日本で二胡用駒を製作されております村山工房 村山正昭先生の作品です。最初は象牙駒からでしたが、徐々に種類が増えて現在に至りました。村山工房以前にも象牙二胡駒を制作するところはあり弦堂でも幾つか問い合わせていましたが、なかなか一般販売する程に供給できるところはなかったので当時は購入が可能というだけで画期的でした。今でも駒の製作家というと少数ですので貴重な存在です。
やがて中国でコピー品が出てきて、見るからに粗悪品ではあっても、とりあえずいろいろ入手はできるという状態になってきました。ほっておいてしばらくすると出来が良くなってきましたが、ただ作っているだけのようなところは消えていきました。しっかりした主張があった上でラインナップしている工房は残っていますが、その商品構成は村山工房とは徐々に異なってゆき、割と多くの人が知っている材を使った手堅いものになっていきました。そして手工生産はほぼ撲滅されました。こうした流れは市場のジャッジを受けたものですが、中国ではメジャーなものが好まれてそれ以外は全く売れないという落差が大き過ぎることと、手工品の質が悪いのでコンピューターで作られたものが好まれるということと関係があります。村山工房は日本の愛好家に支持されていますので中国とは事情がだいぶん異なり手工生産を維持していることや有名無名に関わらず材を吟味できるという点で独特であると言えます。
それでもまだ中国でも象牙駒はありますが、それらは人工象牙とかいろんなものがあって相変わらずの状況ですが、一方で木材専門店と話し合いながら材料から吟味している工房で村山工房以上に熱心なところは海の向こうにはありません。村山先生は演奏家でもいらっしゃいますので、それぞれの材料は演奏家の観点から選ばれています。この点でも独特ですが、今でも手工生産で1つ1つ作られている二胡駒というもの、実際のところ手工生産にどれだけの意味があるのか理論的な観点から疑問が生じる余地はありますが、しばらく使ってみますと二胡駒というものもやはり芸術品の一部だなと、コンピューターで作ったものとは味が違うということに気がつかされます。中国駒にしても手工品は非常に粗く安価ですが、これがどうしていまだに人気があります。これらと村山工房駒とでは品質が異なりますが、手工という点では一致している、このことが一番重要なのではないかと思う次第です。ぜひ、皆さんも村山工房駒を使ってみてください。
選択の仕方:大きさは大、中(ミドルサイズ)、小(チビ)の3種で、村山先生からのご提案では象牙などの白骨系は15mmサイズの大きいもの、その他はミドルサイズが二胡に最適で、14~15mmぐらいの大きいものは二泉胡や中胡に合うのではないかということです。チビは特に古い二胡に合いますが、いずれにしてもケースバイケースです。一般に販売されている二胡高級駒はだいたいミドルサイズです。どの駒を選択するかについて村山先生から特にご指示はないので以下は弦堂の所感に一般論も交えながらある程度の指針のようなものをご説明いたします。まず二胡の材質と同じ材の駒は合いにくいということは言われます。これは村山駒についてだけでなく世間のすべての駒について言われることです。しかし黒檀二胡に黒檀の駒を使って悪いかというと必ずしもそういうことはありません。傾向の問題であって、実際に特定の二胡に対してどの駒が合うかというのは合わせてみるまでわかりません。従って駒の購入というのは多分に博打の要素も含んでいることになります。二胡というのはコンディションが変わる、中国で「養」という概念がありますが、所有者が育てる部分もありますのでなにがしかの変化があります。今合う駒が数ヶ月後にも合うかというとそれはわからない、合わないことも多いと思います。それで駒というものは結構数が要るものです。今使えない駒でも必ず保管するのが原則です。一旦合わなくなってしまった駒はまたしばらくしたら使えるかもしれません。難しいものです。しかし材によって傾向はあるので特徴は掴んでおく必要があります。新しい二胡には壇木の駒が合います。古い二胡には白木系が合う傾向があります。動物の角系はレコーディングに適します。チビは単に大きさが小さくなるだけではありません。溝幅も少し狭くなります。そこで「弓の毛を間引いた」という苦情が弦堂に入ってきたものだけでも結構あります。しかし板胡は小さい駒に二胡よりはるかに毛量が多い弓で演奏しますし、京胡の駒は3mm幅しかないということも知っておいて下さい。チビ駒ごときで毛を間引かないといけないぐらいでは、何かがおかしいという感覚も持っておいて下さい。チビ駒は5mm前後ありますが、一般に二胡駒は6mmなので少し狭いです。この辺りをどう感じるかは普段使っておられる駒での印象で掴んでおき、果たしてご自分にとってチビ駒を使えるのかをしっかり考えるようにして下さい。各材質の駒は写真が掲載されていますが、駒は手工品なので一つ一つ違います。写真は見本だと御理解下さい。
