水について - 二胡弦堂

 

 日本緑茶を淹れるのはせいぜい2煎、良いものであればもう少し淹りますが、中国緑茶は質の良いものになってきますと10煎を超えるものもあります。元々、抹茶だったのですが、これが日本に伝来してそのまま残り、中国では失われて改良されてゆきました。改良の仕方が日本と中国では違うことがわかります。 中国緑茶の中には味に関しては日本のものとほとんど変わらないようなものもあります。求められているものは基本的に変わらない筈ですが、製法に関しては両国で違いがあります。それはおそらく水の質が違うからだろうと思います。

 具体的には有機物とミネラルの量ですが、有名な「神戸の水」というものは有機物(CODで指標される)が極端に少ないので腐敗しにくい、ミネラルも適度で、テレビを見ていたら紅茶も美味しく淹れられるとやっていました。 (神戸の水の硬度は20ppmぐらいだったと思います)。硬度120ppmを超えると硬水ということなので、そうであれば中国の水はそれぐらいなのだろうと思いますが(一方、軟水は60ppm以下)、しかし紅茶は中国伝来です。 今でも作られており、大量に輸出もされています。これが硬水で淹れた時に「いろんなものが混じっているような」「くどい」ようであれば何かがおかしいのではないかということになる訳です。元は硬水の地域で発祥した茶だからです。実験で使われた茶はインドのものかもしれませんが、何れにしてもインド・中国の紅茶は硬水であろうが軟水であろうとも適切に淹れることができます。味は当然変わってはきますが、どちらもそれなりに説得力はあります。 軟水しか知らない人が軟水の扱い方だけで硬水を扱うと問題は発生しかねないということです。うちでは一時期、正山小種を全く同じものを中国と日本にも置いていて、全く異なる水で淹れていましたが、どちらの水も手なづけていました。自分の家の水なのですから当然ですが。

 水は確かに違うものですが、浄水器は全く同じもの、クリンスイ蛇口直結型を中国と日本の家、どちらでも使用しています。 水の浄水に関しては色々やり方があり、ろ過装置のついた容器に水道水を入れるドイツメーカーのものや、ミネラルウォーターをペットボトルで買うという方法もあります。水量を気にせずにどんどん使おうと思えば蛇口型が楽なのでうちではそれを使っています。

 水は動きを止めれば腐りやすくなります。日本の水道はコテコテに塩素消毒してあります。これは有害なので(アトピーの原因として疑う論調もあります)浄水器は必要不可欠です。水道の元祖は古代ローマですが、有名なところではトレビの泉があります。こういう大きな取水場だけではなく、もっと小規模なものや、水道局に使用料を払えば自宅に引くこともできたようです。 これらは蛇口というものがなく、全て流し放しでした。温泉の掛け流しのようなイメージです。これは今でもローマに行けば見られ、実際に使用されているということです。このように水を止めずに流し続けることで水の腐敗を防いでいました。ペットボトルの水のような長時間止めているようなものは良くないという人もいます。しかし水道水も一晩汲み置きしたものが良いとも言われますのでペットボトルが一概に悪いとは言えないと思います。

 中国の茶人でも水に拘る人はおり、水を求めて旅行する人もおりました。大陸にも、軟水の方が良い、硬水は硬すぎるという人までいます。 大陸で軟水は得がたいので専門の浄水装置を導入する人さえいます(中国人は日本のものは何でも良いと思っているのでその方向に行った、或いは抵触した感がある場合、話を半分に聞く必要があります。硬水でも問題はないと思います)。前に北京・望京の方にある日本ラーメン店に置いているのを見たことがありますが、業務用なのか結構大きな装置でした。日本に帰国して水を飲んで口感が丸いと思うことはないですが、ここの装置を通した水は明らかに丸いもので、朱泥の茶器を通したようなまさにそういう感じでした。 日本の軟水を硬水に変えるというのはほとんどないと思いますが、欧州のミネラルウォーターで硬水のものを購入する人はいます。現実的には自宅の軟水のまま浄水器を使うのが一番楽でしょう。多くの浄水器には麦飯石が入っています。セラミックで加工してあるものなど色々あり、石だけ別個に買うこともできます。熱帯魚の水槽に入れて水を浄化するとか、風呂に入れたりします。石というものは大抵どんなものも浄化作用があります。しかし地域によって異なるので水の味もそれぞれになります。麦飯石はその中で最も効果のあるものです。内モンゴルに謎の長寿村があるということで調査すると当地の麦飯石が非常に優秀であることが判明したので、中国全土の多くの麦飯石業者は自社の石は通遼市奈曼旗平頂山産だと言って販売しています。 工場で練って作っているものもありますが、いずれも効果はあると言われています。しかし長寿村として調査までされるところはほとんどないので平頂山の石は特別なのでしょう。そこでこれを現地から調達します。うちではすでに水は浄水器に通しています。だからそこに追加で麦飯石を使っても意味がないはずです。ところがこれが全く違うのです。この石は水を硬度は中性、質はアルカリにするので一見普通の水になるだけで特に何もないのですが、ガラスや白磁の茶器に茶渋がつきにくいとか、徹夜した後に疲れが翌日に残らないという特徴が感じられます。もちろん習慣の改善の方がはるかに重要であるのは言うまでもないですが、これは明らかに普通ではないという印象があります。 我々の場合は、まず普通の水があって、そこから茶に合わせてどの泥(の茶器)を使うかですから、最初の水からして大胆に主張しているものは困るわけです。ミネラルが豊富な水はおいしいですが、邪魔はしないで欲しいのです。そう考えると日本の浄水器、平頂山の石は最適な選択であるということは言えると思います。似たような石は日本にもあって、最初のネズミ講詐欺はこの石の販売だったようです。組織の構造は詐欺でありながら石は本物だったと言われています。しかしイメージは悪くなり、現代の多くの人は浄化石を敬遠します。一種のトラウマでしょう。浄水器には加工されて入っているのですがね。

