茶について始めに - 二胡弦堂

 

 茶というのは単に葉を入れる、お湯を注ぐというただこれだけにも関わらず何かと難しく、天然のものを扱うだけに確定要素も曖昧ではっきりしないことは多いものです。写真は湖南省長沙にて出土した「唐代青釉褐彩茶碗」です。茶という文字は唐代中期に発生したと言われており、歴史上、最初の茶専用碗として認められているものです。ここに「荼垸」と書かれています。荼は苦菜のことで、垸は湖北湖南における湖の堤防を指す古代の漢字です。苦菜を堤防で抑えるという概念でしょうか、苦菜に水分が多かったので堤防なのでしょう。抹茶でしょうね。

 日本は古来より緑茶で、後に紅茶が入ってきた程度、中国茶はまだまだ一般的とは言えないので、主に日本緑茶と紅茶の二種類が主なところだと思いますが、そうしますと中国の多様性と比較するとそれほど多くの茶が嗜まれている訳ではないということになりますし、その観点から中国茶を見ると少し難しさを感じることもあります。

 中国茶は発酵度によって様々な種類の茶があります。それぞれに扱い方というものがあります。一口に例えば緑茶といっても、それが基本的な淹れ方は同じであっても産地など変わると応用が必要であったりします。茶器でも味が変わってしまうし、使っている水でも随分違ってきます。茶商は自社の茶葉に関しては割と明確なことは言えるものの、顧客の使う茶器や水についてまでは何とも言えません。茶を買った時には美味しいと思ったものの、家に帰って淹れると全然違うと感じられることもありがちなことです。おそらくこれが理由の1つで中国の茶商は積極的に顧客に試飲させるのかもしれません。日本であれば煎茶かその類に限られてくるので、顧客の方でもある程度扱いはわかっていることからその辺りはあまり問題にならないということはあると思います。京都と静岡の茶で扱い方が大きく変わるということはありません。 中国でもスーパーに行くとある程度は日本と同じように茶が並んでいたりしますが、街中で茶専門店は非常に多く、そういうところで買う方が一般的です。そういうところでは必ず試飲できます。

 まずは日本緑茶の扱い方を充分に把握した上で中国茶に入る方が無難というのは言えると思います。なぜなら、日本の水は日本緑茶と親和性が高いからです。特殊な水をボトルで買うのは大変なことなので、できれば水道水を使いたいものです。決まった自宅の水に、決まった浄水器で水に関しては確定してしまい、変動要素を1つ無くすことは重要なことです。日本の水を知るのは日本の茶がわかりやすいので、それから他国の茶を見ていく順序が手堅いだろうと思いますし、日本茶にはいずれは慣れておかねばなりません。同じ理由で、中国在住の場合は中国茶からの方が良いと思います。

 中国茶は製法によって大まかに6種に分類されます。同じ茶葉でも発酵度を変えれば別の茶になります。 後発酵茶は製造工程の後に微生物によって発酵されます。

  1. 緑茶
  2.  不発酵
  3. 白茶
  4.  軽発酵
  5. 黄茶
  6.  軽(後)発酵
  7. 烏龍茶(青茶)
  8.  中発酵 20~70%
  9. 紅茶
  10.  重発酵
  11. 普洱茶(黒茶)
  12.  重(後)発酵

