漆と錫について - 二胡弦堂


 料理は使う皿で確実に味が変わりますので質には留意したいものです。皿は今や非常に安価に買うこともできますから、実用上それで全く問題ないところに気を遣うという話なので贅沢ではあります。しかし一旦一枚入手して調べるとなかなか安価な皿は使えないものです。そういうことを言い出すと包丁で味が変わるとか本当に色々あります。料理人ではないのでその辺はよくわかりませんが、ここで1つ紹介できるのは擦り器についてです。中国宋代に煎茶が出現するまで中国でも抹茶でした。青い葉を買ってきて自分で淹れる前に擦るか、茶店や行商が擦っていました(この場合は茶葉を売るのではなく、茶を飲ませていました)。写真の例は当時の抹茶を擦る専用の擂り鉢でした。泥は白泥、外側は黒秞、中は? わかりません。何もしなければ白の筈が光沢のない黒になっています。何か理由があるに違いない。これで生姜を擦ると刺激は全くありません。もし刺激があるなら、本来の目的で抹茶を擦った時にかなり苦いものができる筈です。古代の化学、特にこの時代の中国は世界最高だったということを改めて思い起こさせますが、こういうものに接すると単に食材を切るというだけでも随分違いがあるということがわかります。

 高価な皿が必ずしも良いということはありませんが、一方で良いものがそれほど安くはないことも事実です。それでもし割れた場合、修理しようということになり、金継で修復するということになります。やり方はあちこちに書いてあるし、動画まであるので、それについてはここでは必要ないと思います。それよりも最大の障害と思われるかぶれについて触れておこうと思います。

 服は長袖、靴下は必ず着用、その上でビニール手袋ですが、手袋は薄い方が作業しやすいのでそういうものを選びます。しかし漆はかなり強力ですので染み込むのか、どうしてもかぶれます。分厚い手袋で可能であればその方がベストなのでしょうけれども、医療用の手術に使う手袋でもかぶれは発症します。しかし一般のものよりはだいぶん効果があります。かぶれはあまりにひどいと病院に行ったりすると思いますが、早く治療する方が軽度ですみます。漆は触れた箇所がかぶれるとは限らず、おそらく血管かリンパを伝って毒?が回ります。それで血管上など一直線にかぶれが出たりします。膿が出てくるとそこはかなり重症箇所です。そして膿は毒素を含んでいますので、膿が出た手で他のところを触ると感染します。膿は防ぎようがなく、どんどん出てきます。非常にかゆい上、どこから出てくるかわからないことがあるということや、薬を塗って防衛に努めるにしても寝ている間は限界があり、薬は大抵4時間ぐらいしか効きません。膿の出る箇所は膿の毒素で何重にもダメージを受けます。毒素は菌やウィルスのようなものと仮定してよく、殺菌効果がある石鹸はかなり効き目があります。そこでこの対策ですが、ここまで酷くなったら、まず鍋に湯を沸かします。45度前後ぐらいであればかなり熱いですがそれぐらい、手で確認しながら少々熱すぎるぐらいまで温度を上げます。そうすると問題箇所は強烈な痒みに襲われ、すぐに引き上げて手を揉まないと我慢ができないぐらいになります。痒みと熱さによる痛みと独特の気持ち良さがあります。そしてまた浸けますが、1秒で限界ぐらいに温度を維持します。これを何度も繰り返しますと、湯は膿で白く濁ってきます。そのうち痒みよりも熱湯の熱さで痛い感じになってきます。もちろん火傷はしてはいけません。それぐらいになってからも5回ぐらい浸しては引き上げを繰り返します。痒みが消えましたら、ピーク時で6時間は治療効果が持続します。薬も併用します。症状が出ていないのに痒い箇所は、そこは間も無く膿が噴き出してくる箇所です。そういう箇所もあらかじめ封じておくことができます。12時間ぐらい持つようになったら後1週間ぐらいで治ると思います。手から腕の方まで毒素が回っている場合でも、手を治療すると腕の痒みも抑えられます。これぐらい重症にならないようにくれぐれもお気をつけいただきたいですが、もし症状が出てきましたら参考にしてみて下さい。軽度の場合は熱い給湯器の湯でも良いですが、ひどい場合は追い焚きして温度を自分で微調整できる鍋の方がやりやすいです。重度の場合は給湯器の大雑把な湯はかなりしんどいと思います。これぐらい大変なので、極力厚手の手袋を使って下さい。そして速やかに手当をすることが何より重要です。作業をした直後は何の症状も出ませんが、それでも熱い給湯器で消毒するのがベストです。