 先日、知り合いが白茶を買ったというので、茶壺を持って行きました。彼の家には浄水器がありません。水道水をそのまま使っています。それで「これは改善した方が良いと思うよ」と言い、クリンスイの話をしました。フィルターは交換式で、うちの日本の家では1年以上使っても効果は減少している筈であっても表面的には問題はありません。しかし中国の家では半年も経つと水が出なくなります。詰まっているのだと思います。どこに引っ越しても同じ状況なので市内全体がもうそういう水なのでしょう。 天下第一泉 そういう話をしました。浄水場は2008年のオリンピックの頃以降、日本の技術を導入しているので水の質はかなり良くなったようですが、市内全域の水道パイプまでは変えていません。鉄管が多いので、細かい鉄片が流れて来ていても人体に悪影響はないと思うのでそれほど神経質になることではないと思うのですが、味には相当な影響があると考えられます。実際、彼の家で飲む茶は全く味がありません。香りも何もありません。彼は前から「味がわからない」と言っていたので、味が濃厚に出る茶壺を持ち込んでいたのですが、それでも全くだめでした。彼は茶壺を1つ持っていますがそれでもだめです。そこでミネラルウォーターを買って淹れますとしっかり味が戻ってきました。彼は独身の一人住まいで、その時他に3名いましたが、彼らは茶は全くわかりません。それでも水を換えてからようやく飲むようになりました。白茶は一回分お土産に貰って帰りましたので、家で再度確認します。そうしますと茶壺に湯を投入した時点で非常に香ります。全くの別物という感じです。しかも茶壺に入れた茶を3日変えずに淹れ続けました。湯量は4Lです。相当な高級茶です。三日目あたりになると薄くはなってくるのですが、香りが芳しくそのまま淹れ続けてしまうのです。

 水質を改善するという大型の甕もあります。中国の茶店で使っているのを見ることもありますし、主に台湾産なので良いものなのでしょう。これらは長期に使えるのであれば、遠赤外線的効果で水質を改善するものでしょう。台湾大地震の時に山が大きく割れて、その裂け目から見つかった泥だとされています。一方、石の方は弦堂の検証では、大陸では半年、日本では3ヶ月で効果を失ってきます。雑味を吸いミネラルを放出するので限界があるのです。自然界では大地から補給できますが家庭で容器に入っている石にはそれはできませんので交換の必要があります。 使い込んだ石は観葉植物に与えます。植物は元気になります。石と茶壺では役割が違います。茶壺は使えば使うほど良くなります。どちらも原料は石なのですが、天然の状態と焼成したものでは違うということなのでしょう。

 ちょうど1週間前にうちで人を呼んでご飯をした時に4合炊きました。いつもそういう場合は鍋に石と水を入れて数時間浄化してからその水で米を洗浄し炊飯します。その時の目的はご飯というよりも酒を飲もうということだったので、料理は「私も手伝います」という人が多く、食材も持って来るのであまりにも食べるものが多過ぎ、誰もご飯を食べることができませんでした。余ったご飯は冷凍してレンジで解凍すれば良いのですがあいにくうちにはレンジがありませんので、炊飯器で保温したままで1週間になり、今日ついに食べ切りました。毎日家で食べるわけではないので時間がかかったのです。それでもご飯は腐りませんでした。石は入れていません。使った水をあらかじめ浄化しただけです。嘘のような本当の話なのです。
 


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