機材の回路図 ~ 中国音楽の再生と録音 - 二胡弦堂


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 機材編でALTEC 436の製作とSiemens U274の改造についてありましたので、これらについてもう少し詳しく備忘録的に記録しておくことにします。

Altec 436 回路図

 アウトプットトランスは一次が設計値では7kΩx2以上、2次側についてはデータがあってALTEC436で390Ω、RS124で200Ωですが、基本的には後続の機器との関連ですから600Ω以下であれば問題ないでしょう。真空管用のアウトプットトランスではスピーカー接続用のトランスが多いと思うのですが、2次は16Ωあたりが選択できます。436は元々後ろにパッシブEQを接続するものだったので30dBほどゲインがありますから16Ωだと一般的な用途ではちょうどゲインが下がって良い可能性はあります。一次に150V以上の電圧が重畳されるので耐圧には留意せねばなりませんから、インプットトランスの逆接続はほぼ不可能だろうと思います。さらに巻線があれば音質劣化を気にせずゲインメーター用に使えます。プラス側にダイオードのマイナスを繋ぎます。ダイオードのプラスにボリュームをつけます。メーターを合わせた時におそらく大体2kΩぐらいになるのでそれ以上であれば大き過ぎない限り使えると思います。どんなトランスを組み合わせているかにもよるので一概に言えないのですが10kΩぐらいあれば対応できると思います。そもそも真空管の歪みを利用したりすることもあるので、その場合はレッドエリアまで針が触れるようにボリュームを回して調整するのですが、果たしてどれぐらいが適当なのか微妙なところですから好みで使いやすい具合で良いのではないかと思います。ボリュームからUVメーターの+に繋ぎます。メーターの+と−を繋ぐように47uFぐらいのコンデンサを入れます。容量は適当で構いませんが、針の反応が変わるのでたくさん手持ちがあれば色々試して下さい。快適さを考えるとここはどちらかというと神経質になった方が良い箇所です。針の挙動が早すぎる遅すぎるはうっとおしいものです。回路図に載っているメーターはゲインリダクションを示すものですが、こちらの方が重要です。コンプはこのメーターがないと非常に使いづらいものです。インプットトランスは耐圧が極端に低くなければ使えますので、トランスではこれが一番見つけやすいと思います。昔の回路なので一次600Ωだと思うのですが、ここはできれば10kΩぐらいにしておいた方が使いやすいと思います。そうするとゲインは稼げませんが、その方が真空管をドライブしやすいでしょう。2次側は1~10kΩぐらいで良いと思います。20k,30kでも良いのでしょうけれども、一次側との関連もありますが手持ちで適当なのがなくて新たに購入するのであれば10k以下が無難だと思います。中点タップがあれば2連ボリュームの中央に接続します。なくても構いません。現代は出力側も何でも対応できるように低くなっているので何か理由がない限り一次側に必ずしも10kといった高い入力インピーダンスが必要ということはないだろうと思います。しかしここは本機に関してはですがゲインがあり過ぎると使いにくいので、前段に接続する機器の都合以前の問題として一次側は高めに取りたいところです。

 電源トランスは、200vとヒーター用の6.3Vが必要です。ということは200Vに関しては倍電圧整流すればトランスがなくても構わないことになりますので、その図も掲載します。参考図ではトランスを使っての117Vになっていますが、100V直接でも大丈夫です。80uFのコンデンサというのは現代では冷蔵庫とかそういうものに使う工業用ならありますが音響用はなかなかないので手に入らなければ68uF或いは100uFでも良いし、もう少し後ろの40uFというのもほとんどないので47uFを使えます。ここら辺はあまり影響がないのですが、そもそも電解コンデンサなるものは誤差がだいぶんあって、その辺も織り込み済みで使うものなので、大体あっておれば全く影響ありません。大きく値を変えない限りほとんど変わりません。それよりどこのメーカーのコンデンサを使うかの方がはるかに重要です。100Vを直接引き込むにしても6.3Vは必要なので、電源トランスをなくしてしまうことはできません。電源は音質に非常に影響を与えるので、電源トランスを使用しないやり方は好まない人もいます。大体200Vですが、これをトランスから引き込みたいというわけです。電源トランスの味を重視するので、この場合は200Vが出ておれば何でも良いといういい加減な感じではなく、トランスの製造地にまで拘ったりします。ここに掲載している2つの図は6.3Vに中点タップがあるものとないものの2つがあります。もしない場合は47Ωの抵抗2つで接地しています。これがないとかなりノイズに悩まされます。中点タップを接地していれば抵抗は必要ありません。尚、実際には200Vではなく180Vぐらいが良いかもしれません。200Vだと電圧が設計値より高くなります。そこでチョークインプットに変えて減圧する方法もありますが、多少電圧が高めに出ても管の規格を超えることはないのでそのままでも問題はないように思えます。しかしそれでも設計図通りに数値を合わせておかないと周波数特性がおかしくなります。正確に合わせる必要はありません。大幅に高めに出るのは修正の必要があります。電源部に使っている10k(2W)と6.8k(5W)は供給する電圧配分の関係などで変更はできません。真空管式はトランスが重要なので、電源トランスと言えどもカットする方向では基本考えるべきではないと思います。カットしてある回路図も出回っていて、上の写真でアウトプットトランス付近が不自然に大きいですが、これは他から図を持ってきて重ねたのでこうなったのですが、元はアウトプットトランスをカットした例が載っていました。それぐらいアウトプットトランスの入手は厄介です。市販の製品で436をコピーしたというものがあってもトランスがカットされているものは選ぶべきではないと思います。業務機材であればほぼ問題はないので自作ができなければそういうものを買ってしまった方が手っ取り早いと思います。自作するにしても使いたいタイプのトランスが手に入らないなら初めからやめた方が良いと思います。真空管式ですし、せっかくなのでヴィンテージのトランスは使いたいという風にはどうしてもなると思います。

