はPAです。当時は録音での使用は想定していなかったようですね。現代でもそれほど変わらないシステムだと思うのですが、マイクからミキサーに繋いで、その後は多くの事例ではコンプが飛ばされてパワーアンプを通ってスピーカーです。コンプはなくても音は出せるので無駄だと考える向きもありますが、一回使ったら絶対必要だと、明確な確信を得ることができるでしょう。

 コンプレッサーというのは音の圧縮器で人間の耳が備えている急に大きな音が入ってくると小さく聴こえるようにする機能を再現するものですが、音が再構成されて不自然感が有る程度あったり高域も失われる傾向があるのでナチュラルさと一定の効果を同時に得るのは簡単ではないとされています。そこでイコライザー(EQ)を併用するのが一般的です。EQもまた難しく、英Neve 1073、1064、1081はマイクアンプとイコライザの一体型ですがこのようなものが有名です。パルテック Pultec EQP-1Aもよく知られています。パラメトリック・イコライザーの元祖であるGMLシリーズもまだ作られています。モジュールを狙っていくとテレフンケン系やAPIなどがあります。他にもまだあると思いますが、やはり価格と個体数の少なさという問題はあります。マスタリングが難しいのはこういう機材廻りの環境が大いに関係があると思います。デジタルの改善で状況が変わってきてはいますが。商業的にCDを売っていこうという場合は専門のところへ依頼するということもあると思います。業者もヴィンテージ機材を多数所有していることを前面に出してセールスしている場合が見受けられます。機材があるというだけでも受注に繋がったりするからです。こういうデジタルのソフトウェアとは違うアナログ機材を一般にアウトボードと言いますが、同じアウトボードでもマイクアンプであれば割と安価に入手できますが、それは出荷数が多いということと関係があると思います。EQやコンプ、リミッターはソフトウェアプラグインを使うか業者かスタジオを借りて自分でやるかいろんなやり方があると思いますが、マイクアンプに関してはソフトウェアで代用はできませんし、あれば自分でいつでも録音できます。いずれも費用面が最大の難関と言われていて、プロのミュージシャンだけでなく、専門のエンジニアにとっても頭の痛い問題になっています。最近は趣味と仕事の境界があいまいになってきた人などが、LPレコードの古い音源のマスターをレコード会社から供給してもらい、マスタリングして自分のブランドで販売というのも出てきています。ジャズの名門レーベルだった米BlueNoteの有名エンジニア ルディ・ヴァン・ゲルダーが自らマスタリングしたものも出たことがありましたが、彼のコメントによると「これまで何で自分にマスタリングを依頼しなかったのか不審に思っていた」ということで確かに巨匠のおっしゃる通りですが、マスタリングはそれ専門の技術なので専門の会社がやっていたんですね。CD初期の頃はかなり適当でマスタリングという概念もほとんどなかったらしいですが。ゲルダーは元々素人マニアで、自宅に自作の機器を設置し趣味で録音していました。それが素晴らしいという情報を聞きつけたアルフレッド・ライオンが視察に赴き、一般家庭に機材が置いてあるという環境に不満を隠さずに見回した後、一転して突如OKを出したのが、BlueNoteの輝かしい伝説の最初の一歩になったと言われています。ライオン=ゲルダーコンビの録音は規準、今やバイブル的価値があります。ゲルダーはデジタル時代に入った時も素人扱いされていたのですかね。大きな会社に入っていれば無条件的に受け容れられていたと思いますが、個人でやるというのはこういうことなんでしょうね。アメリカンドリームの規準が金銭で測られる国で、違うドリームを求めている人には生きにくいのだろうと思います。ライオンはドイツ人、マスタリングでゲルダーにオファーしたのは日本人(東芝EMI)でした。ゲルダーは59年に専用のスタジオを建設し、こうして個人でスタジオを作るのは当時では稀であったと言われています。機材も特定のもの以外は市販のものがなく多くは特注でした。この時にゲルダーのコンソールを設計製作したのがナーマでこれは彼が作った最初の1号機だったとされています。ナーマの製造したFairchildコンプのシリアル1番の購入者もゲルダーであったとされています。

