陳逢章作 潮州二胡 - 二胡弦堂

 


陳逢章の楽器店と父の昔の新聞記事
 二胡は北京、上海、蘇州でそれぞれ固有の伝統がある点についてはそれぞれの頁で説明しています。さらにそれらが各民族楽器廠で完成されたものであるという点についても所々に書いてあります。まだあるのでしょうか? 現代の胴をラッパ型にした武漢派がありますが伝統的なものではありません(弦堂が一番最初に販売していたのはこれでした)。それ以上は考えたこともなかったので、潮州を訪問して当地の二胡を見た時に、中国に来て二胡を初めて見てから早10年、これに出会うのにどうしてこんなに時間がかかったのか、どうしてこういうことになってしまったのか、背景をいろいろ考えてしまいました。

 最初の発端は数年前になりますが、沖縄音楽を聴いて、拉弦の伝統が乏しいという話を聞いて、それだったら親近性のある東南アジア音楽はどうかとなって、暇な時に短期ではありましたがタイ・バンコクで当地の宮廷音楽を少し学びに行ったところからでした。潮州二胡問題は言語で、どうしても要領を得ない、細かいことはわからないところは出てくるものです。それ以上にとにかく暑すぎて、細かいことなど面倒という土地柄ですから、言語の問題がなくても難しいだろうという印象でした。これはこれで一定の収穫もあったのですが。ともかく次は場所を変えようということで調査すると、東南アジア文化(沖縄も含む)は潮州が大元だと、そこから文化が伝播したということが明らかになり、それだったら中国語だし条件は良いだろうということで、潮州音楽はどうかということになりました。楽譜を買ったりしましたが、それでもこれは一回行かねばならないと思うようになって、しかし暇がなかなかなかったので、実際に潮州を訪れるまで思い立ってから2年半かかりました。結局まともな勉強にはなりませんでしたが、当地の文化がどういうものかについては少し理解できました。観光客の多い潮州では楽器店は外地人が入店するや、すぐに二胡を出して見せます。外地人には潮州の楽器ではなく二胡が売れるようです。潮州の独自の二胡です。しかしそこで見たものは未知の楽器ではありませんでした。陳逢章双胴二胡の構造北京・新街口にも潮州からセールスが来ていたのでパンフレットの写真で見ていたし、潮州にくるすぐ前は広州にいてそこでは潮州式二胡を買うことさえしていたのです。それなのにこの時は、初めて見たような錯覚があったのです。それは現物の見た目ではなく、音の故だったのだろうと思います。

 潮州という街は特殊なところです。すぐ近くに汕頭、掲陽という2つの都市が隣接しており、3つ子のような関係、しかしどれか1つが主要な存在になることもなく共存しており、新幹線はこの3つのうち、どれにも止まらないという。潮州と汕頭の中間に新幹線用の潮汕駅があります。普通は1つの街が大きくなって他の街を衛星のように従えるのですが、ここではなんとなく普通に鼎の形に3つ並んでいるのです。そのうち、潮州は文化的に陸の孤島で、この街の中だけで独自の文化を継承しています。どうしてかはわかりませんが、潮州語というのは非常に難解、独特でこれが標準語になっていることと無関係ではないと思います。地方の言語が主要になっているのは広東では普通のことですが、広東語、客家語に続いて、非常に狭い地域でしか話されていない潮州語が挙げられる点を見るだけで特殊性が感じられます。香港やマカオのように今でも国境が維持されていて隔絶してあれば、その独自性も理解できますが、自由に行き来できる場所でありながら固有の文化をピュアに保っているというのは普通ではないと感じられます。潮州にはこれといった観光スポットが全くありません。それなのに観光客で一杯という異常な状況です。おそらく口コミとリピーターで集まっているものと思いますが、ほとんどが広東福建人です。だから観光客を見ても普通話で話さないというこれまた異常な状況です。尚、潮州の観光スポットは街そのものです。ガラパゴス的文化鎖国都市の周遊です(潮州レポート)。

 二胡は上海から広州香港にもたらされ、高胡へと変化しました。これらは20世紀に開発された楽器ですが、二胡はもっと古い時代のものもあり、そのうちの1つは潮州にもあります。潮州二胡演奏法の1つ潮州では伝統的な楽器はそのまま残され、二胡は二胡としてまた別のものとして捉えられました。しかし潮州人から見ると疑問点があったようで、彼らの考える二胡はこれだという最終結論として提示されたものが潮州二胡でした。上の写真の例は北京式ですが、他にも蘇州・上海式があります。色々取り入れて研究していることがわかります。そして最も特徴的なのは双胴という特殊なものです。これはどういう構造になっているのか聞きましたら、作り掛けのものを見せてくれました。中の方に蛇皮を張り、外側に筒を嵌め込みます。密着しておらず隙間があります。

かつて潮州は経済的に発展した都市でした。この都市独自の文化が広く東南アジア全域に伝わったことを考えればいかに多くの潮州人が海を渡って行ったのかということがわかります。潮州は福建省と広東省の境あたりにあります。裕福な地域では高い音の楽器が好まれます。そうしますと二胡の高域がある意味重要視されます。我々は二胡を選択する時に高域まで均一に音が出ることを重視する条件の1つにします。力みなく無理なく音が出ることが重要です。名工の作品はこういう条件は満たしているし、今や普及品ですらこれぐらいの条件は満たすものが出てきています。しかし潮州人の気にする高域はそういうものではなく、より強力なエネルギーを求めるようです。これは独特の観点です。二胡とはいわば古琴の戯劇仕様で、高域にそれほどエネルギーを求めず、使わない方が多いぐらいだからです。根本の概念が違います。潮州二胡の響きは蘇州の音に似ていますが、馬乾元も高域までエネルギーに満ちており、棹がバリバリ響いてびっくりするぐらいです。しかしそれは古琴を発祥とする中華伝統の範囲で表現されます。潮州は違い、バイオリンのようにしっかり出します。戦える音、という感じがします。黒檀材の在庫そのためにわざわざ胴を二重にしたようです。映像を確認いただきますと(この頁の下の映像ではない)、非常にこってりとした濃いサウンドであるのがわかります。非常に求心力のあるサウンドですが、このようなものを体感してしまうと他の二胡に戻れるのか危ぶまれる程です。

 在庫:弦堂で販売している楽器リスト
 お問い合わせ:erhu@cyada.org  erhugendou@gmail.com


 陳逢章師は後継者がおらず、階段の下に無造作に立ててあるこの黒檀材で今後間に合うと考えておられます。なくなったら?と聞きましたが、そんなに売れるものではないらしい、当然でしょうね、ほとんどの人が知らないわけですから。限定(という言葉は使いたくありませんが)、事実上そういう感じの体制です。なくなったら別の材に変わるか終了になると思います。

 演奏法は二胡のようにも高胡のようにも演奏でき、好み次第といったところです。どのような音を求めているのかによって個人で決定します。駒は双胴と北京式の象嵌がある分は竹の高胡駒で、下の蘇州上海式は二胡駒でした。弦は全て二胡弦です。蘇州上海式は購入しない予定です。双胴が特に優れているということで、これだけを購入していくことになると思います。