 陶磁器以外にも優れた材料としては錫もあります。結構高価なのでなかなか入手は難しいですが、そう思っていると結構安価なものもあります。この種の安価品は合金らしいですが、最近のものは衛生面も考慮されているので大丈夫だろうと思います。それでも材料故に錫を選んでいるのに合金ではどうしようもないと思います。海外で買ったものはかなり気をつけた方が良いと思います。中国では重度の健康被害が出ている例もあります。錫に鉛を含めると加工性が増すので昔から使われていますが、これが湯に染み出して被害をもたらしています。それで錫製品は純度が99%のもののみを使うようにと言われます。しかし大変高価、アンティークはデザインも優れたものが多いし割と安いものもあります。なぜならアンティークも危険性が指摘されているからです。飾りにしか使えません。しかし昔から毒性がない、むしろ浄化すると言われて珍重され、中国では皇帝にまで納められていたのです。一方で溶接部分には鉛が多く含まれているのでやはり危険だと言われます。それで現代の99%のものを使うべきだと、このように言われています。本当でしょうか。この問題を検証することに致しました。

 中国の錫器は河南省道口が有名で製法は秘術とされてきました。今は技術が漏れて製造できるようですが、間違った製法だと実際に健康被害も出たりしているのでそういうものがあると信用は失います。それで現代では錫器産業全般が低迷しているとされます。昔は正しい製法なるものがあって秘術として守られてきたということなのでアンティークの安全性は間違いないように思えます。写真の例では裏側に印がありますが、点銅(錫)と押せるのは錫の純度が7割を超えたものに限られていました。そうしますと現代の99%のものには大幅に劣ることになります。合金ではどうしようもないと言っていましたが、昔のものもそうなのです。しかし効果は十分に認められていて、そういうものを作るのは特殊な技術が必要だったということなのです。そこで写真の壺、清代のもので、片手で包めるほど小さいものですが、これで検証することに致します。

 これに水を入れて鉛などの重金属がどれぐらい漏れ出しているかを検証するのですが、水質検査のキットは高価です。3000円以上はします。それに用途が異なり下水などのかなり大雑把なものを検査するためで微量だと検出できませんからそもそも使えません。そこで酒を検査するキットを使うことにします。これだと300円ぐらいで買えます。何回も検査できます。酒は白酒という中国の一般的なものですが、これが指定されています。検査はまずそのまま瓶から取り出した何もしていない酒を検査します。必要はないのですがとりあえずやってみます。続いて、溶接がある部分を避けてそこへ酒を貯めて1時間置いたものを検査します。最後は溶接部分に1時間貯めたものです。検査結果は数分で出ます。色は緑か黄色になるようでアルコール度によって変わるだけでどちらも一緒だと、色の濃度が重要だということです。問題がなければしっかり色が出ます。重金属が多ければ多いほど透明に近くなります。買ったままの酒は右のものです。綺麗な緑色が出ました。真ん中は溶接がない部分で、むしろ色が濃くなっています。錫が浄化するという説を裏付けています。左は溶接部です。黄色が混じっていますが、すでに2時間放置されたものなのでアルコールが抜けてきていたものと思われます。これも色が濃いままです。ということは安全ということになります。しばらくすると右が緑のまま、左は黄色、真ん中は中間の色なので、やはり時間によって抜けてきていたものと思います。一般に言われているアンティークが危険というのは必ずしも当てはまらないということになると思います。もちろん、現代でもいろんなものがあるように、昔もそこは同じですから全てのものに当てはまりませんが、道口のような評価の高いものはほぼ大丈夫だと、危ないと言われて人気も低迷しているので偽も出ませんし、そういうものもあるということですね。

 幾ら問題があると言われていても道口は芸術的価値があるので全く安くはありません。およそ一般人が買う価格ではなく10万円前後というところが相場だと思います。割と裕福な人だと買うかもしれないぐらいのものです。しかも今回のように衛生的に使えるかわからないので検査が必要という段階で博打みたいに払うのは常識外れなので道口は考えていなかった、そもそも錫器自体がターゲットではなかったのですが、しかしこういう細かい穴が空いているとか問題があると花瓶にも使えませんから捨て値になることもあります(8000円ぐらいで、しかも白磁の酒器までくれたのですがそれでもどうしたものか、まあダメなら売ってもいいかと思ったのです。酒器は花瓶になって「質について」のところに貼ってあります)。直せばいいだろうと思いますが、中国で直したらどんな材料を使われるかわかりません。それでどうしようもなくて売り払います。こちらは日本で直すオプションがあるのでそこは強気でいけます。しかし待てよと思って、漆で塞げばタダではないか、そもそも接着するのかという問題があります。実際、潮州には錫器に漆を被せた伝統的な蓋碗があります。ということは行けるのではないか、熱いものを入れる気がなければ大丈夫ではないかということでやってみましたが、問題は特にないようです。心配であれば食器用の接着剤で埋めてからそこに漆を被せてもいいでしょうし、何れにしても漏れの問題は何とかなると思います。あまりに漆で覆うと錫を使っている意味がないのでそこは気をつける必要があります。この壺のすでに溶接してある部分ですが、これは明らかに補修です。かなり雑ですがしっかり盛ってあります。それでも毒素は検出されなかったので、中国でも昔は大事なところは押さえて仕事をしていたのだろうなと感じられます。60年代ぐらいからおかしくなってきたように思います。