 真空管6BC8 Vari-Mu管のカソードは100Ωのボリュームで連結してあって、バランスが取れるようになっています。BAL.と書いてあります。管の経年変化で狂うらしい、昔はレコーディングの前にこれを調整してから使っていたらしいのです。狂うと音に若干のブレが出るということで、調整できるようになっています。メーター回路と並列に繋いでいるボリュームは回路を改造しなければ大体33Ωで良いようです。ボリュームではなく抵抗に置き換えても良いですが、メーターの微調整はできません。シビアにメーターを合わせたい場合や改造の可能性があるのであればボリュームが良いでしょう。巻線型がお勧めです。WEは100年前からこういうところに巻線抵抗を使っていました。無音状態の時にスレッショルドを最高まで上げてからボリュームを回してメーターのゼロの位置に合わせます。回路図では上から下に矢印がつけてありますが、これはこの方向にスレッショルドが下がってくるという意味です。リダクションメーターの場合は針の速度を調整するというものはありませんので、動作は大体どれも同じです(リンク先はいつまで掲載しているかわかりませんが、リダクションメーターの動作がムービーで出て来ます)。あまりにリダクションし過ぎると強く圧縮した感じが出るので最大でもせいぜい3dBぐらいに留めるのが基本です。1~2dBぐらいが適当でしょう。これは耳ではわかりにくいので絶対にメーターが必要になってきます。

 赤枠のアタックとリリースはボリュームをやめてセレクタスイッチに変えました。

Attack 20 22 25 30 40 60 80mS
27k +3k(30k) +3k(33k) +6.8k(39.8k) +12k(51.8k) +27k(78.8k) +27k(105.8k)
Release 300 500 750mS 1S 1.5S 2S 4S
680k 1M +510k(1.5M) +510k(2M) 3M +1M(4M) +4.4M(8.4M)

 アタックはボリュームでも問題はないと思うので、わざわざセレクタにする必要もないと思います。33k固定でも良いぐらいです。切り替える必要性が感じにくい部分です。とりあえず手持ちで材料があったのでこのようにいたしました。+は前の抵抗に連結して足していきます。リリースはこれも手持ちの抵抗で組んだのでこうなっていますが、全て連結にした方が良いと思います。その方が抵抗のエージングを進めやすいからです。赤枠内、メーターのすぐ右に1uFのコンデンサがあります。これは0.47uFに変えています。これを1uFに戻すと、アタック、リリース共に上記の表の値の2倍になります。あまり速くし過ぎると発振するのでこれで限界です。セレクタとボリュームのどちらが使いやすいかは難しいところで、セレクタであれば値の選択が明確なので、以前の設定を失うことがありません。忘れても思い出しやすいですが、一方、ボリュームは再現性に乏しくなります。位置を忘れたら後で分からなくなります。ボリュームはスライドしていくので、感覚的にポイントを探りやすいメリットはあります。しかしコンプは値が明確な方が使いやすいでしょう。効果が微妙なものなので少しずつ探るといっても結構分かりにくいからです。あれこれやっていたら途中で基準を失って混乱してきます。ボリュームであれば、遅いリリースタイムも得にくくなります。数値を挙げているので参考にしていただけると思います。リリースは遅すぎるように思われます。しかしこれ以上速くすると、アタックと被って音が消えたりする現象に悩まされます。300mSでも速すぎるぐらいで、ALTECによる回路は初期の436Aですでに1MΩ,1uFで1S固定(436Aはスレッショルドも無し)、EMIの改造では500mS以上でやはり1Mからになっています。