 コンプレッサーとイコライザーの使い方については市販の本もあって事例毎に詳しく解説されていますが、フリーであればサウンドハウスの虎の巻という講座コーナーにそれぞれ数ページのマニュアルがあります。様々な設定をいつまでも憶えているのは無理ですし記憶だけでは応用はできないので、設定の理由まで考えるようにして下さい。馴染みのない楽器であればわからないこともあるので、それは無視して自分に関係する方向に転化して応用するか、大雑把にわかれば良いのではないかと思います。

 中国もコンソールに関しては割と古くからあります。現在でも中国製のこの種の業務機材があるのかわかりませんが、あっても特注ではないかと思います。古いものでは中国もかつては職人の国だったので優れたものは結構あります。中国人愛好家はこういう古いものを手に入れると、どうして技術が継承されてこなかったのだろうと思うようです。安価なポータブルラジオ程度でも全然品質が違いますが、そういうことを言い出すと世界中同じ状況で何でも昔より劣化していて、技術の継承の問題ではなく実際にはコスト圧力ではないかと思います。中国の放送局にコンソールが入ったのは1974年、文革末期で、上海電視台(上海テレビ局)の技術者が真空管で組み上げたものでした。2,4,6チャンネルの3種でした。同年にはトランジスタのものも作られ中国唱片廠(中国レコード)などに納入されました(93年まで使用。下の4枚組の写真では左上のモデル)。78年にはハイファイという概念など当時の最新の知見がもたらされ、79年には中国唱片廠がステレオでコンソールを組み上げました。上海電視台には82~84年にかけてスイス・スチューダー社のコンソールが数台納入されステレオ録音が可能になりました。Studer 169,961、英Klarktekinik DN360、DB361、米Lexicon 97,200、Orban 245f,424Aなど舶来品が納入されています。中国唱片廠にも1983年以降、MCI JH 500シリーズコンソール,スイスEMT 262、Scamp S04,05,06,25,30,31、Otari MTR—20,90、米Urei 6150,6250、JBL 4344、Klarktekinik DN60、Orban 111b、Eventide H949、独ANT C4、Audio 8xDesige、マスタリング用に米MCI JH—600シリーズコンソールが納入されました。外出録音用としては50年代の初めに使われていたのは真空管式1チャンネルだけでしたが、これを自前で2,4チャンネルに増やし、さらに50年代末にはこの4チャンネルにハイ、ローカットを追加したものを一台、同じ仕様で2チャンネルを二台製作しました。60年代末、杭州無線電廠製造の6チャンネルトランジスタコンソール(写真右下。右上も同廠製造の大型モバイル)、70年代中期には中国唱片廠製造の10チャンネル(左下)が開発されたことで真空管式と入れ替えられました。80年代初期には英AudioDevelopment 062モバイル型コンソールも使われるようになりました。これらはいずれもプロ使用で扱き使われているのでかなりボロく、一般的には購入は躊躇われます。これをメンテしながら使うという熱烈な中国民楽愛好家もいます。音楽家はトランスだけ抜いて使うのを好む傾向があります。

 西湖牌は80年代頃の初期型コンソールではステレオはなかったようです。見た感じ2チャンネルペアになっていますが、パンがなく、これはモノラル2チャンネル、或いは4チャンネル仕様です。中国では放送の視聴者が持っている端末がほとんどモノラルだったのでこういう仕様になっていたものと思われます(ステレオ放送は80年代初頭に開始)。一方、中華牌はレコード会社なので先進性があり、ステレオコンソールを自前で製造までしていました。おそらく新華無線電廠のOEMと思われます。左に現在の同社の案内がありますが「事務所所在地は、中国第一の大都市、魔都上海」と紹介されています。自分たちのいるところが怪しいのは住人もよくわかっているようです。中華の毒は上海人によって表現されるべきというプライドも滲み出ています。そしてまたここのコンソールが実に妖艶なサウンド、お堅い登記資料のようなものにまで魔都などと書きたがる人間が作ったものなのが躊躇いなく感じられる素晴らしい出来なのです。当時の中華コンソールの最大の特徴は少し大型のものになるとミックスを受けるバッファーが4チャンネルあることです。4チャンネル仕様は中華、西湖のどちらにもありますので、中国では標準的な仕様だったと思われます。左の2チャンネルはラインアンプで、右の2チャンネルにはコンプレッサーが入っています。コンプはおそらくフェーダーがスレッショルドで、かなり簡単な仕様ですから、これはトークバックでしょう。そうすると右のコンプ搭載の方が音声で、左は音楽でしょう。