 中国で茶店に行って「これは何ですか?」と聞くと上記の分類で回答があることがほとんどです。茶の名称で答えて顧客がわからなかったらいけないからです。これまでは中国全体で常飲されていたのは緑茶かジャスミン茶(茉莉花茶,緑茶に花を加えたもの)でしたが、おそらく2014年ぐらいから白茶に変わってきました。最近はもうどこに行っても白茶が出されると言っても良いぐらいです。保存ができるからかもしれません。緑茶は長期保管すると劣化しますが、白茶は価値が増します。投資価値があるというのは大陸人にとって重要です。しかし以前はほとんど作られていなかった茶なので老白茶は希少です。新しい白茶は丸い口当たりの緑茶、老白茶は丸みのある紅茶のようです。こういうものに接するとなぜ緑茶や紅茶を押しのけて支持を得ているのかわかります。 最終回答かと思うぐらい説得力があります。中国の場合、茶には流行があります。国営の研究所などが新しい茶を出すのですが、その前にどんなものが出るのか一般に知られていることもあります。数ヶ月で消えるものもあれば、一時の流行に留まらずスタンダードになるものもあります。近年では、白茶のテコ入れは大成功の1つでしょうね。このように進歩してきたところが他国の茶業界とは違うところです。

 白茶と共に黄茶もかつてよりほとんどありませんでしたが、黄茶は今なおレアです。しかしさらに発酵が進んで烏龍茶ともなりますと実に様々な種類があります。台湾の凍頂烏龍は発酵度が20%ぐらい、東方美人は70%でほとんど紅茶です。岩茶というものもありフルーティです。紅茶は日本では主にインドのものが嗜まれていますが、中国の方が本場ですし質も上だと思います。良い茶は限られた土地で産出するので、人口増に伴う消費の増加、輸出ともなると量が欠乏し、周辺の土地を使うも質は求め得ないという状況になっていました。しかし研究を進め、全体的に質が向上しています。普洱はダイエットの方向で強い支持を得ていますが、白茶が出てきたので少なくなっています。普洱は信用性に関して過去に様々な事柄があったし、白茶は福建省の組合が日本の衛生基準を導入するなど品質管理に熱心なので仕事はきちんとします。福建のある茶農家が農薬基準の曖昧なものを売り、これがネットで拡散して福建茶業界全体が壊滅的打撃を受けたことがあり、この教訓から非常に厳しく管理するようになっています。現代は簡単なキットで個人が検品できるからです。

 茶が非常にデリケートなものであるのは生産家も承知していますので、割と扱いやすいように製造してある茶葉というものもあるように思います。具体的には温度にシビアではない、だいぶん適当に淹れてもそこそこ楽しめる茶というのもあります。安価な茶は限られた予算内で一定の成果を求められるし、茶に詳しくない人も買うので、不特定多数に受け入れられるものを製造するのはかなり難しいものです。 そういう観点から安い茶を見ると感心するものは結構あります。もちろん高級品が難しいということは必ずしもありませんが、高価なものは買い手に一定の素養(作法ではない)を求める部分は少なからずあるので、扱いが簡単とは言い難いと思います。

 茶葉、水、茶器のバランスが、茶を嗜むのに重要なのですが、これは何も細かいことにこだわっている訳ではありません。1つ変えると激変しますのでどうしても神経質にならざるを得ないのが茶というもので、これは安土桃山時代以来のうんちく(注:茶道のこと)とは関係ありません。科学的な側面における、純粋に茶に湯を通すという、ただそれだけについてのみ、それがかなり難しいのです。

 掲載しているお写真で、茶葉を写しているものが3枚あり全て中国緑茶ですが茶葉の形状が違っているのがわかります。押しつぶしたようなものや蕾のようなものなど色々あります。3枚のうち上は黄山の太平猴魁で下は蒙頂山の竹葉青、いずれも現地で購入したものですが、広い中国ですので距離が大きく離れていれば製法もだいぶん違ってくるということはあるのかもしれません。中央の茶は貰い物で山東省の茶、山東で茶を作っていたというだけで驚きですので自分では決して買うことはなかったと思いますが、これは盧山雲霧と言います。一番茶で外観に白身が感じられるのが特徴です。普段は15煎ぐらいまでしか淹れていませんが、それでもまだ最後まで香りがあります。単に残り香があるだけでなく、非常に風流な空気が鼻から抜けます。これが10煎を超えてもまだ感じられます。こういうものが中国緑茶の良品の特徴だと思います。

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