 さらにその英EMIによる改良、RS124を参照することにします。回路図は門外不出とされていますが一部には出回っているようです。本物とされている図を探したのですが見つからず、また製作してもうまくいかないという人までいます(おそらくその人の問題でしょう)。海外のフォーラムGroupDIYで文字の技術資料は見つかり、その変更履歴は以下の通りです。尚、このフォーラムで始めの方で掲載されているRS124回路図は数ページ後で偽だと指摘されています。その図も掲載します。しかし弦堂個人の考えでは、この図はほぼ正しいと思います。回路を秘匿したい人物が偽のレッテルを貼ったのでは?と感じられます。一応この偽回路も少し検証しましたが、テストでは電源部の補正回路やブースト部は加えておらず、完全な回路では調べていません。RS124は復刻されていますので、そこから数値を取ることは可能だろうと思うので、偽回路はそういうものである可能性はあります。一応便宜上、申し訳ないですがこれを以下、識別のために偽回路とタグ付けします。偽回路の通りに作るのは1つの方法です。

Rev.0  60.12.5  最初の図面を描く
Rev.1  61.2.2  セレクタに変更、ホールド追加
Rev.2  61.3.14  C5 C6を 0.022u から0.072u
Rev.3  62.3.27  V3 交換
Rev.4  62.4.10  入力に減衰器を追加
Rev.5  63.5.11  V3の1と5を入替
Rev.6  63.7.3   リリース抵抗をアタックの後に移動
Rev.7  63.12.5  C4は0.5u ブースト機能
Rev.8  65.4.2   C5,6は0.05u  V1カソードに130Ω追加 100kフィードバック追加
後にC5,6は0.02uに戻る

RS124 回路図

 変更履歴を見ますと、1回目の変更はタイムを固定からセレクタに変えて、それにホールドを搭載することでした。ホールドに切り替えるとその時のリダクション量を維持し、全ての音を一定に潰します。珍しい機能です。回路図はあるようですが見つかっていないし、この機能は不要なのでこれについては言及のみに留めます。このコンプは特に速いアタックで反応時に打上花火のようなボンボン音がします。場合によってはスローアタックでも発生し、この場合はボンとなってから遅れてリダクションします。妙な雑音が入るということなのですが、おそらくアナログ時代、あの米国ですし、適当にやっていたのかもしれません。島国人には許せないこういう問題、EMIによる改造はこれをやっつけるのが主な目的だったようです。スレッショルドボリュームの両側の0.022uF(22nF:赤枠)の値を高めると対策できるようです。0.072uFのままでしばらく運用されています。一年後に二極管6AL5を互換管に変えています。やはり入力を抑えたいのか、音量を下げる抵抗を加えています(図中記載無)。ここでは前述したようにトランスでゲインを下げたいところです。第五変更はスレッショルドの動作が逆になるだけなので特に意味がないと思います。回すとリダクションを強める設定になります。二極管からのフィードバックがアタックとリリースの抵抗の両方に入っていますが、第六変更ではアタック(33k)だけに入るようにし、リリースはアタックの後ろに回しています。リリースの反応を僅かでも減少させようということでしょうか? 実行してみましたがよくわかりません。そのさらに後ろの1uFは第七変更で0.5uFにされています。図中では470uF、その他ピンク枠の部分も変更されています。リダクション部にバイアスを掛けて音がより前に出るようにブーストを掛ける機能も追加されています(水色)。それから一年半ほどして第八変更では赤枠の0.072uが0.05uに減らされ、Vari-Mu管のカソードに130Ωが追加されています(濃紺枠)。さらにVari-Mu管と次のドライバー管のプレートを100kΩの抵抗で結びます(緑枠:グリッドにも小さい抵抗が追加されています)。そして間も無く赤枠0.05uFが0.022uFと元に戻されます。ということは、ボンボン(ローエンドレスポンス)は結論から言うとこの100kで解決するということです。元の436のままで使用して必要性が感じられれば、このように対策すれば良いと思います。更新履歴には270Ωの方は記載がなく、これを省くと弦堂の個体では相当な発振があり、0.072uFの方は効果があまりありませんでした。しかし270Ωを入れると生気を失います。そのためのブースト機能(水色)なのでしょうし、補正回路(黄枠)も入っています。

 このEMIの対策以外にインターステージトランスを使う方法も調べることにします。前段のVari-Mu管のプレート抵抗が大きいのでなかなかちょうど良いのがないと思います。5.3k x2です。弦堂で販売している「ヴィンテージトランス」は一次側が5k超なので2つ使えばちょうど良くなります。この場合は二次側の1kを直列にして4kとします。1つの方法は0.022uFと1MΩの間に入れます。中点は使いません。この繋ぎ方はクラーフ結合と言います。或いは、47k,0.022uF,1MΩの計6つを全部外すこともできます。B電源は一次側の中点タップを使います。タップには20kΩを介し減圧して電源を供給します。二次側には必ずしも中点タップは要りませんが、あればアースに繋ぎます。ボンボン音は無くなりますし、相性の良いトランスなら美しい音が鳴ります。ご紹介した2つの結合方法以外に中間的な方法として、いずれかのパーツを入れる方法、47kだけ外して0.022uFは二次側に回す方法もあります。