 西湖牌コンソールの音をなかなか聴く機会がないのですが、中華牌のように自社での現場業務の経験に基づいて設計したり、民楽の録音専用に作ったりする贅沢は、製造専門だっただけに難しかったと思われ、汎用に徹した音になっていると想像されます。70年代のまだ西湖銘を使っていなかった頃の西湖牌はイコライザーにインダクター(コイル)を使っていませんでしたが、80年代に形状もコンソール型になってからはインダクターが使われるようになって高級化されていきました。回路もトランスイン、トランスアウトで、これは中華牌も同じでした。民楽愛好家は「中華牌こそ我が国最高の・・」などと言いたがるし、実際音を聞くと確かにその通りという感があります。中国音楽のために中国唱片廠が特別にコンソールを設計したというのは興味深い点です。

 最近の機器はどうでしょうか。例えば、英国のミキサーメーカー アラン&ヒース Allen & Heathはかなり優れた製品を作っていますが、近年、中国に生産を移しました。リンク先の文章は長いので最後まで飛ばして、終わりから数えて3段落目にかなり意味深長なことが書いてありますのでとりあえずそこを見て下さい。英国というのは世界最高のミキサーを作る国としてドイツと共に評価されていますが、アラン&ヒースも現代最高のメーカーの1つとして主にDJ用のミキサーを製造しています。これが中国に行ってから駄目になったと散々言われていて、そのことが書いてあります。ところがスポークスマンの反論はかいつまんで言うと「中国の方が優れている筈である」。そして「中身は全く同じである」と。ユーザーの批判とメーカーの見解はどちらが正しいと思いますか。どちらも正しいです。しかし1つ問題があります。ミキサーは楽器です。全く同じに作っても作った人間で音が違うのが楽器です。メーカーはそこが分かっていないと思います。いえ、実はわかっているのです。なぜなら上位機種は今でも英国で作っているからです。注意深く読んで下さい。「イギリスでは古い技術や機械を使っていますが」使っていた、ではないのです。使っている、です。そして上位機種は今なお素晴らしいと言われています。中国は文化が違いますので、英国設計のものを作らされて批判を浴びてしまってかわいそうです。中国人はやはり中国の感性を大事にすべきと思います。ブリティッシュ・サウンドは他国では作れないでしょう。

 音質面と価格面の両方をいろいろ考えるとマイクアンプだったら古いコンソールのモジュール、電源の用意が要りますしメンテも必要ですが、こういう中から選択するのは有力な方法の1つです。モジュールを使っていく場合、音量レベルがわかりにくいという問題があります。最近の機材であればダイオードが並べてあってそれで音量がわかるようになっていますが古いモジュールとか現行品でもこれが無いものがあります。絶対必要なものかというとそういうわけでも無いですし(弦堂個人はこれがないととてもやりづらいです。イコライザー以外のほとんどのアウトボードに簡単なものでもいいからメーターは必須だと思います)、デジタル環境でも全てのプラグインにメーターが表示されているわけではないと思いますが、これもやりにくいのは同じだと思います。いずれの場合でもデジタルメーターに結構不満な人が多いと言われます。そういう人は機械式針の旧式メーターに戻ります。針の動きからいろんな情報を読み取ろうとするプロのエンジニアにとってデジタルでは満足できない場合があるようです。これがどれぐらい繊細なものなのかを示すもので見てわかるものはメーターの回路図だろうと思います。

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 これはIRT U70 真空管式VUメーターの回路図ですが、たかが音量表示だけでこれだけのものが要るでしょうか。真空管だから規模が大きくなったわけではありません。この後トランジスタ回路にリニューアルされていきましたが、それはより複雑になっています。

