現代の欧米基準になっている音響で一定以上の何かを求める場合、東洋の音を録るのは簡単ではありません(しかし安価な機器であれば中国製ですからその限りではありません)。そのことが中国音楽の再生と録音に説明してあります。
そこで以下に中国音楽に適した機材を用意していますが、ヘッドアンプはまだありません。研究を進めて適切なものを提供できるように考えています。
現代に製造された音響トランスです。パーマロイコアを使用したマイクロフォングレードで、さらに同じパーマロイによる銀色の四角のケースに収めた上で端子と接続してあります。トランスは2つ、ステレオ仕様です。
現代の中国では世界の大半のものが作られていますが、音響トランスも例外ではありません。機械で大量生産された安価なものが大部分ですが、それらは家電など音響用途以外が主で、高級音響用では手巻き生産ものも製造しています。このようなトランスを巻いている会社は欧米や日本の有名オーディオメーカーに供給するのが主要な仕事です。コアから使う銅線の径や巻き方などの様々なバリエーションの中からメーカー指定のものを巻いて供給しています。そのようにノウハウを蓄積すると「自分たちの考えではこれが良いのではないか」という製品を巻いて独自ブランドで販売したりするようになります。中国楽器の奏者が求めるのは中国特有の毒が出るか否かなので、外国からの注文に応じたようなものは必要としていません。手工生産、そして外国から指示を受けずに自分たちが思うように製造するとやはりお国柄は出るもので、中国が作ると中国文化の感じさせるものになっていきます。50kHzまで延びているという今や珍しくもない現代的なハイファイトランスです。中国の専門技術者たちが作りたいものを真面目に作ったという感じのものです。一般的にはこれがファーストチョイスだと思います。完成度が高いのではないかということでご紹介することにしたものです。
中国製の音響トランスについては、トランスとアナログ感 ~ 中国音楽の再生と録音をご覧下さい。端子は上が入力(600Ω)、下が出力(10kΩ)ですので、逆に挿してDIにすることも可能です。アウト600Ωという選択もあって迷ったのですが、現代の機器ではINPUTがほとんど10kΩなのでこの方が周波数特性が良好だし、トランスの味が出やすい、600:600だと味が薄いということでこちらに致しました。
50年代に制作された軍用通信機器に内蔵されていたトランスです。コテコテに艶やかなサウンドが展開され、世界のあらゆる音楽を中国4000年の歴史に基づき再規定します。そのサウンドとは古来からある中華の響きに上海租界を通して外国から入ってきた西洋の響きが混じり合ったものです。アルゼンチンタンゴ、戦前戦後のウィーンの交響楽、三文オペラ時代のベルリンの音楽、椎名林檎などを濃い毒まみれの音楽に変貌させます。最も相性が良いのは30年代租界時代の上海歌曲、テレサテンなどの中華寄りの物です。廃頽色の強い音楽向きです。しかし空間系とか立体感を重視した音楽には向きません。この立体感がないというのは不明瞭になるという意味ではありません。奥行きがなくなって、板の上に並べたような平たい表現になります。奥の方に行ってしまうような音がないので迫力が増します。音のキレも鋭くなります。ドラムは破壊力を増し、ベースラインまで聞こえるようになります。YouTubeの視聴は快適になります。鮮明さについてはこれは特に中華のトランスだけの特徴ではありません。トランスを入れるというのは大体明瞭さを増すものです。そこから欧州のものであれば立体感はあるし、東洋は濃密になるという特徴の違いがあります。東洋的な妖艶さは西洋にはないものです。写真は蓋を開けて撮影していますが発送される時には閉まっています。
幾つか接続の方法があり、出荷状態ではインプットが400Ω(5-7)、アウトプット1kΩ(3-4)になっています。もう一つ5kΩ(1-2)も使えます。市販の多くの機器はアウトプットが150Ωなので、この3つのうちどれでも繋げられるし、機器のインプットは10kΩなので、こちらもやはり3つのどれでも繋げられます。出荷状態が一番具合が良さそうなのでこうしていますが、逆に1kΩをインプットにする方が良い場合もあります。この3つを同時に使うことも可能、400Ωは中点タップが6番で100+100Ωです。中点は正確性に欠けます。