 この同じトランスを出力の方に使うこともできます。この場合は二次側は5-6,100Ωを直列に繋ぎ400Ωとします。一次側は7k程必要ですからマッチングが取れていません。それで二次側の接続を600Ω以上とした前提で(一次側のインピーダンスも上がる)、周波数特性を見ることにします。尚、3つ目の例では以下に説明を追加しているフィードバックに残った1k x2を使いました。

ホワイトノイズ 1kHz

ホワイトノイズ トランスのみ

ホワイトノイズ コンプに使用

 1列目は1kHzのホワイトノイズです。フラットではありませんが、これが基本だと思って下さい。音源はフリーでダウンロードし、波形の出るソフトは無料のイコライザで、いろいろ種類があると思うので、インターフェースさえあれば容易にテスト可能です。多くの環境でパソコンでの再生になることから不足気味になる低音を持ち上げているものを提供している可能性があります。2列目は弦堂販売のヴィンテージトランスです。低域が下がっていることでその他の帯域が持ち上がっているように見えています。中華音響の伝統的概念ではこのように低域が下がっている件については別項で扱っているのでここでは割愛します。聴感上はバスドラムなどの重低音が軽くなります。このトランスをAltec 436の出力に使ったのが3列目です。グラフの線は常に揺れているので正確には出ていませんが、ほとんど同じです。聴感上も変化はありません。そこをどうしても後から重低域を補償しなければならなくなった場合、電源をチョークインプットに変えれば良いと思います。150~200mHぐらいがちょうど良く、これを6.8kのところに足すのも有効です。完全な回復はしません。これは弦堂の個体の場合、チョークにまで中華ヴィンテージでテストしたからかもしれず、現代のものでもっと値を上げたものを使えばかなり補償はできると思います。しかし低音を回復させずサイドチェーンに刺す方が使いやすいでしょう。アウトプットトランスの一次側に7kHz以上のものに変えても、それがヴィンテージ中華だった場合、全く特性は変わりません。

 フィードバックはインターステージトランスを使用した同じ方法でトランス接合にできます。スレッショルドボリュームの右にある220kx2、0.022uFx2を外し、弦堂のヴィンテージトランスの場合であれば1kの巻線が余っているのでこれを直列に4kとし、ボリュームと整流管に接続します。ドイツの古い回路ではコンプのフィードバックは必ずトランスを使って戻します。そのためにわざわざ1つトランスを用意するぐらいです。だからこれはかなり重要な筈です。できればインターステージよりもフィードバックの方にはトランスを使いたいところです。

 偽回路は様々なテクニックを使ってオリジナルの問題を解消していますが、大人しく押さえ込まれる感があります。それを解消するための補正回路も備えているぐらいです。ALTECの回路は実に活き活きとした素晴らしいものですが、問題点もあるので対応せねばなりません。それで対応策を探したら最終的にトランスしかなかったので結果的にそうなったのですが、CRをほとんど使わずに真空管を接合していく回路は黎明期の米WE製あたりに限られ、後代にはこういうものは無くなりました。業務機器に関しても機器の連結とフィードバックにのみトランスを使い、それ以外はCR結合に変わっています。EMIも長時間掛けて改造に取り組んでいながらトランス結合は採用していません。そもそも436に採用されている真空管はトランスレスで使えるように設計されたものなので、そこへインターステージトランスを使うのは設計上矛盾があるということなのだろうと思います。トランスを使うのに問題があるという意味ではありませんから、場合によっては検討はできます。初期のコンプもCRとトランス接続が混在しています。トランス結合はCRとの比較で決定すべきと思います。例えば436の場合であればインターステージトランスを採用するかどうかは検討課題になってきます。しかしフィードバックについてはここはトランスが良いでしょう。

UA175 回路図

 UA175の図はクリックしたら別ページに拡大します。

 次にビル・パットナムが1176を開発する前に真空管で設計していたUA175、基本設計は436とほとんど同じですのでこれも参照することにします。電源部の整流にダイオードはこの時代既に使えたと思うのですが整流管を刺しています。現代でも可能なら特に音質上の観点から整流管を使った方が良いと思います。さらに信号部も1本増えている上、インターステージトランス、チョークコイルも追加されている重量級の編成です。Altec436を上回る手厚い設計ですが、その効果は高速アタックを実現している点にあります。100uSとAltec436の実に20倍もの応答速度です。一番遅いアタックですら1mSです。遅くするのは簡単なのですが、それなのに1mSまでです。やはりパットナムはスピード狂でした。436もインターステージを使えばタイムは速められそうです。説明書にはなぜか回路のバリエーションが5種も掲載されています。その一部はレシオの設定も可能で、それはアウトプットトランスの一次側に多数のタップを出すことで実現しています。現代ではこのようなトランスを得ることは難しいと思います。高電圧のかかる場所ですし実施は困難だろうと思います。