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 改良型のTelefunken U370です。電源を外部からの供給に切り替えているのでより簡潔になる筈が、どういうわけかインターステージ・トランスまで増えています。これらのメーターは信号をインプットしたらアウトはメーターになるので入れるだけで何も供給するものはないのです。音質とは関係ない筈です(理論的には関係ないですが、実際にはかなり影響します)。信号を検知したらその分、針が動けばいいんです。ところがそんな簡単なものではないということがこの回路図の複雑さを見て感じられます。針は速すぎても遅すぎてもいけない、芸術的な運行が求められます。VUメーターなんてものは、今どき中国製基板にメーターを付ければ安価で動くんです。その現代でさえ高級機は、単にメーター表示だけの機材で何万円もします。それぐらいすごくデリケートなものです。如何にメーター監視がエンジニアにとって重要かということを示しています。確かにアナログ時代(テープ)にはメーター監視は重要だったのはわかりますが、デジタルでもそうでしょうか。重要性が下っているのでプロでも使わない人がいるぐらいです。しかしどんな音量レベルの信号を記録するか、その前の段階でもどれぐらいの信号を受け渡していくかというのがアマとプロの技術の差と言われるぐらい重要なので、いまだにメーターが手放せない人がいるんですね。このメーターの話は一応世間のことを知っておいた方が良いということで取り上げただけですので、あまり追求する必要のない分野だと思います。

 コンソールにはフェーダーも付いていますので、それも外されて単体で入手できます。しかしフェーダーというのは縦にスライドするボリュームに過ぎず、要するに音量を変えるためだけのものですから、コンパクトなシステムを組んでいる場合は極力使いたくないものです。必要性がもっとも少ない物のように思います。ところが一時(今もそうかもしれませんが)オーディオマニアの間でこのフェーダーが流行ったことがあります。録音用機器を再生で使うという奇妙な組み合わせですが、とにかく「音が良くなる」ということで大人気でした。さらにエックミラー Eckmiller製フェーダーの滑らかな操作感は触っているだけで病みつきになるぐらいの魅力を持っていてプロ機材の秀逸さに感動する人も出てきました。エックミラーはその社名でも製品がありますし、ノイマン、テレフンケンその他の黄金時代のドイツ製フェーダーは悉くエックミラー製です。しかし注意点があって、フェーダーにはスライドボリュームだけのものとアンプが入っているものがあって、ボリュームには音質上の御利益はない、肝心なのはこれについているバッファーアンプなのです。アウフェかベイヤーのトランスが内蔵されているタイプです。フェーダーは前後にモジュールが連結しますが、インピーダンスマッチングする必要がなければボリュームだけだし、合わなければアンプを内蔵してマッチングします。コンソールはすべて特注なのでそれぞれに対応します。このアンプは相当な価値があります。
 ボリュームは抵抗値を変化させるものなので抵抗値が固定の構造が単純なものよりも製造品質の面でペナルティがあります。それでアッテネーターと言われる固定抵抗器を複数使って音量を変えていくものもあります。このタイプはダイヤルのように切り替えるので20箇所以上の接点があります。それでも切り替え接点が多いのはマイナス面です。それにコスト高です。ボリュームが必ずしも品質が劣るわけではありません。フェーダーもアッテネーターではありません。優れた材料を使ったボリュームもあります。抵抗値によって用途もだいたい決まってくるので、それに応じた設計になっています。上の写真でボリュームが2つ使われていますが、これはスピーカーネットワークの値を決定する時にバランスを取るのに仮に入れたものなのですが、最初1つ使ってボリュームをゼロに合わせて素通ししているだけなのに音が明瞭に、そして濃くなって艶が出たので驚いてもう一つ使ったものです。無駄に使った方が良いこともあります。文革かそれ以前の上海無線電12廠製造です。良くも悪くも影響があるパーツなので適材適所での起用が必要です。

