鉄と銅、錫について - 二胡弦堂

 

 大陸の茶店は、ほとんどの店舗で試飲でき、必要な湯はミネラルウォーターをステンレスで沸かしています。「茶城」と言われるビルディングに茶店ばかりがテナントとして入っていますが、店ごとに水道を引く程には整備されていないので、ミネラルウォーターの大きなタンクを置いているところが多くあります。ガスも無いので電気を使っています。中国には様々な種類の茶がありますので、ステンレスは癖がなく使いやすいものです。

 日本では古来より鉄瓶で湯を沸かしています。南部鉄瓶や茶釜などです。日本の場合は緑茶という特定の茶、それ以外はほうじ茶など限られたものに限定されており、鉄を使う前提で製茶してあるということもあると思います。中国茶に合うかどうかは慎重に見なければなりませんが、相性が悪いと感じることはほぼないと思います。鉄は水を柔らかくします。軟水で淹れる前提の茶に使う湯を柔らかくすることになりますが、硬水用に製茶してある中国茶を軟水からさらに柔らかくした湯で淹れると大陸で淹れるのとは多少違ってくることはあります。ですが、これはこれで良いのではないかと思います。鉄は塩素を除去し、鉄分も補うので健康的です。

 銅で湯を沸かすこともできます。銅器には錫引きされたものもあり、これは水が銅に直接触れませんが、銅だけのものと比較しても効果はほとんど変わりません。銅は水を浸しておくと銅イオンが放出されます。玄米のような長時間水に浸さねばならないものを置いておくと夏場は水が腐ることもありますし、冬でも状況によっては味が落ちます。冷蔵庫で保管せねばなりません。しかし銅で保管すると常温でも水は腐敗しません。水を沸かすとより多くの銅イオンが放出されます。これで茶を淹れると吐き気を催すことがあり、これは個人差があります。銅鍋で料理、水を銅器に保管、では障害が出なくても茶においては、または白湯でも障害が出ることがあるので注意が必要です。有害ではないので少し試してご自身の体質を確かめてから使用するのが良いと思います。しかし味噌汁やスープのようなものでは障害は出ないと思います。潮州では銅のヤカンは結構作られていますが、非常にまろやかな茶が飲めるためと思われます。体質が慣れてくれば銅という選択肢もあります。

 熱伝導率は、ガラスが1とすると、ステンレス16、鉄67、アルミ236、金320、銅398、銀は420です。
 ステンレスは癖がありませんが、燃費は悪くなります。現実的にもっとも理想的なのは銀であるらしく、高価格過ぎるという巨大な弱点ゆえ、ほとんど使われていません。金はさらに高価でありながら伝導率はそれほど高くもなく、素材が柔らかいので使用することはできません。そこで、鉄、アルミ、銅、真鍮106あたりが使われています。銅は銀と変わらず、性能に比してコストパフォーマンスが高いものです。他の材料と比較して高価ですが、湯はすぐに沸きます。アルミの熱伝導率は少し劣りますが、鉄よりも優れており、安価で軽量というメリットがあります。外観に劣る欠点が嫌われるのか市場にはあまり出回っていないようですが、実用面ではかなり優れたものです。癖もありません。ステンレスは清潔感以外のメリットはほぼないと思います。そのため中にアルミを挟んで熱効率を高めたものもあります。ステンレスだけであれば熱伝導率は、銀の4%ほどしかありません。

 茶にはカテキンという成分があります。これは煎を重ねて茶が薄くなる毎に減少します。出がらしは重金属を吸い水を浄化します。しかしカテキンが多いものは効果がありません。カテキンが抜けたところに重金属が入るようです。ということは、鉄イオン、銅イオンに対しても何らかの影響がある筈です。これは茶独特の効果です。強い影響がありますので、ステンレスやアルミの方を好む向きもあると思います。

 鍋やフライパンは、鉄と銅があります。テフロンはほとんどステンレスだと思われます。ステンレスは癖がないので、これを標準に考えると鉄と銅が如何に影響を与えるかということがわかります。例えば、ただ乗せて焼くだけのステーキ、餃子などなど、鉄か銅かで全く変わってしまいます。肉を銅で焼くとフランス料理のレストランで出てくるような柔らかい丸い味の上品な感じになりますが、それよりも状況によっては鉄の方が良いということもあります。温野菜やスープと一緒に食べるなら銅が良さそうで、野菜も焼くなら肉は鉄の方が良さそうです。この違いは、茶にも当てはまります。

 湯にあまり積極性を持たせたくない場合は、ステンレス、もっと効率の良い材料としてアルミニウムになりますが、錫はどうでしょうか。融点が250度と低いので火にかけられません。茶壺や杯に錫を使うのであれば可能です。しかし錫は酒器に使うのが一般的です。

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