 さらに重量級の設計ではより古いFairchild 670もありますが、UA175、Altec 436とだんだん時代を経る毎に構造が簡略化されてきている感があります。436では高速タイムを捨てていますが、しかし一方で670にはあって175にないものが436で戻されています。インプットボリュームとスレッショルドの併用です。インプットレベルに応じてスレッショルドを合わせればそれで良いので多くのコンプではそうなっていますが(スイートスポットの観点から逆の方が理に適っているような気もしますが)、670と436においてはその両方があります。インプットレベルを上げていくと真空管がオーバードライブし、その分倍音が付加されるようになります。またレシオはオートになります(グラフ参照)。一定ではなくツマミの位置によってレシオが変化します。こうして見ると463はユーザーがイニシアチブを執る部分と天然に任せる部分がはっきりしていると感じられます。元々436元機はアタック固定、リリースも最初は固定で、後にリリースのみある程度調整可能になりました。アタックは33kΩ(50mS)に固定されていました。本来の436はインプットレベル、スレッショルド、リリースの組み合わせによるさじ加減で使われていたものでした。これでいいのではないかと、そう思わせるぐらいの説得力があります。EMIは同じ機材を幾つも作り、パーツの誤差で味の違いがあったので番号管理して使い分けていました。それぞれアタックタイムに結構な誤差がありました。それで現代ではやはりアタックは可変の方が良いのではないかという意見の方が有力だと思います。もっとも、アタックタイムを設定する抵抗器だけで変化が生じていたわけではないので複数の機器を用意していたわけですからアタック可変にしただけで意味がないし、いろんな演奏家と仕事をするスタジオだから色々必要だったわけで一般にはそこまでこだわる理由もないと思います。このことからわかるのは、本機を使用にあたってはアタックは最初から決定されているべきものだろうということです。アタックで大体のキャラを決めておいた上で使用するということです。かといって使った感じではアタック変更の必要性も感じないのでそれでオリジナルは固定だったのだろうと思います。もちろんこうすべきという話ではなくて特徴を掴むための癖のようなものの観察に過ぎないので、弦堂自身はアタックを平気でいつでもグリグリ回します。これは今でもそうです。そのうちもうちょっと落ち着いてくれば、やる前からほとんど全ての値が決まった状態になっていくのでしょうけれども、違う音源になるとまた回したりしています。

 全体的に見ると製造がより簡単なことも含めて436が良いのではないかということになるわけですが、しかし世の人々は670を最高だと言います。最大の違いはトランスの数でしょう。信号部で436は2つ、670は4つです。670は電源トランスも2つ積んでおり、これでは比較になりません。しかし670製造は困難だし、真空管がかなりの数使われます。とにかくトランスは重要です。使いたいトランスがあるから436でも良いぐらいです。436にトランスやチョークコイルを採用するのは、670に近づく意味で非常に有効な方法です。結論としては、436はオリジナルで作るのではなく、偽回路かトランス採用で初めから考えた方が良いと思います。偽回路の39kを100kに変え、ホールド回路を足したものがおそらく本物とされているものです。