 リバーブもかなり難しいらしく、名機として知られているのは独EMT 140 プレートリバーブです。巨大な鉄板に音を流しそれをマイクで拾うという代物で振動の影響をすぐに受けるので専用の部屋に設置して遠隔操作する必要があるなどかなりややこしい物体で、しかもベッドぐらいの面積があります。ロンドンのアービーロードスタジオに設置されていたと言われますし、独グラモフォンのオーケストラ録音には今でも使われていると言われています。カラヤンの演奏など聞くと結構耳につきますが、正直使わない方が良いのではないかと思うぐらいです。ドイツのある駅に1932年に設置されたという貯水タンクをリバーブに利用しネットでアップロードするとやってくれるというTANK-FXというオンラインサービスがありましたが現在は閉鎖しています。こういうアコースティックなものでないと良いものはなかなかできないようです。皆さんのご近所に優良物件はありませんか。そういうところでリバーブ収録ができるかもしれません。歴史的録音ではトイレの反響を使ったという例もあります。トイレにはマイクが立っていただけですので、気がつかなかった秘書がトイレに入って水を流し、その音がレコードに記録されたままで販売されたと言われています。アナログで一般的なのはスプリングリバーブでこれは各社結構たくさん出していましたので中古市場で容易に見つかります。中にバネを内蔵していてそこに音を流します。振動でも音が鳴りますので、安定させて使う必要があります。デジタルであればレキシコン Lexiconが有名です。 二胡奏者にとってどれぐらいリバーブが重要なのかわかりませんが、中国の商業録音には必ずと言っても良いほど高確率で使われていますね。もしホールの残響であればすべての楽器にリバーブがかかるのに二胡だけ響いているという録音は結構多いです。とりあえずうちは1台、伊ヴァイカウント Viscount社 ガンマヴァーヴ GammaVerbというものがあります。18bit デジタルとありますが、CDの44.1kHzに相当します。現在ではHz表記の方が普通だと思います。ボーカル用のDeltaVerbというのもあるようです。ヴァイカウントはかつてかなり音響機器を発売していたようですが、現在Webページを見ると販売停止品目にGammaVerbだけが記載されていてそれだけで何もわからない、定価もわからないのですがebayで送料込み1万円ぐらいだったので博打で買ったものです。すごく小さいです。何でこれかというと、欧米にはオルガンという文化があります。教会に設置するパイプオルガンは巨大で高価なので、電子オルガンというものが開発されました。米ハモンド Hammondが有名です。これは教会の残響を再現するものでリバーブが命です。本物の空間の響とは別物ですが、電子オルガン独特の味が愛され本物とは別に評価されてきました。欧州であればイタリアにヴァイカウントがあります。こういうオルガンメーカーというのはリバーブに関しては最も極めているメーカーです。人を魅了する響きを追求し続けています。用途が宗教音楽なので神聖な響きでなければならず、チープなものは容認されません。そのヴァイカウントが単体のリバーブを出したということであれば、どうしても気になってしまいます。それで結果はどうだったかというと、やはりセンスとかそういう分野になるとイタリア人、結構良いものを持っていると感じられます。こんなに上品なものが、しかもデジタルで作れるのか、わざとらしい表現で申し訳ないですが「心が洗われる」というのはまさにこれであろうと感動してしまうぐらいの出来です。しかしキャラが明確過ぎて西洋の、それもクラシックでしか使えそうにありません。すべての音を否応なしに神聖な響きに昇華してしまうほどの影響力があります。こういうものをカラオケなどで使うと明らかに場違いで、むしろそこを楽しんでしまうこともできるのかなとも思いますがそれぐらい雰囲気自体を変えてしまいます。デジタルだろうが何だろうが結局は作り手次第なのだろうと、こういうものを見ると感じられます。こういう埋もれた佳作は結構あるのかもしれません。アナログリバーブはどうしてもある程度大型になる傾向がありますので、コンパクトなものを求めると内部でデジタル処理するものになってきます。リバーブというのは基本的に空間の響を再現するものなので、デジタルであれば「ルーム」とか「ホール」それがまた数種に別れていたりしていろんな響のチョイスが可能です。純粋にアコースティックを追求しているであろう録音にこういうものを使うのであれば、初めからホールの残響もマイクで録ればいいのにと思いますが、これがそんなに簡単ではないこともあって、カラヤンのグラモフォン録音は鉄板リバーブを使っているということでしたが、ベルリン・フィルハーモニーホールは多分音響がそんなに良くないので何かで置き換えたいというそういう背景もあったのではないかと思います。あちこちの会場を行き来する演奏家はホールを選べませんので、似たような問題が発生する可能性があります。響きの美しいホールで演奏できることは稀でしょうし、そもそも西洋基準の設計になっているので当然ですが、何らかの響きを求める場合、リバーブを加える問題は難しくなると思います。もっとも中国各地の戯劇院の響きはデッドなので、そもそも空間の響きを期待するものではないと思うのですが、あまりにも二胡にリバーブが多用されている現状なので、そのことについて少し触れておきました。

