抱翁堂製 明代成化年代復刻釉蓋碗と杯 - 二胡弦堂


 北京のかなり高級な茶店などに行きますと置いてある景德鎮・抱翁堂の茶器を入荷致しました。

 薄胎の白釉ですが、明代永楽年間に甜白釉というものが開発され、現代でも明代の白磁のいくつかは国宝級の品とされています。脱胎、薄胎などと言われる非常に肉厚の薄いその製作は極めて複雑で、数十という工程を踏む必要があります。そうして豊潤なクリームのような暖かさや、卵のようなふくよかさ、鏡のような透明感などを得ています。永楽以降も継続して制作され、いずれも時代によって少しずつ特徴が違いますが、優れたものは台北故宮博物院などに収められています。

 写真の右は、抱翁堂成化復刻白釉で、左は弦堂私物の明代甜白釉、両端の青花(染付)も弦堂私物で清代のものです。同じ15世紀、永楽より数十年後代の成化年間の白釉が非常に優れているということで現代でも復刻されています。左奥は抱翁堂成化復刻蓋碗です。朱泥茶壺も見られますが、これもかなり薄胎で、現代はコンピューターで窯の温度管理ができるのでようやく実現できたものだと思います。薄胎は焼成の時に窯の中で非常に割れやすく、特に朱泥は収縮率が高いので現代でも難しいものです。コンピューターがあるからといって、他より製造が難しいことには変わりありません。ある程度厚みがあった方が味が甘くなるのでわざわざ薄胎で作ることもないと思うのですが、特に台湾の方、凍頂烏龍茶を淹れるのに薄胎が望まれ、2010年ぐらいから台湾茶商がプロデュースした薄胎茶壺(朱泥に関わりなく)が結構出ており、以前であれば製作家の銘が入れられるのが普通だったところを、漢詩とか無銘で制作しています。その後、大陸の玩家も自分たちでブランドを起こして作っているものが出て来たりしています。最初こういうブランドが市場に出てきたばかりの時には、それまで類例のものがなかったのでこれは何だろうと思って訳がわかりませんでしたが、その頃に薄胎の朱泥というのが珍しかったこともあり購入したものです。最近ではブランドも増え、かなり盛況の感があります。そのうちこれらのブランドが作る茶器は朱泥以外にも拡大し様々なものがありますが、薄胎というところは変わっていないというのが現代茶器の特徴だと思います。しかし古代より宮廷に納めるような高級品は薄胎だったのですから原則は時代を経ても全く変わっていないということなのだろうと思います。厚みのあるがっつりくる茶器も充分魅力があると思うのですが、中庸を取ると薄胎ということなのでしょう。

 抱翁堂の店主・韓東(写真)は、彼のブランドのものは彼一人で作っています。他には安価な雑器も作っていて、そちらが主な収入源になっている件は他の工房と変わりません。かなり大きな会社を経営している社長でも、個人で趣味的に高級茶器を作って販売するという例もありますので、こういう仕事をやっているといずれは良いものを作りたくなるものなのかもしれません。それらと先ほど上記でご説明いたしましたブランド群とは異なり、ブランド群の方はほとんどがファブリスです。商品が外注ということです。彼らより前に先行してやっていたのは陶器製造会社の経営者など文化人で、彼らの製作活動は利益度外視の趣味の延長だったのですが、それを見たある人々が利益を考えても製作していけると思ったのか、外注でもうまくプロデュースすることで後にブランド群が林立してきたという流れだと思います。市場の中で自然発生した動きなので明確な法則はないし、ここ数年、弦堂が茶器市場を眺めていて漠然と感じたものなので、歴史として世間で確定されたものではありませんが、中国が豊かになってきて、質の高い物が求められるようになってきた表れだと思います。

 これら中国大陸での市場の動きは、台湾や日本の影響を強く受けることもあります。中国に関しては問題はやはり信用性の驚愕するほどの欠乏がまず指摘されますが、実際のところやればできるのにモラル方面で頭が全くついていっていないだけなわけで、それだったら厳重管理すれば良かろう的な考えと実行というものを台湾は非常に得意にしています。その中で最大の成功を収めたのが、ホンハイ精密工業です。茶器についてもすでに20世紀末頃から中国の安価な労働力を利用しつつ、ブランドの信用を損なうことのない品質管理で有名になった台湾メーカーが結構あります。大陸人からすると全く面白くない話で、しかも台湾メーカーが必ずしも高級品を作っているわけではなく、安価なお土産、贈答品のようなクォリティのものでさえ、大崩れしない無難な製品を保証することで矜持を保っている件も、何でそういうことが可能なのか大陸人には未だに理解不能という有様、そこに生きる道を見出す台湾人という構図は今も変わっていないのです。その中で薄胎というものは、台湾の影響があったからこそ市場に出てきたものだと思います。