象牙など牙系の駒は今後入荷が難しくなってきています。村山先生からこのようなコメントをいただきました。「今後マッコウクジラ、象牙等は安くはならないので資産として持っておくのも良いかと思いますね」。これまで購入いただきました皆様は大事に使っていただければ、絹弦であれば駒を痛めないのでより価値はあるでしょう。尚、問い合わせ必要の分はカートに入れて注文いただければ状況をご返信致します。
以前はミドルサイズという普通とちびの中間の大きさもありました。二胡駒の流行が小型化の傾向となり、これが単に流行に留まらずスタンダードとして定着しましたが、その過程でミドルサイズが用意され、また普通タイプも小さくなっていきました。やがて以前のミドルサイズぐらいの駒が普通になってゆき、それに伴いミドルサイズは廃止されています。
村山先生のブログにおいて演奏を交えて象牙二胡駒の素晴らしさを紹介していらっしゃいます。
象牙二胡駒サンプル音源
チビ二胡駒はここ
この説明も参照して下さい。
白骨系はレコーディングに使いやすいと思います。録音専用にこれらの駒を使われる方もおられます。
弦堂の所感:骨系の駒というのは色で特徴があるような気がします。色と言っても黒と白しかないのですが、白では象牙、カバ牙、まっこう鯨歯、白水牛角とあり全て同族、音の芯に広がりがある印象です。こういう特徴は他の材ではありません。黒はより芯があるものの木材系と白骨系の中間といったところです。白は幾つかあり同族といってもそれぞれに特徴があります。どんな特徴か表し難いのですが、1つ言えるのはまず最初に接したものが基準になるということです。例えば象牙を最初に使ったとします。まあこんなものかと受け入れた後、カバ牙を使いますとかなりの高い確率で拒絶反応があります。これはダメだと、そういう風になります。逆も然りです。明確な理由は無いのですが意識の中で強く感じられます。それなのにまっこう鯨歯にも触手を伸ばしたとします。しかし今度は何かに気が付いた感じがあります。目から鱗が落ちたというのはこういうことか、象牙、カバ牙を再確認して比較します。そうするとそれぞれに持ち味があることにようやく気がつき、カバ牙も手放したくないとなってきて、状況によって使い分けるようになっていきます。3つ使わないとどれ1つとして理解できないという、こういうことを言うと販促と思われるのでやらしいし、入荷も少ないので販促も控えたいと、比較だけの遊び半分で買い占めないで欲しいというのもありますから説明を控えたかったのですが、2種まで手を出して2つ目を後悔するという方が多いので言わないわけにはいかなくなったのです。安い買い物ではないのに購入を後悔するわけですからこれは問題なのです。最初から1種で行くか、2つ目に行くなら3つ目にも手を出して下さい。ここまで予備知識があると2種だけでも大丈夫かもしれませんが、2種も手を出すということは録音される場合が多いということなので、そうなってくるとどうしても3種揃えたくなってきます。3種をよく使いこなすに至って改めて何が違うかと聞かれてもまだよくわからない、あまり変わらないのではないか、いや全然違う気もするしとなって相変わらず印象は曖昧なのです。白水牛はそんなに強い個性はないので上記の3つのようなトラブルは起こさないし扱いやすいと思います。黒水牛はより慣れた木材系に近づくのでより扱いやすいと、こういう風に理解していただければ良いと思います。この5種を見ると、それぞれの材を選択された村山先生の繊細な感性に敬服させられます。
水牛の場合は骨も使われることがありますが、これは牙です。白っぽい飴色で中国では様々な工芸品に使われていますが、音の響きも良いので他の楽器にも使われることがあります。音も外観の印象通り、飴色の音色をもっています。二胡の素材の一部に使われている白い部分は牛骨で、これとは違います。
白水牛二胡駒について。
白水牛とは響きが異なります。比較的高域寄りの透き通った音になる傾向があります。動物系の駒で色が濃いものはこれだけですが、やはりこれも外観を反映して、動物系の中で最も木材に近い特徴があります。あまり牙系の特徴を強く出したくない時に使えます。乾燥地域では植物性のオイルで養生しますが、この特徴も木材系に近いものがあります。
黒水牛二胡駒サンプル音源
まぐろ(真黒)という黒檀の一種です。脂成分の多く含まれた木材で製作されています。牙系の黒水牛角材から木材系への中間といったところ、中庸を得たような特徴です。それでも牙と木材は本質的に材質が違いますからやはり根本の音は違うという、そういう感じのものです。
マグロ黒檀琴馬サンプル音源