 アウトボードの過去の名機は現代でも復刻されているものもありますのでスタジオとか自宅に導入など使えることがあるかもしれませんが、すでに入手難になっているものについて知る必要はないように思えます。しかしプラグインは過去の名機のコピーが主なので世間で優れていると言われているものを一応知っていないとよくわからないということになりかねません。DAWに付属している無料プラグインでも多くは名機を意識して作られているし、ご自身の二胡に何が合うのか、最大手はWavesですが、こういうところの有料プラグインから探して独自の音を作ろうということもあると思うので、プロ用名機というものについてどういうものがあるかだけでも知っておくのは良いと思います。二胡は音程が安定しにくい楽器なので、こういうプラグインの中から自動で音程を補正するものを持ってきて修理する、手動で微調整もやる、他のプラグインも持ってきて仕上げるといったこともなされていて、そういうものが市販されていたりもします。やっぱりデジタルっぽくはなりますが、伴奏もmidiだったらその方が合うということもあるでしょう。midiでも非常に本物っぽいものもある、今時そういうものがフリーでもあるので、そこはやはり使い手次第なのでしょうけれども、どのオプションも選択肢と思えば使えるものはあると思います。

 マスタリングについては思うに、mp3を聴く時にも必要な気がします。CD音源からの圧縮もソフトによって質が違ったりいろいろあるので一概に言えないですが、CD品質と比較すれば痩せているのは間違いないところです。もちろん商業的に販売されている録音は最近のは特にプレス前にマスタリングは行われているので、そこをまたやるというのはいかがなものかと思いますが、mp3の場合はマスタリングまでやらなくても、視聴と同時に品質のしっかりしたアウトボードに通すだけでも音像がはっきりして力強くなります。もちろんCDでも通せると思います。真空管アンプは天然のコンプが自然にかかるのですが、そこをコンプを使うことで似たような効果、同じ狙いを得ることはできます。何を通すか、イコライザーか、コンプか、リバーブでも何でも良くて、それよりアウトボード自体の質ですが、良いものは良いし悪いものは悪くなると思います。アウトボードは基本的に一般の人が買うものではないのでスタジオを借りた時にレンタルになると思いますが、問題は安くても良いので自前で用意したい場合ですが、あるアウトボードが良いものかどうか見極めるのに1つヒントになるのは電源の扱いです。だいたいアダプタを使って電源を供給しますが、これがACかDCかを見ます。この違いは次項に書いてありますのでそちらを参照願いますが、ACのものはしっかり作ってあるものが多いです。ACで組むということは電源回路の各値をいい加減に決めたくないという意思の表れだからです。AC採用する会社でいい加減なところはあまりないですね。ACはコストが上がります。それでもやる、電源の設計も手を抜かないということですから。高級品でもDCはありますが、このあたりになってくると専用電源を供給するという前提で作ってありますのでこれはまた話が違います。2017年ぐらいに米国の法律が変わり、それ以降の米国製品は全部ACになるようです。安全面が理由らしいですが、そうするとアダプターというものがなくなっていくのかもしれません。