 中国には(他の国にもあるのかもしれませんが)、方圏という独特の文鎮があります。割と狭い範囲に限定して絵を書いたり文字を書いたりするときに使う枠状の文鎮です。昔からあるもののようで骨董市場で見かけられます。素材のほとんどは銅です。珍しいものでは赤胴もあるし、錫を使っている高級品だったと思われるものもあります。手工品なので味があります。熱い茶の場合は茶托があった方が良いですが、涼しげな方が良い場合とか、下に布などをひいている場合は小杯は転けますので文鎮で押さえるという手があります。濃厚な中華風格を味わうというのも簡単そうで意外と難しい面がありますが、これはかなり雰囲気が出ますね。金属と食品というのは抵抗感がどうしてもありますが、こういう使い方であれば問題はないですね。銅の茶托は日本に結構あって、一時期中国人が猛烈に爆買いしていて、日本茶器を扱う店などに行くとこちらは一見なのに「あんたもしかして日本人? いつ帰国するの? これ買ってきて。幾らあっても足らないんだから」と言って銅の茶托を見せるぐらいだったのですが、銅をここで使うのは確かに相性が良いように思います。日本的な感覚なんでしょうね。日本緑茶と銅の茶托は合いますからね。中国でも緑茶だと合いますね。

 茶を急須に入れる時に日本人が竹を使いますのでおそらくそれが最良なのでしょう。妙な材料のものを使うと悪影響も考えられます。中国で錫製のものを見つけたのでしばらく使っていますが、下手すると光沢が消えて黒くなります。そこらへんは気にしないのでそのまま使っていますが、見栄えが悪いのは間違いありません。これはおそらくしばらく沸騰水につけて磨けば直ります。しかし錫は200度以上で溶けるらしいので、鍋の底に当てて火をかけるなどは厳禁です。スプーンもステンレス製のものは食品の味を損ないますので、そういう場合は銀を使う人が多いですが、錫でも良いと思います。

 茶と錫の関係では、まず最初に想起されるのは茶入でしょう。茶を保管する容器です。錫は銀色に近いほど純度が高いので、左の写真のようなものは普通購入しませんが、しかし純度の低い錫器というのも滅多にないと思います。それでこれは塗装なのか外面処理しているのではないかと疑われます。こういう民国期のものであれば変な材料のものはないので、そこは心配ないですが、真っ黒というのは気になります。塗装であれば剥がれが大抵はあるのでわかりますが、これはそういう箇所は見当たりません。こういうものはだいたい油が染み込んでいます。民国期の茶入はほとんどそうなので、おそらく販売時点でそういう状態で売っているのだと思います。穀物のような香りがするので悪いものではないのでしょうけれども、古い油ですから気持ちの良いものではありません。胎にしっかり染み込んでおり中まで達しているものがほとんどだと思います。何でこういう油を塗るのかは追求していません。いずれにしても落とす方が良いのは間違い無いからです。とりあえず洗うわけですが、強烈に染み込んでいて全く間に合いません。そこで鍋でゆがきます。もちろんこの場合も鍋の底に接触してはいけません。温度は100度まで上げる必要はないと思います。これぐらい真っ黒であれば、もう50度ぐらいで湯は真っ白になり全然見えなくなります。しばらく置いて洗ったのが右の状態です。黒は完全に取れて銀色の地が出ました。それでも水は少し弾いています。手も少しベトベトします。まだ胎から漏れ出しているんですね。やはり洗うのは全然間に合いませんので、もう一回ゆがきますが、今度は茶殻を入れた方が良いと思います。洗剤であれば、染み込むので避けたい気がします。今度は水は透明度がありますのでよく観察できますが、温度が上がってきたら表面から細かい泡が出てくるのがわかります。まだ油が残っているところは白くなります。やがて茶殻で見えなくなりますが、またしばらく放置した後、洗います。これぐらい酷いと普通は3回ぐらい必要です。光沢が戻って匂いも消えたらもう問題ないと思います。ほとんどの古い錫の茶入が黒いので対策を説明しましたが、古いものはどんなものでも一回はこの方法で浄化した方が良いかもしれません。

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