トランスのインピーダンスについてですが、トランスは銅線を巻いているものですので実際には数Ωという非常に小さなものです。ほとんどケーブルと同じと考えて良いと思います。違うのは推奨する負荷があるということです。トランスのスペックが400Ωであれば、400Ωのところに繋ぐのが最も周波数特性が良いということです。そのため仮想的に400Ωで考えます。ロー出しハイ受けの原則で、機器のOUTPUTが400Ω以下に繋ぎます。400Ω以上であれば1KΩの方に接続します。トランス2次側が400Ωなら、それ以上のINPUTに接続でき、1kΩならこれもそれ以上です。ですが、こんなに低い入力の機器はほぼないと思います。
軍用通信機に内蔵されていたトランスは当時最高品質、しかしそのことと音楽面での音質は関係ないように思うのですが、そんなことはなく、実に見事な音を通してくれます。通信機として使った時も高品質だったのでしょう。持ち運びを考えると、よりコンパクトにしたいところですが、トランスを多用しているところから、主に車両での運搬を想定していたものと思われます。しかしチベット侵攻から動乱(1949-74年)の過程では山岳地帯の移動で通信機を人力で運ばねばならないこともあり、真空管からトランジスタへの変更の必要性が認識されるようになっていました。
三国志に記されている諸葛亮南征の記述には、漢軍が対峙した蛮族の首領・孟獲が8度捕獲されたとあります。武士のように名乗り出る、騙し欺きは義に反するなどの考えから容易に捕縛されたもので、その度に「卑怯者」と反発、諸葛亮が「わかりました。では戦いをやり直しましょう」と言って縄を解き、接待した後に返され、反撃準備を整えるのを待ってから再戦を繰り返しました。なぜなのでしょう? 決して屈服しない民族、しかし義は重んじる、力では征服できないという分析があったと思われます。孟獲はついに降伏し、生涯離れなかったとあります。
蛮族の末裔は、60年代に共産党と戦い、ゲリラ戦を展開して決して屈することはありませんでした。彼らは国境を超えてビルマ(現・ミャンマー)に拠点を築き、長年解放軍と激闘を繰り返しました。そのため、国境沿いのミャンマー側には現在でも多数の中国人が住んでいるとされます。解放軍は、深い山岳地帯では通信機は必須、しかし真空管では到底運搬は不可能という問題に直面したため開発を急ぎ、北京や天津を中心とする広範囲に工場を設置、トランジスタ通信機を生産しました。この通信機の出力段には、インターステージと出力トランスの2つが使われていました。トランスは非常に小型となり軽量化されていましたが、無い方が当然軽い、それでもトランスを使っていたということは、音声品質を妥協したくなかったのでしょう。
真空管時代の上海トランスの音は妖艶、魔都の名に相応しい、実に甘美なサウンドを特徴としていましたが、中国音楽そのものがそういう特徴ですから、半導体時代に北京で巻かれたものも基本的には同様です。しかし、妖艶や甘美と言っても様々で、中国南北では音楽がかなり異なっていることもあって、その違いがトランスにも現れています。北京でトランスが巻かれると京劇のような特徴を表出しました。凛とした、端正な、筋の通ったサウンドです。
2種類あり、031が1:1.4(CT)、035は1(CT):1.7です(中点タップCTはアバウト)。本来の仕様では4Vぐらいは流せるのですが、断線トラブルが当時から結構あったとのことで推奨できません。031は6-4:1-2-3で5がアース、035は6-1-2:4-3で5がアースです。2つの価格です。ケースなどに入っていないこのままなので既設の機材に組み込んで使って下さい。ハンダで断線させないように気をつけて下さい。
トランスとアナログ感 ~ 中国音楽の再生と録音でBATPUREに使用しているトランスです。普通のスピーカーには使用できませんがラインレベルで使うことはでき、その効能についてもリンク先で解説してあります。ケースはヴィンテージトランスと同じものです。BATPUREは付属していません。