Siemens U274 回路図

 Siemens U274の図はクリックしたら別ページに拡大します。

 ドイツの回路は天才的な細かいテクニックが多くてよく分からなかったりしますが、U274に関してはGroupDIYでもモディファイの方法が紹介されていて、やはりこれも見にくかったりしますし、そのうちリンク切れの恐れさえあるので、ここで再度整理することにいたしました。フォーラムはアタックをとにかく速くすることに拘っているようで数十uS単位まで攻めているようですが、やがて情熱を失ったように途中で開発が止まっています。開発はU274のコピーを作ってキットを販売しようという目的だったのですが、反響が乏しかったためか、開発者が他の仕事で忙しいというようになりそのまま止まっています。変に無理するとオリジナルから逸れることになりかねないので基本仕様のままで少し使いやすいようなアレンジを加えればそれで良いのではないかと思います。U274はかなり手に入りにくいので、改造に関してはこのような公開は意味がほとんどないような気がしますが、フォーラムでは自作されているので、自分で作ってでもダイオードブリッジ式を使ってみたいという場合は役に立つと思います。フォーラム内には開発途中の回路の録音も公開されているので、大体どういうものか把握することも可能です。もしU274そのものの個体を入手できたとしても半世紀ほど経っているので結局はトランジスタが飛ぶなど壊れていきます。弦堂の個体も気に入って使い回していたら時々音が途切れるようになり、おかしいと思って調べたらSST117が異常に発熱していて、周辺パーツは問題なかったのでこのトランジスタは交換しました。そのうちまた他のトランジスタも調子が悪くなり、やはり交換すると明瞭でコシのある音に変わりました。どこかダメになるともうほとんど全体的に寿命なのでしょう。抵抗とトランスについては如何に半世紀経過していようとまだ使えるものがほとんどです。抵抗は重要性が低いので、トランスを重視するのであればオリジナルユニットの入手は価値があるでしょう。このようにパーツを交換すればまた使えますし、オリジナルのシーメンストランジスタも見つかれば高価ですが購入可能です。弦堂はそういう古いのは怖いので現行品をあてがうつもりでしたが、結局前世紀の中国軍用デッドストックパーツを使いました。このように昔のパーツの方が良いという人も多いですが、もはや21世紀になってどれぐらい経ちますか?ある程度の割り切りも必要です。現代のパーツが駄目なのであれば、現代の業務機器も全部問題ありになってしまいます。それでもヴィンテージのシーメンスのトランスは非常に価値があります。クラングフィルムの血統を最も色濃く引き継いでいるものです。トランス無しでもいけるとは思いますが、本来業務機器という回路を使うのですから折角なので何か使いたいところです。サンスイのトランジスタ用トランスは安価で音が良いと評判なのでお勧めです(カタログ)。やりようによっては激安で良いものが作れます。サンスイのトランスは今でも作っているけれどヴィンテージサウンドです。しかも東洋の音です。現代のトランスは優秀ですが、サンスイはそこを敢えて捨てて古い味を大切にしています。後はコンデンサをケチらなければ如何に安いと言っても業務機器の品質は出せると思います。プロオーディオ品質のものを投入すべきです。トランジスタの互換については以下を参照下さい。

BCY66   BC182 CB384 BC414 BC550 BCY56 2N2369 3DG84B
BCY58   BC107 BC171 BC183 BC207 BC237 BC382 BC547 BC582 BCX58 3DG130C
SST117/1  BC140 BC302 BFY55 BSS15 BSW39 BFY51 BSY55 BSY83 BSY84 3DG3A

 回路図中央の縦長緑の枠内にスイッチが3つあります。これは全て連動させます。コンプをオンオフします。弦堂の持っているモジュールは購入時すでにスイッチ自体がなく、中で常時ONで結線されていました。レシオ(抵抗B)をつけるのであれば1:1にすれば完全ではないですがほぼOFFに近くなりますからスイッチは不要という判断でそのままにしてあります。おそらくスイッチは接触不良で外したのだと思います。ボリュームの方も接触不良が発生しどうしても稀に音が途切れるのでやむなく44dB固定に変えました。ラインでしか使わないのでこれで不自由はないし、常時44dBなのであればC2 100uFがアースに接地されたままなのでこれを外すことで多少なりとも向上が期待できます。ガリの出るセレクターもパスしたので音は随分クリアになりました。マイクを使わないのであればこれで良いのではないかと思います。レシオのボリュームが100kΩであればコンプの信号はほぼ通らないということになるので1:1ということなのですが、これをスイッチで実現するとコンプ基盤上のC3と本回路のC4がパラレルになり、約110uFになります。一方スイッチONにおいてコンプは∞:1で(実際は完全に∞を得てはいません)基盤上のC3のみの10uFとなります。スイッチだから中間がないわけです。それでセレクタにして抵抗値と静電容量を連動させなければならないのではないかということも考えられるところです。必ずしもそこまでしなくても良いのではないか、フォーラムでも指摘されていないので大丈夫と甘く見ていましたが、音をよくよくチェックすると万全を期した方が良さそうです。具体的にはコンデンサの値を合わせた方が音が鮮明になります。活きが違います。割と分かるぐらいなので対応できるならそうした方が良いと思います。尚、コンプ基盤上のC1~C3のアースはSNの観点から近接させる必要があります。しかしC3の10uFを変えるのではなくこれは固定とし、C4の方をセレクタで変える方がスイッチング時を考えると安全だと思います。値は以下の表に示していますが、結果的に単純な値になりました。実施において注意が必要なのはU274そのものを改造する場合、スペースがないということです。小さな2連式精密スイッチを内蔵するのであれば、おそらく4段のものしか得られません。1連だとコスト度外視で色々ありますが、2連は難しいと思います。5段は少し長いものであればあります。6段以上は横幅が大きくなって難しくなります。別途ONOFFスイッチをつければ5段或いは6段が得られますが、要求されているスイッチは3連なのでスペース上かなり難しいと思います。∞は必要なのか? 使わない可能性はあります。一方、1:1はあった方が良いのですが、抵抗CのHPF(後述)で0Ωにすればバイパスできるので絶対に必要ではないですが、コンデンサの容量を完全に対応させることはできません。もっともこれはコンパクトにまとめようという場合においてのことなので、モジュールを別ケースに収めてスペースを確保するなりすれば当然ですが如何様にでも可能です。同じダイオードブリッジ式のNeve 535の仕様を参照すると、以下のリストの内、1:1と∞がありません。OFFが可能なので実際には1:1もあることになります。そしてやはり535もセレクタでこちらは6段になっています。やっていることはおそらく同じです。そうでなかったらボリュームで問題ないからです。5段なら1.5:1を省くことになりそうです。4段なら3:1も省かれるだろうと思います。ご自身で製作される場合は1:1をONOFFに変える以外は全ての値を使った方が良いと思います。弦堂の個体では5段で1.5と3,∞を省いています。