 そこでもう一度、振り返っていただきたいのですが、高級品はなかなかビジネスとして難しいので、工房はどこも安価な雑器も作らなければならないというお話をしました。後発のブランド群とてそこは大きく変わりません。高級品はメーカーやブランドとしても満足感がありますが商業的にはかなり難しいものがあります。台湾の場合、実利に厳しいのでそういう本当に優れたものは作らない傾向があります。ドイツ人は本物を作りたがり、日本はその中間だろうと思います。ただ日本はもっと範囲が広いので本物は作るし、台湾的なものも作りますので柔軟性があります。台湾は価格と質のバランスにシビアで、相当良いものがそこそこの価格で買えます。大陸人から見るとその辺は冴えないと感じるようで、中国人の場合は大胆に高額商品をどんどん作る傾向があるので、市場としては大陸の方が面白いのです。良いものを作るとなったらそこは徹底するんですね。中国人というのは意外と遊び心があるんでしょうね。日本ほどではないですが、そこら辺も大陸人はよくわかっており、日本に行って勉強しては帰って彼らの文化の中で咀嚼して何かを出すという動きは21世紀に入って活発になっています。日本にないものを作ったりするので大変興味深く、抱翁堂などはそのうちの1つに過ぎません。

 入荷しております成化の釉のものですが、蓋碗と杯の2種です。蓋碗は満量で100ccぐらい、蓋の位置で70~80ccぐらいというところです。そこに茶葉も入りますので得られる茶水の量はその分少なくなります。杯は満量で40ccですので、蓋碗は杯のちょうど2杯分ということになります。緑茶の場合は蓋碗だけで淹れることもできます。その場合は、蓋を少しずらしてその隙間から上澄みを飲みます。緑茶に湯を注ぎ、茶葉が沈んだ頃に飲みますが、静かに上澄みだけを飲んで底の方は残して茶葉を水没した状態に維持するのがコツです。そこに湯を足す時に水流だけで撹拌します。そしてまた上澄みだけを飲むを何度も繰り返します。最後は全部飲み干します。これは緑茶だけの泡法で、他の茶は出し切らなければなりません。杯に直接注ぎますが、茶海に一気に注ぐ方が一般的です。しかしこの極度の薄胎で茶海は作れなかったのでしょうね。泥の質を落とせばその限りではありませんが、それだと別物になるのでおかしくなりますからね。同じ理由で茶壺も作れなかったようで、最終的にこの2種となりました。蓋碗には茶托もついています。しかし中央が空洞になっており、そこに蓋碗が収まるようになっています。これまでしばらく蓋碗を使われたことがあれば、これが優れた設計であるのはお分りいただけると思います。このタイプは昔からあります。蓋碗が熱かったら茶托があると持てますので重宝します。しかし蓋碗の使い方であればどうしても茶托にも茶が幾らかは溜まってくることがあります。この設計だとそれがありません。わずかに溜まった茶というのは茶渋になったりしますので、流れてしまって残らずそのため茶托をしっかり洗う手間が省けるのは楽なのです。

 まず持つべき茶器について、極力茶に対して影響のないものということでは大陸ではガラス製が良いとされます。耐熱ガラス製品は安いし、それで目的は達成できるので高級品については必要性でいうとそれはないと思います。極度に薄いこのような磁器もガラスと同様の方向性のものです。極力、器によって茶に影響を与えないようにという思想で作ってあるものです。しかしガラスも全くゼロではないし、仮にゼロだったとしてもそれが良いかというとそれはまた、かなり突き詰めたところでは十分ではないという難しいものです。良質の白釉は水をまろやかにします。薄胎のさらっとした、そういうさりげない感じで十分なのではないか、かつての宮廷や貴族にとって良質の水を入手することは可能だったのですでに土台は良いということを考えるとバランスとしてこれぐらいがちょうど品があって良いということだったのだろうと思います。現代では一般庶民でも良質の水は簡単に手に入るので、それが市場に薄胎の茶器がどんどん出てくる背景としてあるのだと思います。

    蓋碗一式     ¥17,800 


    杯        ¥12,000 

 このタイプはすごく良かったのですが、すでに生産停止で違うモデルに変わっています。新しいモデルはどうするか検討の必要がありますので、抱翁堂製の今後の扱いは今の所わかりませんが、少なくとも薄胎白磁は必ず必要なので搜索せねばなりません。抱翁堂、高すぎるのですが、裏切らないのです。中途半端だと要りませんからね。継続になる可能性が高いと思います。しかしこの製品に関しては残念ですが、在庫限りになります。

 水も茶も良質だったら薄胎がベスト、それは確かなのだけれど、ぼってりとした厚みで泥を贅沢に使っている茶器の味わいも捨てがたいものがあります。茶壺(急須)、蓋碗は日本では宝瓶ですが、それぞれに違いがあるとか、色々言い出すとどんどん増えてきます。最近中国では鉄釉というものが結構出てきています。使い込むと枯れた味わいがあってよいものです。真っ黒の無骨なものが多い傾向があります。釉薬とは普通は灰が主であって、そこを人工的にであれ鉄をしっかり使っていくというのは日本では否定的に捉えられがちですが、そこをかなり研究して使ったりしています。まず茶があって、水による影響、そして茶器がどう作用するかということを考えたら、大まかな結果は得られますが、より良い回答はそれぞれです。そういうバランスの中で、薄胎の古代白釉の茶器というものを見てみてください。




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創業2008年 二胡弦堂