世界のマイクの生産は主にドイツ、日本、中国で、多くの製品が現在中国製になっていますから、中国製のマイクを手に入れるのは簡単です。むしろ、中国以外の地域で作られたものを手に入れる方が難しくなってきています。しかし入手できる多くの中国製マイクは外国からの要求に沿ったもので、完全に"中華"を体現したマイクではありません。大陸ではこのことに違和感を持っている層がまだ一定数いますので、中国国内でのみ販売されている純中華のマイクがあります。中国楽器を収録するためにはこういうマイクの中からダイナミックマイクを選択したいところです。巻線の魅力には抗し難いので。そこで旧北京第一無線電機材廠製造のマイクで高グレードの(必ずしも高グレードが良いかどうかは別なのでそこは比較していますが)しかしやや特殊な形状のマイクですが、これがベストなのではないだろうかということで入荷することにしたものです。中域に独特の掠れた感じがあるのですが、それが他のマイクでは得られません。掠れた音ではありません。ハスキーともまた違います。中国笛は振動膜を貼りますので独特のバリバリした音がなります。これに近い、こういう音が採れるマイクはなかなかありません。二胡に合う渋い表現です。
マイクアンプに業務機材を使っておられる方であれば問題ないと思いますが、市販の安価なミキサーを使っているという場合は、スペックが最大60dBぐらいで、確かにその最大値あたりでも音は出るのですが、どうしても歪みが目立ちますので抑えて使わざるを得ません。このマイクであれば一般的に普及しているダイナミックマイクと比較してゲインが20dBほど高いので、通常60dBは必要と言うところで40dBぐらいに落として使えます(つまり安価なミキサーはコンデンサーマイクを使う前提で設計されているということになるでしょう)。どうして20dBも高いのでしょうか。分解していないのでわかりませんがトランスを使っているでしょう。このことも音質に影響がありそうです。
このマイクは振動膜に純金を被せてあるのでメーカーの方で"高グレード"とランクしてあります。マイクそのものは古い設計で60~70年代ぐらいですが、東ドイツ・ノイマン製で弾丸のような形状でした。それを技術提供で丸々コピーして中国も製造していました(写真は旧北京第一無線電機材廠製造。外観はドイツ製とほぼ同じ)。これが徐々に進化して現在はゼンハイザー MD421、通称「クジラ」と呼ばれるマイクになりました。非常に有名なマイクで録音を解説するムック本にはほぼ出てくるし、国会中継でも見られることがあります。中国はその後、おそらく独自に開発を進め、クジラという感じの外観ではないのですが、少し面影はある感じの現状に落ち着きました。結局、元の開発が傑作だったらしく、ドイツ、中国と別れて進化しても相当に自信の持てる製品に仕上がるようです。そこで中国では90年代末ぐらいからこれに金箔を被せてグレードアップするようになりました。この金箔を使うという方法はコンデンサーマイクに、古くは有名なノイマン U47に使用されたM7カプセルに採用されていました。世界最初のコンデンサーマイクはWE47で、この特許を回避するために新規開発されたものでした。WE47のカプセル394はアルミでしたが、M7は塩ビに金の層を張ったものでした。これをダイナミックマイクに転用したものです。金箔を張っていないモデルもまだ生産されていますが、金箔モデルの方が上質な音がします。
現在、上海ではダイナミックマイクは製造していないと思われ、少なくとも飛楽では製品は出していません。これは昔製造していた高グレードのものです。
二胡にピックアップをつける方法はいろいろ考えられますが、付ける場所が悪いと音が暴れたり弓棹が胴を打つ音などが入ってしまいます。おそらく一番ベストな方法はピエゾを控制綿で包むことです。本品は中国弦楽器に最適な大きさで作ってもらっています。全長は25cm前後です。上海・蘇州式二胡であればコードを琴托の内側に押し込んでプラグを後ろに回せます(北京式でもコードを嵌め込む隙間さえあれば可能だと思います)。このタイプは取り付けの準備として楽器の方を全く弄らずに脱着が可能という利点もあります。綿の脇からピエゾを差し込むだけで装着できます。またチューナーを周辺雑音の多い環境で使う場合もピックアップを挿しますが、クリップ式を琴頭に挟めば楽器が響かなくなります。しかし本ピックアップであれば楽器の響きに影響を与えません。
平面の方が吸音面で、蛇皮、弦のどちらに向けるかで音が変わります。弦に向けると重心のある安定した響き、蛇皮に向けるとソリッドになります。尚、ピックアップを弦に、或いは蛇皮に密着させるのは良くありません。しかし一回試しておくと極端に行き過ぎますので傾向を把握することで綿の巻き方の参考になると思います。