∞:1 8:1 6:1 4:1 3:1 2:1 1.5:1 1:1
0% 13% 21% 32% 45% 60% 75% 100%
10uF 22uF 33uF 47uF 68uF ?uF 100uF
10kΩ 22kΩ 33kΩ 47kΩ 68kΩ 82kΩ 100kΩ

 スイッチ群の左にダイオードが4つ並んでいます。そのすぐ下にコンデンサが2つあります。これはオリジナルが50uFでアタック10mS,リリース2Sです。アタックとリリースは別々に変更できません。このコンデンサを10uF以上で変更できます。小さくすれば速くなります。10uFでアタックが2mSだと思います。弦堂はオリジナルの50uF以外に、10,22,33uFを追加して選択できるようにし、元はスイッチがあった穴に装着しました。ダイオードブリッジで10mSより遅いのはあまり意味がないような気がします。やはりNeve 535でもそうなっています(表参照)。10uF以下は発振の危険があるとフォーラムで説明されています。

 フォーラムではダイオード群の左上にあるC6コンデンサ220p(実機には200pが入っている)を取り除き、インプットトランスの右にあるC1コンデンサを5uF→22uFに変えればHiFiになるとあります。しかし後段にある本回路の方のC5バイパスコンデンサは外すべきではないとあります。重要性についても解説されています。この意見を取り入れるかどうかは各個人次第ですが、弦堂の考えでは、220pを外せば確かに高域寄りになりますが、音の芯を失い機械的な硬さがあります。感覚的な言い方であれば艶っぽさがなくなります。気配を失います。絶対に外すべきではないと思います。C1の変更についてはどうでしょうか。5uFのままであれば静謐感と優しさに満ち、22uFであれば外向的という印象です。しかしレシオでコンデンサと抵抗をきっちり連動させておればここでさらなる活発さを得る必要は感じられません。シーメンスの1uFとか5uFぐらいのコンデンサは古くなると数値が上ずってくる傾向があります。そういうものは音に濁り、反応の遅延がありますのでチェックは必須でしょう。半世紀を経ているのでしょうがありません。アタックタイムにこだわっておきながらコンデンサの鈍りを放置するのは本末転倒です。

 フォーラム内の試験機ではC6は100uFに変更されています。トランスを使わなければ丁度良いのかもしれませんが、約50Ωでコイルの抵抗分を補償してあります。いずれにしてもこんなに下げると高域に鈍重さを感じるようになるだろうと思います。それで C1,C6を弄ったのだと思うのですが、悪い方にしか行かないと感じられます。オリジナルの500uFはジャストフィットだと思います。

 抵抗Aは発振防止のために挿入します。オリジナルはトランスで減衰するのでAは不要だと解説されています。トランスレスでダイオードに1N4148を使うのであればAは100Ωは必要、UC3611Nであれば最低でも6.1kは必要とあります。1N4148は割と一般的で安価なダイオードですが、実験の結果これが一番良いようです。高性能ダイオードは電源部に使うのであれば良いのでしょうけれども、ここでは相性が良くないようです。

 抵抗Cはコンプにのみ(サイドチェイン)かかるハイパスフィルター(HPF)です。10kであれば72Hzですでに十分な効果があります。2kで361Hzです。ということはどれぐらいのボリュームを入れれば良いのでしょうか。弦堂は100Kを入れています。もうちょっと小さい方が、50kとか25kの方が良いかもしれないように思えますが、50k~100kの間でも結構変化します。100kだと72Hz以上の領域は狭くて操作しにくいですが、それでも大丈夫のように思います。HPFは何らかのミックス、演奏したのが楽器1つだけであっても別のマイクとアンプで撮った音を混ぜるとか、その程度であってもこれはほぼ絶対に必要だと思います。