 この時にどうしてプラグインではなくアナログアウトボードに通すかですが、これは倍音、技術方面では高調波と言って同じものですが、優れたアウトボードはここに非常にこだわるとされます。ハイエンドのもので高調波を無視しているものはないと思います。倍音は、ドから1オクターブ上のド(第2高調波)、ソ(第3)、ド、ミ(第5)と上がります。第3、第5高調波は和音を構成する音です。これをどうするかが高調波対策の肝で、あまり響くようだと音が濁るので多くは押さえ込みます。かと言って完全に悪でもなく、倍音(高調波)はもっと上がると不協和音になりますが、これは天然のものです。ピアノやコンサートホールの響きではこういう音はあるし美しいとされます。とても難しいのですが、デジタルだと前提からしてこういう悩みはないですね。ソフトで加えたりもするのですが、自然に出てくるからそれをどうするかというのはないのです。そうすると、CDとかパソコンの中に入っているmp3を一旦外部に出力してアウトボードを通したら無いものが加わります。ケーブルが倍音を持っていたりするし、さらに機器はもちろんありますから、まさにアコースティック楽器として響くのです。響き直すと言った方がいいかもしれません。それをまた戻す時にデジタルになるのでまた捨てられるのですが、これがどういうわけか全然違うのです。無駄に通した方が良いのです。それを保存もありますが、多くはそうせずそのままスピーカーから放ちます。そうすると聞くたびにその都度、外部機器を使うのですが、面倒でもそうする人はいます。

 ネットで貸しスタジオを探すのであれば所有機材はリストしてあるのであらかじめ何が使えるか知っておくことはできると思います。録音は自分で機材の持ち合わせがなければそういうところに行くしかないと思いますが、ミックスとマスタリングはソフトウェアでもできますから、パソコンさえあれば自宅でも可能だと思います。色々高い要求をすると大変ですが、ソフトウェアはプロでも使っているぐらいのクォリティはありますし、簡単なので結構良いものです。割と多い考え方は演奏家とかエンジニアが独自の音を確立して常にそれを提示したいという場合に、ほとんどの機材はスタジオのものを使って一部のものだけを自前所有にするという方法です。すでに活動が軌道に乗っているか、野心的なものがある場合にこういう方法で投資されることがあります。Mr.ChildrenがAKG C414を必ず使う、このマイクは個体差がかなりあると言われているのでおそらく毎回同じ個体を持ち込んで使うのだろうと思いますが、場合によっては改造してあることもあるし、こういうやり方で明確にわかる特有の色を確立するということがあるということです。この場合はマイクだけ自前で持ち込んで、その他は特定のエンジニアに任せていると思いますが、エンジニアは何かあれば変わることもあるのかもしれませんがマイクの部分では確定させたものが欲しいということなのだろうと思います。演奏家の場合は録音をエンジニアに任せる立場なので、最低限これだけはというものだけ持っていることが多い、それでも余程あらゆることに精通しているエンジニアでないと慣れてないものは使いづらいので拒否されることもあり、一緒に音を作っていける話のわかるエンジニアを探す演奏家も少なくないと思います。改造した機器とか、こういうものを必ず通すことで聴いて誰の音楽かすぐにわかるような、何か固有の雰囲気のようなものを漂わせるようなサウンドを作ることもあります。これがアウトボードではなくソフトウェアということもあると思います。二胡の場合はマイクが難しいしスタジオには定番のものしかないから、何か特別な1本をオンマイクで使ってもらう、セッティングはいつも同じで決めていくということは考えられると思います。こういったことも総合的な演奏技術の一部だと見做すべきのように思います。スタジオを借りたらエンジニアのおっちゃんの意見をいろいろ聞くとか勉強すると見えてくるものがあると思います。こういう現場の人は顧客に合わせるのに慣れていますので要求すれば何でもそれなりに合わせてくれますが、いろんな人が来て色々見ているので知っていることも多いのです。もちろんこちらも真面目に取り組んでいないと、単にわからないだけでは何とも適当にやるしかなくなるので、何でも聞けば良いというものではないですが、狙いの音が出ないといったような時には参考になる要素は見つかるかもしれません。

 音楽の視聴はスタジオに行ってはやらないし、簡単な録音ぐらいは自宅でやりたいし、ライブをするというのであれば、それにエンジニアを雇えない場合の方が多いでしょうし、それだけで結構機材が要りますので、考えることが多いし大変なことです。女性の場合はこういう分野は苦手なので、伴奏者を固定で決めて、その男の子に機材の方もやらせるという場合が結構あると思います(結構あるらしいという話を聞いて驚いたのですが)。重いものを運ぶ必要もありますのでそれは結構だと思いますが、どちらかが技術的なことについてかなり踏み込んだ関心がないと説得力のある音は客席に届けられないと思います。


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二胡弦堂
創業2008年 二胡弦堂