ライブの環境でマイクを使えば、話し声とか会場のノイズ、別の大きな音がする楽器の被りが入るということがあります。ハウリングもあります。このような環境でピックアップを使えば純粋な二胡の音だけを取り出せます。しかしピックアップの音がマイクに比べて低品質であれば、指向性が強めのマイクを使うことで対策するということもあります。また拘れば、琴胴にマイクを入れ込むという改造が必要だったりします。しかし優秀なピックアップが使えるのであれば、マイクで拾われた場合の周辺の関係ない音に煩わされることなく純粋な二胡そのものの音を扱えます。本ピックアップであればマイクの必要性は感じないでしょう。
アンサンブルでの音被りの問題はPAだけでなく録音でもあります。楽器を個別に録音する、ブースで分けて録音するといったやり方を好まないのであれば、二胡のような音が小さめの楽器には補助マイクを立てたくなる場合があります。このトラックが必ずしも複数の楽器の成分が含まれていてはいけないわけではないですが、二胡だけの音が集音されている方がやりやすいのは確かだと思います。この場合でも本ピックアップが使えます。
接続先はマイクアンプ、インストルメント端子(Hi-Z端子)、DIのどれに挿しても使えます。必要なゲイン(音の増幅率)は少ないので、ラインレベルに挿して使えることもあります(機器に拠ります)。これぐらいなので安価なミキサーのようなヘッドルームが低い機器でも十分にドライブできます。ファンタム電源は要りません。ハウリングに非常に強い設計です(設計というよりもピックアップを綿に包んでいるために過度の振動を受けないからでしょう)。AcoFlavorを使ったものと比較した録音も参考にしてみて下さい。
コネクターはスイスのメーカーでノイトリック社のXLR端子です。外装が黒のものは金メッキです。使われたハンダは昭和56年千住金属製造のヴィンテージです。昔の和製の高級オーディオに使われていたものです。欧米のハンダも良いのですが、千住の古いものが東洋音楽には合うと思いますね。
二胡にピックアップを使用した場合に使えるパッシブDIです。パッシブDIはトランス式です。用途は二胡に限定されているわけではなく、東洋楽器全般に合うものです。ペア組してあります。2chです。ステレオ仕様のDIは不要のようにも思えますが、しかし用途がDIだけとは限らないし、2chペアであれば何かと使途は広がるものです。パッシブDIは高いインピーダンスから低いラインレベルに変換するのでゲインをかなり失います。しかしここにトランスを使うのは音質面で非常に効果的なので今尚、市場にたくさんの商品があります。しかし弦堂で販売しているピックアップは技術面ではDIを必要としていません。インピーダンスを変換する必要がなく、どこにでも挿せるからです。それでも昇圧は必要です。昇圧に使うならこれはもはやDIではないですが、アンプに楽器用の端子があるなら昇圧で是非使っていただきたいところです。インピーダンスは1次側が600Ω、2次側が50kΩで、これを逆に使えばDIになります。端子は600Ωを上、50kΩを下にしてあり、弦堂ピックアップを使用する場合の推奨は上をIN、下がOUTです。DIとして使う場合は下がIN、上がOUTです。
これは真空管時代、50年代の骨董トランスで、ラインレベルから真空管ドライバー段に入力する際に昇圧していたものです。インピーダンスにこれだけ落差があれば結構味は出るものです。もう1つは70年代、杭州・西湖牌というコンソールを製造しているメーカーが自社で巻いていたものですが、一般的に中華のトランスは西洋的な立体感は出ないものではあるのですが、西湖牌はその西洋的な空間があります。汎用的な作りですが、清楚で淡い艶があります。やはり個性は西洋のものとは異なります。
パッシブDIは、固有のサウンドを確立するためにマルチ録音の初期から使われてきた手法で、有名な例として下に資料を1つ貼っています。もともとモータウンが使っていたトランスはUTC社のもので、こうしてアメリカの音楽にアメリカのトランスでよりアメリカ色を強めていたのですが、トランスを使うのがDIの位置だったということで、この手法は今でも使われています。これはギターの中にアンプが入っているタイプ、エレキはそうですが、アコースティックでもアンプで増幅された音をDIに入力します。増幅された音はDIでかなり失いますので、利得を得るためにマイクアンプに繋がなければならないと書いてあります。