 本モジュールは本来はインプットにマイクを刺すものなのでマイクアンプとして使えるし、ラインアンプとして使っても特に問題はありません。かなり特殊な構造の回路ですし、開発には何年も掛けて定数を決めているものですので、安易に既存の回路から変更するのはお勧めできません。ダイオードブリッジ回路へはアウトプットトランスからフィードバックを受けています。処理後Ts2に送り込まれ、カソードの方からインプットトランスに戻されています。2つのフィードバックが重なっているという構造でこれが回路全体を覆っています。複雑に連なっているので全体で完成している、部分を少し変えただけでおかしくなると考えた方が良いと思います。そうすると自作の場合にやはりトランスのインピーダンスは問題になってくるかもしれません。トランスメーカーによっても最適な数値が違う可能性もあるのでトライ&エラーで確認することになりそうです。

 この回路はブレンドが必須と思われるので類似の回路を採用した市販の機器にはそういう機能がすでに内蔵されているし、それらにはサイドチェーンHPF、メーターもあり、タイムは種類が豊富、非常に高速なアタックもあります。U274を自作するよりはるかに良い環境なので裕福な場合は現行の既製品を買ってしまった方が手っ取り早いと思います。メンテナンスは本当にどこが問題かわからなくて往生することがしばしばです。U274はスペックと使いやすさで見劣りしますが質は問題ないので、その辺りの違いになると思います。市販機器ではおそらく前述のNeve Designs 5355035AMS Neve 2254GOLDEN AGE PROJECT COMP-54Buzz Audio DBC-20Q2 AUDIO F765ぐらいではないかと思います。535はRupert Neveが今世紀に設計したもので、2254は70年代です。しかし現代の2254はNeve Electronicsを買収したSiemensの製造でSiemensの音がします。おそらくこの点にSiemens自身も気がついているのか、80年代に英国でAMS Neveに衣替えして現代に至っていますが、それでもまだSiemensっぽい音がします。だけど昔のSiemensとは違います。徹底されたSiemensではありません。作る人というのは如何に重要なのかということが感じられます。一方のNeve Designsの方はNeve自身が携わっていますが、昔のNeveのようなUKの音はしません。するという人もいますが、昔のNeveはゴリゴリのブリティッシュで誰でもそれとわかるぐらい、直に体感するとビビるぐらいのインパクトがあったのです。現代は毒が中和されていることで使いやすくはなっています。Neveのサウンドは維持されていますが、そこから英国の毒が抜かれている感じがあります。そういうものが求められているということもあるとは思いますが、米国に拠点を移したこととも関係あると思います。やはり作る人は重要です。意外ですが重要です。同じパーツを使っても音は違ったりします。そこで我々が自分で使うものを自分で作るというのは一貫性があるので良いことです。修理改造の場合も同様です。これらトランジスタを使った製品はプリント基盤を使っていますが、古いものはハンダで結線されています。特に高級なものは金を使っているものもあります。金の場合は触れがたいですが、銀ハンダで構成されているものはそこへさらにハンダを流し込んで分厚くしたりすることもあります。音が太くなります。しかし闇雲にやってはならず、細い方が良い箇所もありますので注意が必要です。見たら視覚でわかるとは思いますが。現代のプリント基盤はこういうことはできませんが、この辺りが古い機器と現代機器の音の印象の違いと言われることもあるので、自作の場合は配線にも留意したいところです。基盤はプリント特注ではなくて、穴がたくさん空いただけの板、PCB板と言いますが、を使い錫でメッキされた銅線で裏側を結線する方が音質面では良いと思います。基盤特注の方が作りやすいしスマートというのはあると思いますが。


 本稿では現代製品以外の選択肢でどうするかということで技術的側面から検討しましたが、コンプは一般の人が求めるものではないし、存在すら知らない人が大多数の状況ゆえ情報も乏しく、実際に公開されている情報の中でも十分に吟味しなければならないものも少なくありません。自作にしても、ギターのエフェクターのようなものであればともかく、ラインレベルの業務機器クォリティを求めるのはなかなか難しいことです。確実に使えるものでなければ浪費にもなります。そこでどうするかというのが本稿の趣旨で、さらに入手できた追加情報は後々も加えていきます。お勧めの回路が見つかった時にも追加します。真空管の方は弦堂自身が自作したということもあってほぼ全体が明確ですし、トランジスタや集積回路を圧倒的に凌ぐ説得力があるので、ぜひ挑戦していただきたいところです。もっと簡単になんとかならないかということも考えたのですが、コンプに関しては世間でも簡単には無理だと言われています。ソフトウェアはプロが商品にする音源は作れますが、ハイアマチュアが目指す芸術からは離れるので、どうしても実機を手にしたくなります。それでもソフトウェアを使えばいかにコンプが重要かはわかる筈です。とりあえず何かきちんと使えるものを持っていただきたい、仕事ではエンジニアを使うという成功している方におかれても自前でコンプは持って欲しいと思います。


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