胡涵柔二胡 - 二胡弦堂

 
二胡製作家・胡涵柔

 上海の二胡制作家で、女性の制作家でいらっしゃいます。上海民族楽器廠・敦煌牌のプロ用特注モデルを製作していた王根興(wang-gen-xing)の高弟として知られており、敦煌牌の最上位モデルは現在、胡涵柔が受け継いで作っているとされています。敦煌牌のウェブページに胡涵柔の名前がクレジットされています。

 胡涵柔は普通、楽器店には置いていませんので、一般的にはご自宅まで伺って購入します。愛犬は訪問者に慣れていますが、調音器の笛の音は慣れないようで、やめてくれ、と言わんばかりに吠えます。写真では胡涵柔女史に一喝された愛犬が大人しくなっているところです(追記:この愛犬は亡くなったようです)。

胡涵柔女史の老紅木二胡  玄関を入りましたら、このように二胡が掛けてあります。部屋のいろんな場所に二胡が保管してあります。

 上海二胡というと、新幹線で30分も行くと蘇州もありますし、こちらも有名な産地ですが、この2つの都市が作る二胡は個性がぜんぜん違います。蘇州の伝統的な二胡の音はより鋭く、古楽器のような響きを持っています。上海は柔らかく穏やかです。中国の方のネットの情報でおかしなことが書いてあることはほとんどないですが、蘇州城外の王国興を以て蘇州二胡とし、上海と蘇州は変わらないという学説が結構ありますがこれは誤りです。王国興は王根興の弟子(血縁ではない)なので蘇州に住んではいるものの蘇州の伝統は引き継いでいません。江南絲竹の録音を聴くと上海派二胡では出ないような乾いた音で鋭く鳴らしているものがあったりしますが、それは蘇州二胡だからです。敦煌牌と王根興は技術を秘匿せず、広く伝承するために努力した結果、中国の一般の南方二胡は上海派の味を持っています。安い二胡でも上海の味があります。そこへ胡涵柔を見ると、違いがあまりない、これだったら安いのでも良いのでは?と思う人が多いです。実際、敦煌牌の安価なモデルの信用は絶対的でこれでも十分やっていけると思うぐらいです。しかし時間が経つとどんどん差が広がります。

 上海二胡の特徴はというと、魔都とも言われる上海、穏やかで優雅な佇まいの内に秘めた毒、薔薇の刺には毒があるのだけれど、毒に侵された痺れるような快感で彷徨う麻薬のようなサウンドです。その代表が現代では胡涵柔です。パッと見た感じは健全な感じはするのですが、惑溺性があります。いろいろ持っていても胡涵柔がないとニコチンが体内から切れてきた感じがして気分が悪くなってくるようなこともあります。一見大人しいし、上品で控え目過ぎる感じもしないではないですが、一旦ハマると無くなったら困る感じになります。健全な青少年諸君のためにもっと相応しい例えはないでしょうか。噛むほど滲み出してくる昆布みたいなものですね。蘇州の二胡は戯劇的な音なので派手ですが、北京の場合は派手なものと奥ゆかしい渋いものの2種があります。古北京派の風流な枯れた渋い味は上海派とは違いますが、何か共通したものがあります。

胡涵柔女史による二胡の収納状況  コンポの下の一見、何もなさそうなスペースですが「紫檀二胡はないのですか」と言わないと、この部分は開けません。ぎっしり二胡を埋蔵してあります。言うとさりげなく開けて驚かすあたりはエンターテイメント性が感じられます。他にもあちこちに仕舞ってあり、すごい在庫量です。忍者屋敷みたいです。悪代官が来た時に商人がヘラヘラ笑って「こちらをご覧下さい」というから見たら小判がぎっしり「おぉ」という様子に似ています。印度紫檀は、別の部屋へ取りにいかないといけません。小出しにする様子から、他にもまだありそうな雰囲気を漂わせており、嫌が応にも期待が高まりますが、残念ながらこれ以上はありません。天井も気になりますが、上にはありません。「黄花梨は・・」などとさらなる挑発行為に出ると、「今はその材料では作れないでしょ」と言われました。

 敦煌牌は上海民族楽器廠の製作品で非常に安い印象がありますが、実際には安価なものから高級品まであります。高級品はプロの演奏家などが特注し、製作者名も明確にされています。その中で胡㴠柔は今でも上海民族楽器廠のホームページに名前がクレジットされています。敦煌牌というのは、安物を作っている楽器工場ではありません。非常に優れたものを作っていますが、質に対して価格が非常に安いという特徴があるので多くは誤解されています。高価なものもたくさんあります。上海音楽学院などと協力して様々な最先端の楽器研究を行っているので、価格を抑えることが可能なのです。半国営の大企業である利点を活かして研究から仕入れ、人材の育成など有利に展開し、維持されている高い品質は中国で絶対的な信用があります。大企業が信用あるのは日本では当たり前ですが、信用糞喰らえ的中国では結構すごいことなのです。中国の一般の顧客は本物の敦煌牌であることがわかったら、音など確認せずに買うぐらいです。顧客に変なものを掴ませないというだけで凄いのです。香港中楽団(香港・チャイニーズ・オーケストラ)とすら契約し楽器を提供している程です。胡㴠柔の二胡を買うということは即ち敦煌牌の特注品を買うことであるという考え方もできます。ただ敦煌牌を通すと高いので、ちょっと違う方からアクセスしているという、そういう感じです。胡涵柔の二胡を見るとどうして敦煌牌の信用が中国で絶対的なのかわかります。

 在庫:弦堂で販売している楽器リスト
 お問い合わせ:erhu@cyada.org  erhugendou@gmail.com

 以下掲載の写真の二胡については一部録音が御座います。すべて紫檀二胡のもので上海音楽学院の学生さんが試奏しています。途中で胡女史が話している部分がありますが、最初の部分は学生が「私の二泉胡は老紅木です」と言って女史は「二泉胡はほとんど老紅木でしょう」と答えています。しばらくして次の話は「老紅木は古典的な曲には合う。柔らかい音が鳴る」というような趣旨のことを言っています。


胡涵柔二胡例1

手前が印度紫檀二胡、後方の2把が老紅木二胡です。


胡涵柔二胡例2

すべて老紅木二胡です。


胡涵柔二胡例3

左が印度紫檀二胡、右が老紅木二胡です。


胡涵柔二胡例4

胡涵柔二胡の蛇皮。


胡涵柔二胡例5

蛇皮についてはいずれもこのような感じです。


胡涵柔二胡例6

すべての胡涵柔二胡にはこのような銘が入れてあります。


胡涵柔二胡例7

印度紫檀二胡には、それを示す印が入っています。


胡涵柔二胡例8

古い印度紫檀の中には「金星紫檀」という種類があり、このように金色の筋が入っています。


胡涵柔二胡例9

金星紫檀の弦軸部です。