このDIは見たことがないので仕様からの推測ですが、トランスは1つで入力が2つ、出力が1つです。まさか1つの巻線に2つ入力しているわけではないと思うので巻線は2つあると考えたいですが、インピーダンスの異なる別のものを互いに挿す可能性が高いのでそれでも干渉しないということであれば結構特殊なトランスだと思います。アッテネーター(ボリューム)は必要なのでしょうか? ゲインがかなり下がるところをさらに下げるという話なので奇妙ですが、普通はパッシブDIの場合、ボリュームは無いものが多いと思います。無駄につけているわけでは無いと思うので、ボリュームあたりでも音作りをしていこうということなのかもしれません。単純には比較できませんがこのDIは1つで6万、2つで12万ですが、デトロイトで古いものを復刻すると結構コストがかかるのでしょう。最近、米国の産業界が、中国の人件費が上がったから本国に生産を戻すと、それなのになぜか米国製になったら何でも非常に高価になってしまいました。問題は他国の人件費ではなくて自国の雇用ではないかという気がします。中国の人件費は確かに上がっていますが製造水準も高まっているので分野とか物にもよりますが、むしろ安くなっているものも結構あります。こういうトランスの場合は作った地域の文化が出るので米国の音を得たければ米国で巻かねばならず、だからこそデトロイトにこだわっているのですが、こういう考え方は経済度外視なので贅沢なものです。1個6万だと、中国人から「何で? うちに任せなさい」と言われてしまいかねません。スペックは完璧、しかも驚愕の速度による納品さえ可能なのです。それでも文化を考えるとトランスは各国で巻いて欲しいと思います。
かつての中国業務機材はEQ(イコライザー)にインダクターを使っていました。また周波数ポイントはある程度絞られていました。部品も中華製で組んで過去の回路を踏襲しても良いのですが、もっと良い方法があるのではないかということがイコライザー ~ 中国音楽の再生と録音に書いてあります。PultecのEQが早い段階で中華に入っていれば、EQがもっと積極的に運用されていたのではないかということでした。中国唱片廠で決定された周波数を参考にし、さらに中華のヴィンテージパーツを使えば中国音楽に対して親和性の高いEQが得られます。
二胡は本来西洋でいうところのアンサンブルを必要とせず全帯域、と言っても昔の人が必要と感じられた帯域においてではありますが、それを1把で担当しており、その範囲において相応しいバランスで鳴るように設計されています。ソロでも十分に演奏できます。そこへEQでなにがしかの変更を加えるというのは基本的には必要なこととは思われませんが、かといって不要でもありません。ミックスは他の楽器との関係性もあります。
中華系の伝統的な録音はコンプレッサーを使っていませんでしたが、それでも当時はLPかテープに録音していましたので圧縮が全くなされていなかった訳ではありませんでした。しかし今はデジタルですから現代はコンプレッサーも必須であろうと思われ、マイクで録ったそのままの散った音では具合が悪いと思います。バリミュー管かダイオードブリッジ式が合うだろうということでしたが、コンプレッサーを使わない選択肢としてはリボンマイクを使うか、そうでなければPultec式EQでダイナミズムを得るのも有効です。
現行の業務機材は中が非常に微小なパーツで構成されていて、回路は複雑なのですがコンパクトに作られています。パソコンの中身と似ています。こういうものとハイエンドのデカいパーツを使っているもの(写真例はシーメンスのモジュール)では音の有機質が違うのではないか、業務機材は大まかにこの2種で大別できるように思います。しかしどちらが良いというものではありません。二胡のようなサウンドの楽器にとって音の有機質は極めて重要、おそらく中国楽器全般にとって音の濃厚さは重要ですが、そうすると音を通すパーツは無視できません。しかし古い大きなパーツを使うと、機材は大きな、そして重いものになります。一方、現代の機器はサウンドがクリーンです。昔の機器がクリーンではないということはないし、現代のパーツも非常に研究されていて良いものが多いです。ヴィンテージパーツを使うことには賛否があって、いつまでも結論の出ない議論です。しかし中華の伝統楽器であればヴィンテージパーツを求めたいところです。重くて大きければ、あちこち移動して演奏活動する場合、ライブで提供するサウンドをより良くしたいという時に負担になりますし、二胡に特化しているわけですから無駄に機能は必要ないということで、できるだけコンパクトなものも製造しました。