琉球三線の最高材である縞黒檀を使ったものです。たいへん希少な材ですが、この材で楽器が製作されている限り、二胡駒を作るぐらいの端材は出ますので、こうして供給されているのはありがたいものです。
マグロ黒檀、縞黒檀も「本黒檀」です。黒檀と言っても色々ありますが、日本の材木業者が本黒檀と設定しているものがこれであるということです。村山先生の印象では外観も含めて縞黒檀とほとんど同じではないかということですが、専門の材木商が「違う種類」だと言うということで項目を分けることにしたようです。すでに縞黒檀をお持ちで絹弦を使っておられる方(絹弦は駒を痛めないので破損や寿命で駒を買い換える必要がない)であればこの駒は不要だと思います。
"本紫檀"とありますがこれは材木業者の中で「本来の紫檀」といったような意味で使われている名称だと思います。一口に紫檀といっても数多くあるので基準となりうるものだということなのだと思います。即ち、三弦や琵琶で使われる紫檀がこれです。
本紫檀二胡駒については、以下のブログをご覧下さい。本紫檀二胡駒
視聴はこちら。
本紫檀二胡駒サンプル音源
同じく三弦琵琶で使う材で「紅木」というのがありますが、それはこちらです。
これは最近の多く流通しているアフリカ紫檀ではありません。アフリカはかつてはかなり良材を産出していたのですが、世界的な傾向として数は減少しています。大量消費時代(?)以前によく見られた材です。
アフリカ紫檀二胡駒サンプル音源
ブラジリアンローズウッド(アマゾン紫檀)というギターなどの製作に使われる木材を使っています。その名の通り、僅かに薔薇の香りがします。楽器に使われるだけあって響きの良いコマです。楽器用の希少な木材が採れるアマゾン産の木材ということで価値があります。
ブラジリアンローズウッド二胡駒サンプル音源
インド紫檀で製作した二胡駒です。しかしこれは二胡材で使っているインド紫檀ではありません。どうしても楽器製作の場合はある程度の成長が前提で、質は良いけれど大きな材を採れない品種であれば選択から外さねばなりませんから、紫檀、バラ科ですが、楽器に使われるものとは違うインド系紫檀です。世界を見た時に、ブラジル・アマゾンとインドからインドシナの地域に熱帯雨林があり、中東からアフリカの範囲は失われています。雨林が壊滅した地域では石油に変わっています。良材は暑い地域から産出し、劣るものは寒冷地域で産出します。しかし北欧の材はスピーカーの箱に適しているなど優劣は使用対象にもよります。
このあたりから以下、白木系ですが、そろそろ古くなってきた二胡に合いやすいものです。使い古した二胡は音の芯が出にくくなってくるものが多いので、こういった駒を使っていく場合があります。黄楊というとかつては弦軸に使うものでしたが、駒に使っても良いということがわかりました。
黄楊二胡駒サンプル音源
バイオリン属楽器の駒に使う材です。二胡にももちろん合いますが、古い二胡、少なくとも一回は化けた二胡に使う方が良いと思います。
明るい響きです。楓(メープル)と同系統の音ですが、欅の方が比較的音が締まっているように感じられます。音の芯の部分の味の個性が異なっています。
ある特定の地方から採れるケヤキです。色合いが少し違います。
神代材は、地中に数百、数千年埋もれていた木材を掘り出したものです。炭素が水分と共に、木材に染みこみ、独特の色合いを持っています。
神代欅二胡駒について
響きが良く、からっと抜けるような音です。杉というと柔らかい材というイメージですがこれはそんなことはない、もっとも柔らか過ぎる材を駒の製作に使ったりはしないので言うまでもないですが、神代材を採用したことで古杉の味を二胡でも味わうことができるようになりました。杉の音? 古琴ですね。
神代杉二胡駒について
村山先生のお住まいは伊勢なので、神宮杉というものがあるようです。削る時にすごく良い匂いがするそうです。小さな駒になってしまっているので完成品はあまり薫らないかもしれません。木材ですからお香のような効果もありそうです。紀伊半島というのは木材の質も良いのでしょうね。
中国の弦楽器には竹を使っている駒は結構あります。これこそ中華の味がします。しかし二胡には合うでしょうか。合うものもあります。どういうものが合うのかというとそこは法則性を容易に見出せません。悪い場合はドラム缶の中で鳴らしているような反響があります。合う場合は、香ばしいハスキーなサウンドです。
アイボリーとは象牙のことです。木材でこういうピンク色というのはかなり珍しいらしい。宝飾品などに使われるようです。
砂漠に埋まっていた古代木です。とにかく硬度が極めて高いということです。
オルゴールのような音です。丸い飴色のサウンドです。牙系の駒にかなり近い印象があります。音は芯だけになりがちだが細くはないという感じです。