温敏超作 高胡 - 二胡弦堂

 


温敏超の店舗  高胡は、中国大陸南端の広東省で使われている楽器です。発明されてからまだ数十年しか経過していませんが、元はバイオリンが使われていたパートをこの楽器が担うようになったことから、バイオリン曲を移調せずに演奏できるという二胡とは違う特点があります。それゆえか二胡と同じように演奏できるコンサートタイプの高胡が作られアマからプロに至るまで幅広く使われています。

 それ以外にもちろん現代でも伝統的な型の高胡も作られています。伝統的と言っても様々な改良を経て現在に至っていますが、中国の北方と南方では形の異なる高胡が使われています。いわゆる"南方琴"とは広東高胡を指します。高胡は二胡を小型にしたものですが、北方琴はかなり小さいのですぐに判別できます。それに対して広東の高胡は結構な大きさがあります。おそらく音量を得るため、それと高胡は音域が高い楽器ですが、リッチな低音もあるからより魅力があるので、重要な要素を満たすと大きくなるのだと思います。重量感は二胡以上なので、もう今や "二胡の小型" という面影はありません。北方高胡は物にもよりますが、音が小さく、今後廃れていくかもしれません。事実市場にはほとんどありません。広東以外ではもう今はコンサート型になっています。

温敏超と家族  二胡奏者がバイオリン曲を拉き、時には広東音楽もやってみるというニーズにおいては、選択する高胡が北方の様式か、或いは南方のものかは、どちらでもいいかもしれません。北方の高胡はもうあまり出回っていないので、コンサート型か広東型に大別されますが、どちらも音量は十分に得られます。しかし演奏法が違います。広東高胡は足に挟みます。もしこれを嫌わなければ広東高胡の方がいいです。味わい深い音が出るからです。広東人は高胡を足に挟み微妙な挟み具合で雰囲気を変えます。車のギアのようなものかもしれません。この特点ゆえに高胡と二胡はかなり違う楽器です。しかしコンサート型は二胡と変わりません。日本人は心情的に広東の楽器をすぐに好きになれると思います。文化が近いからです。しかし二胡のような演奏に拘るならコンサート型になります。とはいえ、広東型を二胡のように拉いてはいけないこともないと思います。ただし、その場合は二胡と同様、綿を駒の下に入れる必要があります。試した感じでは、あまり問題なさそうですが、そのうちに足に挟むように自然となっていくと思います。その方がどうしても音が魅力的なので。ここで紹介している高胡は花窓が付いているので、二胡のようにも演奏できると思います。重要な点として、コンサート型は音域が他の楽器と分担されているのに対して、広東高胡はソロでの演奏が想定されていることです。この違いは大きいと思います。

 ここでは広東高胡の選択肢として、本場の人々が使っているもので、すでに名品との誉れを受けている温敏超作の高胡を扱うことにします。広東省の愛好家たちはコンサートタイプのものや北方琴を好まないようで、広州の販売店にはほとんど南方琴が置かれています。幾らかの店には1把だけ北方琴が置いてあることもある程度です。

 広州には温氏以外にも高胡を作っているところがあります。できれば二胡のように幾つか扱いたいのですが現状見つかった範囲では他の工房は安価で質が低いので、当面温氏のみ扱います。高胡の在庫状況としては下の写真のような様子で大量にはありません。販売して隙ができたら作ってゆく感じのようです。

温敏超作 高胡がショーケースで展示されている様子

 在庫:弦堂で販売している楽器リスト
 お問い合わせ:erhu@cyada.org  erhugendou@gmail.com


酸枝材の扱われ方  二胡でも使われていますが、あまりなじみのない呼び方の材が楽器に関わらず、広東省では結構あります。中国各地では方言が話されていますが、しかし共通語として普通話は重要な位置にあります。広東省でも表面的にはそうですが、実際には広東語の方が主要言語になっており、まず地元の言語から話して通じなかったら普通話に変えたりするのは広東省の人ぐらいです。マクドナルドでも普通話と広東語の両方でアナウンスするなどかなり特殊と言えます。人々は普通話で流暢に話しつつ「自分は普通話はわからない」と普通話で言います。心理面でかなり抵抗があるようです。メールでも挨拶などの一部にわざわざ広東語を使い、その後に普通話の翻訳をつけて送って来ます。そういうところなので、材の呼び方に関しても他と歩調を合わせる気はありません。「酸枝」という材があり、二胡では紫檀や紅木などおそらく質によって様々に呼ばれています。高胡では明確に酸枝材と明示されます。広東省では右の写真のように骨董家具の多くに酸枝を使っており、積極的に買い上げも行うという表示も見られます。広州の骨董家具通りには多くの店がありますが、いずれの店も酸枝の扱いを表示しています。老紅木や紫檀などの表記はほとんどありません。インド紫檀でさえも酸枝と表記されています。広東省では高級材というと酸枝なのだろうと思います。

 使われている幾つかの材の中で一際個性的なのは黒檀です。非常に柔らかい音です。材にはピアノのような分厚いニスが塗ってあり、鏡のように黒光りしています。これはおそらく黒檀を扱う場合の高胡製作における伝統のようなものなのかもしれません。もちろんニスは高胡用に特別に開発されたものを使っているわけですが、音質に対する影響がどれほどあるのか、ニスを塗っていない黒檀高胡が市場にないということもありますので、その効果についてはよくわかりません。それよりも広州独特の気候に対応するためにニスは必要なのだろうと思います。

紅木にもいろいろある  ニスを使っているのは黒檀だけではなく、他の材にも使っています。そのこととは関係なしに、音質の面で黒檀だけ他とは違って浮いています。柔らかい穏やかな鳴り方です。他の材がそういう鳴り方をしていないということは、他の材の鳴り方が標準で、黒檀は特別なのかもしれないと想定できます。使えない材として却下されてもいません。比較的安価ですが、安価な楽器の部類にも入っていません。そのため、黒檀高胡には一定の支持があるのかもしれないと考えることもできます。その他の老紅木、黄檀、酸枝はいずれも似たような材です。二胡であれば全部老紅木に分類されると思います。しかし材木の流通の分野では明確に分類され、それが価格に反映されているものと思います。