このことと、現代の我々の周囲の一般的な機材を見た時に、Pultec元機に内蔵されているバッファーアンプは要らないのではないかということでこれは省くことにしました。元々EQはパッシブで、当時Pultecが後段にアンプを置いたのが画期的だったぐらいなので、バッファーを抜くと戦前のやり方に戻っただけではあります。バッファーがないので-20dB以上減衰します。EQ回路のインピーダンスは入力600Ω、出力10kΩです。元機は前後にトランスが入っていますが、これは入れていません。適切な古いトランスが入手難ということもあるのですが、なければトランスを交換して接続する自由がありますので音色をある程度コントロールすることができます。現代のトランスは強い個性がないのでいいのですが、もし古い上海のトランスを入れたとすればかなり上海の音になってしまいます。それでコテコテに固定されてしまうので、もし手に入ったとしても内蔵ではない方がいいかもしれません。パーツは中国製を使っているので中華系の音色を狙っているのですが、トランスはそこからさらに踏み込むので入れることができるのであればより濃いサウンドになります。北京や杭州を始め、あちこちのトランスがあると思います。出力側のトランスは使う方向で考えない方が無難です。この時点で-20dBぐらいと信号が弱くなっており、これをトランスに入力するとさらに減衰するからです。ラインレベルのトランスであれば-60dBぐらいになってしまいます。弱い信号でも扱えるトランスが必要ですが、無理して入れる理由がない、必ずしも必要ないのではないかと思います。現代の機器はほとんど入力10kΩなので、受ける方で困ることはないと思います。
写真の例は世の中で販売されている最も安いミキサーの一種、演奏の仕事で自前で機材が必要な時に最初に買いそうなものの1つですので、これに繋いでみます。マイクを1番のマイク端子に刺した場合、出力はAUXから出し、EQに繋いでそのOutを2番のLINE端子に刺せますし、もっと簡単であれば、EQをINSERTかEFFECTのどちらかに刺せば(それ用のケーブルは要りますが)それでもいけるはずです。
写真はトレイに載せた最初の試作品です。この回路の選択はソフトウェアモデリングでしたので、それと実機では、パーツも西洋のものではありませんし、何がしか違ったものになるのではないかという恐れはありましたが、音の質感や変化の仕方はほとんど同じでした。現代のモデリング技術が非常に高度だということなのでしょう。使うパーツは古い中国解放軍製を重用しますので、全て単品製作となり、全く同じものはおそらく2つと作れません。従ってステレオは無理です(そもそもステレオの概念がなかった国のパーツですからエージングの進み方さえ個体差が感じられます)。パーツの誤差が大きいので1つ1つ計測して周波数を合わせていきます。古い、特に軍用パーツは何十年も耐久しますし中華の音が出ます。しかし一部は数が入手できません。製造不可能になった時点で中止し、また入手できれば作ったりになると思います。製造後、最低1ヶ月は弦堂の方でエージングして様子を見た上で出荷します。
弦堂謹製EQは中国音楽用ですが、中国楽器専用ではありません。西洋楽器用の共振点も用意したりしています。それでも中華のパーツと西洋楽器が合わないのであればこのような共振点は用意はできません。十分良い感じで使えると思いますが、アジア人だからそう思うのかもしれません。合わないと思う人もいる可能性はあるでしょう。しかし重要点はそこではなく、例えば二胡とギターといった割と単純な組み合わせであっても、ミックスで馴染まない、それは二胡を西洋機材で録った時にありがちなことで、そういう問題がリバーブの多用に繋がっていたりします。それが必ずしも悪いということではなく狙いによっては構わないと思うのですが、アコーステックな響きに率直に向き合うのであれば東洋系の音作りも可能性として考えたいところです。そこでギターの方を中華系で処理すればミックス時のハードルは下がるのではないかと思います。